傭兵ハンス
書き貯める事ができないので
毎回描きおろし状態です
表現の粗などありましたら
ご容赦ください
どこまでも続く泥沼の様な大地・・・
泥濘に足を取られながら、新たな敵を求めて俺は痛む身体に鞭打つように前に進む。
この泥濘は、多くの兵や魔物たちの血によって濡れたものだ。
傭兵として、この世界に身を投じた以上、人並みな生活ができるとは思っていない。
できるとすれば、戦場で役に立たなくなった時だ・・・。だが、その時が戦場で訪れれば、
その瞬間に、俺の人生も終わる。
まだ、戦える!!
そう、強く念じて前に進む。
足元の泥の中に、友軍の死体が段々と増えてきた。この先に、手強い相手がいるらしい。
顔を上げて、前方を睨みつける。
そこには、数人の友軍に囲まれて追い詰められた一つ目の巨人がいた。
サイクロプス。身長は3メートルを超え、腕や足は筋肉の塊の如く隆起している。樹齢数十年の木の幹のような体躯だ。隣の領主と手を組んだ魔物の軍勢の一部だろうが、一体で何人の兵を屠ってきたのか、その身体は返り血ですっかり染まっていた。
サイクロプスは、その特徴的な一つ目に、怪しい光を浮かべながら、友軍の猛攻に一心に耐えているように見える。
いけない・・・
俺は直感的に叫んでいた
「総員、散開!!距離をとって、攻撃せよ!!」
傭兵とはいえ、俺の階級は100人隊長クラス。正規兵といえども指揮権は俺のほうが上だった。
「は、傭兵様がなにを言ってんだよ、俺たちの獲物は譲らねえぞ!!」
そう言うと、その集団の10人隊長クラスの兵卒が、他の兵たちに突撃を命じた。
その場に居た7人の兵が一斉にサイクロプスに跳びかかり、俺が100人隊長だと気がついた若い兵が
俺の指示を受けて、半歩退いた。
コゥ!!
一瞬、紫色の光がサイクロプスの目から放たれると、目の前に居た3人の上半身が、まるで消滅でもしたかのように消えてしまった。次の瞬間、左右から突撃していた兵の頭を握りつぶすと、後ろから切りつけてきた2人に向き直り、その反転した力で荒削りな後ろ回し蹴りを放つ。
荒削りと言っても、大木ほども有る足から繰り出された蹴りは、一人の胸を蹴り破り、かすったもう一人の腕を引きちぎりながら、再び大地を踏みしめる。
半歩下がった若い兵は、謎の光線を浴びることもなく無事であったが、足がすくんでしまい動けない。
「ちっ」
俺はとっさに自分の身体に鞭打つと、活動限界を超えた力を行使して、一息にサイクロプスに肉薄した。
サイクロプスは、右手に持った兵の身体をひと噛りして、口元を血に濡らしながら、左手のすでに肉塊と化した元兵士の身体を、棍棒のように軽々と叩きつけてきた。
「フッ」
俺は、サイドステップでその一撃を回避すると、そのままサイクロプスの左側から背面に回り込もうとした。
奴は、それを読んでいたように左の回し蹴りで迎撃してくる。
「・・・」
無言でその回し蹴りを叩き切る。
無造作に放たれたように見える斬撃は、サイクロプスの左足を膝の上から切断すると、そのまま止まらずに跳ね上がる軌跡を描き、股間から右の肩口まで逆袈裟に切り上げた。
そのまま、再び紫色の発光を始めていた一つ目に剣を突き立てると、剣技「瀑突」を発動。
サイクロプスの頭を四散させて戦闘が終わった。
「大丈夫か?」
新たな魔物の返り血を浴びながら、後方の若い兵の安否を確認する。
「だ、大丈夫であります。ありがとうございます!」
若い兵は、顔を青ざめさせて、それでも気丈に立っていた。
見たところ、まだ12・3歳といったところか。少年兵にもなっていまい。
「お前、まだ若そうだが、いくつだ」
「は、今年12歳になりました」
やはりか、もはや壊滅するのも時間の問題なこちら側の領内には、まともな戦力は残っていないのだろう。
「お前に命令する。それとも傭兵のいうことは聞けないか?」
「いえ!軍では上官の命令は絶対であります!!」
フッ、若いヤツのほうがこういうところは融通が効かなくて良いねえ。
「ならば貴官に命ずる。そこにいる生き残ったボンクラを、砦まで護衛せよ」
と、片腕を吹き飛ばされて苦しんでいる10人隊長様を指差す。
「あの時、俺の指示を守れば、数人は助かったかもしれん。命令違反のことも合わせて報告を頼む」
俺は、そう言うと次の獲物を求めて、戦場に戻ろうとした。
「待ってください!!自分一人では、ここから砦まで帰還する術がありません」
若者はそう言うと、
「無礼を承知でお願いします。隊長殿は圧倒的にお強いと思います。どうか、護衛の任務は隊長がなさってください」
と、頭を下げる。一緒に行ってくれではなく、俺に護衛に行けと・・・
「自分は、父も母も、先の略奪で殺されました。この先の村に逃げていた妹だけが、自分の身内です。妹まで失ってしまえば、自分は・・・自分は・・・」
あーあ。嫌な話を聞いてしまった。
「おい、今のは命令違反にならないか?」
「申し訳ありません。ですが、もし命令違反ということでしたら、自分はこの場で軍属を離れ、個人として進むつもりです」
そう言うと、配給された傷だらけの鎧を脱ぎ始める。
「あー、もうわかったって、そういうことなら、この先にもう一つ砦が有る。お前の目的地はその途中の村だろ?そこまで一緒に行くぞ」
そう言うと、片腕を失った10人隊長にライトヒールをかける。
失った腕は元には戻らないが、後で神殿に行けば再生してもらえるだろう。
「おい、立てるか。お前が命令に従わないからこうなるんだ。解ったら、次から命令には従え。正しい命令にはな」
10人隊長に手を貸しながら立たせると、若い兵に預け、一緒に戦場を移動し始める。
「おい、お前名前なんて言うんだ?」
「ジノと言います」
グズグズする10人隊長を一生懸命引っ張りながら、若者が返事をした。
「ジノか、いい名前だな。俺はハンス。100人隊長の傭兵だ。お前の妹さんはべっぴんさんかい?」
軽口を聞きながら村を目指す。
「妹が可愛いかという質問でしたら、とても可愛いです。あいつらに、魔物に殺されるのなんて許せないくらいに」
ジノは強い光を目に宿して、それでも壮絶な笑みを浮かべてそう言った。
「そうか、んじゃ、俺も張り切って王子様役をやらねえとな」
そんな軽口を叩きながら、ジノの目指す村が見える、高台についた。
「ああ!!」
「こりゃ・・・」
村は既にいたるところから煙や炎が見えていた。
その村の中を、先のサイクロプスと同じくらいのが2体と、ゴブリンたちが数匹蹂躙しているのが見えた。
「くそ、間に合わなかった・・・」
ジノが悔しそうに地面を殴りつけ、その拍子に10人隊長は支えを失って尻もちをついた。
何度も何度も地面を殴りつけるジノを前に、
「なあ、ジノ。お前、妹さんが最後の身内だったと言ったか?」
「そうです。もう、妹だけが、ジゼルだけが自分の支えだったのに・・・」
俺はもう一度村の方を見ると、
「おい、ジノ、変な命令をしていいか?」
ジノは涙を目に浮かべたまま、かすかに顔を上げて俺の方を見る
「今日だけでいい、今から俺の弟になれ」
「??」
「それが命令だ、どうだ、聞けるか?」
ジノはわけが分からないという感じで、涙ぐんでいたが、それでもしっかりとうなずいた。
俺が、慰めているとでも思ったのだろう。
「よし、んじゃよろしくな弟よ。んで、これで俺にとっても、ジゼルは可愛い妹になったわけだ」
ジノは更に困惑した様子で俺を見てくる。
「お前は戦況が見えていない。あの村はまだ落ちてない。真ん中の集会所、多分あそこに村人みんな立てこもってる。俺は、これから妹を助けにあそこに突っ込もうと思うんだが、弟のお前に頼みが有る」
ジノは俺の言葉に、はっとしたように村を見返すと、俺の言葉を待った。
「妹を助けに行くんだが、あいにく俺は妹の顔を知らない。というわけであそこに居る村人全員を助けてしまうだろう。そうなると、退却戦が大変なんだ。お前、先頭切って砦まで護衛してくれるか?殿は俺がやる。追撃を振り切ったら、先頭に戻る。兄貴のお願い、聞いてくれるか?」
「ハンスさん、ずるいですね。上官の命令なら俺も一緒に突撃するって言えるのに、兄さんのお願いだったら、軍辞めても関係ないじゃないですか」
ジノは半笑いで半泣きで、そう言ってきた。
「正直言って、足手まといなのだよ弟くん。というわけで、兄ちゃんは行ってくるから、逃げてきた妹達をしっかりエスコートしてくれよ」
俺はそう言うと、高台から、結構険しい斜面を、集会所を目指して最短距離でかけ出した。
身体の傷が痛む、限界突破のスキルを使った後だけに、筋肉の断裂も有るのだろう、普段以上にあちこちが悲鳴を上げている。だが、俺は今、妹を家族を助けに走っている。
誰かを護る戦いは、何かを勝ち取る戦いより動機が弱いと、誰かが言っていた。
それがどうした!
動機が弱いなら、俺の強さで補完する。
粗末な防御柵のむこうに、ゴブリンが数十体群れて見える。
俺は迷わず、本日何度目かになる限界突破スキルを発動して、柵ごとゴブリンをまとめて切り裂く。
「ゴルァー!俺の家族に手をだすなーー!!!」
俺は笑いながら、決死の死地へ、魔物に死を撒き散らす死神として降り立った。
「俺の名はハンス!!お前たちに安息をもたらすものだ!!」
そんなことを叫びながら蹂躙する側だった魔物たちを蹂躙し、スキルが切れる前に村を一つ救った。
その後にMPも切れて、体力の限界で一晩出発が遅れたのは、ご愛嬌ということで。
自分ごときの話を呼んでくれる人が居て
嬉しい限りです
頑張ります




