表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コブシの魔術師  作者: お目汚し
49/65

ダンスウィズウルブス3

目の前が真っ白に成った。恐らく大魔王さまが、何か魔法を使われたのだろう。瞬間的に、おそろしい勢いの魔気がフロアを駆け巡った。ふと気がつけば、大魔王さまのお仲間の方向からも、魔王クラスの魔気が吹き付けてくる。ということは、あの髭面のドワーフも、王の器があるということか・・・


俺たちは、連携して魔狼たちを無力化していった。飛びかかってくる魔狼の牙を、剣で叩き折り、素手で顔を殴りつけ、ふらふらしているところで、首を締めあげて気絶させる・・・良し、いっちょあがり。


右隣の仲間が、噛み付いてきた魔狼の下顎を力いっぱい蹴り上げ、むき出しになった腹に拳をつきこむ。魔狼は胃液をはきだしながら、身体を二つ折りにして倒れてしまい、動かなくなる。


「良いか。大魔王さまのお言いつけだ。殺すなよ!!」


仲間たちにそう指示を出すが、皆、そんなことは承知しているようだった。


俺たちゴブリンは、本来不必要な殺傷はしない。生きるための闘争は決して否定はしないが、それさえも話し合いで解決できるなら、それに越したことはない。狩りもするが、それは生きるためであり、魔狼たちを村のためとはいえ殺すことに、忌避感を覚えていたのだ。


大魔王さまはそれに気がついておられたようで、我らに、


「この者たちは、何者かに操られているようだ。開放するのは今は無理だが、極力苦しまないようにしてやってくれ!」


と指示を出した。殺せではなく、苦しまないようにしろと。今は開放できないが、後で開放するから、捕縛しろ。そういう意味である。

自らの咆哮で我らを鼓舞し、圧倒的な力の差がなければ出来ないであろう、捕縛を我らに命じた。

これは、信頼以外の何物でもない。大魔王さまより力を下賜され、あまつさえ信頼を受けた。

我らゴブリンに、恐れるものはない。


既に、仲間たちは武器は手放し、拳のみで魔狼たちを圧倒している。

無力化した魔狼達は、20を超えている。本体に合流しようと逃走しかけた魔狼も居たが、すぐに追いついて、無力化している。大魔王さまの邪魔はさせない。


すると突然、大魔王の向かった方向から、魂を震わせるような魔狼の遠吠えが聞こえてきた。

その途端、今まで牙を剥いてこちらに敵意をむき出しにしていた10体余りの魔狼が、大人しく地に伏せ、動かなくなった。


何らかの指示が有ったのか・・・

いや、大魔王さまがこの闘争を集結させたのだ!!


「終わったようだな」


俺たちは、それを確認すると、誰からとも無くハイタッチをする。そして思いの外強い攻撃を入れてしまった魔狼たちの介抱をすることにした。


殺さないように注意はしたが、魔狼達はいずれも強く、いくら大魔王さまのお力を頂いていても本気でかからなければこちらも危なかった。そんなギリギリの状況で、俺たちが倒した魔狼達は、息はあるものの、放っておけば絶命してしまいそうなものも数体居た。


最初に対峙して屠ってしまった数体は既に魔素に戻り始めている。いつも狩る猪やウサギは、そのようなことはなく、食材として利用できるのに、俺たちや魔狼のような種族は命を落とせば即座に魔素になってしまう。


いま目の前に居る魔狼たちを魔素にしてしまわないためにも、処置を続けていると。


「おい、なにしてるんだ?」


大魔王さまが帰還された。


「おお、大魔王さま。お言いつけ通り、殺さず捕縛したのですが、いささか頂きました力が強すぎたようで、加減が難しくこのようなことに」


俺達が大魔王さまの命令に背いていないことを、懸命に説明しようとしたところ。


「なに?!殺してないのか!!」


「は?!」


「でかした!!」


そう言うと、大魔王さまの右手が淡く光った、途端、膨大な魔気の奔流が辺りを駆け巡る。


「おお!!」


戦闘で負った傷が一瞬で完治する。それと同時に牙を折られた魔狼に牙が生えそろい、砕かれた顎が元に戻り、みるみる回復していく。


回復した魔狼達は、再び立ち上がると、あろうことか戦闘体制を取る。その数20数体。捕縛した全ての魔狼が回復し、再び襲いかかろうとしていた。


咄嗟に大魔王さまの前に飛び出した。仲間たちも大魔王さまを守るべく取り囲む。


「わん!!」


ふとみると、大魔王さまの腕の中に、黒い子犬が抱かれている。その子犬が何やら一声吠えた。

いや、子犬ではなく、魔狼の子か?


だが、その一吠えの効果は絶大で、周りの魔狼達が一斉に尾っぽを丸めて伏せてしまった。耳をたれ、小さく伏せる魔狼の姿は、いっそコミカルでさえ有った。


「こいつは、魔狼たちのボスなんだ」


大魔王さまはそう言うと、


「これから村に一緒に来てもらう。そこで村長たちを交えて話をしたいと思う」


こともなげにそういった。

他種族を村に迎えたことなど、これまで経験がない。そもそも、階段から降りてくる人間どもは、降りてくるなり女子供に襲いかかってきた。問答など無用だと言わんばかりに。それを、大魔王さまは文字通り牙を向いた魔狼たちと話し合いをするという。なんという胆力・・・


「大魔王さまの意のままに!!」


俺たちは誰からとも無く、ほとんど同時に大魔王に再び心酔し、感服しその場で五体投地した。


「絵的に随分シュールだから、顔をあげるように。あ、魔狼達はどうする?」


大魔王さまは、まるで子犬・・・ではなく、魔狼の長の言葉が分かっているかのごとく、話しかけている。


「そうか・・・お前もいろいろ苦労してそうだな。なら・・・」


独り言のようにそう言うと、右手を一閃する。再び魔気の奔流が辺りを包むと、魔狼達はことごとく姿を消していた。


「一応、大魔狼のところに送っておいたから、後で合流すればいいだろ?」


子犬・・・もはや、子犬で良いだろう。子犬にそう話しかけると、我らを伴って入り口の階段に戻ることに成った。


--------------------------------------------------------------


入り口に戻ると、そこには地に伏した魔狼たちと、横倒しになっている魔狼の死体が20体余り、そして扉の前にはぐったりした様子で扉にもたれかかるようにしてガリクソンが倒れている!!


「ガリクソン!!」


慌てて駆け寄る。


「む!寝て居った!」


ゴン!!


「む?大丈夫か?」


咄嗟にゲンコツでガリクソンの頭を殴ったが、思った以上の石頭で、オレの拳の方が悲鳴を上げた。


「痛っ!ガリクソン、やられたのかと思っただろ!!」


「おお!信用されとらんな。お前さんから合図が有ったからすぐに無力化して一休みして居った」


悪びれもせずそう言って立ち上がる。


「じゃが、手加減できる相手ではなかった・・・何体か殺してしまったわい・・・」


そう言うと、沈痛な面持ちでカブトを深くかぶり直した。

そう言われれば、かなりキズが深い魔狼も多いが、死体だと思っていた魔狼も、魔素に戻る気配はない。


「ちょっとしたコツが有っての、全力を出してからは、殺してはおらんよ」


ならば、


「メガヒール!!」


再びパンチスキルを利用したヒールをかけると、魔狼たちのキズが癒えていく。


「わん!」


先程の二の舞いにならないよう、すかさず魔狼神が命令する。

途端に全ての魔狼達が平伏する。


「ほほう、お前さん小さいのに凄いのぅ」


ガリクソンがそう言うと、オレの腕に居る魔狼神の額を優しく撫でる。

まんざらでもない様子で、魔狼神が目を細めた。

先程と同じように、魔狼たちを大魔狼のところに送ると、階段を登って村に戻ることにした。


今回の戦闘で、こちらの被害は実質なし。魔狼側は、実質8体の犠牲を出してしまった。

その8体の犠牲が今後の話に影を落とさなければいいのだが・・・


移動中、魔狼神はいろいろと話しかけてくるかと思ったが、まるで興味が無いようにオレの腕の中で丸くなって眠ったように動かなくなった。ゴブリン達が、魔狼神を運ぶのを変わってくれようとしたが、丁重にお断りして、オレの腕の中にいる。信用したとか言われて、いきなり敵地のど真ん中に連れて行かれるのだから、緊張していないはずはない、ならば、せめて最初に会った、信用したと言ったオレが連れて行きたかった。


程なくして、村の入口が見えてきた。衛兵頭が知らせに行くと言って走っていったが、村の入口の衛兵に槍を向けられた。自分の見た目が随分変わったことに気がついてないようだ。他の3人もそういえば頓着していないが、もはやゴブリンではなく、ホブゴブリンとか、ゴブリンロードとかになっている気がする。


紆余曲折あったが、とりあえず無事に村にたどり着き、村長と話し合いをすることに成った。



ご無沙汰してました。

仕事に追われ、更新できませんでした。

不定期ですが、ゆっくり更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ