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コブシの魔術師  作者: お目汚し
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救出作戦前日

遅れ遅れの更新です。

ぱちっと目が開いた。


爽快な目覚め・・・というわけではなく、

背後から不気味な声と共に首筋を撫でられる・・・という夢を見た。

不気味な声のトーンが助さんっぽかったのは、昨日のミッツの話のせいに違いない。


ひとまず、目が覚めてしまったので、そのまま起き上がり、最近の問題点や考察すべき事をまとめてみる。

一人で考えても堂々巡りになりそうなので・・・


”お呼びですか?”


琴ちゃんにもコメントを頼む。


”おまかせください。スケイルさんがマスターのことを恨んでいる理由は、逆恨みです”


そっから来たか・・・うむ、できればその理由を知りたいのですが


”心の機微についてはコメントしかねますが、現在の状況を端的に表す言葉は、逆恨みです”


あ、ありがとう・・・


”どういたしまして。他には何かありますか?”


そうだね、MPについて聞きたいんだけど、具体的にMP1ってどのくらいの魔素の量なの?


”MP1はMP1です。魔素の量とMPの関係はありません”


ええ!!そうなの?なら、何故オレの周りに自由魔素が見えないのか・・・


”マスターの魔素認識はあくまでマスターの主観ですので、量が多いか少ないかはマスター次第です”


となると、あまり見た目は意味が無いということか・・・


”他に何か御座いますか?”


オレにはあまり関係ないんだが、MPの回復を高める方法って何かあるのかな?


”MP回復ポーションなどで回復できます。時間経過やレベルアップでの回復も見込めます”


それはわかってるんだけど、何かそんなスキルは無いのかな?


”MP回復スキルやMPを分け与えるスキルなどが挙げられます”


今ひとつ自分の考えていることとリンクしていないのだが・・・今、自分の周りに大量の空間魔素が存在している。オレの主観なのかもしれないが、実際に魔素変換して物質化もできるように成った。これをMPに変換できないものか・・・


”マスター自身がMPを得ることができて、それを分け与えるということなら可能になると思われます”


そうなんだろうけど、相変わらずステータス上はMP0なんだよね・・・


何かできそうな感覚があるのだが、そもそもMP自体を持っていないため、よくわからないのだ。魔素変換を体得してから、身の回りにMPっぽいものを創りだしてみたこともあるのだが、MPっぽく見える何かになっただけであった。


後は、アイテムやポーションの作成について。創造系のスキルや回復系で欠損部位を治したりした時は、ほとんど違和感を感じさせない物ができていると思うのだが、昨夜のヤスリのように、全く同じものを創りだしても、できたものは同じだと思えなかった。これはなぜか?


”外部からの観測や、物品としての精度は寸分違わぬ物が出来上がっています。重量、質量ともに同じですので、違いは無いはずですが”


琴ちゃんがわからないということは、やはり心や気持ちの問題だということだね。


”スミマセン”


いや、良いんだ。それについては諦めているところもあるから。


そう思って、昨日も振っていたハンスからもらったショートソードを取り出す。

試しに、同じものを創りだしてみる。今回は、キズや欠けた刃まで忠実に再現する。

できた剣を構えてみる・・・しっくり来る、が、違う・・・

自分の剣を構える。やはり違う。

何が違うのか?


その時、胸にかけたペンダントが何かを語りかけるように少しだけ熱くなった。


ん?これって・・・


そう思って、魔鋼のかけらで出来たペンダントヘッドに触れた。


「剣の記憶が違うのだ」


「え?」


「だから、剣の記憶が違うのだ。神よ」


「えーと、ゴブリンキングさんかな?」


「そうだ、我は死んだと思っておったが、死んでおらんのか?」


驚愕である。ゴブリンキングの魂?が宿った魔鋼のペンダントは、会話ができる。


「我は消えずに済んだということか。神のおかげだな。感謝する」


あ、いえいえどういたしまして。

多分、琴ちゃんと同じで声を出さなくても大丈夫なのかな?


「我の声も恐らく神以外には聞こえておるまい。それで問題は無い」


おお、新しい相談役発見!!で、剣の記憶とは?


「うむ、我らも人も剣も同じだと思うが、例えば双子の兄弟が居て、見た目は同じだとする」


はいはい、一卵性双生児ってやつだね。


「見た目は同じで、生まれたばかりでは見分けもつかぬが、数年もしない内に個性が生まれる」


なるほど、つまり、全くおなじに見えるものが2つ有っても、過ごした時間が違えば印象も違うと・・・


「難しいことはわからぬが、神の創りだした剣は、元になった剣ほど雄弁では無いな」


そんな声が聞こえてきた。


「むう、すまぬ・・・眠くなってきたわ・・・少し・・・休む・・・」


かろうじてそう言うと、眠りに落ちてしまった。


何やら朝からびっくりすることが起きた。これは、どういうことなのかな?


”・・・”


あれ?琴ちゃん?


”はい、お呼びですかマスター”


え?いや、今ゴブリンキングが話しかけてきたじゃないですか?


”ゴブリンキング?何処に居たのですか?”


あれ?琴ちゃんとはつながってないのかな?


”私には感知できませんでした”


ということは、琴ちゃんとゴブリンキングと三者会談というわけには行かないのか・・・


”申し訳ありません。努力してみます”


いやいや琴ちゃんは良くやってくれてるから、そのままでも大丈夫だよ。


そう言いながら、創りだした剣と、元々の剣を片付けようと両手に持った・・・


ん?妙にしっくり来る。


まるで元々二振りで一対だったように、両手に構えた剣が馴染む。そこそこの重さもあるのだが、むしろ一本を片手で持つよりも、2本同時に持ったほうが軽く感じるくらいだ。


”双剣皇の称号スキルの効果です”


あ、ゴブリンキングの称号だね・・・

剣術スキルの中に二刀流というスキルは無い。実際、二振りの剣を同時に装備したところで、行動を阻害することも多く、ダンジョンの中などでは使いづらい面が多い。装備できるのも片手専用装備を左右の手に装備するというだけで、バスタードソードなどが装備できるわけではないので、いわゆる無双状態にはなりにくい。仮に、大剣を両手に装備すれば、さらに行動が阻害されるであろう。


”双剣皇の称号は、スキルではなくアビリティに近いものです。刃のある物を剣と認識して装備するというもので、元々がモンスター称号のため、マスターのような人間種族が使用した場合の実績がありません”


モンスター称号?


”仮の呼び方です。現実的に魔物種族に多く見られるか、魔物種族のみが持っている称号のことで、双剣皇はこれまで、モンスターにしか見られない称号でした。取得条件が以前お話した通り、特殊なため、亜人類や人類の称号には成り得なかったものと推測されます”


それって使っても問題は無いのかな?


”片手剣二刀流と違いがわからないと思いますので、問題はないかと思われます。専用技もありますが、マスターの場合、他にもいろいろ規格外ですので、気にする必要はないかと思います”


奇人変人扱いですな・・・


まあ、そういうことなら問題は無いのかな?一応、オリジナルの片手剣を残して、創りだした剣は袋にしまっておく。


しかし、あの赤く光っていた魔素は、ゴブリンキングの魂・・・だったということだろうか?そういう認識が一番しっくり来るのだが。


”スミマセン。魔素の認識はマスター独自のものなので、判断ができません”


だよね。個人的にそういうことで問題は無いと思うけど、ひょっとして、魔素変換でゴブリンキングの身体を創りだして、そこに魂を入れてやれば、彼は復活するのかも・・・


”理論上は可能です”


だよね。でも、なんとなく気軽に実験していいものでも無い気がする。


また、ゴブリンキングが目覚めたら相談してみよう。


ひとまず、朝の考察を一段落して、食堂に朝食を食べに行く。


「おはよう。よく眠れたかい?」


「あ、おはようございます」


食堂に着くと、早速ミッツが挨拶してくれた。


「ルキノ殿、おはようございます」


格さんも律儀に頭を下げてくれたが・・・


「・・・」


助さんが顔を背けるようにしてミッツの後ろに居た。


「助さん、ルキノに挨拶はしないのか?」


「ミツクーニさま、何故この様な下賤な者に、我ら選ばれし貴族が頭を下げる必要があるのですか?」


弾かれたように助さんがミッツに顔を向けて意外に激しい剣幕で金切り声を上げた。


「お前は・・・そういえば、ルキノに礼は言ったのか?」


「礼?」


「そうだ、先日の立会の折、死にそうなところを助けてもらったのは、私だけではあるまい?」


「・・・」


また、無言に成ってしまった。


「げ、下賤なものが高貴なものを守るのは、当然でございます」


と思ったら、絞りだすようにそういった。


ミッツと格さんが済まなさそうに、こちらに目を向けてくる。

オレは、大丈夫!!という意味を込めて頷く。


「さて、今日の朝ごはんはなんだろう!」


そう言うと食堂に入った。

当然のようにミッツや格さんも同じテーブルに座り、その横に、ことさら距離を取りたさそうな様子で、助さんが座り、その周りに他の友人達も集まってきて、賑やかな朝食となった。


明日、出発なのだから休めば良いのかもしれないが、それまでにいろいろ試す必要があるので、こっそり、廃坑に転移してきた。


ここの廃坑は、マーベリック商会の持ち物で、以前、緑魔鋼を調べに来た鉱山だった。まだ、魔鋼は眠っていそうなのだが、緑魔鋼の大きな鉱石に阻まれてしまい、採掘を断念した鉱山だった。現在は閉山され、近くには誰も居ないということだった。


そこで、オレはパーティー戦用の通常魔法から、剣や槍、楯を使った戦闘、オリジナル魔法の構築、思いついた全てを一通り試す。昼を少し回ったところで、試行は一通り終わったので、お弁当を食べながら考える。


思った以上によろしくない。

剣・槍・棍・弓・大剣・拳法など、思いつく限りの武器や動きをしてみた。スキルも一つ一つ使ってみたが、何一つものになっていなかった。剣技のスラントやスラッシュなどは、ミッツの教えと、昨晩の型のおかげか、随分スムーズなのだが、それにしても他に比べてスムーズというだけで、実戦レベルでは使えない。単発を狙って当てることはできるかもしれないが、咄嗟のときに使えるレベルではなかった。


魔法にしても、通常魔法については、威力調整などが難しい。大きくするのは、全く困らないが、ダンジョンのような狭い空間で使えるような魔法となると、空間閉鎖を重ねて使っている、いつものオリジナル魔法のほうが使い勝手が良い。


それでも、乱戦になれば、使える魔法は限られてくるので、少なくとも今までの殲滅型の魔法は使えないことになる。


荒れ地に何本か残っている倒木を仲間に見立てて、空間設定をしたうえで、爆炎掌を何度か打ってみる。威力も抑えて、打ってみたが魔法自体では倒木はなんともなかったが、魔法で起こされた炎の輻射熱で、表面が結構こんがりと焦げた。それならということで、爆炎掌をかけた後、同じ空間に瞬時に冷却魔法を展開しその後、空間限定を切る・・・これなら使えそうだが、緊急用の魔法だ。自分の魔法で仲間を焼き殺すとか、ゾッとしない。


夕方日が暮れるまで、武器術の中でもすぐに使えそうな技が多かった、剣と棍を中心に型を行い、並列思考を使って、闘いながらヒールを使う訓練、ファイヤボールやサンダーボール等、初歩の五大魔法の習熟を行うと、最後に、パンチを起動して、瞬間移動にも見える踏み込みからの、一連のパンチ・キックを一通り試して、塾に戻った。


自室に戻ると、すぐにドアをノックされた。


「どうぞ」


「入るぞ」


返事とほぼ同時にドアが開き、ハンスが入ってきた。

返事を待っていた感覚はほぼないので、ノックして同時に開けた感じだ。


「今日は何処に行ってたんだ?」


ハンスはそう言いながら、オレのベッドに腰掛けた。


「マーベリックさんに教えてもらった訓練場で、スキルのおさらいとかね・・・」


「そうか、お前もスキルを使えるように成ったんだもんな」


感慨深いといったかんじで、ハンスが頷く。


「だが、無理はするなよ、お前はまだ実戦経験はそれほどない。どんなに優秀なスキルや技だって、研ぎ澄まされた盗賊のナイフ一本にやられてしまう」


それは、ここ最近考えていたことだった。


「千招有るを怖れず、一招熟するを怖れよ・・・か」


「ん?なんだ?」


オレのつぶやきにいい事言った!と思っていたハンスが、虚を突かれたように聞き返す。


「あ、ああ、ごめんね。前に本で読んだ言葉なんだ。千の技を身に付けている相手より、一つの技を極めた相手こそ恐ろしい、って意味だったなと」


「も、もう一回、もう一回教えてくれ、その言葉」


「え?千招有るを怖れず、一招熟するを怖れよ?」


「せんしょうあるをおそれず、いっしょうじゅくすをおそれよ・・・と」


こいつメモりやがった・・・


「ま、まあ、わかってればいいんだ。明日はお前の力で向こうに連れて行ってもらうが、着いたらなるべく俺たちの後ろに隠れていろよ。勝手に飛び出したら、守れなくなるからな!」


その後も、基本的な連携とオレの役割、そういったことを確認して、


「今日はよく休んでおけよ。明日は頼むぞ!!」


そう言って、自室に引き上げていった。

流石に今日はよく動いたので、疲れているようで眠い。

布団に潜り込むと、夢も見ないで眠りの世界に旅だった・・・



優秀なスキルや称号が、強いわけではないと気づき始めたルキノくんです。

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