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コブシの魔術師  作者: お目汚し
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敵のしっぽ

ゴブリンたちを引き連れたまま、魔狼神共々転移する。

8階へ降りる階段の前に転移すると、急に現れたオレたちに驚くこともなく、相変わらず魔狼達はダラダラと寝転んでいた。


「だ、大魔王さま?!何をされたのですか?!」


一方ゴブリン達は、プチパニックに陥っていた。


「ああ、転移と言って空間を縮めて渡ってきた、って言えば分かる?」


「な、なるほど、謎移動ですな」


イマイチ分かっていなさそうだが、移動したんだと分ってもらえれば良い。


「うお!!何と大きな魔狼だ!!」


ゴブリン達が控えている魔狼達の中でもひときわ大きな魔狼に気づき、驚いている。


「多分、この個体がこの群れのリーダーだと思う」


「失礼な!リーダーは我だ!!」


腕の中で子犬がさえずっているが、お前が生まれる前の話だ。

先ほどの話から推測すると、謎の神が現れて何かした時には魔狼神はまだ生まれていなかったようだ。

その時のリーダー、つまり魔狼の王がこの個体だろうということである。

本来のリーダーだった王が、ゴブリンに攻め込もうとしていた矢先に、なんの因果か魔狼神が生まれ、指揮権がより上位に移ったため、侵攻がすこし遅れたと推測できる。


ならば、と思い魔狼王のを魔素認識で見てみると、やはり、核のような魔素が黒く塗りつぶされている。が、よく見るとゴブリンキングの時と同じように、微妙に侵食を食い止めようとする力が働いているのか、黒いベールの奥に、薄っすらと赤い光が見える気がする。


このまま魔狼神に頼んで、一気に拠点に戻るつもりであったが、これは試してみる価値がある。

今までの魔法の認識の仕方でも、実際に目で見えたりイメージがつきやすいものほどアレンジや開発がうまく言った。となると、これからしようとしている魔法も、イメージをオレの知っているものに寄せたほうがやりやすいと考えられる。


一時的に、この赤い魔素を「魂」と捉えよう。その中に、個性や理性と言った感情も含まれていると考え、それを取り巻く黒いベールは、魂を侵食する呪いだと考える。この呪いが魂を完全に侵食すると魂の死を迎えるのだろう。ということは、まだ、魔狼王は助けられる・・・


魂を取り巻く呪いの魔素を、なんの効果もない自由魔素に変換するイメージ・・・


「アンチ・カース」


つぶやくように、だが、意志の力を込めて魔法を発動した・・・


「ダメか・・・」


イメージは呪いの魔素とか言ってるんだが、今ひとつ掴みきれない・・・

エレメントである、地水火風空の五大魔素や、光や闇と言った概念的な魔素は簡単に掴めるのだが、

呪いというものにイメージがつかない。闇や邪、悪と言った概念に近い気がするが、それらとは明確に違うように思える。それ故に、余計にイメージがつかない。


「神よ・・・」


思考のループに入りかけた時、ゴブリンキングの声が聴こえた。


「我を開放した時は、どのような感じだったのだ?」


そう言われ、あの時の状況を思い返す。

ゴブリンキングの魂も呪いに完全に囚われているように見えた、だが、実際には魂が檻のようなものに囚われ、その周りに呪いの魔素が取り巻いていたように見えた。

あの檻はなんだ?


「神よ、それは恐らく、我の弟の・・・弟のかけてくれた抵抗魔法・・・おまじないだ・・・」


「おまじない?」


「我が奴らに囚われる前に、弟が我が我であるようにと、不屈のまじないをかけてくれたのだ」


それが、魂を守る結界に成ったということか!


「我は、やはり守られて居ったのだな・・・」


そう言いながら、ゴブリンキングの魂が入ったペンダントが、少し熱を持った気がした。


だが、大ヒントだ。あの時、オレは呪いの魔素を変換したのではなく・・・弾き飛ばした!


ゴブリンキングの弟が張った結界を打ち砕いたつもりだったが、同時に、祓っていたのだ。

だが、今回は結界は無い。弾き飛ばす何かが必要だ。


「魔狼王よ、お前は何を大切にしていたんだ・・・」


それが結界と同じように、呪いに包まれないように抵抗してベールのように見えているのだろう。


「魔狼王、お前に取って譲れないもの、これだけは誇れるというものは・・・」


「魔狼ならば、それは仲間であろう・・・」


魔狼神がつぶやく。


「お主も魔狼の王を名乗るなら」


尚も魔狼神が言葉を紡ぐ


「部下であり家族である、最愛の仲間のために、魂を震わせ咆哮せよ!!」


そう言うと、空に向かって・・・というか天井に向かって、遠吠えを始めた。


その途端、魔狼王の魂が、ひときわ明るく輝いた!!


「ブレイク・カース!!」


勢いをつけ、大きめの声で叫びながら、内圧を高めたであろう魔狼王の魂そのものから放出する思いをそのまま解呪のエネルギーとして転嫁する。


ビキッ!!


と何かがひび割れるような音が聞こえた気がする。その途端、目の前の魔狼王の身体が一瞬大きくなったように錯覚した。そして


「ウォォォォーーーーー!!!」


何処までも響け!と言わんばかりに、魔狼王が遠吠えを始めた。

その声には、仲間を憂い鼓舞し、魂を震わせるような熱がこもっており、効果は絶大だった。

周りの伏せていた魔狼達が一斉に立ち上がると、意志の消えた目に、僅かな光を取り戻し、遠吠えに参加し始める。

ついに、周りの100頭を超える魔狼達が一斉に天井に向かって吠え始め、ゴブリン達はただただ呆然としていた。


呆然とするという意味では、オレも同じだった。


思いつきで放ったブレイク・カースの魔法は、効果を発揮したようで、今や魔狼王の魂は燦然と輝いている。だが、それ以上に驚いたのが、漆黒の呪いに塗りつぶされていた他の魔狼達の魂が、その芯から輝き始め、染まり切った呪いを押し返し始める。疑心を核に埋め込まれたであろう呪いが、今、押し返されつつあった。


ならば、オレはそれに少し手を貸す。


「メガブレイク・カース!!!!」


メガに意味は無い、ノリというやつだ。それくらい、気分が高揚していた。


それでも瞬間的に高めた魔素の流れが突風のように魔狼の遠吠えの中を駆け抜ける。

その瞳に意志の光を宿しながら、開放を喜ぶように、自由を奪われたことに怒るように、何処までも響き渡る遠吠えは、唐突に終わりを告げる。


「聞け!眷属達よ!!」


オレの腕から出て、真っ先に遠吠えを始めていた魔狼神が、小さな身体から考えられないような威厳を示す。


「我こそは魔狼神、いま、この人間族の魔法使いの力を借りて、そなた達は再び自由と成った!」


今、魔狼王はもちろん、全ての魔狼の視線が、一点に集まっている。


「自由とは何か?自らがよしとすることをすることじゃ!!」


なんか、難しいことを言い始めたぞ・・・


「故に、我は強制はせぬ。魔狼族が長として、そなたらの自由を保証する。その上で、この者たちを我らの仲間と認められる者のみ、我に続け!!」


そう言うと、魔狼神はおもむろにオレの足元に伏せた。いや、臣下の礼を取った。


「おいおい、何してんだ。お前神様なんだろ?!」


「ルキノよ。我はお前に未来を見た。故に、我はお前に使えよう。我を部下にしてくれ」


そう言うと、尚も深く頭を下げた。

これって、チョットまずくないか・・・ほかの魔狼の手前、意識を取り戻したばかりの魔狼たちからすれば、下克上チャンスなわけで・・・


そう思っていたら、早速ひときわデカイ魔狼・・・つまり魔狼王が立ち上がり近づいてきた。こうやって向き合うのは初めてだと気がついた。だって、とんでもない威圧感だもの・・・


が、魔狼王もその巨体からは考えられない静けさで、魔狼神の後ろにひれ伏した。そこから、一糸乱れぬ動きで、魔狼達が付き従うと、一斉に伏せた。伏せてしまった・・・


「「「「我らが命、ルキノ様と共に」」」


そんな思念が一斉に響き渡る・・・

ちなみに、なんで名前知ってんだろ?とか思っていたが、思念会話のため、オレの中で勝手に変換されているらしいことは、後で教えてもらった。


「というわけじゃ、ルキノよ、我らを使え」


ぴょこっと頭を持ち上げ、器用に口を曲げて犬歯を見せて魔狼神が言う。


「えーと、いきなりこうなるとは思ってなかったので、かなり困ってますが・・・」


だって、11歳の男の子の前に、狼が100匹以上ひれ伏しているって、どうなの??


「我らの命を使えと言っているのだ。何か、問題があるか?」


なおも言い募る。


「分かった・・・なら、みんなにお願いがある!!」


そういった瞬間、一斉に耳が立った。もちろん狼達のである。


「お前たちは仲間だ!!魔狼は仲間を大切にすると聞いた。指示は出す。お願いもする。だから、お前たちの力を貸してくれ!以上!!」


シーンと静まり返る。あれ?なんか間違ったか?


「お主は・・・我らを部下にしろと言ったのだぞ?」


魔狼神が言ってくる。


「まあ、部下も仲間も同じだろ。引き続き、お前と魔狼王で仕切りはやってくれよ。オレはオレで動きたいし・・・」


これが、本音だ。大所帯は身動きが取れん。


「では、我らはお主の部下ということでいいのだな?」


「養えないよ?自給自足になるがそれでいいか?」


「元より、お主の手をわずらわせることは無いわ」


「んじゃよろしく」


そう言うと、魔狼神の頭を撫でると、そのまま抱え上げる。

そして、その横に伏せている魔狼王の頭も撫でながら、


「頼りにしてるぞ、漆黒の勇者たち」


そう声をかけた。その途端、魔狼達の背中の毛が一斉に逆立つ。


「その言葉は!!」


なんとなくかけた言葉に異常な反応・・・このパターン、なんとなく慣れてきたけど・・・


「我らをここに導いた者と同じ言葉!!」


やっぱり・・・どうしてもオレをルネッサとやらに繋げたいのね?!


「分っております、ルキノ様はあの方とは別人、それでも、我ら一族をそう呼んでいただける方に、喜びを覚えるのです」


あら?声に出してなくても読み取れてるみたいね。


「はい、既にルキノ様とは主従。思念回路が開かれております」


独り言も言えないのでは・・・


「大丈夫です、誰にも告げ口は致しません」


いや、そういう問題ではなく・・・


そう思った時


”思念遮断を行いますか?”


と琴ちゃんが聞いてきた。

そういえばこの人にも筒抜けなのね。


「この人とは?」


とりあえず思念遮断とやらを起動する。


”常に遮断をしていると魔狼たちとの意思疎通に障害が出ますので、こちらでフィルターをカスタマイズしました”


と琴ちゃんの言葉。


「ルキノ様、いかがされましたか?」


魔狼が聞いてくる。


「いや、人間てのは思考を読まれることに慣れてないので、一部、思念を制御させてもらったの。悪いね」


常に思考を共有している種族に嘘をつくのも憚られたので、正直に打ち明けた。


「なるほど、問題ありません。我らの思考はいかようにも・・・」


そう言われて意識を向けると、様々な思念が伝わってきた。その中に、焦燥感や期待などに混じって、

かなり切迫した思念が混ざっている。


「お腹減った・・・肉が食いたい・・・」


そんな思念。


「よし、これが終わったら宴会だ!!腹いっぱい食べて呑んで、朝まで騒ぐぞ!!」


思念とともに、言葉でゴブリンにも伝える。


「そのためにも、これより魔狼の拠点に戻り、状況を確認する。良いな!」


「「「「承りました!!!」」」」


静かな、それでいて決意あふれる思念と声が響き渡る。


「よし、では魔狼王、先導をたのむ、その後からオレとゴブリン隊、その後から魔狼軍団ってことで」


簡単な指示を出したが、イメージが伝わるようで混乱もなく隊形が整う。そのまま、流れるように階段を進むと、8階層を走破。ちなみに、この階層では待ち伏せも何もなく、スムーズに移動が出来た。そのまま9階層に降りると、一旦停止。


「小休止、各自休め!」


「ルキノ様、我らまだまだ進めますぞ」


魔老王がそう言ってくるが、


「ちょっと索敵をね」


そういうと、魔素認識を使って拠点を確認する。実は、8階層でも索敵はしていたのだが、9層の魔狼達が生きていることは確認済みである。ただ、その中に異質な反応を捉えていたため、作戦を練りたいと思ったのだ。


拠点に残る魔狼は50体余り、生きては居るようだが、動きはない。一箇所に集められて、その周りに・・・この反応は人間か?人間が一人、そしてより大きな個体が5体、確認できた。これは?


”オーガだと推測されます。マスターが命名された魂はありません”


ありません?!無いってどういうこと?


”基本的にダンジョン内に生まれた個体は、ダンジョンの意志によって制御されるため、個性などは無く、より原始的な衝動により生きています”


な、なるほどね。


”故に、種族が同じでも、それは組成が同じということで、マスターの言われる魂というものは存在していません”


ということは、いま拠点で魔狼たちと一緒にいるのは、ダンジョン由来のオーガってことか・・・


「魔狼王、護衛頭、お前たちはこのダンジョンの中でオーガって見たことある?」


「オーガですか?どのような種族でしょう?」


「我も見たことはないな」


どちらも知らないという。ということは、下の階層から現れたのか、ダンジョンが復活して生まれてきたのか・・・いずれにしても、一緒にいる人間がよくわからないな。


思念回路を通じて、ゴブリンまで含めて索敵結果をイメージとして伝える。その上で、魔狼たちが、まだ呪われていることを考慮して、まずは救出することにした。そのため、オレとゴブリン達は光学迷彩魔法を使って姿と気配を隠し、魔狼の群れの中で様子を伺い、魔狼神がトップとして拠点に戻る。その上で、隙を突いて魔狼たちを開放するか、敵の排除をするという、作戦というにはいささか拙い計画を立てた。


ただ、見えない敵のしっぽが見えてきた。何とかして、その人間を捕まえる必要がある。

そこまでできれば、後は宴会して寝るだけだ。


「ちゃっちゃと終わらせて、宴会だ!!」


そう思念で伝えると、おお!!と力強い思念が返ってきた。


いろいろ忘れている気がするが、乗りかかった船だ。やってやろうじゃない!!

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