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コブシの魔術師  作者: お目汚し
33/65

王子の話から商人へ

しばらく開いてしまいました

まだ、エターナってはいません!!

「・・・・でよ、俺はそいつらをまとめて、魔法でぶっ飛ばしたってわけよ!」


時刻は夕刻を過ぎ、そろそろ夕食の支度を塾生たちが始めている中、すっかり皆に馴染んだ様子で、シュルツ王子が冒険者シュタインとしての武勇伝を皆に聞かせている。

実際に、ダンジョンに行ったことは無いが、前世のゲームの知識で、ダンジョンがどういうものか、何となく想像はつくが、この世界のダンジョンは、魔素溜まりになりやすく、どうやら、地属性のより強くなった魔素が、結合分裂する内に、迷宮が作り上げられるのが、通常の成り立ちであるらしい。

この世界では、地震と言うものがない。海という概念はなく、森が人間界と外の世界を分断している。地殻の変動が無ため、地形は属性が強く働く魔素の影響をうけて、山岳や洞窟を創りだすということらしい。もちろん、川が削りとった地形というものも存在しているので、そういったところは、前世の記憶も役にはたつ。


魔王たちが跋扈した頃には、それらの自然発生的なダンジョンとは別にダンジョンメーカーなる魔物が居て、そいつらが創った迷宮に拠点を構えて居たらしい。今もその廃坑に、新たな魔物が住み着いていたり、生まれていたりして、現代のダンジョンが成り立っている。


そういったダンジョンの中には、流石に魔獣クラスは滅多に居ないが、クラスの高い魔物や、ユニーク個体の魔物が住み着いていることも多く、そういった魔物から取れる素材や、魔素溜まりには魔鋼が多く生み出されるため、それらを求めて、冒険者達が潜っていく。運が良ければ、200年前の大戦の頃のマジックアイテムや、武器、防具が手に入ることも有り、一攫千金を狙っている冒険者も多くいる。が、実際にその恩恵に預かれるものは、極一握りである。


「その時に手に入れたのが、この指輪ってわけだ」


そう言って、冒険者シュタインは、左手の中指にはめた指輪を皆に見せた。


見た目は、ルビーのように紅い宝石がついた、伏せこみの指輪で、何やらうっすら文様が刻まれているのがみてとれる。こっそり、鑑定スキルで覗いてみると、MPブーストの指輪(炎)と言うものだった。どうやら、火属性の魔法を発動するときに、自分のMP消費無しで、MPブーストがある程度かけられるようだ。倍率が5程度では有るが、魔法の攻撃力が掛け算方式であることを考えると、5倍は結構でかいな。


年少組の中でも、ひときわ好奇心の強い子が、シュタインに何か見せて欲しいとねだっている。


先程の立ち合いで、シュタインは魔法をほとんど使っていなかったが、実は、彼は魔法使いとして方が優秀で、剣術はそれほど得意では無いらしい。指輪を見た時に、それとなくレベルなども見たが、




種族:人間

名前:シュルツ・ラインバック

性別:男

職業:第二王子

称号:剣術使い 中級魔法使い 王家の調停人 冒険者     


レベル:55

HP:560

MP:480


力(攻撃力):289

頑丈(防御力):308

体力(抵抗力):295

精神力(魔法抵抗力):332


スキル:剣術Lv25 剣技Lv18(刺突系・切断系・打撃系・打ち払い)

    火魔法Lv35 風魔法Lv32 宮廷作法 王族の威光 交渉術

    帝王学 




という感じで、確かに魔法のほうが得意そうであった。だが、技の切れはかなりのものであったし、レベル以上の強さを感じたのだが・・・


そう思っていると、シュタインは年少組の男の子の目の前で、ファイア・ボールを3つ生み出すと、それにブーストをかけて、バスケットボール位の大きさまで拡張して、お手玉を始めた。

何気なくやっているが、ファイヤ・ボールの魔素定着が非常に安定していて、生み出されてから、ほとんど威力を弱めること無く、存在し続けている。普通は、そんなに簡単にできるものではない。だが、そんなことにはお構い無く、みんな目を輝かせてはしゃいでいる。


はしゃいでいるといえば、女の子たちは、立ち合いの時は恐怖の目でシュタインを見ていたが、今は完全に王子様を見る目で見ている。まさか、本当の王子様だとは知らないだろうが、いずれにしても、シュタインには、いや、シュルツ王子には花があった。人が集まりたくなる雰囲気というか、カリスマと言う言葉が一番しっくり来ると思う。


ひとしきり、遊んでいるうちに、夕食の時間が来た。


皆が、シュタインに一緒に食べようと誘っているが、彼は頑なに断っていた。


「俺、こんなに遅くなると思ってなかったから、宿のおばちゃんに晩飯頼んで来ちゃったんだ、わりい」


そう言うと、そろそろ帰ると言って、席を立った。


「ルキノー!!」


すでに気楽に話しかけられる仲になっているようだ。


「見送ってくれ。一人じゃ寂しいから」


そう言うと、返事も聞かずに、出口にさっさと向かう。年少組と熱い視線を送る女子組に笑いかけると、


「また来るぜ!」


と声をかけ、見送りは不要だと背中で語って出口に消えた・・・


と思いきや


「おい、ルキノ、お前は来いよ」


そう言って手招きしてくる。

悪い人ではなさそうだが、何故、オレだけ扱いが違うのか?年少組の羨望の眼差しと、女子組の冷たい視線を浴びながら、シュタイン氏のお見送りに向かう。


「悪いな、お前さんに頼みたいことが有ってよ」


玄関に向かいながら、そう話しかけてきた。


「他でもない、さっきの小僧達なんだけど、あいつらの様子、気にかけてやってくれねえか?」


「どういうことですか?」


「あいつら、結構使えるようになるはずだ」


「使えるようになる?」


「冒険者なり、剣士としてだよ。あの、ミツクーニってのは、ミトンとこの息子だろ?」


先程の話の展開から見抜いているとは思っていたが・・・


「ミトン領にドラ息子が居るって聞いていた。だが、そいつは王立学校で孤立して、ここに来たって聞いたことが有ってな。チョットからかってみたんだが、あいつは昔の俺によく似てる・・・」


そう言うと、目を細めて、人好きする笑みを浮かべると、


「おもしれーって、思ってよ。あいつは、ここで変われば、良い領主になるはずだ」


そう言って、笑みをさらに深くする。


「ま、なんだかんだ言っても、国や領地ってのはそこに住んでる人間が基本だ。権力や金なんてのは、付いて来るもんさ」


ニヤニヤ笑いながら、早足で歩いて来たので、すぐに玄関にたどり着く。


「それとな、あの時、何を感じたのか知らないが、あいつの友達だと迷わずに言い切りやがったお前が、あの中で一番おもしれー」


クルッと振り向くと、


「その黒髪に黒目、伝説の英雄にそっくりだぜ」


そう言って俺の頭をガシガシ撫でると、


「今日のところは俺は帰るが、あの詐欺女が帰ってきたら、俺が来たことを伝えてくれ」


そう言って、ローブの裾を閃かせながら颯爽と校門を出て行った。

実に絵になる男だった。






「ん?」


シュルツ王子が曲がり角を曲がって見えなくなったのと、ほぼ同時に、手前の角から紫色の仕立ての良い服を着た、金持ちそうな男が現れた。


男はゆったりとした足取りだが、隙のない動きでとても優美に歩いてくる。

だが、問題はその男が手を引くようにして連れてくる女のほうだ。


「マーリン校長!!」


「あ、ルキノくん。どうしたの?」


どうしたの?じゃないよ!!あんた、王子探しに行ったんだろ?!なんで訳の分からない伊達男と手を繋いで帰ってきたんだ?!しかも、たった今、王子が帰っていったぞ!!


と、突っ込みどころは満載であったが・・・


「おや、これはお初にお目にかかります。黒髪に黒目とは、なんとも尊いお姿をしていらっしゃる」


伊達男はそう言うと、オレに向かって優雅に一礼した。


「私は、マーベリック商会の主を務めております。マーベリックと申します。どうぞ、ご贔屓に」


「え?!」


「さっきそこの路地でばったり会ってね、一緒にバジリスク亭まで行ったんだが、あいつ留守で、仕方がないから、帰ることになったんだが、夜の女性の一人歩きは危ないからと・・・」


「女性をエスコートするのは、紳士の喜び、特に美女のエスコートとなれば、夢幻の喜びでございます」


悪びれもせず、そんなキザったらしい言葉を口走ったが、不思議なほど嫌味がない。


「まあ、助かったわ。送ってくれてありがとう。良かったらお食事でもいかが?」


マーリンがそう誘うと、


「これはこれは、社交辞令と受け取るにはあまりにも甘美なお誘い。甘えてしまってもよろしいのですか?」


これは、来るってことなのか?


「貴方に買って頂いた、アップルパイのお礼を皆も言いたいでしょうから、是非寄って行って」


そう言うと、マーベリックと共に玄関に向かって歩き始める。

仕方なくオレも後を追うと


「ルキノ様と言われましたか?その髪や眼の色は生まれつきで?」


と、聞いて来る。


「はい、生まれつきです」


「そうですか」


「先程も別な方に、髪と眼のことを言われましたが、以前はむしろよくない言われ方をしていたのですが?」


気になって聞いてみる。


「そうですね。世間では、そのようですが、一部の人々には、その髪や眼の色は特別な意味があるようですよ」


そう言って、一瞬背筋が凍りそうな、凄絶な笑みを浮かべる。

驚いて二度見するが、見間違えだったのか穏やかに微笑んでいた。


「どうかしましたか?」


「あ、いえ」


そんな会話をしている内に、食堂の大広間に着いた。


「皆さん。今日はおみやげを頂きました。マーベリックさんにお礼を言いましょう」


マーリンがそう言うと、


「「「ありがとうございました!!」」」


と、大きな声で唱和した。


「いえいえ、甘いものには目が無いもので、みなさまのお口に合えば良いのですが」


そう言うと、マーリンに勧められるまま、テーブルに付いた。


オレも自分の席に着くと、今日の夕食にありついた。


食事の後に、一人一切れ、結構大きめなアップルパイが振る舞われたが、絶品といえる旨さだった。



食事の後、マーリンの部屋を訪問する。


「どうしたの?」


「いや、校長。今日はマーベリックさんを探しに行っていたのですか?」


「あ、い、いや、シュルツを探しに行ったんだけど、居なくてね」


「そのシュルツ王子ですが、ここに来ましたよ」


「ええー!?あいつ、いつも自分勝手に動きまわって!!」


マーリンは眉間にしわを寄せて、怒りだした。


「今日のところは帰ったようですが、また、来るって行ってました」


そう言うと、今日の出来事を一通り校長に説明した。


「え?ミツクーニくんとスケイルくんを?!」


説明が終わった頃、ふと気になって聞いてみる。


「で、マーベリックさんは何処に行かれたのですか?」


「ああ、今日は塾に泊まってもらうようにしたから、護衛は大丈夫だと思うけど、さっき、仕事が何とか・・・って出かけていったわ」


「ええ!?護衛つけなきゃダメじゃないですか!!」


商人ということだったし、決して戦う感じではなかったので、慌てて後を追おうとして


「ああ、大丈夫よ。あの人に怪我をさせられるような人間は、滅多に居ないから」


そう言って、仕事の続きをするのか、椅子に座って書き仕事を始めてしまった。


「ルキノくん。もし可能なら、シュルツの方見張っておいて。あいつのほうが危ないわ」


そう言って、書類に走らせるペンをくるっと回して、オレの方に突きつけた。


「君の能力は未知数だけど、ミツクーニくんを抑えたり、新しい魔法を創ったり、非凡なものが有るわ。たとえルネッサ様では無いとしても、貴方は世界を変えることができるかもしれない」


真剣な眼差しで見据え、そう言った。


「私たちの手伝いをしてくれるならそれに越したことはないわ。でも、もし君の考えでそれが間違っていると感じた時は、全力で止めてちょうだい。ハンスもガリクソンも、もちろん私も、君が私たちに十分抵抗できる力をつけてもらえるように指導するつもりよ。その修業の一環だと思って、シュルツ王子の護衛をお願いしたいの。できるわね?」


最後に淡い微笑みを含んだ表情で、そう言うと、こちらの返答を待つように、そのまま見つめてくる。


「分かりました、が、それは、命令ですか?」


「どう取られても構わないわ。ただ、校長が生徒に命令する権限は無いと思っています。だから、これは私からの”お願い”ね、あの子を王子様を助けてあげて、必要があるならば」


「命令なら拒否も有りですが、お願いは聞いてあげないと、男として・・・ね」


オレがそう言うと、とたんに吹き出しながら。


「そういうところ、ハンスにそっくりね。やっぱり君たち親子なのね」


そう言って笑った。


「では、早速シュルツ王子の護衛に向かいますが、陰ながら守るほうが良いのでしょうか?」


「それは任せるわ。でも、多分彼は君のこと気にいると思うから、友達として付き合うのもいいと思うわよ」


含みをもたせた顔で、そう言ってきた。


「わかりました。さっき別れたばかりなので、最初は外から護衛します」


オレはそう言うと、校長室を後にした。

そのまま、一度自室に戻ると、最近便利に使えるようになってきた、魔素感知の探査領域を、迷子のバジリスク亭まで伸ばそうとして・・・それに気がついた。


以前、錬金術で構成を変えた塾の周りの緑魔鋼の柵を、破壊しようとしている存在に。


案の定、例の3人組だった。何か、ヤスリ?のような道具で柵を削っているようだが、すぐに道具は使い物にならなく成ったようだ。それはそうだろう、この辺りで一番加工しにくい緑魔鋼の柵でつなぎ目も無い。試しては居ないが、これを破壊や切断するのは、並大抵のことでは無いはずだ。


と、その3人組に近づく者が居る。名前を確認すると・・・マーベリック!!


あの人、仕事がとか言ってたはずだが、何しにそんなところに・・・


いずれにしても、あの3人組は、このところチンピラ感が半端ないが、戦闘力だけで考えればそれなりに有るはずなので心配である。


マーベリックが3人組に近づいているのは、ご丁寧に塾の敷地の外側、路地の方からゆったりとした歩き方で近づいていく。それを確認すると、マーベリックのさらに後ろ側を探索し、誰も居ないことを確認すると、一気に転移した。


「これはこれは、精が出ますね、こんな夜更けに解体作業ですか?」


転移した後、そのままマーベリックを追って、追いついたと思った途端に、マーベリックは3人組に声をかけた。慌てて、物陰に隠れて様子を伺う。


「うお!あ、何ださっきの商人じゃねえか」


「なんで、こんなとこに居るんだよ!」


「さっきはどうも」


路地の両隣の建物は倉庫なのか、全く人の気配がしない。先程の魔素感知でも、この近所で一番近くに人がいるのは、塾の建物なので、この近隣範囲、およそ半径300mには、俺たち以外は誰もいない事になる。

知ってか知らずか、声を荒げる3人組。約一名は、荒げてはいないが、状況が把握できていないようだ。


「お食事をごちそうになりまして、腹ごなしに散歩に出かけたのですが、道に迷ってしまいましてね」


後ろ姿なのでマーベリックがどんな顔をしているのか、全く分からないが、恐怖や焦りと言った気配の全く感じられない、悠然とした声で応対している。


「なんだよ、道に迷ったのか。ここは行き止まりだぜ、元来た道を戻りな」


いつも3人組の中央に居た、おそらく3人の中では首領格であろう男が、シッシと手を振りながらそう言った。


「おやおや、連れないことを申されますな。せっかくお仕事中のお客様にお会いできたのです。販売させていただいた商品のレビューなどいただければ嬉しいのですが」


マーベリックは悪びれた風もなく、後ろからでも営業スマイル全開であろうことが解る声で、話し続ける。


「このような人も居ない場所で、私のお世話になっているお客様の学校の敷地に面する柵を、解体されているお客様に、お聞きしたいのですが・・・」


突然、周囲の温度が数度一気に下がったように、背筋が震えた。

邪魔そうにマーベリックを追い払おうとしていた3人組も、ビクッと身を縮めたのが見えた。


「先程からあなた方が解体しようとしていらっしゃる柵は、本当にご自宅の柵で間違えないのですね」


純粋な恐怖、とでも表現するのだろうか。マーベリックの何ら変わらない調子で口にした言葉に、思わず反論しようと振り返った男たちが、振り返った順に凍りついたような表情で固まってしまった。


「お、お前に売りつけられたこのヤスリ、何の役にも立たなかったぞ!!」


それでも、虚勢を張って、リーダー格の男がかろうじて、反論らしきものを口にしながら、マーベリックから買ったというヤスリを投げつけてきた。


「こちらの商品は、お客様の申されたような鋼鉄製の柵であれば、あっという間に切断できてしまうでしょう。むしろ、普通の純魔鋼でもなければ、通常の金属ならほとんど切断可能です。少々時間はかかるかもしれませんが」


そう言いながら、投げつけられたヤスリを片手で優雅に受け取ると、その刃先を触って確認する。


「ほほう、お客様のご自宅の柵を解体されるというお話でしたが、この柵は何で出来ているのですかな?」


別なことに興味を持ったと言わんばかりに、先程までの冷気を纏ったような気配をゆるめ、逆に熱気のようなものを感じさせながら、今度は研究対象に興味を持った学者の如く、塾を取り巻く柵に注目し始めた。


「お客様の柵が何で出来ているか、是非お聞かせいただきたい。それが分かれば、私がお売りした商品を侮蔑したことと、嘘を言って購入した事を許しましょう。さあ、その柵は何で出来ているのですか?」


こちらからでは表情は分からないが、熱を帯びた学徒のごとく、一歩一歩、歩み寄るマーベリックに対して、柵に阻まれながらも、ジリジリと後ずさる3人組の表情は、見るも哀れな恐怖に引きつっている。

とても、荒事に慣れた男達には見えなかった。


「お分かりになりませんか?お客様・・・でしたらせめて、このヤスリの本当の性能を、その体で体験していただきませんと・・・」


そう言うと、先程投げつけられて受け取ったヤスリを、右手の人差指と中指で軽く挟むように持ち、一番手前の男が手にしていた大型のペンチだかニッパーのような工具に軽く触れさせる。


ジャリ!!


ボト・・・


金属的な音に続いて、少し重めの音がした。


見ると、大型のペンチっぽい工具が、ヤスリが触れたところから切断され、半分ほどの長さになっていた。


「やはり、無理な使い方をされたせいで、少々切削能力が落ちてしまっていますね。まあ、あなた方を解体するには困りませんが・・・」


そう言いながら、尚もにじり寄る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


男たちは、既に恐怖に囚われたのか、柵に背中を押し付け、声もなくただただ怯えている。

マーベリック、どんな顔してるんだろ・・・


「あの、マーベリックさん、その辺で」


思わずオレは立ち上がり、声をかけていた。


「ルキノさん、そう言われましても、この小悪党どもは曲がりなりにも私のお客様でございます。無体は致しませんが、信用第一の商人に嘘を言うなどと、言語道断。商人の法に則り、すみやかに処分したいと考えておりましたが・・・」


そう言って振り返り弁明を始めるマーベリック、その弁明を遮って


「やっぱり気がついてましたね」


ん?という風に一度固まった後。


「おお、これはルキノ様ではございませんか!!」


「いや、もう遅いです」


オレの登場に、驚きよりも助かったという表情を浮かべる3悪党たち、いや、悪人に感謝されるって・・・


「なんとなく、途中から悪乗りしてる気がしたんですが、オレが止めること前提ですね」


「いえいえ、そんなつもりはございませんが、この方達はもしかしたら幸運だったのかもしれませんね」


人の良い笑顔を浮かべ、先程までどんな顔をしていたのか、まったくわからないが、そう言った。


「ただ、先程も申しましたが、商人を騙した罪は重いです。私が扱う商品は、全て使い途をお聞きして居ります。用法を間違うと、大変なことになるものも多いもので」


そう言って、ちらっと3悪人を見ると、即座に3人組は固まってしまう。


「たとえ、子供であろうとも、罰を受けていただいています。商人に嘘を言われた場合には」


子供でも?どういうことだ・・・


「もっとも、今回は、このジャポニカ特製のヤスリでも切削できない柵なんていう、見たこともない物を発見させていただきましたので、この材質が分かれば、免罪にしようかと思ったのですが・・・」


そう言って、こちらに眼を向ける。


「こんなお客様たちを救ってもなんの得にもなりませんが、もし、ご存知なら教えていただけませんか?」


と、なにか確信めいたモノを込めて聞いてきた。


「分かりました。教えますから、荒事はこの辺で」


そう言うと、3人組に声をかける。


「というわけで、ここはなんとかしときますから、あなたたちは、もうここには来ないでください」


はっと、我に返ったように、慌てて立ち上がると、いろいろ持ち込んできた工具類をそのままに、ドタバタと路地を逃げていった。


「あの、先に逃がしてしまっては、私の知的好奇心が満たされるか確信が・・・」


マーベリックが不満の声を上げる。


「教えるのは、マーベリックさんだけですからね。あいつらに聞かれたくないので」


そう言って、彼らが持ち込んできた工具の中から、大きめのヤスリを取り出すと、柵を少し削った。


「ジャポニカのヤスリでも削れなかったのですから、そんなことをしても」


マーベリックに、今しがた削った柵を見せた。表面の粗鉄を広めに削って、中身が見えるようにしたのだ。


「何だか分かりますか?」


「ほほう、表面を粗鉄で覆って有るのですか・・・むむ?これは魔鋼ですか?見たことは有る気がするのですが・・・」


「さすが大商人ですね。それは、緑魔鋼です」


「なんと!!!」


マーベリックは驚くと、さらに良く見ようと柵に近づき、さらには柵の接合部や飾りの部分も念入りに鑑定している。一通り見終わると、興奮冷めやらぬ様子で振り返った。


「何ということでしょう、緑魔鋼を加工するということのみならず、一体化して作っている。これだけの敷地を取り巻くような柵を、一つの部品で組み立てる。そんなことが可能な技術は存在しない。ということは、これは魔法で作られたと推測しますが、そんな方法が全く思い当たりません。これは、マーリン様がされたことでしょうか?」


一息にそこまで話すと、居ても立ってもいられないのか、塾に戻ろうとしている。早速マーリンから聞き出そうと言うのであろう。だが、それは無駄である。だって、やったのオレだし・・・むしろマーリンのほうが驚くだろう。まあ、それを見るのも一興か。


「ルキノ殿、私は急ぎマーリン様のお話を聞きに行きたいと思いますが、夜の一人歩きは危険であるゆえ、ルキノ殿一人を残すわけにも参りません。駆け足になりますが、ご一緒に戻りましょう!!」


そういうが早いか、慌ててかけ出していく。あくまで優雅に、美しく、それでいて・・・とんでもない速さで。うわ~と思いながら、オレも遅れて駆け出す。正直なところ、通常では追いつけるような速さではなかった。しかたがないので、移動速度を強化するために、パンチスキルを起動する。すぐに、軽いジョギングでもしている感覚で、マーベリックの後ろに追いつく。見ている人がいれば、驚くであろう速度で、あっという間に路地を踏破し、そのまま校門に飛び込んだ。そのまま構内に入るのかと思ったが、校門の横の柵に眼を止めて、舐めるように確認した後、再び玄関に突進した。


「あ、ルキノ殿、君もできれば一緒にマーリン校長のところに行っていただけませんか?」


オレが付いてきていることに驚きもせず、マーベリックはそう言った。


「あ、ええ、構いませんよ」


もとより、追求にあったマーリンがどんな言い訳をするのかも楽しみの一つだったので、むしろ大歓迎だ。今日一日、王子の相手をさせられたのだし、それくらいの意趣返しはしても許されるだろう。


「助かりました。とぼけられても困るので」


そう言うと、颯爽と校長室に向かって歩き出す。

そして、校長室のドアの前に経つと、軽くドアを3回ノックした。


「どうぞ」


部屋に居たらしく、マーリンの声がする。


「夜分失礼致します。マーベリックでございます」


そう言うと、ドアを開き、オレを伴って校長室に入った。


「あら?ルキノくんも一緒なの?」


という声には、お前、王子はどうした!!

という叱責が混ざっている気がした。正直なところ、忘れてた・・・

慌てて、魔素認識のレーダーでシュルツ王子の居場所を探ると、無事、宿の酒場に居ることが確認できた。

目線で、大丈夫であることを伝えたが、全く伝わらない。まあ、そうだわな・・・


「マーリン様、単刀直入に、本日はお聞きしたいことが有りましてこちらに参りました」


「あら、何でしょうか?」


「この塾の建造物に関わることなのですが、こちらは立てられたのは確か・・・」


「ええ、190年ほど前になるわ」


「でしたね、では、外部の柵はその時にできたもので?」


「ああ、流石に柵はそんなに持たなかったから、今あるものは、一昨年前に作り直したのよ」


「おおおおおおおおお!!!!!」


途端にマーベリックが崩れ落ちた。なんだ!!?


「神よ!常は全くあてにならないと疎んじておりましたこと、お詫びいたします」


「どうしたのよ、大げさね」


マーリンが校長というよりも砕けた話し方をしている。校長がこうした話し方をするのは、ハンスたちの前以外ではあまりなかった気がするのだが。そんなことを一瞬考えた。


「マーリン様。是非お伺いしたいのですが、あの柵を制作された制作者がどなたなのか、サクサクとお答えいただきたい。柵なだけに」


と、謎な壊れ方をして校長に問いただす。


「え?製作者まではわからないけど、発注先なら解るわよ」


マーリンは、困惑したようにそう答えた。


「ああ、神よ、やはりあなたは意地悪だ。だが、真理に一歩一歩近づくのも探求者の喜び、では、マーリン様、私めにその発注先をお教えいただけますか?」


恭しく、頭を下げ、騎士の戴冠式の騎士のごとく片膝をついてマーリンの言葉を待つ。


「あなたよ」


「へ?」


気持ち悪いものでも見るようにして、マーリンが言った


「なに?思った以上に良いものだったから、今更値上げしたいとかじゃないわよね?」


「ハッハッハ・・・少々取り乱しました」


「本当に今日はどうしたのよ?いつものあなたらしくないわよ?」


「いえいえ、滅相もございません。言われてみれば、そうですね。私が調達した柵でした。ですが、そうなると余計に不可解ですね」


「どういうことよ?」


「マーリン様、いつの間にか、その柵が別なものに取り替えられて居るのですが、お心当たりは・・・?」


「そんな事する人が居るとは思えないけど、あら?そういえば・・・」


オレはギクッとして固まった


「ルキノ君、あなた、先日の騒動の時に柵が壊れていたから直しておいたとか言ってなかった?」


ゴゴゴゴゴ・・・という擬音が付きそうなほど、マーベリックの雰囲気が一変する。


「ほほう・・・そういえば何故あの場所に居合わせたのかも、聞いていませんでしたね・・・校長も知らない、柵の素材を知っていましたし・・・」


ユラッとした動きを見せながら、マーベリックが振り向いた。


ちょっと待て、校長の慌てる姿を期待していたのに、あっさりこっちに回ってきた!!



切るとこ間違えた・・・長すぎる気がします。

疲れたら、スミマセン・・・

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