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コブシの魔術師  作者: お目汚し
41/65

救出作戦当日

試練です

いよいよ、救出作戦の日になった・・・

といっても、そもそも作戦が無く。ミミさんのところに行ってみる、というのが一番しっくり来る表現な気もするのだが、取り合えず、ハンス・マーリン・ガリクソンのパーティに加えて、オレが校長室に集まった。


「さて、部屋の中から出発というのも、初めてな経験だが、みんな準備は良いか?」


ハンスがみんなに問いかける。


「いつでも大丈夫じゃ」


「久しぶりのダンジョン、ワクワクするわ」


ガリクソンとマーリンがそれぞれに答える。


「ルキノは大丈夫か?」


「うん、初めてだから、ちょっとドキドキするね」


「今回の作戦の要はお前だ。よろしく頼む」


ハンスはそう言うと頭を下げ。


「俺たちを、ミミに会わせてくれ」


そう言って締めくくった。


「よし、じゃあ、気楽に行こうぜ!」


ハンスがそう言うと、荷物を担ぎ直した。


「じゃあ、行くよ!」


オレはそう言うと、先程から魔素認識によって目星をつけていた、ミミさんが囚われている部屋の、比較的広い一角に座標を定めると、ハンス達と共に、一気に転移した。


「おう、頼むぜ!!・・・寒!!!!」


転移した空間は、青白い光に満たされていたが、息が白く凍りつくような気温の部屋だった。


「おお!!ゲートとかは無いのか?」


「さ~む~い~!!いきなり飛ぶとは思わなかったよ」


口々にそう言いながら、装備の中から防寒具を出し始める3人。そうか、3人のイメージは転移門とか、そういう感じだったのかな?


「うおお!!アレを見るんじゃ!!」


周りの様子を見て回っていたガリクソンが、大きな声を上げてオレたちを呼んだ。


「え?なに?」


「おお、こいつは・・・」


目の前に、高さ10mはあろうかという大きな石造りの門が有った。扉は閉まっており、その向こう側から、恐ろしいほどの冷気が溢れ出てきていた。


「この、向こうにミミが捕まってるのね!」


「そうじゃな・・・ルキノよ、本当に生きとるんじゃな?」


「え、ええ?!」


「何じゃ、ここまで来て、ミミは生きておらんなどと言うのではないじゃろうな!!」


と、ガリクソンが、今までに見たことが無いくらい険しい顔と雰囲気で詰め寄る。


「そうよ、生きてるんでしょ!!」


と、マーリン。


「え、ええ。それは大丈夫だと思いますが、僕が言いたいのは、扉の向こうにはボスが居るということです。」


「そんなことは解っておる!強敵であろうということもな・・・」


「そうね、こんな冷気を纏った魔物なんて、見たこともないわ。でも、全魔力を使い果たしても・・・」


「えーと、皆さんはボスを倒しに来たのですか??」


「何を言っておる!!ミミを助けに来たに決まっておる!!」


ガリクソンが、もう少しで目が赤く光りそうな気配を纏って、にじり寄ってきた。


「居たぞ!!ミミが居た!!」


その時だった、ハンスが血相を変えて走ってきた。


「む!何処じゃ!!」


「あの氷柱の中ほどに見えるのがそうじゃないか?」


「ん?あの氷柱?」


「そうだよ、あそこだ!マーリン、お前レビテーションとかで見てこれないか?」


「え?この部屋にミミがいるの?」


「なに言ってんだよ、ルキノがそう言ってただろ?」


「え?ボスは?」


「だから、ボスはめちゃくちゃ強そうだからスルーして、この部屋に入るって言ってたろ?」


ということは・・・この作戦をまともに理解していたのって、ハンスだけ??


「な、何じゃ、そういうことか!!なるほど、それならそうと、言ってくれれば良い物を!!」


「そうよ、なら、こんなに荷物も要らなかったじゃない!!」


そう言いながら、ガリクソンとマーリンが文句を言い始めた。


「何があるかわからないだろ!!準備は必要だろが・・・」


あーだこーだ言い始めたハンスたちは一旦放っておいて、オレはミミさんの方を見た。


ハンスの言った氷柱の中に、氷漬けになって居るように見える。が、これは氷ではない。


直径が5mほどの基本的に円柱状の柱だが、よく見ると氷ではなく水なのだ。

何もない空間の裂け目から、忽然と現れた水の柱は、そのまま、地面に開いた、底の見えない穴に吸い込まれている。裂け目から柱までは、5cmほどの隙間しか無いが、その隙間から垣間見える空間は底なしのようだ。


魔素認識を使って調べてみるが、柱は明確に水であるという答えが出ている。そして、穴の中には何もない・・・魔素そのものが感知できない。そして何より、問題はこれだけの冷気にさらされているのに、水は凍っていないという事実・・・どういうことだ?


そう思っていると、ワイワイ言いながら、3人組がやってきた。


「大体、こんなに簡単にたどり着くのなら、準備など2日も必要ないじゃない!!」


「それは結果論だろ!ルキノが優秀だったから楽ができただけで、実際どうなるかは来てみないと分からんだろ?!」


「そりゃそうかもしれないけど、ハンスはいつも慎重すぎるのよ!」


「できる準備はしとくんだよ!生き残りたければ!」


そんな話をしながら近づいてくると、


「で、マーリン、見てこれるか?」


そう言って氷柱改め、水柱を見上げる。


「ちょっと待ってね・・・」


そう言いながら水柱に近づく。


「ストップ!!」


思わず、声をかける。


「え?なにルキノくん?」


「これ、ちょっと変です」


オレは尚も魔素認識を発動させたまま、水柱を見ているが、


「校長、この柱にファイヤボール撃ってもらってもいいですか?」


そうお願いする。


「そんなことして、ミミは大丈夫なの?」


「どんな威力のを撃とうとしているかお聞きしたいところですが、何でも良いです、撃ってください」


オレの真剣な様子にマーリンも何か感じてくれたようで


「解ったわ、とりあえず、ミミまでは影響がない程度のをブチかますわよ!!」


そう言って、詠唱に入った。


全員離れて、マーリンの後ろから見ていると、詠唱が終わったマーリンがおもむろに魔法を発動させる。


「ファイヤーボール!!」


純白に近い光を纏った、バスケットボールくらいの火の塊がコゥ!!っという音とともに柱に突っ込んだ。


!!!!!!!


耳をつんざくような破裂音がそれほど広くない部屋に響き渡り、氷漬けの扉の向こうから、結構本気で怒って居る気配が伝わってきた。ボス部屋スルーすれば、ボスは怒るわな・・・


「おいおい、なんともないじゃないか!」


ハンスが、そういいながら柱に近づいていく。


「触っちゃダメ!!」


あわててそう言うと、ハンスを止める。


「え?熱いのか?」


「私のファイヤボールが・・・」


マーリンがそう言いながら呆然としている。


「どういうことじゃ?」


ガリクソンも腑に落ちないといった顔をしている。


「これで確信が持てました。この水柱は」


「ダメなら、たたっ斬るか!」


「え?」


止める間もなく、ハンスが抜刀すると、その勢いのまま柱に斬りつけた。


「・・・」


遅かった・・・慎重すぎた。先に危険について話をしておくべきだった。

目の前が真っ暗になった。昨日、パーティ戦の難しさを理解したつもりだった。自分と違う、他人と行動を共にするという難しさを知ったつもりだった。そう、つもり・・・本当には理解していなかった。

マーベリックの言った、タイミングの話はこういった事も予見していたのかもしれない。危険については、検証よりも、まず周知。ハンスも、できる準備はしておくと言っていた。


いま、ハンスは目の前で、彫像のように停止している。

ハンスの剣は、水柱に1mmほど食い込んだ位置で止まっている。が、それだけだ。

落ちることも、上がることもなく、ハンスとともに停止している。


この水柱の時間は止まっているのだ。


「お、おいハンス。何しとるんじゃ?」


ガリクソンがハンスに触ろうとする。


「触るな!」


かなり厳しい口調で止めた。


「だ、だって、ハンスが・・・どういうこと?」


マーリンもパニック気味でハンスに近づく。


駄目だ、このままでは・・・


「ふたりとも、落ち着いてください」


そう言ってみるが、いつ二人がハンスや水柱に触れてしまうか・・・


オレはハンスの方を一目見ると、脳天気に、でも鋭い目つきで剣を振るっている顔に、ごめんと謝って、


「戻ります」


そう宣言すると、マーリンとガリクソンに有無を言わせず、校長室に転移した。


まだ、出発してから一時間と経っていなかった。

だが、この場所には既にハンスは居ない。


「ルキノよ、どういうことじゃ?!なぜ、引き返した!!」


ガリクソンがこちらの胸ぐらを掴みあげてにじり寄ってきた。


「ハンスが・・・ハンスが居ない・・・ハンスが・・」


マーリンは何かに取り憑かれてしまったように、ソファーに倒れこんでしまった。


「そんなふうだからですよ。だから連れて帰ってきました」


オレは、なるべく冷静に聞こえるように、そう言った。


「なに?」


ガリクソンは、その一言に胸ぐらを掴んだ手をゆるめた。


「二人にハンスみたいになられても困りますので、戻りました。きちんと話を聞いてくれるならお話しますが、どうしますか?」


努めて冷静に、だが、内心の怒りがにじみ出てしまっているであろう言い方だった。もちろん、怒りは自分に向いている。


「お前さんは、アレがどういうことか分かっているということか?」


「そういえば、ルキノくん、確信が持てたって・・・」


怒気にあてられたのか、少し正気にもどった様子で、マーリンも聞いてきた。


「はい、もっと早く警告していればと、悔やんでいます。あれは、トラップの一つだと思います」


「トラップ?」


「誰を標的にしているのかはわかりませんが、おそらくは光の勇者を標的とした、トラップだと・・・」


「わしらを標的に・・・?」


「そうでなければ、ミミさんがあそこにいる意味がわかりません。ですが、みすみすそれに引っかかってしまった」


オレは、悔しさでいっぱいだったが、あの状況から2人を連れて帰ってこれただけでもまだ、マシだったと思うしか無い。


「あの水柱は、時が止まった結果です」


「どういうこと?」


マーリンが、魔法使いらしく理性的な表情を取り戻しながら聞いてくる。


「そのままの意味です。あの柱は氷ではなく水でした。流れることも、凍ることも、蒸発することもない。周りの環境に全く左右されていない。あの水柱は、それに関わるすべてのものの時間を停止してしまうと考えれば、辻褄が合います」


「時が止まる・・・」


「僕の知っている魔法の中には、そんな魔法はありませんでした」


あの瞬間、琴ちゃんを呼び出して、多重思考を起動したうえで、幾つもの可能性を検証した結果、この答えにたどり着いた。その瞬間に森羅万象にアクセスして、全魔法体型の中から、時間停止の魔法を検索したが、そんなものは見つからなかった。固定空間中の時間を巻き戻す魔法はある。リバースだ。そして、ストップという魔法もあったが、止めておける時間は、極短い。戦闘中に10秒も動きが止まれば致命傷だが、あの水はどのくらい止まっているのか・・・しかも、触れたものにその影響を広げる魔法など、見当たらなかった。


「つまり、あの時にわしやマーリンがハンスに触っておれば、同じように止まってしまったということじゃな?」


ガリクソンが、比較的冷静に、確認してきた。


「ええ、その可能性が高いと思ったので、一度戻りました」


「ならば、早く触れておくのじゃった」


ガリクソンが、吐き出すようにつぶやいた。


「ガリ、そんなことを言ってはダメ、二人を助けださないと」


マーリンがなだめるが、


「やっとミミに会えたんじゃ。この時代に飛ばされて10年余り、やっと会えたんじゃ・・・」


そう言いながら、泣き崩れる。


「なによ、10年位。私は200年よ・・・」


マーリンもそう言いながら、ハラハラと涙を流し始める。


嗚咽が響く室内で、ただひたすらに解決策を黙考していたが、二人を助けだすどころか、ハンスを取り戻す術も、考えつかないまま、校長室の窓から差し込む陽光は、夕暮れのものになっていった。



この試練は、私にとっても試練です。

ハンスが居ないと、パーティーが締まらない・・・

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