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コブシの魔術師  作者: お目汚し
21/65

ハンスのパーティー

過去のお話です

「何じゃ?!コヤツは!!」


ガリが突然通路の壁から湧き出してきた魔物に驚いた声を上げる。


「レイスって奴だ!実体がなくて、俺たちみたいな物理アタッカー泣かせだな」


俺は正面から絡んでくる骸骨の兵隊共に辟易しながら律儀に返した。


「みんな伏せて!!行くわよ!!ファイヤー・ストーム!!」


マーリンの魔法発動の声、あのバカ!!またこんな閉鎖空間で範囲魔法使いやがった!!


「熱!熱!熱!熱!熱!・・・・」


俺とガリとミミが慌てて魔法の射線から逃れるが、高威力の魔法の輻射熱が容赦なく俺たちを焼く。


「一丁あがり!!」


朗らかにマーリンが戦闘終了を告げてくる。


「バカ野郎!!」


ポカ!!


「痛った!!」


「お前は何度言ったら状況を考えた魔法使用ができるんだ!!」


「ポカポカ殴らないでよ!バカになるでしょ!!」


「バカだから殴ってるんだ!!俺らでなけりゃ、怪我じゃすまんぞ!!」


見ると、通路の先までこんがりと焼けていて、骸骨兵は灰になるまで焼かれ、レイスも実体の無い身体が浄化の炎に巻かれて消滅していた。


「何よ!無事だったんだから良いじゃない!」


マーリンがそういうと、


「マーリンはん、うちらも毎回火あぶりやら水責めやらされとったら、そのうちなにか仕返し考えてまうかも知れへんで?」


と、ミミが言う。


「し、仕返しって何よ・・・」


「せやなぁ。たとえばマーリンはん抜きでおいしいもの食べに行ってまうとか、おいしいお酒のんでまうとか、あぁ、祭りとかも楽しいなぁ」


「えー、仲間はずれじゃん!いじめじゃん!いじめ反対!!」


「たとえばの話やろ、魔力こめた杖向けるの、やめてくれる?」


ミミはそういうと、大きな盾の影に隠れるようにスタイルの良い体を隠した。


「お前らその辺で、いいから先進むぞ。それから、マーリン、しばらくボルト以上の魔法、使用禁止」


「えー。ボルト以上禁止ってことは、ボールとボルトしか使えないじゃん!!」


「マーリンはん、ボルト以上はあかん言うことは、ボルトも使えまへん」


「え?つまりボールのみってこと?」


「そういうこと」


「えー、ハンスの意地悪ぅー」


「一回お前も炎に焼かれてしまえ!」


がやがやいいながら、俺たちはダンジョンの奥を目指す。

このダンジョンには、魔王軍の強力な魔獣を生み出す魔核が存在しており、ドラゴンクラス魔物が数日に一体のペースで生み出されているという情報があった。

俺たちの受けたクエストは、その情報の真贋と、真であった場合、可能ならその魔核の破壊を依頼されていた。報酬は金貨300枚。命がけの仕事としては微妙だが、今のギルドに来る依頼の中では破格の値段だった。

真贋の確認だけでも金貨50枚なので、行く価値はある。しかも、魔核に到達した証拠として持ち帰る予定の魔鉱もそのまま報酬としてもらって良いので、それを素材に新しい装備も作れる予定だ。


「でも、ドラゴンクラスの魔獣・・・って言う割には、通路も広くないし、ここってはずれじゃないのかな?」


マーリンがそんなことを言い出した。


「確かに、さっきからレイスや骸骨兵って、アンデッド系の敵が多いよな」


俺が言うと


「ドラゴンゾンビとかやったら、速攻で逃げましょな」


とミミ


「さすがにドラゴンゾンビはワシも見たことがないのう」


周りに気を配りながらガリが言った。


「いくらなんでも、ドラゴンのアンデッドは勘弁して欲しいな」


そんな軽口をたたきながら、一歩一歩ダンジョンの奥へと進む。

このダンジョンに潜ってからすでに5日。だが、俺たちのパーティーに疲労の色は見えない。

休息を十分にとっているということもあるが、こいつらといると飽きない。

それと同時に、緊張の糸が切れることもない。

俺たちがパーティーを組んだのは、かれこれ1年ほど前になるか、冒険者ギルドで知り合ったのが始まりだ。





ガリは、それまでパーティを組んでいた魔法使いと別れたばかりで、少々荒れていたが、随分とハイペースでダンジョン攻略やクエストの消化をしていた。


ミミは魔族の冒険者だった。見た目は妖艶な、スタイル抜群の女だが、年齢はまだ18歳。細みな体格からは想像もつかないが、城壁の二つ名をもつタンクだ。大振りな盾を装備していて、主装備は盾のみ。その大盾を前に立てて、魔法を行使する。この魔法がかなり偏っていて、防御系や支援系に特化している。攻撃は基本的にしないが、彼女が前面に出た戦闘では、中衛以降がダメージを受けることはほぼ無かった。

そんな彼女のパーティーも、とあるダンジョンに挑んだとき、転移罠にかかって、ミミだけが転移してしまった。慌てて仲間のところに戻ったときには、すでにパーティーは壊滅していた。

それ以降、彼女はこの日までパーティを組むことも無く、一人、ギルドのクエストで日銭を稼いでいた。


マーリンは、ガリ以上にハイペースでダンジョン攻略を進めており、この時点でA級のライセンスを取得していた。その日も、一人でそれまで難攻不落とされていた、オーガが多数存在するダンジョンを攻略して、その報告と、次の依頼を求めてギルドに立ち寄っていた。


俺はその日、傭兵の依頼もひと段落して、仕事を求めてギルドに立ち寄っていた。

何の気なしに眺めていたダンジョン攻略の依頼に、横槍を入れてきたのがマーリンだった。


「あなたにそのダンジョンは無理よ、私に譲りなさい・・・」


暗い顔をした少女が、魔術師のローブの中から、暗い目で俺を見つめていた。


「すまないが日銭が必要でね。一組しか受けられない依頼なら、譲って欲しいんだが」


俺が丁重にお願いすると。


「だから、あなたでは無理だと言っているの」


その女、マーリンはきつい口調でもなんでもなく、ただ淡々と事実を告げるよう口にする。


「へえ、それなら頼みがあるんだが、俺と一緒に行ってくれないか?」


「え?」


俺の申し出に、意外な言葉を聴いたように、マーリンが固まった。


「あなた、何を言ってるか分かってるの?私、バーサクマジシャンて呼ばれてるのよ?」


「そりゃ強そうな名前だな、是非ともご一緒したいね」


俺はそういうと、もう決まったとばかりに、ほかの仲間を探し始める。


「ちょっと、そんな勝手なこと認めないわよ」


「あー、うるせえ、もう決めたから、あんた俺のパーティーな」


「ちょっと・・・」


なにやら突っかかってきているが、随分と初対面と比べれば饒舌になっているみたいだ。

俺はそのことに内心ほくそ笑むと、ギルドの中を見回した。

このギルドに顔を出すのは初めてだったが、俺の振る舞いが余程目立ったのか、おそらくはバーサクマジシャンを仲間にしたということが余程の恐怖だったのか、目が合う端からみんなうつむいて拒絶を示している。

さて、困った。今回、目をつけたダンジョンは、明らかにマジシャンと剣士という、俺たちだけでは荷が勝ちすぎる。もう一人アタッカーとタンクが欲しい、あと、治癒術が使える奴がいれば最高だが。


「なあ、バーサクマジシャン殿、あんた、回復術は使えるのかい?」


「あなた、大魔法使いを舐めてない。ギガヒールまでなら連発できるわよ」


「ほほう」


そこまで使えるなら、部位欠損級のダメージを受けても、即死でなければ生き残れる可能性は圧倒的に高まる。ちなみに、生活魔法のライトヒールは止血や軽症までなら回復できる。ヒールならそこそこの重症まで、メガヒールならかなりの重症、ギガヒールなら瀕死の状態からでもほぼ復活できる。欠損部位が残っていれば、腕が切断されてもくっつくはずだ。


「伊達にマジシャン名乗ってるわけじゃなさそうだな」


「もう、マーリンて呼んで、あなた強引なのね」


マーリンは半ばあきらめた様子で、パーティを組むことに同意したようだ。


「了解マーリン。俺のことはハンスって呼んでくれ」


俺はそう言いながら、ふと目の端に留まった大盾に注目した。

かなり使い込まれて、傷だらけになっているが、傷の割りに貫通した形跡が無い。

すべての傷が、うまく受け流されている。盾の中央についている傷なんかは、グレートゴブリン辺りの、大斧の一撃を受けたように見えるが、それさえも薄い線傷程度で受け流している。この盾の持ち主なら、安心してタンクを任せられそうだ。

そう思って、盾の前で立ち止まっていると


「なんや、あんた。うちの盾盗もうとか思ってないやろな?」


そう、声をかけてきた女がいた。


「これ、あんたの盾かい?随分使い込んでるね」


そういって振り返った先に、扇情的なコスチュームに身を包んだ美女が立っていた。


「褒めてくれてありがとう、そやけど、その盾はゆずらへんで」


妙な辺境なまりな話し方をする。


「いやいや、こんなに盾をうまく使える奴がパーティーに欲しいと思ってな」


「なんや、うちを誘っとるんかい?女連れで」


「ああ、こいつはマーリン、見てのとおり魔術師だ、これからダンジョン攻略に行きたくてね。ただ、二人じゃちょいと問題が起きそうだったんで、お仲間を探していたのさ」


俺が軽口で応酬する。


「なんや、両手に花やったらもっと問題が起きるんと違うか?」


妖艶な微笑を浮かべると、品を作るように身をくねらせる。


「おいおい、やめてくれ。魔物の前にあんたに食われそうだ」


下品な言葉で返すが、この女、ガードが固い。攻め込めば一瞬ではじき返されそうだ。


「ふーん、見る目はあるようやな」


そんなことをつぶやくと


「で、どこのダンジョンに潜るんや?」


「そこの依頼にあった奴で、最近誰も手をつけてなかったらしいから、めぼしいモンでもないかと思ってね」


と、依頼書を見せる。


「・・・・あんた、このダンジョンに潜るんか?」


急に目つきが鋭くなると、冒険者の顔で聞いてきた。


「何か問題でも?」


「そういうことなら、うちも噛ませてもらうで」


嫌も応もなく、立てかけてあった大盾を肩にかける。


「城壁のミミや、よろしゅう」


「ハンスだ。こっちはマーリン」


「・・・・」


マーリンは呆れ顔で俺たちを見ていた。

さて、これでタンクも見つかった。そうなると、アタッカーだが・・・

相変わらず回りの奴らは目を逸らしている。さてどうしたものか・・・と思案していると、ギルドのドアが勢い良く開いた。


「何じゃあいつら、へっぴり腰にもほどがあるわい」


ぶつくさ言いながら、いまいまダンジョンから帰ってきたと言わんばかりのドワーフが、悠々と入ってきた。

そのまま、ギルドの買取カウンターに向かうと、今回の戦利品らしい討伐部位と、魔石や鉱石をカウンターに積み上げる。不思議なのは、このドワーフの装備。

頑丈そうなスチールメイルはその無骨な体付きに良くなじんでいたが、武器が問題だ。この姿からすれば、グレートアックスか大剣でも装備していそうなものだが、身につけているのは短めのショートソード。ただ、ショートソードが左右の腰に3本づつ、背中にも4本。ほかにも鎧の隙間から、これでもかというほど投擲用と思われるナイフが見えている。こいつ、何者だ?

それに討伐部位を出しているが、その中に魔獣の物がいくつか混じっていた。仲間はいたようだが、喧嘩別れでもしたのか、この男は一人でギルドに入ってきた。


「随分と稼いだね」


と、声をかけると


「何じゃ、お前さんは?」


そういってこちらを睨むように観察してきた。


「いま、優秀なアタッカーを探していてね。どうも、ここのギルドの連中は俺と遊んでくれないみたいだから、あんたを誘ってみようと思ってね」


「おあいにく様じゃが、今回の稼ぎはすぐになくなる予定じゃ。いま、パーティを組んでおった奴の一人が大怪我をしてのう、神殿に癒しの奇跡を受けに行っておる。その代金でほとんどなくなるんじゃ」


そういって、買い取りカウンターに視線を戻してしまった。


「何より、バーサクマジシャンと組もう何ぞという変わり者は、ここには居らん」


視線を逸らしたまま、そういった。


「何でみんなこんなかわいい子を怖がってるのかねぇ」


「かわいいじゃと!バーサクマジシャンが!?」


思わず振り返って、俺の顔をマジマジと眺めると、そのまま隣に立っていたマーリンの顔を覗き込む。


「なるほど、こりゃ確かにかわいいわ!」


そういうと、ひげ面の中の目がなくなりそうなほど細めて笑い始めた。


「いやはや、わしも噂ばかり気にして、顔もろくに見たことが無かったわ」


ひとしきり笑った後で、マーリンに向かって


「確かに、お前さんと組まんほうが良いと皆に言われて、そういうものかと思うておったが、組んでみんと分からんこともあるでの」


そういうと、こちらに手を差し出してきた。


「わしはガリクソン。一応剣士じゃが、ちと変わった剣術を使う」


「OK、俺はハンス、頼むぜガリクソン」


俺はガリの手をしっかりと握ると、握手をした。無骨な、だがやさしい手をしていた。


こうして半ば強引にパーティを組んだ俺たちだったが、なぜか馬が合い、こうして一年以上もパーティーを組んでいる。


最初のダンジョンはどうだったかといえば・・・散々だった。


せっかくバランスの良いパーティなのだが、ミミが防御線を張る前に、マーリンの魔法が炸裂し、ちょくちょく俺たちが巻き込まれる。途中からマーリンの魔法の余波から身を守るために、ミミは盾を構えていた気がするくらいだ。マーリンは大魔術師を名乗るだけあって、五大魔法すべてが使えるようだった。いままでどれくらいのダンジョンを攻略してきたのか、レベルも俺たちより上のようだ。何より、MPの量が想像できない。それほど大規模な魔法を連発するのだ。

だが、ダンジョンの中盤に差し掛かったとき、ミミが警戒を呼びかける。この先に転移の罠があるという。

慎重に歩みを進めていたが、唐突にミミとガリが罠に嵌り、どこかに飛ばされてしまった。とっさに俺はマーリンの手を引くと、一緒に転移したが、転移先は二人とは違ったようで、魔物たちの巣のど真ん中に転移してしまった。

気味の悪い蜘蛛系の魔物が床はもちろん、壁や天井を移動して襲い掛かってくる。

俺は、そいつらをマーリンに一歩も近づけることなく、切り裂いていったが、そこはマーリン。

俺ごと広範囲の火炎魔法で焼き払った。思えば、あれがマーリンに拳骨を落とした最初だったように思う。

その後、巣穴を脱出した俺たちと、ミミ・ガリのコンビはすぐに再会して、ダンジョンの最深部に進んだわけだが、ガリの投擲剣にも驚かされた。ミミとガリも別な魔物の巣穴に飛ばされたらしいが、やはり残らずガリの投擲剣で撃退されたらしい。ミミの鉄壁の防御と、ガリの投擲剣のおかげで、二人は全くの無傷だった。結果、そのときのダンジョン攻略では、大きな怪我もなく、一番大きな怪我が俺の火傷ということになった。




休憩中に昔といっても、ほんの一年前のことを思い出していた。


「さて、そろそろいこうかの」


ガリがそういって、お茶のセットを片付け始めた。


「そうね、MPもすっかり回復したし。準備はOKよ!」


マーリンもローブの埃をはたきながら立ち上がる。


「この先が、ボス部屋なんやろ?」


ミミが目の前の扉を見ながら盾を担ぎ上げる。


俺たちは、いかにもこの先にボスがいます・・・といわんばかりの扉の前に陣取り、休憩をしていた。


「この豪華な扉を前にすれば、必然的にボス戦だと思うよね。違ったら問題だわな」


俺も軽口をたたきながら、いつでも抜刀できるように、体制を整える。


「んじゃ、一丁ご対面と行きますか!」


俺はそういうと、ドアを勢いよく開け放ち、仲間たちとともに、部屋に踏み入ったのである。

また、新しいキャラを出してしまいました。

だんだん、収拾がつかなくなっている気が・・・

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