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コブシの魔術師  作者: お目汚し
45/65

モンスターゾーン

モンスターゾーンの話です

理不尽な怒りに身を震わせ、扉を閉じたオレに向かって


「お、お怒りを沈めてくださいませ!!」


「我らには、毒でございます!!」


と、ゴブリン達が懇願してきた。


「どういうことだ?」


「そ、そのように強い魔気をまとわれたモンスターを我らは知りません」


「お恐れながら、新しい大魔王さまかとお見受けいたしました」


「え?」


「無礼を承知で重ねてお願いできますれば、我らをお助けください!!」


「お、おい。そのようなことを大魔王さまにお願いするのは・・・」


「いや、きっとこれも天のさだめ、いまここに大魔王さまが降臨されたのも、何かのご縁であろう」


「そ、そうか!!」


「「何卒!!お助けください!!」」


と仲良く五体投地した。

しかし、嫌悪感や恐怖をこいつらからは全く感じない。


「あー。実は、この中に、オレの仲間が誤って飛ばされてしまって、それを連れ戻しに来たんだが」


「と言うと、転移トラップが発動していますか?!」


「まずいな、やはり迷宮の王が目覚めたということか・・・」


「勝手に住み着いたのだから、文句も言えないが・・・」


と、何やら話し込み始める。


「あー。聞いてる?そういうわけで、その仲間たちを地上に返したいのだが、良いかな?」


「や、それは失礼いたしました。よろしければ、我らが地上にお戻りになるのをお手伝いいたしますが」


「願わくば、我らの願いをお聞き届けください」


やっぱり、なにかお願いがあるのね。


「まあ、地上までは簡単に出られるんで、オレがやるから良いけど、お願いって、面倒な感じ?」


「いやいや、大魔王さまなら昼飯の片付けより簡単かと思います」


昼飯の片付け??朝飯前と同じ感じか?


「よく分からんが、中の連中を送り届けたら、帰ってくればいいか?」


「では、こちらでお待ちしております、が」


「よろしければ、お仲間の方たちにも、ご挨拶を・・・」


と、オレの仲間に興味が有るようだ。

人が苦労して(主に精神的に)助けに来たら、お茶を飲んでる奴らには、ちょっとした刺激が必要だろう。


そう、判断して、


「ただ、中の奴らは凶暴で、話も聞かずに襲いかかってくるかもしれん、その時は逃げろよ」


そう言い含めると、再び扉をアンロックして、開いた。


「おお!!開いた!!悪かった!!ルキノ・・・・?」


「お前、冗談がきついぜ・・・・・?!」


「良かった!!置いてかれると、思った・・・・わ・・・!!!」


「「「ゴブリンだー」」」


仲良くハモると、流石一流冒険者、すぐさま飛び下がると、


「伏せろルキノ!!サンダージャベリン!!!」


「避けてね!!ファイヤー・エクスプロージョン!!」


「エクスプロージョンは無理じゃろ!!」


最後のは、両手にショートソードを構えたガリクソンの声。


確かに、この閉鎖空間で、爆裂系は無いわな・・・


オレに、魔法は効かない。だから慌てていないが・・・

ゴブリンも全く慌てていなかった。それ以前に、目の前の3人は、必死の形相で魔法を唱えたと思われるポーズをとっているが、何一つ、効果が出ていなかった・・・


「あの、とりあえず落ち着いてもらえますか?」


「る、ルキノ!!ゴブリンがお主の後ろに!!」


「後ろ、後ろ!!」


オレは後ろを改めて振り返る。

それを見て、ゴブリンたちも後ろを振り返る。


「そっか、人の言葉がよく分からんのか」


こうしてみると、ゴブリンて結構可愛いのかも・・・


「お、お主、そのゴブリンは襲ってこんのか?」


ガリクソンがもっともなことを聞いてくる。そもそも世間の魔物に対する感覚は、人を見たら襲ってくる!!というものだ。亜人や悪魔なども種族として存在しているが、対話ができるかどうかが魔物とそれ以外の境界線と言っても過言ではない。


「ああ、このゴブリンさんたちは友好的ですね。いきなり襲ってきたりしませんし・・・」


オレが答えると、尚も剣を正眼に構えているシュルツ王子が、


「信じられん・・・魔物と共に居られるのは、話に聞いた大魔導師だけだと思っていた・・・」


と発言する。

ここでもルネッサと間違えられるのか・・・黒髪黒目に魔物と一緒に平気で居られる、いろんな特徴がオレがルネッサだと印象づけるようだが、別人だと思うんだけど・・・前世サラリーマンだったはずだし。


「まあ、とにかく彼らは手出しをしてこないので問題はありません」


そう言って転移で飛ぼうと思ったが・・・あれ?これって王子の前で見せて良いのか?うむ、いろいろまずい気がする。ということで。


「校長からお借りした転移結晶を使ってもいいですか?」


と、白々しく聞く。


「え?転移結晶?」


マーリンはなにそれ?と言う感じで聞き返す。そこは、汲み取れ!!


「お、おお!!転移ケッショウ、転移ケッショウな!!そうじゃな、それを使えば出られるかもしれんの!」


慌ててガリクソンがそう言い始めた。


「そんな便利な物があるのか?」


シュルツ王子も興味深々と言う感じで聞いてきた。


「ええ、マーリン校長が昔ダンジョンで見つけたんですよね!」


オレがそう水を向けると、


「そう、あれは古代迷宮を一人で進んでいた時だったわ・・・」


と突然回想を始めた。

長くなりそうな予感がしたので、こっそり道具袋の中で、それっぽく見えるアイテムを生成する。


「・・・その時、古代迷宮の番をしていたエンシェントドラゴンが!!」


「というわけで、これがそれになります」


と話の腰を折りまくって、アイテムを取り出す。既に、ダンジョンの出口に位置をセットした転移門の魔法を付加してある。


「・・・そ、そうなのよ・・・」


若干悲しそうに、いや、壮絶に寂しそうにマーリンがつぶやく。それ以上に、話の続きをチラチラと、しかし目を輝かせて聞いていたシュルツ王子がガックリ肩を落としたのが気になったが・・・


「僕が起動しますね」


そう言って、転移門を呼び出す。

空間を歪めて、人が一人通れる位の門が現れた。

扉の向こうは、虹色の光に満たされているが、そこを抜ければダンジョンの外のはずだ。


「スミマセンが、僕はゴブリンたちと話をしてこないといけません。約束なので。ですから皆さんだけで行ってもらえますか?」


オレがそう言うと、


「なんじゃと!お前さんは帰らんのか!!」


と、妙にガリクソンが騒いだ。


「いえ、このゴブリン達が何か困っているようで、頼みごとをしたいと言われているので、それが終わったら帰ります。何だか簡単なことのようなので」


オレがそう伝えると、ガリクソンもしぶしぶだが、引き下がった。


ふと、気が付くと、ゴブリン達が転移門を不思議な物を見るように眺めている。


「どうした?」


「いえ、この空間で人間の魔法が発動したのを初めて見ましたので、さすがは大魔王さまだと・・・」


どういうことだ?

そういえば、パンチスキルを起動する前のアンロックは失敗したし、部屋に入った途端シュルツ王子とマーリンが発動した魔法も不発だった。


「この空間では魔法は使えないのか?」


「我々はそうだと思っておりました。この階層では、我々の使うモンスタースキル以外は見たことがありませんでしたので・・・」


「モンスタースキル?」


「人間の使うヒューマンスキルと区別してそう呼んでおりますが、違いはモンスターゾーンで使えるか否かでございます」


恭しい態度でゴブリンが教えてくれた。


「お、お前さん、何をガフガフ言っておるんじゃ?」


ガリクソンが聞いてきた。おお、これって結構恥ずかしいぞ。


「い、今のがゴブリン語です。なぜか急に話せるように成ったので・・・」


オレがそう弁明すると


「そ、そうか・・・」


と三人共、かなり距離を取ってこちらを見つめてきた。


「というわけで、問題は無いので、大丈夫です・・・それと、一応聞きますが、皆さんスキルは試されましたか?」


オレが話を逸らす意味も有ってそう聞くと、とたんに三人が落ち込んだ。


「私の魔法、発動してるんだけど効果が出ないのよ」


「ワシの剣技もダメじゃった」


「俺の魔法も効かなかった」


三人がそれぞれ独白した。


「モンスターゾーンと言うらしいです」


「「「え?」」」


初耳だったらしく、三人とも呆けた顔をして声を上げた。


「あ、そういえば・・・」


大魔法使いらしく、賢人ぶりを発揮したのか、マーリンが記憶を辿る。


「だいぶ昔の冒険者で、森を超えて返ってきた人が居たらしいの。その人の話では、森の中ほどを越えたあたりから、突然スキルが使えなくなって、その先の魔物たちに襲われた時に、何も出来ずに逃げてきたって話しが残ってた気がするけど、本当の事だったのかしら?」


と、話してくれた。


”その話は、信憑性にかけるということで、森羅万象にも、とんでも話のカテゴリーに記述があります”


と琴ちゃんからのインフォメーションが入る。


”そもそも、魔物は人を見た途端に襲ってきます。その人間が見た魔物は、どれも中級以上の魔物ばかりで、複数遭遇したという話から、逃げ切れたという事自体が虚言であると判断されています”


なるほどね。だが最近思うのは、森羅万象って、もしかして誰かに都合の悪いことはちゃんと記録されてないのかもしれないな・・・ってことだ


”そんなことはありません・・・と言いたいところですが、先程、閲覧禁止場所があったことが気になり検索してみたところ、少なくない閲覧禁止事項が見つかりました。全体の数千京分の一程度ですが”


かつて、オレが生きていた世界でも、インターネットやテレビ、新聞などで情報は溢れていたが、その内容は玉石混交で、取捨選択が必要だったことを思いだした。実際、魔素の事も書いてないらしいし・・・


”それは認識の問題です”


でしたね。まあ、それはそれとして、ヒューマンスキルというものに大別されるスキルは、モンスターゾーンでは使えないという事実と、パンチスキルは使えるという事実が今、分かっている事実だ。いま、これ以上考えても仕方ない。


「どうしたんじゃ、ボーとして?」


「あ、ああ、スミマセン。少し考えごとを」


「まあ良い。マーリンとシュルツ王子は先に帰ってくれ。ワシはルキノと残る」


突然ガリクソンがそう言い出した。


「え?いや、一人のほうが・・・」


「ダメじゃ、ルネッサもそう言って帰って来なかった。ワシは後悔はもうしたくない」


頑なだった。


「ガリクソンが一緒なら安心ね。アンタも一旦引くわよ」


「ハンスさんに会いたかったが、そういうわけにも行かないようだ。了解した」


そう言うと、二人は転移門に向かうと、


「でも、無理はダメよ。危ないと思ったらすぐに返ってきてね」


「俺たちは入り口で待ってるぜ」


そう言って転移していった。ゴブリン達は悪用しないとは思うが、どうなるかわからないので、一応、転移門を消去すると、


「おまたせ、仲間が一人協力してくれる。頼みごとって何だ?」


とゴブリン達に聞いた。


「おお!お仲間もお力を貸していただけるのですか!!ありがとうございます。では、我々の村にご案内します」


そう言って、牢屋をでると先に立って歩き始め、ダンジョンの6階層に降りていく階段のある部屋の扉を開けたのだった。



やっと村に行けそうです。

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