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コブシの魔術師  作者: お目汚し
57/65

異種会談

最近、他の方の小説が面白すぎて、ROMってました、スミマセン。

はっ!!と目が覚めると、僕は自分が一匹の毒虫に・・・なっては居なかったが、会談に際していろいろ考えておこうと思っていたことを全く整理せずに、寝落ちしたという事実には気がついた・・・


慌てて、並列思考から多重深層並列瞬間思考まで、よくわからないスキルを実行して、思考に入ったところ、宇宙の真理が見えそうになり、自分の思考が如何に飛躍するのかを思い知らされた。


結果、領主側の思惑や意見を聞かなければ何も出来ないということで、考えることを放棄したのだが、これは現実逃避ではなく、行き当たりばったりということである・・・


面会謝絶?状態の客間に行くと、既に衛兵頭や魔狼王たちは起きており、


「おはようございます、大魔王さま」


「ルキノ殿、おはようございます」


「おはよう!ルキノ!」


と晴れ晴れとした挨拶を受ける。


「ああ、おはようございます。今日はよろしくな」


と、皆に今日いよいよ会談だぞという念押しをするのだが。


「はい、全ては大魔王さまに従います」


「我ら魔狼族も、魔狼神様より全権委任されたルキノ様とともに・・・」


と、完全に乗っかられていることを再認識してしまった。


今回の会談の肝は2つ。


1つはダンジョン6階~9階のゴブリン族・魔狼族と友好関係を結び、互いに不可侵とする。ということを認めてもらうこと。

叶うならば、魔狼神の力で、魔狼全体と友好関係を結べれば最高だ。


2つ目は、ダンジョンの攻略をギルドの力も借りながら進めること。実際、入り口が6階に有ったせいで未踏破である、裏ダンジョンとも言える1階から5階層もまだあるため、この対策も必要だ。しかも、此処はモンスターゾーンになっているので、魔法系の冒険者は全く役に立たないと思われる。純粋に攻撃力や戦闘術に長けた冒険者しか、先に勧めないだろう。


現状を維持するためには、少なくとも1つ目の条件は是が否でも認めてもらわなければならない。しかも、人間側からすれば、5階の階段を完全封鎖してしまえば現状維持できるんじゃね?と思われた時点で、ゴブリンや魔狼を見捨てる選択になるのだ。今のところは、9階の扉は封鎖しているが、何かの拍子に突破されるかもしれない。それに、ルネッサを名乗った少年の存在が不気味なのである。転移で入ったのはほぼ間違えないが、もし、10階層以降に直通で侵入できるルートが有ったとすれば、楽観は出来ない。


不安を払拭するために危険なところに赴くといううことは、おかしなことなのかもしれないが、人間は、危ないと思えば、その原因を突き止め安心しないかぎり、不安がなくならないのである。ホラー映画などを見ていて、そっち行ったらダメだって!!と思う方に人が行ってしまうのは、実は当然の事なのだ。


「まあ、なんとかしてみますか・・・」


とりあえず、護衛頭は一番無難ないつもの鎧姿に帯剣はなし。魔狼王はそのまま。流石に、今日オレが抱っこしていくというのも、雰囲気的に不味い気がするので、魔狼神は魔狼王の頭の上に乗っかっている。


会談の場所は、モンスターが街に入っているなどと知れたら大騒ぎになるため、領主自ら塾に来ることになっている。アラン先輩が迎えに行って、父親を連れてくるらしい。


校長いわく、話は通してあるから大丈夫だ・・・ということだったが、そんなに簡単に話しが通じるのか?


何やら、シュルツ王子がマーリンと一緒に出かけて行ったということだが、いつの間にかシュルツ王子も塾の寮に住み込んでいて、食事の時などによく会うようになった。


ダンジョンから戻ってまだ数日なのだが、ミツクーニ達ともすっかり打ち解け、一緒に訓練場で授業をしてもらっていたり、魔法の使い方を習ったりしているらしい。そのまま、先生になりそうな勢いである。


ガリクソンはといえば、ダンジョンから戻っていらい、顔を出していない。気になって魔素認識で見てみると、街の中には居ないようだった。


マーリンに聞いてみると、ガリクソンの気まぐれはいつものことだから、気にしないほうが良いと言われ、多分、ダンジョンだろうということだった。


気にするなと言われても気になるので、ダンジョンを探ってみると、ゴブリンの村に行っているようだった。一人であのオッサンは何をしているのやら・・・


会談は昼食前に行われ、その後一緒に食事をすることになっていた。


その時が刻一刻と迫ってきて、オレは緊張しているのだが・・・


「ルキノ殿、具合でも悪いのですか?」


「そうだね、何だか随分汗もかいているみたいだ」


「大魔王さま、何かご不安があるのですか?」


と三者三様なご心配を頂いた。


まさしく、その通り。会談がうまくいくように考えれば考える程、とんでもない気がしてきたのだ。


オレは、なんとなくあっさりと言葉が分ったり、ゴブリンの見分けもつくようになったけど、一般の人には無理だよな・・・と今更ながらに感じていたりする。


しかも、ゴブリン限定とは言え、意思疎通できるという見本になるはずのガリクソンは村に遊びに行っているし・・・そりゃ、一緒に会談に出て欲しいとは言わなかったが、そこは大人なんだからわからないかな??


そして、モンスター達の頼りきり、信頼しきった瞳で見つめられ、余計に冷や汗が出てくる状況になっているのだ・・・


「ルキノ、アレス様がお見えになった。会談の間までお客様をご案内して下さい」


あれ?


「先輩、記憶違いでなければ、こちらから出向くように校長に言われていた気がするのですが?」


「それが、父上が・・・アレス様が突然こちらに来られることになって、今、広間で待ってるんだ」


「あ、そうなんですか・・・」


領主としては、いくら変装しているとはいえ、ゴブリンや魔狼が街を歩くことを嫌ったのかもしれない。

違和感を感じながら、自分を納得させた。


「よし、いくよ」


ゴブリンと魔狼を従えて控えの間の目の前にある会談の間に入った。


まず驚いたのは、部屋の中の人数だ。領主とそのお付の者くらいは居るとは思っていたが、50畳ほどの広さの洋間に30人ほどの武装した兵が詰めかけていた。左右に15名づつ間を開けて入り口と、恐らく領主であると思われる壮年の剣士まで道をあけている。そして、領主の横にはマーリンがいた。

人の気配はしたのだから、魔素認識で分かったはずなのに、塾の中ということで、油断しているようだ。気をつけないと。


ザワザワした雰囲気のなか、モンスター達が部屋に踏み込むと、息を呑むような気配が多数感じられ、思わずなのか、剣に手をかける音まで聞こえてきた。


そんな中、モンスターたちは実に堂々と、人間たちなど歯牙にもかけないという風に、付いてきている。先頭に立つオレが一番硬くなっているような感じだ。


「領主様、この度は会談の場を設けていただき、ありがとうございました」


領主の前まで進み出て、側近の護衛が槍を重ねて止めるまで近づき、礼を言った。


「うむ。ルキノと申したか、この度のことはマーリン殿から聞いておる」


低く腹に響くバリトンが、静かに話し始めた。


「なれど、モンスターと人が協力するなど、そのような馬鹿なことは無いと思ってもおった」


え?!と顔を上げれば、同じようにえ?!という顔でアレス領主を見ているマーリンがいた・・・

あんた・・・根回しって知ってるのか?


「聞けば、魔狼族を束ねる王のみならず、全ての魔狼の頂点たる魔狼神まで居ると聞いた。ならば、それらを捉え王都に連れて行けば、全ての魔狼族が我らの味方となり、強力な駒となれば王国は安泰である。そのために連れてきたのであろう?」


と、冗談でも何でも無く、真顔で言われた。


オレはアワアワしながら、でもそれを極力外に出さないように、多少・・・いや、かなり挙動不審な感じで、魔狼やゴブリンを振り返る・・・と、彼らは何でも無いと言うように、正面から領主を見つめていた。

それを見た途端、慌てていた気持ちがスッと治まり、落ち着いた。


「領主様。私がこの者たちを連れてきたのは、お願いが有ったからで、そのような意図はございません」


「ほほう、本当に願いで有ったというのか?この状況でモンスター達が捕縛されてしまうとは考えていないのか?」


「私は理性のある人間です。それ故に、そのようなことは起こらないと信じていますし、させません」


「お主一人の力ではそれも叶うまい。まだまだ子供のお前ではな」


フッと鼻で笑うように言われた。


この時点で、マーリンが何か抗議の声をあげようとしていたようだが、領主の兵にやんわりと取り押さえられており、杖も取り上げられて居るようだった。


「さて、ルキノよ、その卑しい魔物どもを私に引き渡してくれないか?それだけで、お前には王国から見たこともないような褒美がもらえるぞ」


それに、塾長も開放されるだろうと、暗に人質を取ったことを表していた。


が、この言葉を聞いて、ものすごい違和感と憤りがオレの内から湧き出すように、いや、噴出してきた。


「領主様・・・願わくば今の言葉を、取り消していただきたい・・・」


「ん?何のことだね?取り消す必要性など、全く感じないのだが?」


アレスは意地悪そうに口を曲げて、より怒りに油を注いでくる。


「何かわからないなら、お教えします」


オレは忍耐力フル動員で言葉を絞り出した。


「2つ訂正させていただきます。一つは、当塾のマーリンは塾長ではなく、校長という呼称で御座います」


アレスは面白くもなさそうにこちらを眺めながら言ってきた


「もう一つは」


オレは今なら視線で人が焼けるかもしれないと思っていた


「ここにいるのは、薄汚い魔物なんかじゃない。オレの友達であり、仲間だ。訂正していただこう」


殺気が出ていたのかもしれない。次の瞬間周りの兵達が、一斉に剣を抜き短槍を構えた。


「ほほう、会談や交渉を望むそちらがそのような態度では、些か困りましたな」


と、尚も底意地悪く切り返してきた。


「ちょっとアレスくん、話しが違うじゃない!!」


慌てた様子でマーリンが割って入るが、やんわりとはいえ屈強な兵士に抑えられ、抜け出すことが出来ない。


「校長・・・でしたな。そこは訂正いたしましょう。ですが、魔物を仲間などと言うのは、異端者扱いを受けても仕方ないのではないですか?」


さらに嫌らしい笑みを浮かべながら言い募る。


「こいつ・・・」


カッとして周りを剣と槍で囲まれていることにも頓着せず、一発殴ろうと決めたとき、オレの肩を力強く抑える緑の無骨な手が有った。


「これが人間の出迎えの仕方だとすれば、大層なお出迎え、かたじけない。私は、ダンジョンの中にある村から参ったゴブリン族の使者でございます」


護衛頭が、堂々とした、しかも人間の言葉で挨拶をした。


その途端、剣や槍を構えていた兵士達に、目に見えて動揺が走る。自分たちに理解できる言葉を話すゴブリンという時点で、魔物であるという考えが、急速に薄れていく。


「我は魔狼神。この世界の魔狼全てを統べるもの。転生したばかりゆえ、このような幼き姿なれど、目をつぶっていただきたい。これなるは、そこのゴブリンと同じく、ダンジョンの魔狼を束ねる魔狼の王だ。よしなにな」


今度は、いったい何処にそんな威厳が有ったのかと尋ねたくなるほど、神々しい威厳に満ちた魔狼神の念話が部屋にいた全ての人間たちの脳内に、染み渡るように響く。


その威厳に満ちた言葉に、武器を取り落としひれ伏す者も居た。それは、自然に対する畏怖や、無条件に尊敬できる存在に対する対応と同じものであった。


「ルキノ、お前が切れてどうするんだよ。うまいこと話を進めてくれよな。でも、俺達の事を友達って言ってくれて、すごい嬉しかったよ」


全くこちらに目も向けないで、魔狼神の念話が恐らくオレだけに届いた。

そうだな、オレが全権委任されてたんだな・・・信頼に答えないとな・・・


「領主様、この者達は、人と変わらず礼儀を知り、対話を持って状況を変えようとする、意思のある者達です。今も、ダンジョンの村で、下層から意思なきモンスター達が地上に溢れるのを、身を挺して防いでくれているのです」


この時点で、既に領主アレスは先程までの意地の悪い笑みは、掻き消えていた。


「彼らと共存できる道を模索したいと思うのです。ご協力いただけませんか?」


しばしの黙考の後、


「我らにメリットは?」


「ダンジョンより溢れ出てくる魔物を制御できます」


「それについては、今まで通り、地下5階層と6階層をつなぐ階段を封印してしまえば良かろう」


思っていた通りの反応が返ってきた。


「領主様、あのダンジョンの真の姿をご存知ですか?」


質問に質問で返すというのは、無礼かもしれないが、この場は仕方あるまい。


「真の姿?」


食いついた!!


「封印のダンジョンと言われている、あのダンジョンには、現在光の勇者が二人封印されています」


ザワザワと兵士たちから驚きが伝わってくる。


「さらに、領主様が言われた1階層から5階層は、現在踏破されている部分だけでは、ほんの一部です」


これには、兵士たちも「そうなの?」と言った反応しか帰ってこない。実質、踏破され尽くしたダンジョンということで、まれに、自然発生した魔物が強くなり過ぎない内に討伐するくらいしか入っていく人間も居ないため、元々の広さが分かっていないのだ。


「あのダンジョンは、地下50階層を超えており、6階層から5階層に戻る、別なルートがあります。そして、それが地上に続いていないとは、言い切れないのです」


実は、現在地上に続いている出口はないのだが、そんなことは教える必要はない。さらに言えば、地表にとても近い位置までつながっている部屋はいくつかあるため、そこの壁を破壊されてしまえば、出入りは容易になってしまうだろう。


「それで、メリットは?」


アレスも真剣な顔で聞き入っている。


「現状では、メリットというよりも、負担を強いるものになりますが」


敢えて、目先の利益を示さずに、


「未来の不安や恐怖を、駆逐するために必要なことと、考えます」


「と、言うと?」


「この話し合いでお願いしたかったのは、ゴブリンと魔狼の村を拠点として、ダンジョンの攻略を進めたいということです。先日、私もダンジョンに行きましたが、9階層にある魔狼達の拠点が、10階層から上がってきたオーガを中心にした敵対勢力に襲われました」


「オ、オーガだと・・・」


オーガ自体は決して珍しい魔物では無かったはずだ。ただし、オーガとは書き方を変えれば食人鬼。食料として人間を狩ることも少なくない、屈強なモンスターである。それが、人里からそう離れていないダンジョンの中に住んでいるという事実は、魔狼王やゴブリン衛兵頭を見ても、戦意を喪失しなかった兵士たちをも、混乱に陥れた。


「しかも、その敵対勢力には、人間も加わっていました」


「何?!どういうことだ!」


「ルネッサと名乗る者が、オーガたちを統率して魔狼の村とゴブリンの村が互いに争うように仕向けていました」


「ルネッサ?どこかで聞いたことが・・・」


「かつて、大魔導師と呼ばれていた男です」


「・・・・暗黒の大魔導師か・・・」


今度こそ、広間はざわめき一つ無く、葬儀の席よりも静かになってしまった。


「ただ、彼が本当にルネッサであるかどうかは確証がありません。ただ、彼は魔法の使えないはずのモンスターゾーンで魔法を使い、オーガや魔狼たちさえも心を封印され操られ、自らの駒として使っていました」


「モンスターゾーン?」


あ、説明してなかった・・・


「失礼しました。実は6階層から下の階層、及び、現在踏破されていない5階層までの裏ダンジョンとも言うべき場所は、通常の魔法やスキルが使えません」


「なに?どういうことだ!それはどの程度使えないのか?!」


「私が詠唱付きでファイヤーボールひとつ撃てないくらいって言えば分かる?」


マーリンが、ようやく兵士の押さえから開放され、杖を手に取り、いとも簡単に掌の上に純白の光を発するファイヤーボールを浮かべながらそう言った。


「マ、マーリン様の魔法が使えないレベル・・・」


「剣技や剣術自体は使えますが、スキル技は使えませんでした」


それを聞いて、領主は少し顔色を青くしながら、


「その状況で、ダンジョンなどどうやって攻略するのだ・・・」


「だからこそ、彼らの協力が必要なのです」


改めて、ゴブリンと魔狼たちを示し。


「彼らは200年の長きに渡り、モンスターゾーンの中で生活してきました。彼らには、彼らなりの戦闘スタイルがあります。人間の兵の連携と、ゴブリンや魔狼の連携が強まれば、必ずや封印のダンジョンは攻略できると考えております」


オレがそう言うと、


「なるほど、一筋縄では行かないとは、こういうことだったか・・・」


領主がそういいながら、後ろにあった椅子に倒れこむように座った。

誰かに、何か言われたのか?疑問に感じたのと、電撃的に浮かんだ疑問の答えが、脳裏を走る。


咄嗟に魔素認識でアレス領主をみると、魂の魔素に、見覚えのある黒い影が、まとわりつくように見えた。


「領主様。ここ、数日。私のような黒髪黒目の男の子に会いませんでしたか?」


「ん?そのようなことは無かったと思うが・・・」


チャンスだ。オレは慌てず、領主の魂に絡みつく黒いモヤのような魔素を回収すると、その分析に入る。


琴ちゃん。分析できる?


”終了しました。基本成分は魔素そのものですが、そこに思考を誘導するよう調整された因子が含まれています”


早いな、流石は琴ちゃん。


”因子の内容に関しましては、私の不得手な分野になりますが、人間の持つ、妬みや怒り、不安のような、一般的に負の感情と言われる物であると思われます”


なるほど、それに対抗するのはどうすればいいかな?


”数学的に考えれば、負には正を加えれば零の状態になりますが・・・”


どうした?


”この魔素は、アレス様ご本人から発生しています”


何?!


そう言われて、もう一度アレスの魂を取り巻く黒い霧に目を向け、よく見えないので、一度全て回収してしまう。


「そうだな。もともとマーリン様から伺った時には協力すべきだと決心したのだ!領地のためにも、ダンジョンの皆さんに協力いただく方が良かろう!!」


急に前向きな発言を始めた。それに、曖昧なほほ笑みを返しながら、アレスの魂を見続けていると。


「!」


”何かわかりましたか?”


アレスの心からにじみ出るように、黒い魔素の霧が出てきている。


「ルキノ殿、如何なされた?」


アレス領主から声をかけられ、それでもアレスの魂を観察し続けながら、


「領主様にそう言っていただければ、今回の話し合いは、大成功です。具体的にどうするかなどはまた相談するとして、続きはお食事の時間ということで如何ですか?」


ととりあえず、協力の約束だけ取り付けてしまう。


「そうだな。腹も減っているし、食事にしましょう。なにせ、朝からモンスターの皆さんに会うということで、緊張してろくに朝飯も食べていないのでね」


と、朗らかに笑いながら。


「あ、皆の者。そういうわけで、問題はなさそうだから、先に帰って食事にしてください」


と、アレスがお付の兵たちに指示を出すので。


「お待ち下さい。皆さんの分の食事もご用意できますので、よろしければ召し上がっていって下さい」


と、引き止めた。


「いや、何も言わずこのような大人数で押しかけたうえ、食事まで頂いては・・・」


と、兵士の中でも偉い方なのだろう、いかにも隊長っぽい兵士が遠慮がちに断ってきた。


「あら、毒なんか入れませんよ」


すかさずマーリンが横槍を入れる。

毒なんか入れないと言われると、まるで兵士たちがマーリン私塾を信用していないように思われているような言い方だ。


「勘弁して下さいよ校長。俺たちが校長のこと信じてないわけないじゃないですか」


と破顔しながら言う。聞けば、ここにいる兵士の3分の2は卒業生だったようだ。


「そういうことだから、久しぶりに食べて行きなさい。塾の特製カレーよ」


「「「おおお!!」」」


軽くどよめきが起きる。

この世界でも、カレーは人気メニューの一つだ。


「アレスさん。そういうわけで、豪華な食事というわけには行かないのだけど、良いわよね?」


「もちろんです、私もカレーは大好物ですので」


そう言うと、アレスさんもおどけたように、喜んで見せる。


「では、食堂に行きましょう」


マーリンに促されて、移動が始まる。

当たり前のように、衛兵頭と魔狼たちも移動を始めた。

そして、誰もそれを咎める者は居ない・・・一部以外は・・・


”マスター、どうしましたか?”


トイレに行ってから食堂に行くと言い訳をして、最後まで広間に残ったオレに、琴ちゃんが聞いてきた。


もう一人居た。隊長の丁度反対側に立っていた、髪の長い目つきの鋭い兵士。そいつの魂にも黒い霧がまとわりついており、アレスよりもより濃く、深い闇が包んでいるようだった。


”アレス様の方は如何ですか?”


まだ、ほんの少しづつだけど、黒いモヤのようなものが出続けている。前と違うのは、そのモヤが魂にまとわりつくことが無く、発散されていくように見えることだ。


アレスと髪の長い兵士、彼らに接触したのは、恐らくルネッサを名乗ったあの男の子だと思う。

となると、この町にも出入りしていることになるわけで・・・


「安全地帯が無いじゃないか・・・」


と、より深い不安に取り憑かれてしまった。


部屋に一人取り残されていたのは、ほんの数分だったはずなのに、随分長い間放心していた気がして、慌てて、カレーの香りが立ち込める食堂へと向かったのである。



問題:この話の書き出しは、とある有名な小説を意識しています。誰のなんという作品でしょうか?


商品は、ございません。悪しからず。ただのお遊びです。

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