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コブシの魔術師  作者: お目汚し
26/65

新魔法考案!!ファイア・ボールっぽい何か・・・

久しぶりの塾の訓練場

封印の迷宮で動きがあった。


急を告げる伝令が、マジックアイテムによる通信でハンスのもとに届いた。


先日の話の続きを・・・とソファーに腰掛けた直後の事だった。

何が起きたのかは分からないが、アイテムで伝えてくるということは、かなり緊急だと考えられた。

ハンスは、すぐさま準備を整えると、それを追うようにガリクソンも装備を身につけ、見かけとは裏腹な俊敏さで二人は街の門を飛び出していった。

マーリンは、塾でもしものときに備えて後方支援ということらしい。

なんならオレも行こうかと言うと、まだ、スキルが使いこなせないからダメだと言われた。


最近、それなりに使えるように思っていたのだが、まだ、ダメらしい。


話相手がいなくなってしまったので、仕方なく授業に出る。


何だか随分久しぶりな気もしたが、実際にはミツクーニと模擬戦をしてからまだ、数日しか経っていない。


「ルキノくん!」


オレを見つけてジョセフくんが、しっぽが有れば振っているんだろうなという勢いで駆け寄ってくる。


「校長先生の話はもういいの?」


生徒の間では、オレが校長に叱られているという話になっているらしい。

まあ、ミツクーニの装備を壊してしまったのだから、それくらいしなければ問題だと思われるだろう。


「うん、父さんが迷宮に戻っていったから、続きはその後だって」


「うわー、ごめんね僕のせいで・・・」


ジョセフくんは心底申し訳無さそうに言う。


「あ、いや、大丈夫だよ。問題ないから」


慌てて取り繕うと、練習場を見渡した。

相変わらずみんな思い思いの方法で、訓練をしている。

苦手なスキルや魔法を得意とするものに教えてもらいに、聞かれた生徒は、それを教えている。

助け合いという言葉が形に成ったような、和気藹々とした雰囲気だ。


「ねえ、ルキノくん。この間の、僕にも教えてよ」


周りを見渡していると、ジョセフくんがそう言ってきた。


「え、この間の?」


「そう、ミツクーニをやっつけた時の、すごく早く動く奴!」


そういうと、ワクワクした顔をして、期待に満ちた目をオレに向けてくる。

いや、そう言われても、パンチって教えられないし・・・


オレが困っていると、それを察知したのか


「あ、ごめんね。そんなに簡単じゃないよね・・・」


と、見るからにシュンとした感じでジョセフくんが謝ってきた。


「あ、ああ、そうだね、あれはチョット教えるとかそういう感じじゃなくて・・・」


何とか誤魔化す。


「覚悟って言うか、負けないぞ!って思って戦う感じ?」


自分でも何を言っているかわからない・・・


「分かった!負けないぞ!だね」


ジョセフくんはそう言うと、何かを掴んだように、鼻息が荒くなった。

え、これでいいの?


そう思いながらも、ふと気になった事をジョセフくんに聞いてみた。


「この間思ったんだけど、ジョセフくんてMPの回復、すごく早いよね?」


「そんなこと無いよ、僕、MPが極端に少ないんだ。だから、すぐに一杯になるんだよ・・・」


そう言いながら、下手くそなシャドウをシュッシュと言いながら始めた。


少ないから回復が早い?そう思いがちだが、やはり、一度空になったMPが一分程度で全回復するっていうのは、チョット考えづらい。確か、前そう思って琴ちゃんに聞いた時もそんな答だったし、将来が楽しみ・・・的な話をしたことを覚えている。


要するに、ジョセフくんは魔素の還元が苦手だったんだよな・・・

そう思いながら、ジョセフくんに聞いてみる。


「ねえ、僕に魔法を見せてくれない?」


「え、いいよ。あんまり得意じゃないけど」


ジョセフくんは照れながら、そう言うと、何にしようかな・・・と言いながら両手を前に突き出す。


「じゃあ、行くよ。ファイヤ・ボール!!」


ポン!


という音を立てて、ピンポン球位の大きさの火の玉が飛び出すと、1m位先の床に落ちて消えた。


「・・・」


「・・・」


「ね、あんまり得意じゃないんだ・・・」


マーリンや他の先輩たちのファイヤ・ボールばかり見ていたので、気が付かなかった。

あんまり得意じゃないとか言う話じゃない。

ジョセフの奴、この魔法はファイヤ・ボールっぽい何かだ!!


オレは、慌てて記憶を巻き戻す。

いま、ありえないものを見た気がした。

・・・・・・・・・

検証終了。

やっぱり、ファイヤ・ボールじゃない・・・



「ね、ねえジョセフくん。もう一回、おなじの出来る?」


「え・・・、うん、恥ずかしいけど、もう一回なら・・・」


そう言うと、両手を前にかざし


「ファイヤ・ボール!!!」


ポン!


ジュッ・・・


「・・・・・」


オレは今、とんでもないものを見た。

MP切れを起こして、ふらふらと座り込んだジョセフくんを見つめながら、

その現象を再検証する。


間違いない。彼が発動したのは、現象だけ見ればファイヤ・ボールの出来損ないだが、

自分のMP、つまり自由魔素を直接変換して飛ばしたのだ・・・


本来の魔法は、自由魔素を媒体として、空間魔素に事象干渉の波を起こす。

それを通じて到達点や作用させたい地点の空間魔素に働きかけ効力を発揮する。


ジョセフの場合は、本来触媒として利用するはずの自由魔素MPを、直接変換して放っているため、

威力は込めたMP分しか出ないし、空間魔素に干渉波を伝えていないため、飛距離も無いのだ。

だが、こんな魔法を使っている奴、見たことがない。


考えようによっては、実はオレの魔法と非常に近い事をしている。

ジョセフの場合、自由魔素を触媒でなく、直接変換出来るほど、事象干渉に関しての干渉力が高いという事だ。つまり、やり方によっては、彼の魔法は・・・


「ルキノくん、ごめんね、大したことない魔法で、僕、やっぱり苦手なんだ」


オレが黙り込んでいたのをどう思ったのか、ジョセフが申し訳無さそうに近づいてきた。

もうMPが回復したらしい。


「ジョセフくん。いや、ジョセフ。すごい発見をしたよ」


「え?」


全ては伝わらないことを覚悟の上で、ジョセフに自分の考えを伝えた。

その上で、さらに考察を加え、集中してこっそり多重思考スキルも使って考えた結果、

新しい魔法が考案された。


「ジョセフ、いいかい、これから僕が言うとおりにイメージして、魔法を発動するんだ」


「え、うん。わかったけど、上手くいくか・・・」


「大丈夫、きっとうまくいく」


オレはそう言うと、手順を説明した。


まず、MPは加減しなくても良い事、飛ばすイメージは捨てて、火が拳を包み込むイメージを持つこと、

それが維持されるのをイメージすること、そして最後に、対象物を殴るわけだが、この時、当たった場所から、前方に炎が駆け抜けるイメージで振りぬく事。


以上の手順を、魔法を発動させないようにして、繰り返し練習した。


練習場の端っこで、いわば落ちこぼれ二人が何かコソコソやっているのを、先輩や同年生が気にしているのは気がついていたが、今はそれどころではない。


「よーし、ジョセフ。練習はバッチリだ!今度は、的に向かって、打ってみよう!!」


オレはそう言うと、剣術などの訓練に使う的の人形を引きずってくると、ジョセフの前に置いた。


「うまくいくかな?」


「大丈夫、それどころか、史上初の魔法の使い手だぜ!」


そう言うと、ジョセフの肩を力強く叩いた。


「うん!僕、やってみる!」


ジョセフは、練習の成果でそれなりに様になった構えで、人形の前に立つ。

そのまま、ファイティングポースを崩さず、ブツブツ言いながら手順を思い出しているようだ。


「拳が・・・炎が・・・放つ・・・」


目を閉じて集中していたが、カッと目を見開くと、一気に魔法を発動した!!


え?!そっちだと、ストレートじゃなくてジャブになるんじゃ?


オーソドックススタイル。つまり、右手を引いて左手を前に出した構えをとっていたジョセフの

左手が炎に包まれた。想定外だ・・・


「行くよ!ファイヤ・ナックル!!!」


ヒュボ!!!!


「・・・・・・・」


何をするつもりだ?と、興味津々で周りのみんなが注目していたのは、なんとなく分かっていた・・・

だが、全員が絶句する出来事が目の前で繰り広げられた・・・


「あれ?これで良かったのかな?」


きょとんとした顔で、ジョセフが目を開いた。

こいつ、打撃の瞬間目を閉じてたな・・・


「ええ?!」


結果、ジョセフは自分のしでかしたことを見て、驚くことになる。


標的の人形は、上半身を消し炭に変えて崩れ落ちていた。


ジョセフの炎を纏った拳は、気の抜けたジャブの形で的に向かって伸びた。

だが、その腕が伸びきった瞬間、その炎は一気に勢いを増し、人形の上半身を包んだのだ。

しかも、その炎が如何に高温か物語るがごとく、完全燃焼の真っ青な炎と化して・・・


で、結果がご覧の通り。

今回はジャブだったので射程距離は5m程度だったが、ストレートならさらに伸びるだろう。

次の問題は、威力の調節だな・・・と、考えていると。


「すっげー!!なんだよ今の!!」


「何したの?」


「見たこと無いぞ、あんなの!!」


一斉に練習場の隅っこに、みんなが集まってきた。


的になった人形を見たり、ジョセフの手を取って見たり、皆、思い思いの方法で

検証を始める。


「なあ、ジョセフ、今のなんだよ、オレにも教えてくれよ!」


「あんな威力の有る魔法、初めて見た。MPどのくらい使うの?」


咄嗟に、ジョセフすげー!!的な態度を取ったことにより、

混乱の輪からいち早く抜け出すことに成功したオレは、いま開発した魔法が、誰にでも使えるのかを考えなおしていた。

結果、使えることは使えるが、普通の魔法を使う人間には、補助術式が必要であることがわかった。

あの魔法は、普通の魔法が使えない人間にこそ使える魔法なのだ。

ジョセフの問題は、干渉力が高過ぎることだったのだ。なので、はじめから自由魔素をきっちり変換後の状態としてイメージする事で、より強力な干渉波が空間魔素に伝わることになる。問題点を上げるとすれば、魔法を発動した時点で、魔法の種類が特定できてしまうことだろうか?


試しに、まだわいわい騒いでいる、ジョセフや生徒たちとは反対の隅っこに移動すると、こっそりと水魔法で試してみる。


オレの場合は、自由魔素がないので、いつものごとく、空間魔素を直接水に変えて・・・


「アクア・フィンガー」


と、冗談ぽく、的人形めがけてエアデコピンをした。


バガーン!!


と、とんでもない音がして、人形が吹き飛んだ・・・・


ヤバ!


っと思ってそおっと皆の方を見ると・・・


「ルキノ!!お前も何かしたのか?!」


「なんだよ、そういえば二人で何かしてたよな!」


「俺たちにも教えてよ!」


と、みんなにもみくちゃにされた。


皆に落ち着くようにお願いして、教える約束をすると、ひとまずおとなしくなったが、

威力調整の問題が片付いていない・・・


ひとまず、理論は皆に教えたが、誰もその意味は理解できなかったようだ。

そもそも、MPがどういう過程を経て魔法として発動しているかについては、いろいろな考察がされているようだが、オレのような理論は異端で有るらしいと、後に知ることになる。

なるんだが・・・オレ、魔素を見ながら操作してるから、多分これが正しいんだと思う・・


ひとまず、理論は説明したので、実践ということで、数人の生徒が試したが、誰もMPを直接変換することはできなかった。


ちなみに、この魔法のもう一つの利点。

実は、ジョセフはこの魔法ではMPを消費しないのだ。

手を覆った炎なり水がそのままMPなので、それを使って空間魔素に波を起こすだけで、

出て行かないのだ。そのため、実は連発できたりする・・・が、ジョセフはこの魔法を使うのに、

ものすごい集中が必要・・・だと思っているので、今のところ連発はできないし、

模擬戦でも使えない。

威力の調整が出来るまでは、使っちゃ駄目だし、ちょうどいい。


理屈は理解したつもりの皆が、それぞれに、新魔法の練習をしているのを横目に、威力調整について考えなければと、頭を悩ませる。


この日の晩、部屋に帰って琴ちゃんと話をしていたら、考案した魔法が、新体系の魔法として、森羅万象に登録されたと教えてくれた。魔法自体は、今のところ、ナックル系とフィンガー系が、新たに登録されており、自由魔素直接変換魔法系という、そのものずばりな系統が新しく、魔法体系に加わっていた。

使えるの、今のところオレとジョセフだけだけどね。








ジョセフくんを天才に育てたい!!

そんな気がしてきました。

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