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コブシの魔術師  作者: お目汚し
25/65

ガリクソン遁走

閑話です

その日、バイオリアは朝から噂で持ちきりだった。


迷子のバジリスク亭の酒場に居た者たちが、突然の睡魔に襲われ、目が覚めると怪我や病がたちどころに治っていたというのである。


切り傷や骨折はもちろん、甚だしいのは、神殿で高額な報酬と引き替えでも完治は難しいとされていた、切断肢の再生という、超高位の回復が行われていたということである。


人の怪我が治ったのだから喜ばしいものであるはずだが、一部の存在には大問題であった。


神殿の治癒術使いの神官達である。


本来なら、通常の町民の年収の何倍もの寄付を前提として行われる回復治癒術が、酒場の飲み代で、しかも同時に複数人を相手に行われたということは、もし、同程度の治療が神殿に持ち込まれた場合、多額の損失を被ったことになる。


街の中において、治癒術を専門とするものは決して多くない。だが、切断肢再生術ともなれば、首都の大神官の奇跡級の回復術か、中規模儀式魔法を用いて行われることになるはずで、一般の冒険者風情にとても行使できる術式ではないのだ。


街の人々は、神の奇跡だと、信仰心が高まる結果となり、神殿にとっては棚からぼた餅と言っても過言では無いのだが、それ以上に、失われた(かも知れない)利益のほうを心配する声のほうが多かった。


街の神殿からは、僧兵が狩りだされ、当日酒場に居た住人たちに聞きこみが行われていた。

中には、せっかく気持ちよく酔って居たのに、目が覚めたらすっかり酔いが冷めてしまった・・・などという証言も集められたが、有力な証言は何も得られなかった。


こうして、名目上は、「バジリスク亭の奇跡」という話しが数年、バイオリアを中心に語られることになるが、この話を歌にして、弾き語りをしていた少女が、まさに奇跡の当事者で、巧みに弦を爪弾くその指が、まさに再生された指だと知るものは少なかった。


要するに、ガリクソンは結構たいへんだった。


流れ者の冒険者として、バジリスク亭に逗留していたガリクソンは、しつこく僧兵に尋問を受けた。聴取というより、尋問というのがしっくり来る内容だった。


なぜ、そんなに執拗な追求を受けたか・・・

ステータスを見せなかった為である。


ステータスウインドウを開いて、開示して見せれば、回復術やそれに類するスキルが無いことは一目瞭然であるが、彼には、ドワーフ王と勇者という、今の時代では見せてはいけないステータスが刻まれている。

まして、秘剣スキルは、英雄叙事詩になってしまっている、光の勇者の物語でも有名なエピソードが幾つもある特殊スキルである。

スキルを行使している時は、投擲剣だと言えば、かなりの確率でごまかせるし、秘剣の本来の姿を知らなければ、まず問題ない。だが、ステータスウインドウは嘘がつけない。そこに、秘剣術と書いて有れば、高確率で秘密がバレてしまう。自分が時渡りをして、この時代に来ていることがバレてしまうということだ。


この状況下で、マーリンのところに行こうものなら、間違えなく尾行され、被害は拡大するだろう。

どうしたものかと、宿屋のあてがわれた一室で思案していると・・・


コンコン


とノックの音、入れと言う前に


「こんにちは」


ひょっこりとルキノが現れた。


「お、お前さん、どうやってここに来た!?」


「いや、普通に入ってこようと思いましたが、なんだか厳つい人たちが、おっかない顔して入り口を見張っていたので、ガリクソンさんの部屋の前まで転移してきました」


と、こともなげに言う。


「そ、そうか・・・まあ、誰かに見られるのもまずい。中に入るんじゃ」


ワシは慌ててルキノを招き入れた


「どうしたんですか?随分物々しいですが?」


お前さんのせいじゃ!!と突っ込みたいところであったが、一応話して聞かせた。


「あちゃ、そういうことですか。怪我が治ったらみんな喜ぶだけだと思いましたが、喜ばない人も居るんですね」


ルキノは悪びれもせずにそういった。


「まあ、そういうことじゃ。間違っても、お前さんがやったなどと、言うでないぞ」


ルキノは目立つことを嫌っているようで、ワシ等以外には秘密を話して無いようじゃが、子供のことだから、ついつい目立ちたくて言ってしまうこともあるかもしれん。


「言っても信じませんよ」


ルキノは笑いながらそう言ったが、ステータスを見せろと言われたら・・・!!


「おい、ルキノ。そういえば、前にお前さんのステータスを見せてもらったが、話にあったようなスキルや称号はなかったはずじゃな?」


「あ、そうですね。本当のステータスは琴ちゃんが隠してくれているので、見えませんね」


と、簡単なことのように言った。


「あのな、この世にステータスウインドウをいじくれる人間なんて、おらんのじゃぞ」


ワシは頭を抱える思いで、この天然坊主に言うと、それで悩んでいることを伝えた。


「なるほど、そういうことなんですね。チョット待ってください」


そう言うと、何やら黙りこんでしまった。

1分ほどそうしていたかと思ったら、難しい顔をして顔をあげる。


「ガリクソンさん、ステータスウインドウを見せてもらうことはできますか?」


申し訳無さそうな顔をしてそう言ってきた。

正体を知られている今なら見られても特に問題は無いのだが、さすがに他人にステータスを見られるというのは、少々恥ずかしい気もした。久しく他人には見せていなかったから、余計にそう感じる。


「何とかなりそうなのか?」


見せておいてなんともならなかったとなれば、意味もないので、最後の抵抗とでも言うべく、聞いてみた。


「正直な所、見てみないとなんとも言えないのですが、称号とスキルを見えなくすればいいんですよね?」


ルキノがそう聞いてくる。


「そうじゃな、それがなければそれなりに見えるはずじゃ」


「多分、見えなく出来ると思います。」


仕方ない・・・そう思って、ステータスウインドウを開くと、可視化してルキノに見せる。



---------------------------------------------------------------------------

種族:ドワーフ

名前:ガリクソン・ザ・ドワルゴン

性別:男

職業:冒険者

称号:勇者 ドワーフ王 秘剣士 鍛冶王 裁定者   


レベル:376

HP:5760

MP:980


力(攻撃力):2960

頑丈(防御力):3600

体力(抵抗力):4500

精神力(魔法抵抗力):680


スキル:剣術Lv96 剣技Lv86 秘剣術 秘剣技

    鍛冶Lv86 採掘Lv90

    生活魔術 土魔法Lv45 気配察知Lv38 罠察知Lv98 罠解除Lv56


-------------------------------------------------------------------------



見せてしまえば大したことは無いのだが、相変わらずこの感覚は慣れない。


「前から不思議だったんですが、ガリクソンさんのドワーフ王って、どういう意味何ですか?」


ルキノがステータスウインドウを何やら、指先でなぞるようにしながら聞いてきた。


「ま、まあ、人には言えん秘密もあるのもじゃ。それは・・・聞くな」


うまい言い訳も思いつかず、適当に答えた。


「まあ、いいんですけどねっと。こんな感じでどうですか?」


そう言うと、ステータスウインドウをこちらに送り返してきた。


---------------------------------------------------------------------------

種族:ドワーフ

名前:ガリクソン・ザ・ドワルゴン

性別:男

職業:冒険者

称号:鍛冶王 裁定者   


レベル:376

HP:5760

MP:980


力(攻撃力):2960

頑丈(防御力):3600

体力(抵抗力):4500

精神力(魔法抵抗力):680


スキル:剣術Lv96 剣技Lv86 

    鍛冶Lv86 採掘Lv90

    生活魔術 土魔法Lv45 気配察知Lv38 罠察知Lv98 罠解除Lv56


-------------------------------------------------------------------------


おお、見事に消えている!

これなら見られても問題は無いだろう。


「ありがとうよルキノ。これならあいつらに見られても問題はあるまい」


何度見てもスキルと称号が綺麗に消えている。

スキルまで消えてない証拠に、こっそり勇者称号スキル「感即動」を起動したが、問題なく発動した。


「一応、他人のステータスウインドウに細工をしたので、2時間位しか持ちませんが、その間なら誰に見られても、いま見られている感じにしか見えません」


ワシは、いろいろな角度から見たりしたが、確かに、全くわからない。


「よしよし、この後はマーリンのところに集合じゃったな。ワシは今のうちにあの小うるさい僧兵どもにこのステータスを見せて、すぐに行くわい」


そう言って、部屋を出た。


それを見送ってルキノは、自分が原因でガリクソンに迷惑をかけたな、と思いながら、塾の自室に転移した。


それから一時間後、息せき切ってガリクソンが、何と旅支度でやってきた。


「すまん、ワシはもうこの街に居ることはできん。このまま街をでる。ほとぼりが覚めたら戻るぞい」


そう言ってかけ出していこうとする。

咄嗟に、取り押さえ、塾の中に引きこむと、何が有ったか問いただしたところ・・・


レベルが高すぎたらしい。


呆れ顔のマーリンによれば、どうやら現代の冒険者達は、高レベルと言われる存在でもレベル100前後、普通の冒険者は50前後であるらしい。ハンスやガリクソンが冒険者をしていた過去の世界では、レベル300位のものは少ないながらも、何処の街のギルドにも数パーティ分は居たらしいので、いまは戦闘自体が少ないことが原因だと思われるが、ガリクソンが大丈夫だと思ってステータスを見せた所、それを見た僧兵が二度見三度見したあと、平身低頭したうえで、一緒に神殿に来るように懇願され、断ると、周りを囲んで拉致されそうになったらしい。

慌てて逃げ出してから、隙を見て宿に戻り、荷物をまとめてここまで来たものの、その途中にも自分を探しているらしき僧兵の姿をあちこちで見たため、もうこの街には居られないと別れを告げに来たようだ。


このことはハンスも知らなかったようで、今の連中が軟弱なんだと逆切れっぽい展開に成ったが、マーリンは既に光の勇者の一人と認められているために、問題は無く。なおかつ、回復術は単独ではメガヒールまでしか使えないことを、神殿に登録済みなため、取り調べも、確認程度だったようだ。

ちなみにハンスは、剣術馬鹿というレッテルが神殿によって既に貼られているため、器物破損や暴動以外では疑われない。本人は自慢しているが・・・・


このまま、塾でガリクソンを匿うという案も出たが、それでは買い物にも出られないということで、再びステータスを書き換えて、わざと捕まるという方法で逃れることに成った。


ガリクソンのレベルを35に書き換え、他の数値もそれなりなものに変えて、外に放り出すと、5分としない内に確保され、ステータスを確認されたが、当然平凡なもの・・・

最初に確認したものも呼び出され、再三確認されたが、一時間ほどで放免となった。


これを機に、ガリクソンも塾に逗留するようになり、ハンスともども塾の先生になるのだが、

それはもう少し先のお話。



次辺りから、話しが進むといいなぁ

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