僕の父さん
ああ
話しが進まない
すっかり日も落ちて、夕方と言うには随分遅い時間になっている。
ハンスたちのパーティ結成の馴れ初めや、ルネッサとの邂逅について、思い出話を一通り聞いた。
随分と省略された話だったが、彼らが未だに、悪の大魔導師 ルネッサを、仲間だと思っていることは、容易に感じ取ることができた。話には、まだ続きは有るが、今日は遅くなったので、また、明日・・・ということで、今日のところは解散ということになったが、一気に情報を詰め込みすぎて、少し、頭がボーッとしている。
自分の部屋に戻ると、早速ハンスがやってきた。
「よう、その・・・どんな気分だ?」
ハンスはまるで腫れ物に触るように、いつもの豪快さを感じさせない気弱な感じで聞いてくる。
「うん・・チョット混乱してるけど、大丈夫だよ」
「そ、そうか。それは・・・良かった・・・」
ものすごく歯切れが悪い。
「ねえ、父さん。今日は僕、結構疲れてるから、できれば早めに休みたいんだけど」
と、言うと。
「お、おお。そ、そうだよな。すまなかった。んじゃ、また、明日・・明日な!」
と、あたふたと部屋を出ていこうとする。
「ハンス」
「え?!」
「そう呼んだほうが良い?」
ハンスの気持ちは分かっている。今まで、息子として接してきた俺が、前世の記憶を取り戻し、ルネッサではなかったにしろ、対応に困っているのだ。
「そう呼んだほうが良いなら、これからそう呼ぶけど?」
「あ、いや・・・その、お前はどうなんだ?」
オレは思わず失笑した。
ちなみに失笑とは、悪い意味ではなく、こらえきれずに思わず吹き出してしまうことを言う。この解説、2回目だ・・・
「な、なんだよ、急に笑って・・・」
ハンスは、笑われたことがショックだと言わんばかりに、口を尖らせている。
「ごめんごめん。でも、さらにショックな話をしても良い?」
ハンスは、一瞬怯んだようだが、それでも立て直し、大丈夫だというように大きく頷く。
「じゃあ言うね。僕の前世の記憶のひと、40歳超えてるんだ」
「ええー!?」
まるで、サザエさんのマスオさんみたいな素っ頓狂な声で驚いている。
あれ?マスオさんて誰だ?
「じゃ、じゃあお前は、今40+11で、最低でも51歳以上の感覚なのか??!」
「んー違うと思うよ」
オレは言った。
「さっき、父さんを名前で読んだ時に、ものすごく違和感を感じた。実は、僕は心のなかで考え事をするときは、父さんのことを違和感なくハンスって呼んでるんだ。でも、実際に口にすると、すごく違和感がある」
ハンスは、すごく真剣な表情でオレの顔を見ている。
「もっと言うと、父さんの事を名前で呼んだ時、すごく寂しかったよ。だから、父さんが好きに呼んで良いと言うなら、今まで通り、父さんと呼びたい」
そう言うと、ハンスは目に涙をためて、オレのことを見つめていた。
「?どうしたの?」
「いや、いま、お前のことをすごく抱きしめたいんだけど。精神年齢が50歳過ぎてるって聞いたら、子供扱いはまずいのかな・・・と」
オレは、そんなハンスを愛おしいと感じた。変な趣味が有るわけではなく、ハンスを父親として好きだと思った。オレは、そのまま一歩踏み出すと、ハンスの腹に顔をうずめるように抱きついた。
「父さん!!」
「ルーキーノー!!!!!」
オレが抱きつくと、憑き物が落ちたかのように、もしくは、何かに取り憑かれたように、号泣しながらハンスがオレの髪をかき混ぜながら、ギュッと抱きしめた。
「ゴメンな、俺、自信がなかったんだ。だって、俺、本当の父親って知らないだろ、お前との生活にしたって、本当の親子から見たら、”ままごと”みたいなものだって、言われたら、そうなのかもしれないって。前世の記憶が戻ったって聞いたら、余計にそう思えてきて・・・」
息せき切ったように、思いをぶち巻き始めた。
「俺なんかが、お前の父親で良いのかって、最近ずっと考えさせられてて、義理の兄弟とかは、割りと気楽に作れたのに、本当の親子になろうとすると、難しくて・・・」
「父さん?」
話の腰を折るようだが、さっきまで聞いていたハンスの話を思い出し、確信を込めて尋ねる。
「父さんに取って、義理の兄弟っていうのは、ただの方便で、実際にはただの他人だったんだよね?」
ハンスは、腕を緩めると、オレの顔を覗き込むように、顔を向けた。
「今の父さんの話だと、そうなるよ。簡単に、気楽な気持ちで家族だって言ってるんだよね?」
「・・・」
「本当の家族を知らないから、”ままごと”の延長で、家族ごっこをしてただけでしょ?」
「・・・う・・・」
「ねえ?」
「ち・・う・」
「どうなんだ!!ハンス!!!」
「違う!!!」
ハンスはオレを睨みつけるように、そう叫んだ。
「俺は、たとえ相手がそう思っていなくても、俺が家族だと思った奴は、全員そのつもりで接して来た。大切な人だと思った。出来る限り守りたいと・・・いや、無理でも守りたいと。俺は、そうやって生きてきた!」
オレを開放して、自分の足元をさらに睨みつけるようにして、慟哭にも似た一言だった。
「誰が何と言おうと、あいつらは俺の家族だ!!」
「だったら、”ままごと”なんて言われたこと、笑い飛ばせばいいよ」
「!!」
「父さんは、誰が何と言おうと僕の父さんだよ。血がつながってるとか、つながってないとか、関係ないよ。気持ちが繋がっていれば、家族だと僕も思う」
ハンスは再び目に涙をためて、オレを見ている。
男手一つでオレを育てると言った事を、周りから反対されたのだろう、スキルの才能を見て、王立学校に進学させたのも、親ばかということも有るが、どこかで、父親としての自信がなかったんだと思う。
学校で落ちこぼれて、塞ぎこんで、引きこもったオレを見て、父さんは剣士の道を、冒険者の道を諦めたんだと思う。それ以上に、息子のオレのために、何かを作り出す、生み出す農夫という仕事を見せてくれようとしたのだろう。不器用なことだ。だが、オレの父親らしい。
「父さん。誰がなんといっても、僕の父さんは、父さんなんだよ。だから、ありがとう、父さん」
そう言って、抱っこをせがむように両手を開く。
「ルーキーノーーーー!!!!!!」
さっき以上の大号泣で、オレのことを抱き上げるハンス。
オレももらい泣きで、号泣してしまった。
そのまま、ひとしきり泣いたあと、そのまま、久しぶりに父さんと一緒に寝た。
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夜中に目を開けると、隣にスースーと寝息を立てているルキノの顔が月明かりに照らされている。
さっきは、父親としてどうなのかと思うくらい泣いてしまったが、こいつが悪い。
中身は50歳過ぎ?のオッサンな可能性もあるのだが、そのせいか、ここ最近、妙に大人びたことを言う気がしていた。
マーリンのところで話をしていた時も、自分の事をずーっと”私”って言っていたし、すごく気になっていた。
目の前に居るルキノが、大人びたことを言って、俺たちの話を聞いていた。
多分、俺はあの時、寂しかったんだと思う。
子供が、子供で無くなってしまう。息子が何処かに旅経つような。そんな感覚だったのだろう。
ルキノに慰められるとは思っていなかったが、おかげで今はスッキリした気分だ。
俺の”家族たち”には別れも言えず、200年も先の世界に旅立ってきてしまった。
もう会う事もできないが、みんな幸せに暮らしたんだろうか・・・
ルキノがルネッサだと思って、いつか覚醒するのかもと思って一緒にいたが、
いつの間にか、そんなことはどうでも良くなっていた。
ルネッサにはまた会いたいが、アイツの事だ、またひょっこり顔を出すのかもしれない。
また、ルキノに話してやらないといけないな。
俺がどんな想いでみんなと接していたか。
もっとも、こいつは俺なんかよりずっと俺のことをわかってくれている気もするが・・・
流石に話疲れたのか、酒も飲んでないのにものすごく眠い。
もう少し、ルキノの顔を見ていたいが・・・
そのまま俺は夢の世界に旅だったが、久しぶりにジノや兄弟たちの夢を見た。
人とのつながりを大切に
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