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コブシの魔術師  作者: お目汚し
35/65

犯人は誰だ??

仕事の合間に書いていますが、なかなか進みません。スミマセン。

この世界では、黒髪黒目の人間は少ない。

東部に存在はしているらしいが、色素の関係なのか、純粋に黒く見える人間はほぼ居ない。

しかも、生まれたとしても短命で、長く生きられないという話だった。

かつて、世界を震撼させた、悪の大魔導師ルネッサの呪いとも言われ、田舎の集落などでは、黒髪黒目の子供は間引きされるなどという、まことしやかな噂も後を絶たなかった。


オレはといえば、そんなことを気にしないハンスのもとで過ごしたおかげで、この年まで生きていられたのかもしれない。考えように寄っては、この近くの村か、街の誰かの子どもとして生まれたが、それこを間引きのために、ダンジョンに捨てられたのかもしれない。それを、ハンスが育ててくれた。たまたま、その体に、オレが転生してしまったということなのでは無いか?

オレが転生したために、スキルも大量に保有していながら、MP0という特異体質だったのかもしれない。だが、スキルを持っているが使えない、MP0という状態のオレを見つけたハンスたちにしてみれば、その特徴は、ルネッサに酷似していると思うだろうから・・・


「おおぉぉぉぉぉ・・・・・」


地に伏して、ただ呆然と嘆きの声を上げ続ける伊達男が居る。

マーベリックである。


どうやら、この人もルネッサの転生を信じていた一人であるらしく、このような状態になっている。


「ルネッサ様の生まれ変わりをハンス様が育てているらしいと聞き、ただひたすらに待ち望んでいたものを・・・おおおぉぉぉぉぉ・・・・・」


「あの、マーベリックさんも、ルネッサさんの復活を望んでらっしゃったんですか?」


「望むどころの騒ぎではありませんぞ!!私などは、ルネッサ様が居なければ、傲慢で破廉恥なタダの思い上がった魔導軍団長でした。それこそ、人類を滅亡させ、この世の中を破滅させることのみに固執する、魔法バカで終わったはずなのです。それを、ルネッサ様は私の商才をすぐに見抜き、それこそを役立てよと言い残して、光の勇者たちとの戦いに身を投じていかれたのです。」


「え、ということはマーベリックさんは・・・」


「元々はとある領主のもとで、宮廷魔術師をしておりましたが、ルネッサ様に感化され、魔王軍の魔術師団の団長を拝命しておりました。本当のルネッサ様は・・・」


「マーベリック。その話はおいおいルキノくんに話していきます。今は、その時ではありません」


マーリンが強い口調で窘めるようにマーベリックの独白を止めた。


「いや、元々はマーリン様が・・・」


「ルキノくん、今は私達がそういう感じだと思っていてくれればいいわ。私達の大悪党の計画もいずれ話をする。それまで、あなたはその能力をしっかり磨いて、何が正しくて何が間違っているのか、判断できる人間になってくださいね」


そう言って、話を打ち切った。

そうして、どこかやるせないような、腑に落ちない顔をしていたマーベリックが、ハッとした様子で顔をあげると。


「では、やはりあの柵はルキノ様が何かされたということですね!!」


と、再び瞳に炎を灯して立ち上がった。


「ええ。では、マーベリックさんは魔法については専門知識をお持ちだということで説明いたします」


ということで、自称「錬金術」、スキル名「魔素変換魔法」について、マーベリックに解説した。


「ということは、元々粗鋼で有った物質の魔素を、緑魔鋼の魔素に編成させたということですね。なるほど興味深い。ですが、それにはかなりの魔素干渉能力が必要だと考えられますが、どの程度必要なのか・・・」


そう言って、マーベリックはブツブツ言いながら考え込んでしまった。

だが、マーリン校長とは違って、現象の意味をほぼ正確に理解したらしく、手元の指輪に干渉魔力を帯びているらしい魔素を吹き付けたりしている。そもそも、自由魔素に干渉波を通じて、事象を改変しているのだから、できそうなものなのだが、どうやら、鉄は鉄、魔鋼は魔鋼という常識が改変を邪魔しているようだ。丁度、オレに回復魔法は効かないと思い込んでいた頃と同じように。


「なるほど、理屈はわかりましたが、やはりこれはルキノ様独自の魔法になりそうですな」


一通り検証が済んだのか、幾分スッキリした表情でマーベリックが言ってきた。


「緑魔鋼の加工方法が分かれば、現在廃棄物扱いされている素材に新しい使い途も出るのですが、残念です」


「あ、そのことですが、これを見てもらってもいいですか?」


オレはそう言って、例のただの魔鋼に成ってしまったナックルを取り出す。


「おや、これは随分純度の高い魔鋼でできていますね」


そう言いながら、流石は一流の商人、すぐに魔鋼で有ることを見ぬいた。


「これは、どのくらいの価値がありますか?」


「ルキノ様、これを何処で手に入れたのかはわかりませんが、総魔鋼製のこういった武器ですと、随分と価値があります。金と同等か、これほどの純度となればそれ以上の価値になると思われますので、もし私が買い取るならば、金貨200枚程度にはなりましょう」


「け、結構な金額になりますね」


やはり、インフレが起きかねないな。


「ちなみに、これが元は緑魔鋼でしたと言ったら?」


「・・・おそらく本当なのだろうと言う前提でお話しますと、それは人には話さないほうが良いでしょう」


マーベリックは、表情も固くしてそう言ってきた。


「私はあくまで商人ですので、商売の種はいつでも探しております。ですが、それは技術であったり、特産品であったり、そういった商品を取り扱っております。確かに、元値がタダ同然、むしろ引き取れば喜ばれるような素材を、価値あるものに変えることができるのであれば、技術としては素晴らしいですが、個人単独でしか成し得ないのでしたら、それは、商品とはなりません。むしろ、そういった能力を持った方は危険が迫りましょう」


と、


「ちなみに、好奇心からお聞きしますが、どういった経緯で緑魔鋼がこれほどの純魔鋼に?」


オレは、先日の実験の話をマーベリックに語った。


「おや、ではあの豪雷は、ルキノ様の仕業でしたか!」


そう言うと


「私はてっきり、塾の方向からでしたので、また、マーリン様が何か仕出かしたのだと思っておりました」


「ちょっと、なんで私がやったことになるのよ!!」


「ですが、街の皆さんはそうお思いですよ」


「ルキノくん、裏山での練習、禁止ね」


「あう・・・」


それを微笑みながら見ていたマーベリックが、ポンと手を打つ。


「でしたらルキノ様、当商会の商品開発部門の研究室を一室ご提供しましょう」


「え?部屋ですか?」


「そうでございますな。地下室なのですが、各種耐魔法効果の有る壁で覆ってございますので、そこそこの魔法ならば研究されるのには丁度良いかと思われますが」


「ありがたいご提案なのですが・・・」


「費用などは気にされなくても大丈夫です。如何ですか?」


「ルキノくん、マーベリックはこんな風だけど、信用はできるわよ?」


「こんな風とは・・いささか・・・」


「あ、ありがとうございます。ですが、しばらくは外で練習してきます」


「それは何故?」


「各種耐魔法効果の壁と言われましたが、おそらく、私の魔法は防ぎきれない気がして・・・」


「なるほど、確かにルキノ様の魔法は少々毛色が違うようですので、そうかもしれませんな」


ということで、マーベリック商会の保有する鉱山の廃坑を借り受けられることに成った。位置的には街から森の方に向かった途中の鉱山・・・それって、前に緑魔鋼を見に行った鉱山だな・・・まあ、正式に借り受けられる事になったのだから、良しとしよう。適当に中身も弄くって良いそうなので、錬金術を駆使して、いろいろ作れそうだ。秘密基地みたいで楽しいな。そんなことを考えながら、そもそも、狙われているかもしれないことを、マーベリックに伝えていないことに気がついた。


「校長、例の襲撃の件はマーベリックさんには・・・」


「あ、そうね、伝えてなかったわ」


そう言うと、ポンと手を打ってマーベリックに向き直った。


「マーベリック、あなた今誰かに狙われてるとか心当たりは無い?」


「マーリン様、心当たりなど無数に御座いますので、全く分かりません」


いや、それはそれでどうかと思うが・・・


「マーベリックさん、例えば飛竜の部隊を使って街を襲うような規模を持った集団ならば、心当たりは?」


「ほう・・・」


そう言うと、目を細めて


「そういうことでしたら、最近王都の方で何やら慌ただしい連中が居るような話を聞きますね」


「王都で?」


マーリンが尋ねる。


「はい、表沙汰にはなっていませんが、何やら王都の一部の貴族連中の領地で、魔物や魔族を取り込んだ軍勢を組織している連中が居るという噂は聞いたことが御座いますが、そんな話はそれこそ100年も前から噂にはなっておりますので、真実だと思っている方のほうが少ないかと・・・」


「あくまでうわさ話だと」


「その域は出ませんが、私はそういった噂の中にこそ、真実が隠れていると考えております。ただ、王都の近くとなると、魔物たちの食事にも事欠くと思われますので、実際には辺境地区にそういった拠点があると睨んで居るのですが」


そう言われて、森の檻の中に残してきた男たちを思い出す。そう、思い出した。つまり忘れていた・・・

まあ、緑魔鋼のそれなりに大きな檻に閉じ込めてきたので、出られない代わりに、危なくもないはずで、なんとかなるとは思うのだが、ちょっと心配ではある。だが、いまのマーベリックの話と、あの集団が結びつかないはずはない。


「校長、マーベリックさん、実は折り入ってご相談がありまして・・・」


と、昼間の出来事をかいつまんで話して聞かせた。


「ちょっと待ちなさいルキノくん。あなた、なに一人で危ないことしてるのよ!!」


そう言ってマーリンに怒られかけたが、


「お小言は後ですね。ルキノくん、その連中が連れていたのは、間違えなくサイクロプスでしたか?」


と、真剣な顔で聞いてくる。


「はい、一つ目の巨人が10体ほど居たと思います。あと、大きな狼みたいなのと、ゴブリンやコボルトの集団が居ました」


「それを、一人で・・・」


「え、ええ、まあ。」


「あなたを敵にしなくてよかったということですね」


微笑みながらマーベリックがそう言った。


「そして、あなたの言った魔物の構成が間違えないのなら、既に指示を受けた魔物を連れて居た軍勢ということになります。その能力が現代まで続いているとすれば、それは現王家に連なる者にのみ顕現するスキル。EXテイムを持った人間が背後に居ることを意味します。つまりラインバック王家に関係する事態であると予測されますね」


こともなげにそう言った。


「王家の血筋にテイマーが・・・」


「ご存じなかったですか?先の大戦の折も、我々の軍勢とは全く別に、人間族に対して攻撃をしていた魔物の軍勢が存在していましたが、それは、今の王家、ラインバック軍の裏の軍勢でした」


「そうなの?!初耳なんだけど」


「まあ、あまり表立って話せる内容ではありませんからね」


「でも、モンスターテイマー自体は他にも居るわよね」


「ですが、サイクロプスクラスの魔獣を10体同時に使役するとなると、並のテイミングでは不可能です。通常のテイムの能力は、1体からせいぜい5体まで、それ以上に同時に指示を出せるとすれば、EXテイムのスキルが必要です。それは、ラインバックの血筋を継ぐものにしか顕現しません」


「ということは、今回の事態はやはり王家に絡む問題ということか・・・」


オレが結論付けると。


「ですが、それがどの派閥に属するものなのか、見極める必要が御座います」


と、マーベリックが言う。


「私も狙われているかもしれないということをお聞きしましたが、正直言って、私がいなくなれば良いと思っているものはそれこそ、山程おりますので、全く想像がつきませんが、シュルツ王子を狙うものは逆に少数であると考えられます」


と、マーベリックが解説をする。


「第一王子パウロ様を旗頭にしている、パウロ派も王弟カイン様を頂いているカイン派も、いずれも第二王子であるシュルツ王子に寄って、表立っての対立抗争は封じられています。過激派がそれを嫌ってシュルツ王子を狙ったとも考えられますが、どちらも、今の段階でシュルツ王子が居なくなるのは、パワーバランスの関係で嫌うはずです」


「そうなんですか?」


オレが疑問を挟むと


「はい、今の段階でシュルツ王子という緩衝材がなくなれば、どちらの派閥も共倒れになる可能性が高いのです。まして、襲撃などしてシュルツ王子に返り討ちにあった場合、もしシュルツ王子が王位継承に名乗りを上げれば、おそらく、シュルツ王子が王位に就く可能性が一番高くなります」


「そうなんですか?」


同じような質問をしてしまう。


「シュルツ王子は国民からの人望も最も厚く、いち早く継承する意志が無いと表明されたので事なきを得ましたが、現王を廃嫡してシュルツ様を王にするという過激派も存在していました」


なるほど、シュルツ王子の垣間見せた性格からして、王などは煩わしいと感じているのだろう。それに、人間関係や世俗に対して敏感なところもあるようで、いち早くそういった芽を摘んだのであろう。


「というわけで、今シュルツ王子を暗殺しても、利益を得る派閥が見えてこないのです。そうなると、全く別な勢力が王国内に居るということになりますな」


マーベリックの解説を聞きながら、琴ちゃんにも解析をさせたが、こういった世俗の思惑には相変わらず疎いようで、解答不能と返ってきた。


「シュルツ王子もこの街に来ているのですか?」


マーベリックが当然の質問をする。


「はい、というよりも、お二人が返ってくる前まで、この塾に来ていました」


「なんと!こちらには王子も出入りしているのですか?!」


「出入りしているというよりも、ここの卒業生よ」


マーリンが事も無げに言った。

そういえば、詐欺女がどうのと言っていたのが気になるが・・・


「校長、王子がその・・・校長のことを詐欺師呼ばわりしていましたが・・・」


「あいつまだそんなこと言ってるの?!」


マーリンは呆れたようにそう言って、


「勝手に勘違いしたんだから、私の責任じゃないって、何度も教えこんだのに」


教えこんだという言葉に、何かちょっとした悪意を感じたが、まあ置いとくとして。


「勘違いというと、どのような感じで」


「私の本当の年を知らないのに、お嫁さんになれとか言われたから、年齢が違いすぎるって言ってたんだけど、全然いうこと聞かなくて、仕方ないから、本当の年を教えたら、詐欺だって・・・」


うむ、確かに今のマーリンを見ても年齢が200歳を超えているとはとても思えない。肌ツヤも良いし、スタイルも・・・そこまで考えて、あらぬ妄想に思考が飛びそうになったので慌てて中断する。


「大体、ルキノくんだって、人の裸見といて服を着ろとか偉そうに言ってたけど、あなたのお祖母ちゃんよりよっぽど年寄りなのよ」


「いや、視覚的には全くそうは感じないので、是非やめていただきたいです」


それだけは本心から、若干残念な気はするが、現実に道に迷っているものが複数いる以上、自重していただきたい。


「もう、何度も言ってるけど、私は誰かと添い遂げる気は無いのよ」


それは初耳だったが、そうなのか?


「200年以上も生きれば恋もしたわ、でも、みんな私より先に死んでしまうの。大切に思えば思うほど、辛いじゃない・・・」


なるほど、それは寿命の違う種族間では、そういった問題も起きるのだろう。


”ちなみに、エルフの寿命は300年から500年。ハイエルフともなれば800年を超えるものも居ます。ハーフエルフでも、ほぼ、エルフ並の寿命であると、統計では出ています”


と琴ちゃんからのインフォメーション。


「まあ、それは置いておいて、今は実際に王子を狙うものが居るらしいということで、何らかの対策を考えたいのですが、西の森の集団の件もありますので、一度様子を見て来たいと思います」


オレはそう言うと、これからの対策として、魔素感知レーダーを使える分体を生み出して、王子の周辺を警戒しつつ、一度森の連中を見に行くことにした。日もすっかり落ちて夜半の時間では有るが、転移を使えばすぐに様子は見てこられる。


「では、そのように致しますので、よろしくお願いします」


「言うまでも無いけど、無理はしないで、気をつけてね」


「行ってらっしゃいませ。私は念の為、しばらくこちらに逗留させていただきます」


マーリンとマーベリックに挨拶を済ますと、オレは自分の部屋に戻り、分体を作るとそのまま、森に転移した。





ルキノくんは森の集団の事を忘れていたようですが、私も忘れてました(笑)

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