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コブシの魔術師  作者: お目汚し
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ダンジョンへの帰還

会談が終わり、後日領主からダンジョンモンスターとの約定についてというお触れが出されることに成った。

主に、ダンジョンに潜る冒険者に向けての話になるだろうが、今後、ダンジョン内の問題が早期に解決した場合、ダンジョン内の集落との貿易も始まる可能性もあるとのことで、冒険者ギルドはもちろん、商業ギルドや職人ギルドにも合わせて通達が出され、町を上げて、ダンジョンモンスターとの契約を締結するつもりであると、昨日の帰りにアレス領主は言っていた。ただ、それらについて、領主の権限だけで問題が無いのかが、不安ではあるのだが、その辺りは領主に任せることにする。


帰りがけに、少しでは有るが、領主や副隊長と話をさせてもらったところ、やはり、一昨日の昼間に、旅の占い師という者が領主の家を訪ねてきており、その話を聞いてから、モンスターとの契約など、とんでもないという気持ちになったようである。


そんな怪しい奴が良く、領主に簡単に会えたな?と思っていたが、どうやら、昔から出入りのあった信用できる商人からの紹介で、是非会って欲しいと請われ、面会だけするつもりで会ったようだが、不思議なのは、領主も副隊長も、この商人のことを覚えていなかった。

面会の時は、確かにいつもの商人だと思ったようだが、今になると思い出せないらしい。

そもそも、そんな商人に当てはまるのは、マーベリック商会の商人だけであるらしく、アレス家の担当営業は、マーベリック本人だった。


最近気がついたのだが、魔素認識で物を見た場合、その構成などがよく分かるのだが、魔力認識を使うと、持続性のある魔法をかけられた場合などに、その効果が魔力として見えるため、感知できることに気がついた。


その結果、偵察用の魔法をかけられた小さい生き物などが、多数この街に放たれていることが分ったり、塾の周りに作った緑魔鋼の柵が、それらの偵察用の生物たちを通さない結界になっていたことなど、いろいろ見ることが出来た。しかし・・・緑魔鋼、魔力通さなかったり加工が難しかったり、いろんな特徴があるな・・・


ということで、昨夜の内に、以前マーベリックに提供してもらった廃坑に転移して、実験開始である。


緑魔鋼を使った武器の考案である。


モンスターゾーンにおいて、人間の使う魔法はあてにならない。ルネッサを名乗る少年が使えたのだから、少しの工夫で使えるようになるのかもしれないが、当面ゴブリンや魔狼達の世話になるしか無い。そんな中、以前、私塾の裏庭でぶっ放した綠魔鋼を使った雷の魔法が、使えるんじゃないかと思い、実験にやってきたのだ。


イメージはできていた。

綠魔鋼を拳銃の弾丸のように加工して、拳銃のような容器を造り、グリップから魔力を流し、魔法を打ち出すのだ。魔法を打ち出す銃を作ろうと思ったのだ。


幸い、この鉱山には緑魔鋼がたくさんある。魔素を加工して創りだしても良いのだが、それはあるものを変形させたほうが手っ取り早い。

魔力の伝達を考えると、魔鋼を主に使うことになるが、ひとまず緑魔鋼の塊から拳銃の形を作り出す。

このままでは、なんの魔力も通さない硬い緑魔鋼の工作物なので、念の為魔素認識で上空を探っておいてから。緑魔鋼に含まれている、風と土の魔素を上空に一気に開放する。


!!!!!!!


ものすごい雷光と音がしたが、人里離れた廃坑であるがゆえに、誰にも遠慮はいらない。

ただ、ちょっとびっくりした・・・


こうして、ただの魔鋼の塊になった銃を加工して、引き金をつけたり、照準をつけたりして、見た目はオートマチックタイプの銃が出来た。一応、36発の弾丸が込められる。そして、それを状況に応じて、1発づつ撃つことも、まとめて撃つこともできるようにした。装弾数が多いのは、最初に試作してみた弾丸を撃ってみたところ、威力が高すぎたため、半分にした結果である。もともと18発の弾倉に倍の弾丸が入ったため36発。さらに、弾丸の形もただの球形になった。モデルガンで言うところのBB弾みたいな感じである、と言うかそのものである。

射程距離は、おおよそ30m。銃口から雷が吐き出され、対象までほぼ直進するが、性質が電気のため、破壊力がありそうなのはそのくらいが精々だと思われる。


そういえば、途中から気になっていたのだが、ひとまず完成するまで聞かなかった疑問がある。


”お呼びですか、マスター”


「えーと、緑魔鋼のことなんだけど、これって、風と土の魔素が多く含まれた鉱物だったよね?」


”そうですね。元々鉱物なので土の魔素は魔鋼に含まれているものですが、この地方の風の魔素の影響で緑魔鋼になります”


「なるほどね。でね、そうすると、火や水の魔素を含んだ鉱物もあるのかな?」


これが知りたかったのである。緑魔鋼の成り立ちを解析してから、同じように火や水の魔素を込めた鉱物を作ってみたのだが、思ったように行かないのだ。


”火や水の魔素を含んだ魔鋼ですか?水ではありませんが、氷の魔素を含んだ蒼魔鋼と火の魔素を多く含んだ紅魔鋼というものはありますが、マスターの望んでいるような効果は難しいかもしれません”


どういうことだ?


”緑魔鋼が硬すぎて加工が出来ないという特徴があるように、紅魔鋼は純度が高いほど熱くなり、溶けてしまうので加工ができません。蒼魔鋼は加工のために火にかけると、ただの魔鋼になってしまいます。あと、そのままだととても冷たいため、持ち歩くことも難しいです”


とのこと。


そうなのだ。魔鋼に火の魔素を集めると見事にドロドロに溶けてしまい、水の魔素を入れてみると、全くなじまずに、魔鋼と水になった。


”マスターは魔法杖を作られているのですか?”


「なにそれ!!」


”随分前ですが、まだ、魔法体系が今ほど解明されていなかった頃、MPの低い兵でも魔法が使えるようにと、当時の宮廷魔術師が研究していた物です”


「おお!ロマンじゃない。それの記録って見られるかな?」


”もちろんです”


そう言うと、琴ちゃんは当時の魔法体系を元に作られようとしていた、魔法杖なるアイテムの設計図と理論をまとめた論文を送ってくれた。


「ん?これって完成しなかったんじゃ・・」


脳内で高速で理解されていく論文と設計図を見ていて、最初に感じたのはそれである。


”はい。当時の研究者は完成させることが出来ませんでした”


でも、考え方はなんとなくわかった。

オレがやろうとしていたのは、魔素を多く含んだ魔鋼に指向性を持った魔力をぶつけることで、狙った方向に魔法を飛ばすというもので、この研究にあるのは、発動した魔法の現象を、魔法石と呼ばれる水晶の一種に閉じ込め、それを杖の先につけて任意のタイミングで行使できるようにするというものだった。


「でも、これだと・・・」


魔法石の大きさが問題なのだ。試していないので分からないが、恐らくこの魔素の変換効率だと、今手に持っている、この銃で出せる一発分の雷撃を蓄えるためには、バスケットボール位の魔法石が必要になるはずだ。そうなると、元々軍事用に開発していたとすると、それは効率が悪すぎる。


”最終的に、兵器として使えるものを作れという命令で、作られた魔法石は、建物一軒分ほどの大きさがあり、運び出すことも出来なかったため、打ち壊されたようです”


「お気の毒様・・・でも、その魔法石に何の魔法を入れたんだ?」


気になって文献を漁ってみると・・・あった。

火炎魔法だった・・・しかも、打ち壊される前に誤発動して、街にボヤ騒ぎを起こしていた。そりゃ壊されるわな・・・


というわけで、大したものは開発出来なかったが、出来上がった拳銃のようなものを腰に挿すと、転移で塾に戻ってきた。


既に深夜になっているが、これからゴブリン衛兵頭たちを送っていくのである。

元々転移で連れてきたので、街の門を通る必要もないし、本当は昼間に送っていく予定だったのだが、マーベリックに引き止められ、夜まで待つように言われたのだ。商魂たくましいマーベリックは、ゴブリンや魔狼の話を聞いて、何か商売の種は無いかと探っていたようだ。この時の通訳はガリクソンが引き出されてきたので、会見の時の意趣返しということで、あえて席を外したのだった。


「そろそろ夜も更けてきたので、村に戻りますか?」


オレが皆に声を掛けにいくと、両手と背中に山程何かが入った袋と箱を括りつけたゴブリン衛兵頭と、魔狼王がいた。魔狼神は、荷物の上に乗っている。


「おお、大魔王さま。丁度準備ができたところです」


「ルキノよ、良い話ができた。ありがとう」


満足気にしているモンスター達。


「どうか、使用感を教えて下さいね!行けるようになりましたら、私が真っ先に伺いますので、是非!!」


マーベリックが興奮冷めやらぬ感じで、熱弁している。あれ?こいつもソウルリンクが発動してないか?


「ありがとう、またお会いする時を楽しみにしております」


ゴブリン衛兵頭がそう言うと、一旦荷物を起き、硬く握手をしている。



暗闇に紛れて街から出る・・・という言い訳の元、みんなで玄関まで出てきた。今回は、ガリクソンは一緒には行かない。オレだけが、ゴブリンの村まで送って行き、魔狼達はそこから走って帰るということだった。運動不足らしい。


みんなに見送られながら塾の門を出ると、村の出口に向かうと見せかけて、一気に村に飛んだ。


数日ぶりの帰還である。


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