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コブシの魔術師  作者: お目汚し
39/65

救出準備一日目

ミミ救出前の話です。

ハンス達が出て行って、返ってきたのは夕方だった。


愛用の長剣を研ぎに出し、鎧の継ぎ手を新品に変えて、ポーションや薬草など、回復アイテムも大量に買い込んできていた。それらを、小分けにして、マーリン校長が謎の袋に取り込んでいく。なんでも、MPの量に応じて内容量が変わる不思議袋らしい。見ている端から、ありえない量の物品が、小さめな巾着袋に吸い込まれていく。


ガリクソンも同じような袋を持っているので、見せてもらったが、オレが持った途端、大量の短剣や小剣が袋から溢れ出してきた。


MP0のオレが持ったために、見た目通りの容量になったのだった。


校長室の床の半分くらいにナイフやら何やらをぶちまけたが、ひとまず袋を解析させてもらい、森羅万象にアクセスすると、作成方法や素材を理解した。今ではつくり手のいなくなった袋だったそうなので、ついでに魔素変換を使って、同じような袋を5枚作る。ちなみに、構造は理解したので、さらにアレンジを加えて元の量の10倍ほど入るようにした。


それをガリクソンとハンス、マーリンに一枚づつ渡すと、さらに、袋の一つにアレンジを加え、オレでも使えるように、つまりは、MPが無くても、周囲の魔素を利用して収納が増えるようにした袋を作ると、オレも要りそうなものを片っ端から放り込んでいく。


渡された袋を半信半疑で見ていたハンスたちも、いざ収納に入ると、その性能に驚いていた。


「おまえ、本当にすごい力を手に入れたんだな」


感心したようにハンスが言ってきた。


「流石、俺の息子だ!!」


と、よくわからない絶賛をされたが、父ちゃんの自慢の息子ならまあ、いいだろう。


「ねえ、今聞くことじゃないけど、ひょっとしてルキノくんならミツクーニくんの装備、直せるんじゃ無い?」


むむ?!

そう言われればそんな気がする。


「ちょっと見せてもらっていいですか?」


そう言うと、ミツクーニの壊れてしまった装備を手に取る。


素材を検証してみたが、思ったより普通の素材だった。確かに高価な素材も使っているが、それほどすごい素材でもないような・・・ひとまず解析も終わったので、形から元に戻す。


根本から折れていた剣は、出来立てのように刃こぼれひとつない剣に、鎧なども新品同様になった。まあ、壊してしまったお詫びも込めて、金属類は全て中に魔鋼を仕込んで強度を上げる。


出来上がった装備に、今度はエンチャント魔法をかける。永続効果を持たせるために、エンチャントした後に、時封じの魔法がかけられていた。ただ、不完全だったらしく、あのまま使っていても、あと120年ほどで効果はなくなっていたらしいが、急激に性能が変化すると使う方も困るだろうということで、ほぼ同じくらいの魔法を付与しておいた。素材がよくなっているので、性能も上がっているのだが、それくらいは何とか使いこなしてもらおう・・・


「ルキノくんて、便利よね~」


マーリン校長がそう言いながら直したばかりの長剣を手にして、眺めている。


「お、結構凄い剣だな、見せてくれよ」


そう言って、おおよその準備が終わったハンスがマーリンから剣を受け取る。


「ん?ちょっと軽いな」


そう言いながら、抜手も見せず抜刀してヒュンヒュンと素振りすると、


「趣味じゃないな」


そう言って、一瞬で鞘に収める、そして校長室のテーブルに置いた。


「ルキノに頼めば、俺好みの剣も作ってもらえるかな?」


笑いながらそう聞かれたので、


「できるよ、作る?」


そう聞くと、


「いや、今のところ、この相方が気に入ってるから、また今度な」


そう言って、腰に下げた剣をポンポンと叩いた。


一通りの準備が終わったので、明日一日、休養として、明後日の朝、出発することに成った。

朝、校長室に集合して、そのまま、ミミさんの囚われている階層まで一気に転移するつもりだ。


「なんだか、そんなに簡単に行けるとなると、気が抜けるが、ルキノ頼むぞ」


ハンスがそう言って、自分の部屋に引き上げていった。



その日の晩。オレはとあることに気が付き、琴ちゃんを呼び出していた。


”できますよ。マスターなら当然できます”


やっぱり・・・


先程アイテムを収納している時に思ったのだが、体力回復系のアイテムや毒消しなどのアイテムが、オレの場合は要らないのでは無いか?魔法でなんとでもなるのではないか?そう考えたのだった。そこで、琴ちゃんに、回復系アイテムと同じことが魔法でできないか?確認した答えが先程のものである。


”必要とあれば、魔素から同一効果のアイテムを作り出すことも可能ですし、そもそも、効果は魔法のほうが確実です”


とは、琴ちゃんの意見。

そうだよな。オレと居る限り、回復アイテムとは無縁ということだな・・・そう思っていたのだが、


コンコン


と、オレの部屋のドアがノックされた


「どうぞ」


と声をかけると、とある人物が入室してきた。


「おじゃまいたします」


マーベリックである。


「夜分に失礼かと思いましたが、マーリン様からルキノ様の素晴らしい力のお話を聞きまして」


そう言って、揉み手をしながらにじり寄ってきた。


「な、なんですか?」


「なんでも、ルキノ様は何もない空間からでも好きなモノを生み出せるとか」


耳が早い。マーリンあたりが自慢気に話したのだろうが、商人が聞きつければ原価0で高価な物が手に入るかもしれないと考えて、こうなるだろうな・・・


「そのお力は、どんなものでも生み出せるのですか?」


「ま、まあ、見たことがあるものや想像できるものなら・・・」


少し濁しながら答える。


「それは素晴らしい!!では、先日お見せしたこちらと同じものも作れますか?」


そう言って取り出したのは、例のジャポニカ製のヤスリだった。

チョット拍子抜けしたが、金銀財宝を作り出せと言われるよりはマシかな・・・


「どうぞ、手にお取りいただいて結構ですよ」


そう言いながら、押し付けてくる。

仕方なく手に取ると、なるほど、職人さんが求めるのがよく分かる、バランスの良いヤスリだった。


「凄いですね。ろくに使ったこともない僕でも、このヤスリが欲しくなります」


「そうでしょう!これぞ、逸品!で、これと同じものが作れるのですか?」


ニコニコしながらマーベリックが聞いてきた。

早速、素材や内容を解析、ヤスリの歯の角度や間隔まで、忠実にトレースする。

そのまま、空間魔素を変質させて、寸分たがわぬヤスリを生み出した・・・

生み出したのだが・・・


「・・・・?」


「どうしました?」


オレの手の中には、先程マーベリックが渡してくれたものと、まったく同じものが出来上がっている。

性能も、全く同じはずだ・・・だが・・・


「できない・・・」


「ん?できないとは?」


オレは、はっとしてマーベリックの顔を見た。

相変わらず、ポーカーフェイスみたいな笑顔を貼り付けているが・・・


「マーベリックさんは、これを教えようとして・・・」


「なんのことかわかりませんが、何か私がしましたでしょうか?」


そう言うと、オレが創りだしたヤスリをヒョイっと手に取ると、


「流石、素晴らしい出来ですね。感心しました。これは頂いてもよろしいですか?」


そう言って、自分の懐にしまう仕草をする。


「・・・ええ、どうぞ。大事なことに気づかせてくれましたので、差し上げます」


マーベリックは笑みを深くすると、


「よくわかりませんが、ありがたく頂戴いたします」


そう言いながら、ヤスリを懐にしまいこんだ。そして、


「私達商人は、いつも商品をお届けするときに、お客様の姿を思い浮かべます」


と、突然語りだした。


「誰かを思って作られたものと、模倣されたもの。商品の性能は同じでも、違うのかもしれませんね」


そう言うと、例のスマイルを貼り付けたままで、


「私がお願いしたいのはただ一点。ルキノ様のお力は、なるべく限定してお使いいただきたいということです」


尚も、同じ表情のままで


「ルキノ様は優れた商品をそれこそ無尽蔵に生み出すことができそうです。ですが、それは、それを苦労して作り出している職人や、薬草採取を仕事にしているもの、ポーションを生成している魔法使い。そういった人たちの生活を脅かすことになるのです」


確認するように間をとると。


「何も言わなくても、ルキノ様はわかっていただけたようですので、一つアドバイスを」


そう言って、今日始めて、営業用ではないと思われる笑顔を見せた。


「私達商人には、商品をお届けするタイミングというものも重要でございます。傷薬を所望されている方に、毒消しを差し上げても、お金はいただけませんので・・・」


そう、謎掛けのような事を言うと。


「では、夜分遅く失礼いたしました。ちなみにお父上に、私めがこの屋敷におりますので、わざわざ外に買いに行かなくても、商品は揃うとだけ、お伝え下さいませ」


そう言って退出していった。


もしかして・・・それが一番言いたかったとか・・・


だが、さっきのヤスリ。全く同じものを作ったが、手にした感じが全然違っていた。アレが多分マーベリックの言っていた職人の思いってやつなのだろう。

後は、最後の謎掛け。アレも意味があるはずだ。


タイミングの話・・・タイミング・・・タイミングか!!


マーベリックが言いたかったのは、オレが何でも作り出せるから、ポーションが要らないという発想になるのを防ぐために来たのだ。実際、そう考えていたのだが・・・販売量が減るからということもあるかもしれないが、それ以上に、ダンジョンの中では、いつも一緒に居られるとは限らない。他人の袋からモノを取り出している隙なんて無いかもしれない。だから、各々が小分けにして持っていくのだ。そして、回復術の使えるマーリンもポーションを持っていたのは、詠唱や精神集中ができない状況下を想定したり、むしろ仲間用・・・


なるほど、思い上がっていた。今までの戦闘は基本的に一人だったから、周りを気にすることはなかったが、パーティー戦に成ったなら、オレ一人が強くても意味が無いのだ。

そして、道具に込められた思い、心の力。

一人の方が気楽だし、その方がいいや、でみんなを待たせれば、蔑ろにされた仲間の心が死ぬ。肉体的に死なれるより、そのほうが良いとか、そういうことではなく、何かを成し遂げたいと言う思いが、人を動かす。


どうせ何をしても変わらない・・・という思いや、他人任せの風潮が世の中を腐らせるのだとすれば、遣り甲斐や、気持ちの持ち方などは、大切なモノだと改めて思えた。


そうなると、ハンス達が口にした、大悪党になるという言葉の意味をきちんと理解しないと、この後、ハンスたちとパーティを組んでいくことはできないようにも感じられた。


幸い明日一日あるし、そのあたりも聞ければ良いな・・・


そう考えて寝床に入るが、寝付けない。


眠ろうとすればするほど、先日の魔法練習や、ミツクーニに教えてもらった剣技のことが頭をよぎる。


オレは、弱い・・・ステータスやそういったものではなく、技の熟練度や使い方が分かっていない。

力任せに圧倒することは恐らく可能だが、シュルツが行ったように加減して相手を攻めたり、知っている魔法でも、使用方法が限られる。


新しい魔法を作るのは、発想力が大事だと思ったが、そもそも、元の魔法でできることを拡大しただけでは新しい魔法にはならなかった。それは、現存している魔法をきちんと把握していないからだ。


そんなことを考えていたら、どんどん目が冴えてくる。

居てもたっても居られなく成って、寝床をぬけ出すと、裏山に向かった。


自分用のショートソードを手に、裏山に到着すると、早速素振りを始めた。


王立学校を中退して、それでも剣士を目指すつもりだったオレに、ハンスがくれた剣だ。

当時は重く感じていた剣も、レベルも上がり大幅に筋力も上がっているであろう今は、随分軽々と振れる。


学校で習った剣技の型を一通りやったところで、ふと気がつく。


王立学校の剣技の型の1って、剣技レベル1の技の集大成じゃないか?と


そこで、意識してスキルを発動できるところは発動して、型を繰り返す。


すると、打ち払いだと思っていた動きが、実はスラント(横一線切り)での切り払いだったことや、上段受けの動きがリバーススラッシュ(逆袈裟切り上)の動きだったりと、新しい発見が次々に出てきた。


なるほど、と思って、ひとしきりスキルと型の一致に気を配って剣を振っていると。


「おお!凄いなルキノ、随分スムーズに剣が振れてるじゃないか!!」


「え。ミッツ?」


「先客が居たからチョット焦った」


随分と気さくに話しかけてくるミツクーニの姿があった。


「いまの、もう一度見せてくれよ」


「え、良いけど・・・」


そう言いながら、一の型を頭から始める。

無言でそれを見つめていたミッツが時折目を見開いたりしながら感心している。


最後の挙動を終え、正眼の構えに戻ってから剣を鞘に収めると


「いや、凄い動きだった!!」


パチパチと拍手をしながら


「いまの動きは王立学校の型だな。そんな意味があったとは思わなかった」


そう言いながら、自分も剣を取り出すと同じ型をし始める。


「一の型なんて、初歩の初歩だと思って軽んじていたが・・・」


途中から、参加する。


「なかなかどうして、スキルを併用すると・・・」


段々息が上がっていくミック


「げ、限界だ・・・」


そのまま、倒れこむようにして型を中断する。


「ル、ルキノ・・・君はMP切れは無いのか?」


ゼイゼイと苦しげな息を上げて、座り込んでいる。

そうか、本来ならスキルの発動にはMPが必要だ。全てにスキルを重ねるのは至極難しい・・・

ということは、スキルを込めた一の型は、それ自体が上級者向けということか・・・


「君は凄いな。今更ながら君に絡んだこと自体、恐ろしいことだったと思えるよ」


ついには、大の字に寝転ぶと木々の間から見える、満点の星空に息を吐き出した。


「MPはすぐには回復しないだろうが、体力なら少し休めば何とかなる。少し休むよ」


そう言って、そのまま動かなくなった。目を閉じて眠てしまいそうだ。


なんとなく魔素感知の目でミッツを見ていた時、魔素の動きに変化があることに気がついた。


魔力感知も併用して見ると、じわじわとで有るが、魔素がミッツに入り込んでいく。

それは、呼吸と共に吸収されているように見受けられた。


そういえば、MPは個人が利用できる自由魔素だと認識していたが、膨大なMPを持つマーリンもミッツも見た目上はそれほど魔素の量に違いは見られない。今更ながらにそれに気がついた。


対して、自分の手を見つめるが、相変わらず意識すると周りの空間魔素がまとわりつくように自分のMPであるがごとく魔素を使うことができるが、固有の自由魔素は全く見えない。


MPという数値で今まで考えていたが、ひょっとして、それが大きな間違えな気がしてきた。

そうなると、気になるのはジョセフくんだ。


彼のMP超回復の謎をまだ解いていなかったが、思い返してみると、彼の保有している自由魔素の量も、ミッツやマーリンに比べて、それほど少なくは見えなかった気がするのだ。


MP4のジョセフくんとMP100のミツクーニ、ましてMPの化物である校長の保有魔素の見た目が少ししか変わらないということがおかしいのではないか?そんなことを考えていると、


「さて、そろそろ動けそうだ」


そう言いながらミッツが立ち上がった。


「とは言うものの、今日は一気に疲れた気がする。良い刺激をもらった」


そう言うと、宿舎の方に戻り始めた。


「あ、そうだお前に頼みがある」


ふと立ち止まって、ミッツが振り返りざまにこういった。


「実は助さんがお前の事を逆恨みしているようだので、気をつけておいてくれ」


「え?」


「頼んだぞ」


そう言って、下生えを踏みつけながら帰っていった・・・


そこはご老公・・・なんとか止めて置いてくださいよ。しかも、逆恨みって・・・


何が原因か全く分からず・・・思い返せばいろいろ思い当たり・・・

これ以上剣を振る気にもなれず、早々に部屋に引き上げた・・・

長くなってしまいました。

お気に入りのキャラなど居ましたら教えて下さい。

ミツクーニのキャラが一気に変わってしまいました・・・

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