女性の裸に勝るものなし
シリアス展開からの・・・
沈黙が二人の間を支配する。
沈黙は金なり・・・なんて言葉が有ったな。なんてことを思い出しながら、
真剣な目でこちらを見つめてくるガリクソンに何と言ったものかと考えながら、思考の半分は現実逃避をしている。いっそのこと、このまま転移して部屋に帰ってしまおうか。記憶操作しちゃえば良いんじゃないか?おお、いい考えかも!なんて勝手なことを考えていたら。
”それは不可能です。目の前のドワーフの脳は、マスターの身体と同じく強固な固有魔素で構成されており、記憶改変を可能とするためには、破壊した後の再構成が必要です”
頭をふっ飛ばした後にいじれってことね。イヤじゃそんなの・・・
「どうなんじゃ、ワシには本当のことを話してくれ」
ガリクソンは、なおもオレに真摯な目を向けてくる。
「あ、あの、何と言ったらいいか・・・」
「ん?話す気になったか?」
「え、ええ。非常に申し上げにくいのですが・・・・・・おそらく私はルネッサさんじゃ無いと思います」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再び沈黙が二人の間を支配する。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
つらい。
むさ苦しいオッサンと見つめ合うのは、なかなかにつらい。
しかも、そのオッサンが目に涙をためながら、軽く鼻をすすり始めている。
「じゃあ、お前さんは何者なんじゃ!!」
急にガリクソンは大声を上げると、テーブルをひっくり返した。おお、リアルちゃぶ台返し。
「ぱそこんなんて、わけの分からん言葉まで知ってるくせに!、お前さんがルネッサじゃないじゃと!?やっと出会えたと思ったのに!!」
ガリクソンは、ひとしきり暴れた後、その場に崩れ落ちて男泣きに泣き始めた。
「あー。スミマセン。なんか、オレ前に神様にも間違えられましたんで、タイミングが悪かったのかな?」
良くわからない言い訳をしながら、慰めてみる。
「なに。神様じゃと?!」
涙と鼻水でヒゲをぐしょぐしょにしながら、ガリクソンが勢い良く顔をあげる。
何か、汁が飛んできたから、ゆっくり動こうか・・・
「この世を司るとか言っとる、転生の神か?」
ガリクソンは少しヒックヒック言いながら、そう問いかけてきた。
「え?ええ、多分その神様ですね。姿は見てませんが、その転生の神さまに、ルネッサさんと間違われて、捕まってました」
「そんなはずは・・・じゃあ、その黒髪に黒目は?なんで、封印のダンジョンに居た?どうしてワシ等の転移した先にお前さんが居ったんじゃ?!」
一人混乱しながら、声を荒げるガリクソン
「ええ、簡潔に申し上げると、おっしゃっている意味がわかりません」
本当に意味が分からず、ガリクソンにそう伝えた。
いろいろ衝撃を受けたようだったが、徐々にガリクソンは体制・・・というか精神を立ち直らせてきた。
強靭な精神力だ。
「もう良いわ、ワシの知っている話は話したが、どうも何か食い違いがあるようじゃ。お前さんの話も聞いてみたいのじゃが、どうするかね?」
まだ、涙目では有るが、一応落ち着いてきたのかガリクソンが聞いてくる。
「お前さんも相談事があるのじゃろう?ワシ等の話を聞かせてしまった以上、もはやこれ以上の秘密は無い。お前さんの話を聞いても驚きはせんよ」
涙目で言われては説得力は無いが、何度も話すのも面倒なので、どうせ話すならハンスやマーリンと一緒の時が良いだろう。
そう言うと、明日マーリン私塾で話そうということで話は落ち着いた。今晩一晩考えて、何処まで話すか練り直したい気もするが、下手に腹芸をするよりも全部喋ったほうが楽な気もしてきた。
ガリクソンが送ってくれるというので、断るのもおかしいと思い、素直に従った。一応オレ子供だしね。
だが、いきなり問題発生!!・・・
「なんじゃこれは!!?」
一階に降りたガリクソンは、ギルド内のあらゆる場所に突っ伏して寝ている冒険者や宿屋、ギルドスタッフの姿に驚く。
あちゃ、まだ寝てたのね。
「どんな魔法使いが居たのやら・・・」
ガリクソンがそう言いながら、一番近くに居た階段下の受付の宿屋の女将さんを起こしにかかる。
「おいっ、おい!大丈夫か!」
「ん?んー。おや、ガリクソンさん。どうしたんだい?」
宿屋の女将さんは、何事もなかったように目を覚ました。
「随分寝ちまったようだね。すっかり疲れも取れて気分爽快さ。しかし、随分と静かだね?」
そう言ってギルド内を見回し、あらゆる場所を二度見した。
「なんだいこりゃあ!!あんたら、起きな!!!風邪引いちまうよ!!」
女将さんの大音声を受け、瞬く間にみんなが起き始めた。
ざわざわ言いながら起き上がり、何が起きたのかと皆、寝ぼけまなこで話し始め、状況を確認し始める、が、ここで異変が・・・
「おい!おい!!!オレの手がある!!」
「目が、目が見えるぞ!!」
「足が、足が動くぞ、3年前から動かなかった足が!!」
「指が、指が元に戻ってる・・・」
そこかしこで興奮した声が上がり始める。
ギルド内が大喧騒に包まれる。なんだ、何が起きた??
「奇跡だ!奇跡が起きたんだ!!」
誰かがそう叫んだのがきっかけで、一同が床に跪き、何かに一心に祈り始める。
え?なに?
「どうやら、誰かさんがここにいる連中の怪我を一瞬で治しちまったようじゃの」
ガリクソンは懐かしいものでも見るように、その光景を眺めると。
「さて、必要ないかもしれんが一応大人として、お前さんを送っていくかの」
そう言うと、不器用なウインクを決めてオレの手を取り、外に連れだした。
「さっきのスリープクラウドと奇跡。お前さんの仕業じゃな」
宿の前を離れて少し歩いたところで、ガリクソンが妙に確信を込めて言う。
「ルネッサも回復魔術が得意じゃった。部位欠損の有る者も、生まれながらに手がなかった子供まで、奴は治しておったな」
「あの、ですから私はルネッサさんではないと・・・」
「わかっておる。皆まで言うな。どうやら中身は違ってしまったようだが、お前さんの性格はルネッサによく似ておるよ」
そう言いながら、オレの手を引いてガリクソンは歩く。
「どんな気まぐれであそこに居た連中を癒やしたかは知らんが、あの中には明日にも死んでしまいそうな娘も居った。無論、怪我で死ぬわけではない。人は絶望しても死んでしまうからの」
オレはよくわからなかったが、なにか良いことをしたのかな?と思った。
「指が元に戻ったと言っていた娘が居ったじゃろ?」
いちいち覚えては居ないが、記憶を遡ると、そんな声も聞こえたきがする。
「あの娘は、この街でも一番の楽器弾きじゃ。今年の祭りも素晴らしい歌と音楽を披露していたんじゃよ。ところが、野良仕事の時に不注意で指を切ってしまった。最初は切り傷程度だったんじゃが、仕事で無理をしすぎたんじゃろ、昨日の晩、壊死したところを切り落とされたんじゃ。辛かったんじゃろうな。飲みなれない酒を飲みに来ていて、ずっと死にたいと繰り返し言っていたらしい」
可哀想な話だ。だが、楽器が弾けなくなったからといって、死を選ぶのはいかがなものか・・・
「たかが楽器と思うかもしれんのう、じゃが、誇りをもってやっていた事が、台無しになってしまった時、人は絶望するんじゃ。まして、避けられたかもしれない運命に翻弄された時、人は絶望する。そして、絶望を乗り越えられん人間は、傍から見たらいとも簡単に死を選ぶ」
ガリクソンは寂しそうに微笑みながら
「そう、簡単に死を選んだように見えて、その真意は残されたものには分からんのじゃ」
そう締めくくった。
ガリクソンは、塾の前まで送ってくれると、また明日の朝来ると言って、帰っていった。
その時には、ハンスやマーリンにも話をすることになる。
いろいろと混乱しているのだが、部屋に戻ったらもう一度考えなおさないと・・・
と思いながら玄関に向かうと、扉に鍵がかかっていた。
「え?」
一瞬、締め出されたか?と妙な不安を覚えたが、よくよく考えれば、転移してギルドまで言った事を思い出す。
焦った自分にツッコミを入れながら、魔力認識・魔素認識・鑑定とスキルを同時発動させ、範囲を塾の敷地内に狭めると、探索を始め・・・!
裏手の林の中に誰か居る。3人か・・・
謎の3人組の名前や性別も情報として出ているが、知っている名前ではない。年齢も17歳から20歳と塾生としても年長組で、今はダンジョンで監視をしているはずだ。
裏の森の情報検索からスクリーニング。3人の他に誰も居ないことを確認して、死角になる木の上に転移。
上から見下ろすと、その3人組は、街に入る時と、今日の昼間、絡んできた例の3人組だった。
お前ら、ハンスに潰されるぞ・・・と思いながら、何をするのか見ていると、コソコソとだが、随分と慣れた様子で下生えの上を匍匐前進で進んでいく。よく見ると、彼らの進む道が、何度も行き来が有ったことを示すように、獣道みたいになっていた。
今回が初めてではない・・・ということか。
準備を周到にした復讐か?とも考えたが、その割に軽装で、行動の真剣さと裏腹に小悪党感が半端ない。
道筋ができているので、行き先が分かる。目で獣道の先を追ってみると・・・
寮から10メートルほど離れたところにある、生け垣の前で終わっていた。
生け垣の先は8メートルほど下に下っており、この屋敷を立てるときに、後ろの山を少し削ったことが分かる。そのため、生け垣の前に見えている窓は、2階の窓の上部ということになる。あそこからなら、3階の窓に渡れないことも無いかもしれないが、建物から10メートル離れていることを考えると、魔法でも使わないと無理だろう・・・そう思っている内に、3人組がたどり着いた。
そして、そのまま微動だにせず停止。まるで、野生生物が獲物がかかるまで何時間でも待つ・・・と言わんばかりの真剣さと緊張感が伝わってくる。こいつらいったい??
だが、その時はすぐに訪れた。
奴らが待機していた目の前の窓に灯りが点くと、部屋の中が丸見えになった。
そこには、マーリン校長の姿が・・・あの部屋は、校長の寝室だったのか・・・
と、目をそらす隙も与えず、マーリン校長はローブを一気に脱ぎ捨てた。
エルフって知識の中ではあまり胸は大きくないイメージだったけど、ハーフエルフだからかな?
大変結構な大きさのバストがあらわになり、そのままの格好で、部屋をウロウロし始めた。
鉄の意志を持って、校長の着痩せする身体から目を反らすと、3人組を見る。
む!微動だにしていない!いや、こいつらは今、心のシャッターを押しまくり、脳内のファインダーに
己のベストショットを刻み続けているのだ!!
男として、その気持ちはよく分かる。むしろ君たちを”漢”と呼びたい。
だが、我が私塾の校長・・・本当は塾長な気もするが、の高貴な姿を、これ以上君たちに晒すわけには行かないのだ。
そう、心のなかで詫びを入れると、街のマップにアクセス。こういった時に一番ふさわしいと思われる施設を検索。HIT!!え、こんな場所があるの?と思いながら検索先の建物内を探索・・・おお、結構人がいる。その中で、3人組が転移できそうなスペースを探してと・・・部屋のど真ん中か・・・まあ、いいや。
慎重に座標を設定すると、おもむろに転移を発動。目の前から漢たちの姿が消え、服だけが残った。
数秒後、街の外れの方から絶叫が聞こえてきた気がするが、気にしたら負けである。
オレは、3人組をおそらく裸の男性同士が、からみ合っていたであろう、特殊な趣味の方たちの魅惑の施設に素っ裸で放り出すという、荒行を科した後、もう一度だけ校長室に目を向けると、相変わらず素っ裸でうろつくマーリン校長に一瞬だけ、本当に一瞬だけ目を向けると、明日から塾長と呼ぶべきか思案しながら、自分の部屋に転移した。
あ、明日結構真面目な話をしないといけないのに、そんな雰囲気では無くなっている気がする・・・
ルキノくんは、身体は子供、頭脳は大人・・・って感じです。
気がついたらユニークPV500を超えていました。
ブックマークもありがとうございます。
何とか完走出来るように頑張ります。




