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コブシの魔術師  作者: お目汚し
31/65

ミツクーニの受難

個人的に重要な回です

大農夫の家から、一気に私塾の自分の部屋に転移する。

途端に、玄関ホールの方から何やら揉めているらしい大声やら怒声が聞こえてくる。

オレの分体も、騒ぎの方に様子を見に行っているらしく、部屋には居ないが、オレが部屋に戻ったことを察知して、部屋に戻ろうとしていた。


そのままで良い、知覚の共有をさせてもらうから、そのまま状況を教えて欲しい。


オレは、思念で分体に伝えた・・・が、そのまま部屋に戻ってきた。

うむ、この辺り(思念通話)はもう少し調整が必要かな?


戻ってきた分体に情報を伝えてもらうが・・・


マーリンは何処に飛び出していったのか、どうやら玄関口で騒いでいるのはシュルツ王子のようだ。

揉めてる相手は、ミツクーニ。助さん格さんも一緒のようだ。格さん、あなたが止めてください。


そう思いながら、玄関に向かう。


「だから、あの詐欺師女は何処に行ったかって聞いてるの?わかる?足りない頭過ぎてそれも分かんない?」


玄関を背に、結構背の高い、赤毛の魔術師らしき格好をした男が、高圧的な態度で声を上げている。

眼の色はオレンジがかったブラウン。嫌味でない程度にイケメンであるが、粗野な雰囲気をまとっていてもどことなく品があるのは、王子だと知っているからなのか・・・


「ええい、無礼にも程がある、先程から聞いておれば、どなたに向かってお声をかけておる!!」


激昴して、声を荒げているのは助さんだ。あら、意外にミツクーニが大人しくしているな。そう思って目を向けると、うわ、真っ青な顔して睨みつけてる・・・怒り心頭って奴だな。


この状況からすると、あの赤毛魔術師がシュルツで、マーリンを訪ねてきたと。で、たまたま出くわしたミツクーニたちと揉めてる。そして、それを眺める野次馬(オレ含む)って構図ね。


状況を把握していると、我慢の限界が来たのか。


「助さん、少し懲らしめてやりなさい!」


「はっ!」


と、ミツクーニの指示に従い、助さんが腰の長剣に手をかけた。

あいつら、いつも武装してるの?塾の中なのに?


「おいおい、チョット待ちな」


いつの間に間合いを詰めたのか、赤毛の魔術師、シュルツが助さんとの間合いを一息に詰めると、長剣の柄を抑えこんで抜刀を止めていた。


「この人数の前で、刃傷沙汰はまずいだろ、それに、俺は冒険者だ。子供相手に怪我をさせるわけにも行かない。どうしてもって言うなら、センパイとして相手になるがな」


そう言いながら、助さんの顔を覗き込むようにして威圧する。

傍から見ているだけでも、結構怖いぞ、この王子・・・


「どうしてもって言うなら、訓練場で相手してやるよ、来い」


そう言うと、勝手知ったる他人の家、という感じで、野次馬たちを軽く掻き分けながら、スタスタと訓練場の方に歩いて行く。

ミツクーニたちに無造作に背中を見せているようだが、ちゃんと、警戒はしているようだ。伊達に冒険者を名乗ってるわけじゃなさそうだ。


ミツクーニ達が売られた喧嘩を買わないワケがない。もっとも、今回はミツクーニ達が売った気がするが、先程の威圧で少し怯んでしまった助さんは、その悔しさも怒りに変えたようで、憤然とした様子でシュルツ王子の後を追う。一歩遅れた形でミツクーニが続き、その後を釈然としない顔をしながら、格さんが追いかける。その後に、野次馬もぞろぞろと続いた。


先程シュルツはセンパイと言っていたが、人生の先輩とか、そういう意味だと思っていたが、勝手知ったるこの感じだと、元塾生なのだろうか?校長もシュルツを知っている風だったし、そうなると、詐欺師女とは校長のことだろうか?

つらつらと考えている内に、訓練場に到着した。

そのまま、中央に仁王立ちになるシュルツ。


「で、お前さっきは真剣を抜こうとしていたが、死ぬ覚悟は有るのか?」


「何?」


「覚悟は有るのかと聞いている」


シュルツは凄味のある睨みを効かせて、助さんに言った。


「討って良いのは、討たれる覚悟がある奴だけだ・・・」


そう言うと、自ら腰に下げたレイピアを音高く引き抜く。


ひと目で業物であると分かるレイピアを、力みもなく片手でぶら下げると、


「俺は見ての通り魔法剣士、しかも魔法よりだ。だがお前は見るからに剣士のようだ、剣で相手をしてやる。俺は殺されても文句は言わん。その気があるなら、お前も真剣で来い」


そう言うと、そのまま構えもせず待つ。しかし、あんたは文句言わなくても、王子を切ったとあれば、助さんの今後はないものと思われるが・・・


「お、おのれぇ、言わせておけば!!」


助さんは完全にシュルツに呑まれているが、それを隠そうとするように、勢い良く剣を抜いた。


「そうこなくっちゃな」


シュルツは、少し表情を和らげて軽くレイピアの切っ先を上げた。


「来い」


「ぬかせ!!」


助さんは、イノシシですか?とでも言うように、まっすぐにシュルツに斬りかかっていく。

止める気無いでしょ。と、ツッコミを入れる間が有ればこそ。


ザク!!


「え?」


全く身動きもしなかったシュルツの右肩口に、助さんの長剣が叩きつけられ、みるみるうちに、シュルツのローブに血がにじむ。


「おいおい、この程度でビビったのか?」


切られたシュルツは、全く意にも解さないように、助さんの長剣をレイピアで払うと、そのまま身を引いて、間合いを取る。


「ハンデをやったのさ。これくらいでなければ、対等じゃないだろ?」


そう言って獰猛な顔で助さんを見た。


「今度は、こっちから行くぜ!!」


そう言うと、一瞬で姿が掻き消えて、次の瞬間、助さんの背後に姿を表した。


「ぎゃああああぁぁぁ!!!!」


突然助さんが悲鳴を上げる。


そのまま膝をつき、前のめりに倒れこむが、手をつくこともせず、顔面から訓練場の床に倒れた。

いや、手をつかなかったんじゃない、助さんの両腕は、肩口から左右とも半分以上切断されていた。

しかも、両膝の上で靭帯が切断され、腹と胸にも深い裂傷が有り、顔も両頬を浅く切りつけられていた。


一瞬の交差の間に、最低でも8回以上攻撃していることになる。っていうか、実際していた。パンチスキルのおかげか、このくらいの攻防は目で追えるようになっていた。


「討たれる覚悟は有ったんだろ?安心しな死ぬことは無いさ、ただ、死ぬほど痛いのと、これから一生後悔して生きていくんだ。それが、俺に刃を向けた奴への、俺の流儀だ・・・」


シュルツはそう言うと、血糊なんか全くついていないレイピアを2回振ると、そのまま切っ先をこちらに向けてきた。


「で。お前、これからどうする?」


え?オレ?

何にも目立つことしてないし、なんにも喋ってないし。あまつさえ、さっき分体と入れ替わるために、一回野次馬から立ち去ったことに成ってるのに・・・


と、思っていたら。


「待たれよ、そなたの申すこと、至極ごもっとも、されど、我が主君にそなたの相手が務まるとは、とても思えん。さりとて、我が主は頭を下げるということを知り申さぬ。代わりと言ってはかるすぎるかも知れぬが、どうか、我が生命にて、お許し願いたい」


そう言うと、格さんがいきなり座り込んで、切腹の準備を始めた。


あ、オレじゃなくてオレの前のミツクーニに言ってたのね、さっきのシュルツの言葉は。

焦った。いやいや、それでも、格さんが切腹って、それもまずいんじゃないの?


「おめえの命なんてもらっても、どうしようもねえよ。そんなもん要らないから、別なものもらおうか」


シュルツは、めんどくさそうにレイピアで自分の肩を叩きながら、そう提案してきた。切られた肩を叩いたせいで、若干うめいたのはご愛嬌だ。


「なにを、何をすればお許しいただけるのか・・・」


こんな時になんだが、ミツクーニって緊急事態には滅法弱いのね。さっきから、青ざめるばかりで、何も事態の収集に動けてない。全て、格さん任せだ。


「そうだな。そいつの命を助けてやる代わりに、ミトン領をもらおうか。」


「!!!」


ミトン領って、ミツクーニの国元だったか・・・シュルツって、ひと目でミツクーニの出自を見ぬいたってことか・・・


「で、なければ、この中の誰もでいい。俺に一撃入れてみな。そしたら許してやるぜ」


そう言いながら、野次馬だったオレたちにも火の粉を浴びせかける。


「お待ち下さい。流石に、君主の命には変えられないとはいえ、国や友を差し出すわけには参りません。私がお相手したいと思いますが、それでよろしいですか?」


格さんがなおも事態の収集に動く・・・が


「だーめ、お前はあの両手両足一生使いもんにならない、お友達の世話をして来な、流石にそろそろ死ぬぞ」


放り出されている助さんを示しながらそう言うと、


「大体、領主の息子様なんだろ?そんなお前のためなら、命を差し出そうって仲間が、他にも居るだろう?それとも、父親の権威を傘にきて威張ってばかりで、そんな仲間なんて居ないのか?」


そう言って、嘲笑してくる。

シュルツさん・・・正解です!!


ミツクーニは呆然としたように、オレたちの顔を眺める。

当然皆目をそらす。オレもそらす。むしろ後ろを向いて帰りたい気分だ。


「そのほう、以前珍しい菓子をやったではないか」


目の前に居た男の子に、声をかけるが、逃げられる。


「そのほうには、珍しい果物を」


いう端から人が逃げていく。


ミツクーニが向かう先々の塾生たちが、我先にと距離をとる。


「何故、私のために戦おうとしないのだ」


心底わからないとでも言うように、だが、自分が戦ってもどうにもならないことも理解してしまったミツクーニは、途方に暮れた様子で、格さんに問いかける。


「それがお前の人望だよ」


シュルツがあっさりと答えを返す。


「自分の父親の威光を、自分の物だと勘違いして、威張り散らす。今お前が与えたと思っているものだって、お前の父親にもらったものだろう。しかも、それほど大切でもなかったものを、適当に押し付けた。もらったほうは、そんなもん分かるんだよ」


辛辣に、ミツクーニに突きつける。


「いま、ここに、お前にために死んでくれる仲間なんか、居ないんだよ!」


そう、いって嘲笑を深くした。


「いや、拙者は主君のために命を落とすことは、ためらわぬつもりだ」


そう言って格さんが前に出るが、


「だから、あいつ死んじまうぞ。助けに行けって。あと、お前が死ねるのは主君のためで、そいつのためじゃない。任務のためだ。別な人間が主君なら、ミツクーニのために死ぬのか?」


「ど、どうなのじゃカクシン?」


格さんは、つらそうにうつむいてしまった。うむ、それが答えだ。


「そ、そうか・・・すまなんだのぅ」


ミツクーニはそう言うと、全てを諦めたように、シュルツの前に立った。


「国も友の命も賭けられぬ。致し方ない、我が生命では、不足か?」


突然、そんなことを言い出した。おお、こいつ結構、侠気あるじゃん。


シュルツは面白そうな、人の悪い顔をして


「ほう、簡単には殺さないぜ。指を飛ばし、鼻を落とし、端っこから切り刻む。お前が殺してくれと懇願しても殺してやらん。散々に苦しんだ後に、死ぬことになるが、それでも良いんだな?」


「構わぬ。その代わり、友と国には手をだすな」


まるで憑物でも落ちたかのように、静かな表情でそういった。


「そうでもせねば、本当の友達の一人も居なかった、私の生きた価値など無いではないか・・・」


透明な涙が、ミツクーニの頬をつたって落ちた。





「んじゃ、そろそろ・・・・」



「待て。オレが相手になる」


「あ?」


ミツクーニの涙を見た途端、オレの中で何かが弾けた。

実は、シュルツに対して、オレはそれほど嫌悪していなかった。むしろ、好きなタイプかもしれない。

だが、この追い込み方は、いかがなものかと。


「その前に、そこに転がってる友達も、助けていいかな?」


シュルツが頷くのを見ると、そのまま助さんの元へ・・・


運の良いことに、切り裂かれているが欠損は無い。・・・?運が良い?

正直なところ、俺のエクスヒールなら、手がなくったって欠損を補えることは実証済みだ。

だが、このキズは、明らかに癒やすことを前提でつけられた傷だ。


「メガヒール・・・」


オレは、回復魔法を助さんにかけると、気を失っているだけに成った助さんをミツクーニの元へ連れて行く。


「なぜじゃ。何故お前が戦うのじゃ?」


ミツクーニが心底不思議そうに、泣きそうな顔で聞いてきた。


「あ?友達だからだよ。残念ながらな」


オレはそう言うと、シュルツの前に立った。


「お前も回復呪文使えるんだな」


そう言うと、自らの肩に手をあて、魔法でキズを癒やした。

やっぱり。さっきの直せるようにつけたキズと、王子のヒールの腕前、これらを合算して考えると・・・


「よし、これで良い。んじゃ、行こうか」


オレの思考を全く無視して、シュルツがレイピアを構える。


「そっちが来ないなら、こっちから行くぜ。早く武器を構えな」


「スミマセン、この辺で終わりにしませんか?」


「なに?」


オレがいきなり終結を宣言したことで、シュルツが間の抜けた声を出した。


「はじめから、誰も傷つけるつもりはなかったんでしょ?助さんのキズも治る程度のものだったし」


「・・・・」


「ミツクーニの鼻っ柱を叩き折りたかった、そういうことでしょ?」


「・・・・」


オレの言葉に周りの取巻きも聞き入っている。


「なんでかわからないけど、そういうことじゃないんですか?」


「お前、なかなかに賢いな。なんて名前だ」


は!、オレとしたことが!!!


「失礼いたしました。私、マーリン私塾塾生。ルキノと申します。以後、お見知り置きを」


そう言って、分離令・最敬礼で挨拶した。イカン!社会人としての常識が。


「お。おう。俺は冒険者のシュル・・・シュタインだ。そう、シュタイン」


いい間違ったなこいつ


「分かりました。シュル・シュタインダソウ・シュタイン様ですね、魔法剣士の」


「違う違う、シュタインだけで良いって」


生真面目に返してきた。からかわれたとわからないみたいだな。


「おまえ、結構頭いいな。俺の兄貴分にそっくりだぜ」


そう言うと、レイピアを鞘に納めた。


「実は、俺もここの元塾生よ。そんときに兄貴に出会ってさ。さっきみたいにやられたのよ」


そんな話を始めた。


「おう、悪かったなミツクーニ。だけど、お前が羨ましいよ、俺の時は誰もかばってくれなかった」


「え?」


「実は俺もそこそこの家に生まれてよ。さっきお前に言ったのは、そっくり俺が言われたことだ」


そんな話を始めた。


「まあ、みんな座れ座れ。突っ立っててもしょうがないだろ」


そう言うと、自らも訓練場の床に腰を下ろす。


「でな、さっきの事を兄貴に言われてよ、気がついちまったんだ。俺の周りがちやほやしてくれるのは、オヤジの七光なんだってな。んで、小さい頃から俺の友達だと思ってたお付の奴らも居たんだけど、やっぱりさっきみたいな状況で、俺のために死ねる奴は居なかったんだ。まあ、今はそうでもねえけど、どっちかっつうと、俺が奴らのために死にたいと思えるようになった」


そんな話をオレにしながら、おそらく、後ろでうつむいているミツクーニに聞かせている。


「さっき、あいつが泣いただろ、オレも同じように泣いたんだ。そん時に兄貴によ、後悔の涙はそれで最後にしろって、そう言われたんだ。人とのつながりを、物や地位で測ることをやめて、等身大の人間を見ろってな。それから俺は目が覚めたんだが・・・」


そう言ってミツクーニに目を向けた。


「お前のために立ち上がってくれる奴が居た分、お前のほうが俺より恵まれてんだけど、どうよ?」


少し、考えたようだったが、しっかりと顔を上げて


「私は、間違っていたと思える。物や地位か・・・確かに、命のやり取りの前では、意味のないもののようじゃ。今日は良いことを学んだ」


まだ、若干青ざめて居るが、綺麗な微苦笑を浮かべて、そう言った。


「そうか、それが分かれば、先輩としては一仕事終わりだな。後は、お前ら」


と、塾の皆に向かって


「気に食わなくても、好きじゃなくても、仲間が殺されるかもって時には、もう少し頭を使え。お前ら全員でかかって来られてたら、流石に俺も勝てないぞ」


などと、笑いながら言った。

残念ながら、それは無い。シュルツ王子の強さは、おそらくハンス並だと思う。

元塾生の先輩ということで、幾分気が楽になったのか、他の塾生たちも、先輩にいろいろ聴き始めた。

そんな時間が一通り過ぎ去った時、


「そういえば、ルキノって言ったか?おまえ、あの詐欺師女が何処行ったかしらないか?」


そう、シュルツが聞いてきた。


ええ、おそらくその女は、あなたを探しに行ったまま、行方不明なんですがね・・・





楽しんでいただけましたでしょうか?

ユニークPV1000を目指していましたが、おかげさまで一気に超えてました。

ありがとうございます。

ブックマークも随分励みになります。

明日から、しばらく出張になりますので、しばらく更新できませんが、

旅の空から更新できれば試みてみます。

ありがとうございました。


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