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コブシの魔術師  作者: お目汚し
22/65

勇者

大魔導師、再び登場

パーティを組んで1年と少し経ったころ、俺たちのパーティに新人が加わった。

新人といっても、ガリが以前、短期間だがパーティーを組んでいたそうで、気の良い男だった。


そいつはルネッサといって、魔法に関してはこの上は居ないと思っていたマーリンを遥かに上回る存在だった。

五大魔法はもちろん、聖魔法、闇魔法、ありとあらゆる魔術に精通していて、魔法編纂なるスキルも持っていた。何でも、生活魔法を作ったのも彼らしい。その後も、数々のダンジョンやギルドのアイテムに関しての改造や使用法を考案しており、その功績を認められて、SSS級の称号を手にしていた。本人曰く、SS級の称号は歴代ギルドマスターの一部が名乗っていて、実質A級以上との差は無いということだったが、SS級以上ということは、各地の領主や貴族の表沙汰にできない仕事も請けられるということで、破格の報酬が望めるポジションである。


さらに大魔導師なんていう、すごそうな称号持ちだったが、なんとも気さくな奴で、俺たちとすぐに打ち解けた。

ダンジョンに入れば、単独行動をすることは無く、むしろマーリンが相変わらず、ぶっ放す広範囲魔法に対するプロテクトを俺たちにかけてくれて、マーリンによる被害が激減した。


ちょうどこのころ、魔物たちの上に君臨する魔王を名乗る奴らが台頭し始めていた。

相変わらず、人間の世界では領地の奪い合いや戦争が続いており、疲弊している人間社会が崩壊するのも目前だったのかも知れない。


ガリと分かれてから、ルネッサは単身魔物の世界のことを調べにいっていたみたいで、魔物の生態にも詳しかった。森の向こうにも行ったことがあるような話しをしていたが、だとすれば、人類初のことである。

森の中までは入ったことはあるが、奥に行けば行くほど、魔素が濃くなっていき、森から20Kmほど入ったところからは、木の洞の魔素溜まりから、普通にコボルトやゴブリンが生み出されており、命の危険を感じて引き返してきた。


なんにしてもルネッサとの旅は刺激的で、そのくせ安心感に包まれた楽しい旅だった。

そんなある日、ルネッサがとあるダンジョンの噂を聞きつけてきた。

勇者の祠と呼ばれるダンジョンの話だった。


その祠の最深部には、称号:勇者 を得られるアイテムがある。

勇者の称号を手に入れれば、神の加護が得られ、ステータスボーナスと個人に特化したボーナススキルが望めるらしい。

レベルアップよりもお手軽な上に、スキルが手に入るということで、俺たちはその祠に行ってみることにした。


勇者の祠は既に数組のパーティーが挑戦済みで、どのパーティーか明かされてはいなかったが、既に勇者を名乗る奴らが、何組か存在していた。実際の踏破者の数より勇者を名乗るものが多い時点で、何組かもしくは、大多数が偽物であるが、ギルドランクと同じく、ステータスウインドウの開示でもしないかぎりは真偽はわからない。マーリンやルネッサは、スキルの力である程度相手の称号も分かるらしいが、今まで会った自称勇者達は、本物ではなかったらしい。


実際に踏破した者の中にも、勇者になれなかった者も居るらしく、資格や資質が問われるという噂が、真実であるがごとく流れていた。


そんないわくつきの祠に、俺たちは程なく到着していた。

ここまでの道のりは、拍子抜けするほどあっさりしたもので、D級冒険者でも簡単に到達できそうな道のりだった。出てくる魔物も、おなじみのコボルトやゴブリンがせいぜい3~5体で出てくる程度。しかも発生したばかりなのか、連携もできておらず、各個撃破出来るレベルで、むしろ勇者選抜というよりもルーキーのパーティーに適した構成だった。

そうは言っても、祠の中は強い魔物が出るであろうと意気込んで向かったが、こちらも、どちらかと言えば謎解きやロジックを求められる内容が強いダンジョンで、製作者の何らかの意図が感じられた。強さよりも知恵・・・もっと言えば矜持や自分の在り方を問われるような。

そんなダンジョンに潜って2日、資格が得られた者と得られなかった者の差がわかりにくかったため、意外とあっさり到達した最終試練の部屋にはすぐ突入せず、枝道の先の先まで探索し終えて、再び最終試練の部屋の大扉の前で、最後の休憩をとっていた。


MPもすっかり回復し、疲労も問題ない範囲にまで回復したところで


「さて、皆さんにお願いがあります」


と唐突にルネッサが言った。


「私はここで皆さんとはお別れします。今まで聞いてきた話の通りなら、おそらく皆さんは勇者の称号を得られると思います」


「え、何言ってんだよ。ルネッサ、お前も称号もらえるんだろ?」


俺が言うと


「いいえ、私は資格が無いので、もらえないと思います。それどころか・・・」


そう言いよどむ


「何だか分からないが、お前は称号は要らないってことか?」


「ええ、元々ここには皆さんに称号を取ってもらうために来たので、それが完了したら私は最後の仕上げに行きます」


ルネッサは寂しそうに笑いながら、そう言った。


「お前さん、また、何処かに言ってしまう気なのか?」


ガリがルネッサに詰め寄る。


「ガリクソン、すまない。私にはやらなければならないことがあるんだ」


「ダメじゃ、今度はわしも一緒にいくぞ」


「気持ちは嬉しい。けど、それじゃダメなんだ。みんなには私を止めてもらわないと」


「止めるとは?パーティーに残るように頼めということか?」


ルネッサは微笑むと、とんでもないことを言い出した。


「私は、このろくでもない世界を終わらせる。そのために、大悪党になる」


静かな、しかし決意に満ちた言葉だった。


「ここで得られる勇者の称号は、世界を・・・このろくでもない世界を救う勇者って意味だ。だから、これからこの世界を破壊しようとしている私にはふさわしくない」


言葉の意味を理解するべく、沈黙が俺たちを包んだ。


「ちょっと待ってよ。じゃああなたは、私達があなたを止められる力を得るためにここに来たっていうの?」


「せやせや、そんな面倒くさい事を、うちらに頼むんか?」


女性陣が沈黙を破る。


「最初は、ガリクソンだけでもと考えていましたが、それ以上に皆さんは良いパーティでした。ですから、皆さんが生き残れる方法を考えて、ここまで導いてきました。お願いです。皆さんで勇者になって、再び私の前に立ちはだかって欲しいのです」


意味のわからないことをグダグダと言っている。俺は自分が短気だとは思っていないが、わけのわからないことを言われて、黙っていられるほど人間はできていない。


「なあ、ルネッサ。あんたは俺たちの敵になるってことか?」


「ハンス・・・そう思ってくれて構わない」


「そうかい、で、いつから敵になるんだ?」


「正確にいつとは言えないけど、君たちが勇者の称号を取ってくれれば、その時に確定すると思うよ」


俺が静かに、だが半ギレで話をしているのは他の皆、もちろんルネッサにも伝わっていたのだろう、誰も横槍は入れてこなかった。


「つまり、アンタがこの世界の敵、で俺たちがこの世界の味方になるってことだな?」


「そういうことだね」


「で、俺たちがこの先も生き残るために、勇者の称号が必要だと。アンタはそう考えているんだな」


「勝手で済まないが、そう思っている」


「わかった。勝手なアンタにもう一つ確認だ」


俺は、最後の確信を求めて聞いた。


「アンタは大悪党になるんだな?」


「そう、その世界の明確な敵になる。大悪党、悪の大魔導師 ルネッサとして、君臨するんだ」


ルネッサは全く悪びれることもなく、ただ、少し寂しそうにそう言った。

寂しそうに・・・


「おい、ルネッサ、アンタの言うことだ、俺たちにとって勇者の称号は必要なんだろう。もっと言えば、アンタにとっても、俺たちが勇者であることは必要なんだな?」


「そう思ってくれて構わない・・・」


ルネッサは若干戸惑ったようにそう言った。


「なら、第一前提として、俺たちは称号を取らなきゃならない」


目的をはっきりさせるために、目標を設定していく。


「次に、その後のことだが、アンタは何かしようとしている。それに俺たちは手を貸すことはできないのか?」


「それはダメだ。私は人類の敵になるんだ。仲間は巻き込めない・・・」


ルネッサはさらに困惑したように、だがキッパリと断る。


「ったく、勝手な奴だな」


俺は腹を括った。もう、俺の流儀でやらせてもらう。


「決めた、お前の敵にはなってやらん!」


「え、いや、それはそれで・・・」


「安心しろ、勇者には成ってやる。だが、お前が望む形で敵対することは無いと思え」


もう決めた。何を言われても俺は揺るがない。

なおもウジウジと何か言っているルネッサだが、もはや耳に入ってこない。


「ウダウダうるさい!!そもそもお前がきちんと説明もせず、こんなところに連れてきたのが悪い。この後お前は俺たちのパーティーを離れて、何かするんだな?で、人類の敵、大悪党になるんだろ?良いじゃねぇか、なら俺たちは大悪党の仲間の勇者だ。それで文句あるか?!」


「無茶苦茶だよ」


「いいんだよ、俺が決めた。いいか、ルネッサ。俺には物心ついた時から親は居ねぇ、だが、親父代わりだった爺さんや、義理も義理だが、兄弟姉妹が沢山いる。このパーティーの仲間も俺に言わせりゃ家族みたいなもんだ。だからよ、ルネッサ」


俺はルネッサの両肩に手を置く


「お前も、もう俺の家族なんだ。お前が何と言おうが、俺は勝手にお前を信じて、そのお前が世界が間違ってるってんなら、俺の兄弟姉妹全員で大悪党に成ってやるよ。だから、お前も俺たちを信じて、お前の望みを叶えてみろよ。もし、お前が間違ってるって確信したら、家族としてお前を殴りに行く。その覚悟だけはしておけ」


言いたいことだけ言うと、ルネッサを開放した。


「私が・・・もし私が・・・あなた達を騙していたら、どうするんですか・・・」


半分涙声で、そんなことを言う。


「嘘ついてんじゃねえって、ゲンコツだろうな」


「ハンスのゲンコツ痛いから、嘘は言わない方が良いよ」


最近随分と打ち解けて、明るくなったマーリンが混ぜっ返す。

こいつも、俺にとっては家族と同じか・・・


「嘘やったら、騙される方が悪いんでっせ。うちの故郷やと、そういうことになってます」


「いやいや、そもそも、嘘も方便と言うしのう、はじめから嘘をつくつもりがなくても、そうなってしまうことも有るんじゃよ」


ミミとガリもよくわからない援護をしている。


「よし、決まりだ。ルネッサ、お前はここで待ってろ。俺たちはサクッと称号をゲットしてくる」


他の三人に目配せすると、そのまま大扉に向かう。


「え、私が待ってる必要は・・・もう、パーティー抜けるんですよ・・・」


「帰り道が面倒だ、街まで送ってくれ。そしたら、打ち上げやって、それから解散だ!」


俺は、扉に手をかけるとルネッサに向かって、そう叫んだ。


「行ってくる!!」


ガリもミミも、マーリンさえもルネッサに手を振っている。

そのまま俺が扉を押し開くと、大した抵抗もなく内側に開き始めた。


大広間に入った途端、扉はかき消すように消えてしまった。

マーリンがライトの魔法で灯りを生み出すと、天井付近に打ち上げ、部屋の中が明るくなった。


全体的に、黒水晶ででもできているのか、硬質な黒い結晶で覆われた、20m四方位のさほど広くもなければ狭くもない部屋の真ん中に、いかにもな宝珠が鎮座している。


「こいつが称号アイテムか?」


ボスの出現に最大限の警戒をしながら、いかにもな宝珠に近寄る。

俺たちが近づくと、突然宝珠がまばゆい光を放つ・・・

咄嗟に目をかばうが、その光も一瞬で消え、その後には色白な肌に、金糸の如き長い髪を腰まで伸ばし、ため息が出るような美貌をたたえた、スタイルの良い女性が浮いていた。背中から3対の純白の羽を広げ、羽ばたくこともなくその場に浮いている。


『我は、創世の神。転生の神とも呼ばれています』


おお、神々しいとは思ったが、神様か・・・しかも結構有名な神様だ。


『あなたは、邪悪を憎みますか・・・』


頭のなかに直接声が聞こえる。

大きくはなく、かと言って聞き取れないこともない。心地よい声。

周りを見ると、他の3人にも聞こえているようで、辺りをキョロキョロしている。


「ああ、邪悪な奴は大っ嫌いだぜ」


俺が声に出して答えた。

それに合わせて、皆も、そうだとか、嫌いとか言っている。


『声に出さなくとも良い。心のなかで答えなさい』


なるほど、追従されてはまずいってことか・・・

そう考えながら、考えたことを読まれるのも気まずいので、質問のみに集中する。


『あなたに取って、勇者とは何ですか?』


文字の通りなら勇ましい者だよな。強くって頼りになる奴ってことか?


『では、何のために強さを望む』


守るべきものを護るため、かな


『守る価値のあるものが、この世に有るのか』


わからないな・・・だが、価値が有るとか無いじゃなく、俺が守りたいものを護る力が欲しい


『お前が望むのは、守りの力か』


ちょっと違うな。守る力は退ける力だ、相手を倒さなくても良い、無力化出来る力だな。


『防御の力というわけではないのか』


そっちはミミが十分持ってるからな。俺は敵を退けることで、守りたいものを護るんだ


『ならば、敵を滅ぼす力か』


滅ぼす・・・か、そこまでは要らないな。滅ぼしちまったら先はない。敵だから殺しちまえってのは、ちょっと違うな。


『変わっておるな』


よく言われる


『まあ良い、お前にも力を与えよう。称号とともに誇り高くあれ』


そう言うと、頭のなかの声は突然消えてしまった。

え?これだけでもうなんかもらえたのか?


拍子抜けして、いつの間にか閉じていた目を開くと、マーリンたちも同じように目を開けていた。


「俺、なんか、変わったか??」


俺が自分の身体を見回しながら、聞いてみるが。


「全然!全く変わってないよ」


マーリンがそう言ってくる。

仲間たちも、特に変わった様子は見られない。

とりあえず、全員何かもらえたようなので、ひとまず一旦出ようということになり、

いつの間にか再出現していた大扉に、ルネッサが向こうで待っている扉を開いた。


「・・・・」


だが、そこには誰も居なかった・・・


あの野郎、待ってろって言ったのに・・・

俺たちが声もなくその場で立ちすくんでいると。


「あれ?もう終わったんですか?予想以上に早いですね」


ひょっこりという感じで、ルネッサが現れた。


「この馬鹿野郎、ちゃんと待ってろよ!心配しただろうが!!」


俺がそう言いながら、ルネッサの頭をガシガシする。

続いてマーリンとミミも嬉しそうに飛びついていった。スタイルの良い二人組に挟み撃ちに合って

さすがのルネッサの鼻の下も、壮大に伸びているように見える。

最後にガリが、何処に言っていたのかと聞くと。


「いや、打ち上げの話をされていたので、せっかくならと、馴染みの食堂に宴会の準備を頼みに行っていました」


と、悪びれもせず言った。


「お別れ会も兼ねてしまいますが、私たちに湿っぽいのは似合いませんので、パーッと明るく行きましょう!!」


少し照れたように、何より嬉しそうにそう言うと、本来なら儀式魔法であるはずの転移門を、単独でいとも簡単に呼び出して、飛び込んでいく。

俺たちも、慣れたもので転移門の中に飛び込むと、全員が飛び込んだと同時に、門は掻き消えた。


街に戻ってから、俺たちはいつも泊まっている宿屋の食堂で大宴会を開催した。

ルネッサに言われて、各自ステータスを確認すると、称号:勇者を全員が得ており、ステータスの向上が見られた。思ったほど多くはなかったが、十分な底上げにはなったので良しとする。弱くなったわけではないし。ただ、最初の印象通り、駆け出しの冒険者がもし、あの祠に入れば、かなりのレベルアップと同じくらいの効果がある事にはなるステータスアップでは有った・・・

勇者の称号と一緒に、いろんなスキルがもらえるのかと思っていたが、皆一つづつ、何らかの見た事もないスキルを手に入れていた。


最初は何処にも表記がなく、分からなかったが、勇者称号の説明の中に、そのスキルの説明があった。

つまり、勇者称号自体に、スキルがセットになっている感じだ。


俺のスキルは、「瀕死の一撃」

能力は、どんなにHPが多い相手でも、この一撃が入れば、HPが1になるというものだった。

剣技だろうが格闘技であろうが、このスキルを発動させて当てさえすれば、HPを削れるらしい。

結構、危険なスキルだが、相手が絶対に死なないというのは、有る意味使いやすい。リキャストタイムも設定されていないので、連続使用できる上に、発動型スキルなので、うっかり相手を追い込むこともない。


マーリンのスキルは「MP回復Max」

リキャストタイムが12時間と長いが、使用すれば、枯渇したMPが本人が仲間だと認識している者も含めて全回復する。元々MPの多いマーリンには必要なさそうだが、仲間込みとなると、使えるスキルだ。しかし、あれだけMPがあるのに、まだ回復を望むって、どれだけ魔法を使うつもりなのだろうか?


ガリクソンのスキルは「感即動」

秘剣スキルを極限まで使えるようにするために、認識と同時に行動できる、要は反射神経を極限まで高められるスキルだということだ。人間は目で見て脳で理解して、筋肉を動かして行動に移るまでに、どうしても微妙なタイムラグが生まれる。それを短縮するスキルということで、常時発動も可能らしいが、本人曰く、感覚が敏感になりすぎて大変なので、戦闘時以外は使わないそうだ。


ミミのスキルは「身代わり」

防御系のスキルを体得するのかと思っていたが、過去のつらい経験から、パーティーの負うはずのダメージを一身に背負うスキルを体得したようだ。マーリンのスキル同様、ミミが仲間だと考えている相手のダメージを全て受け止めるため、ある程度、離れていても効果は発揮される。救いなのは常時発動では無いこと。リキャストタイムは無いが、効果時間も3分と短い。だが、このスキルだけは危険だと判断し、俺たちのパーティの間は使用を禁止した。ミミは不満そうだったが、そんなマヌケな状況になる前に、お前が全て防御しろと言ったら、当然だと胸を張っていた。それで良い。


俺たちがスキルを包み隠さずルネッサに晒したことで、奴は辟易していた。

敵になると宣言したのに、たった今取得した秘事をそっくり開示してしまったのだから、それはそうであろう。


だが、今の段階ではルネッサが敵になると言われても全く理解できない。

それに、もし俺たちの流儀に合わなかったら殴りに行く約束なので、その時に考えれば良い。


そんなことより・・・ということで、


その晩は宿屋に泊まっていた他の客も巻き込んでの、大宴会になった。

宿の酒はすぐに飲みつくされたが、ルネッサの注文で既に街の酒屋の酒が全て注文されており、次々に配達されてくる。料理も、宿屋の女将さんの特製料理はもちろん、街の料理屋のあらゆる食事が出前されてきて、食べきれないんじゃないかと思うほどの食事が提供された。


マーリンは幸せそうに酔っ払って俺に絡みつき、ミミは向こうで冒険者達と飲み比べをしている。後ろに何人か酔いつぶれているが、気にしない。ガリはかなり飲まされたようで、カウンターに突っ伏している。肝心なルネッサは、旅芸人から借りたのか、リュートをかき鳴らしながら、聞いたことも見たこともない歌を弾き語りしてご機嫌だ。


そんな調子で朝まで飲めや歌えの大騒ぎ、別れのしんみりした感じなど全く感じられない、楽しい宴であった。


朝まで飲み食いして、そのまま宿の部屋で雑魚寝状態だった俺たちが目覚めたのは、夕方も回った頃。

部屋の中を見渡すと、一枚の羊皮紙に一言だけ残して、ルネッサの姿は消えていた。


後で知ったのだが、この時の払いは全てルネッサが済ましており、宿屋の女将さんは頑なに教えてくれなかったが、かなりの金額だったことが予測された。


ルネッサがただ一言、書き残した言葉は、とてもあいつらしい一言だった。


「行ってきます」



これでルネッサに裏切られたら

ハンスたちはどうするんでしょう?


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