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コブシの魔術師  作者: お目汚し
11/65

パンチの本質

まだまだ無双には程遠いですが、ちょっと強いルキノ君です。

余計な口をはさんでしまった・・・

正直言って、いま、この場にこの状況を治められる人間がいない・・・

いるとすればマーリン校長だろうが、ここにはいない。

訓練場の皆が固唾を飲んで状況をうかがっているが、好転はしないであろう・・・


「スケイル君、まあ、ルキノ君はまだ君たちのことをよく知らないんだし・・・」


「それを教えておくのがセンパイの仕事じゃなかったんですかねぇ」


場を取り持ってくれようとした最年長者の言葉を、助さんがあっさりとくつがえす。


「センパイがきちんと躾けてくれていないから、我々が苦労をするんですよ」


そういうと、助さんが獰猛な目でオレを睨み付けて迫ってきた。

うわ、ちょっと怖いかも・・・


「待ちなさい、スケさん」


と、ご老公・・じゃなかった、ミツクーニが止めた。おお、思わぬ援軍か?!


「あなたばかり苦労を掛けては、主格としての立場が問われます。よって、そこの生意気な者の相手は、わたくし自らがいたしましょう」


そういって、ミツクーニが出しゃばってきた。


「は、主様がそうおっしゃるならば、お任せいたしてもよろしいですか?」


助さんはニヤニヤしながら、


「主様に稽古をつけていただけるのだ!存分に楽しむがよい」


そういうと、ミツクーニに立ち位置を譲った。

オレは、どうすることもできず、とりあえずうずくまっているジョセフ君の所へ行くと、肩を貸して訓練場の端に連れていく。


「負け犬同士の傷の舐めあいか、まあ良い、早くせよ」


ミツクーニはそういうと、ウォーミングアップとばかりに、腰の剣を抜き放つと、素振りを始めた。

おいおい、木剣じゃないのかよ。


「ルキノ君、ごめんね。僕のために・・・」


ジョセフ君が苦しいながらも、必死で話す。


「いいよ、僕が自分で蒔いた種だ。何とかするから、休んでて」


オレはそういうと、先輩にジョセフ君に治癒術をお願いすると、訓練場の真ん中に立った。

普段は、10数人で訓練をしているため、それほど広くも感じない訓練場だが、こうして一対一で対峙するとなると、バスケットコート2枚分くらいはある。

オレは木剣を手にすると、こっそり琴ちゃんを呼び出す。


この状況で、何かいい手はある?


”マスターの思うようにされるのがよろしいかと思います”


頼もしいようで無責任な一言。このままでも何とかなるってこと?


”助言をお望みでしたら、今晩解放するつもりでした、スキル:鑑定を起動することを推奨いたします”


と言われても、どうすればいいのか?


”スキル:鑑定 は、マスターが起動した場合、そのまま、マスタースキルとして起動されます。その結果、ミツクーニの装備、およびミツクーニのステータスを見ることができます。それにより、戦略が立てやすくなるかと思われます”


おお、そんな便利スキルがあるのね。で、どうやって起動すれば・・・


「さて、準備も整ったようですし、始めましょうか」


まてまて、まだ整ってないって・・・と思った瞬間、ミツクーニが一気に間合いに入ってきた。


「それ!」


カッ!!


ミツクーニの打ち込みをとっさに木剣で受けたが、根元から切断されて、吹っ飛んでいった・・・


「おや、思ったより良い反応をしますね。スキルも使えないと聞いたのですが」


そういうと、自分の剣の切れ味にうっとりするように、剣を眺めている。


「お前にも、真剣を使うことを許可しましょう」


と、言ってくる。


「お待ちください!!いくら主様がお強いといっても、万が一、かすり傷でも負われたら一大事、ここは木剣で」


と。格さんが間に入る。


「そうか、では、早く新しい剣を持ってまいれ」


すかさず、新しい木剣を手に、格さんがやってきた。


「スマンな、ケガをしないうちに、降参してくだされ」


格さんは小声でそういうと、オレに木剣を渡して、下がっていく。

あれ?3人とも悪人ってわけじゃないんだ。

と、そんなことより。


「ちょっとタイム!!1分待って」


オレは、そういうとそそくさと訓練場の端に下がると、準備体操を始める。


「なんだ、そんなこと先に済ませておけ!!」


助さんが苛立たしげに言ってくる。


「まあよい、先の動きも思ったよりはよかった。楽しめそうじゃ」


そういってミツクーニがほくそ笑んでいる。今に見てろよ・・・


そう思いながら、こっそり琴ちゃんに教わった起動方法を試してみる。

ミツクーニの後ろにある魔素が、ミツクーニの体の中を通って、目の前にステータスウインドウの形で収束するイメージ・・・

オレは目を閉じると、ここ最近鍛えてきた魔素を感知する能力を全開にして、肌で魔素を感じる。

レーダーのように、魔素の位置を肌で知覚し、それが3Dマップのように、脳内で変換され、その魔素の一部に魔力が流れ込むと、ミツクーニのすぐ後ろに位置していた魔素が、ミツクーニの体を通り抜け、情報を持った魔素としてオレの前に展開した。

目で見るのではなく、感じる。そう思いながら目を開くと、そこにステータスウインドウが広がっていた。


種族:人間

名前:ミツクーニ・ミトン

性別:男

職業:貴族の子

称号:貴族 魔法見習い 剣術見習い マジックアイテム使い 七光り いじめられっ子  


レベル6

HP:120

MP:100


力(攻撃力):45 魔法剣ワールドエンド(模造) 500

頑丈(防御力):50 オリハルコンの胸当て 300 詠唱の籠手 100

体力(抵抗力):35 水糸の衣 100

精神力(魔法抵抗力):40 魔封じの指輪 100 詠唱の指輪 20

素早さ(瞬発力):30 神速のブーツ 450


スキル:火魔法 Lv2 水魔法 Lv1 剣術 Lv2(剣技 Lv2) 無声詠唱 



おお!

自分のものより幾分ぼんやりしているが、中身はわかる。瞬発力ってステータス、オレのになかった気がするな?

自分以外のステータス、初めて見たから何とも言えないが、MPって100もあるんだ。などと感心していたが、装備の名前も書いてあるので、それに注目してみると、いきなり、ウインドウが開く。


魔法剣ワールドエンド(模造)

 この世のすべてを切断するという、絶対切断スキルを刀身に宿らせた魔法剣の模造品。絶対切断スキルではなく、相対切断スキルを付与されており、ほとんどのものは切れる。こんにゃくは切れないことがある。



???なんだ、この面白い説明は!!

他の装備も気になるが、でも、模造品とはいえ、攻撃力500アップってすごくないか?!


「さて、準備はよいか?」


ミツクーニが聞いてくる。


「あ、ああ、大丈夫。始めようか」


オレはとっさにそう答えると、訓練場の真ん中に戻った。

ミツクーニのステータスは、邪魔にならない程度の大きさになって、見える位置に浮いている。まあ、内容は覚えたけどね。


「では、参るぞ!」


そういうと、また一息で間合いを詰めてきた。

こいつは、神速のブーツとやらの効果で、かなり早く動けるようだが、


「ふっ!!」


ミツクーニの放ったスラッシュを、オレは左足を半歩引くと、そのまま半身になって、かわしながら、ワールドエンドの刀身の腹に木剣を打ち込む。


キーン!


と、甲高い音を響かせて、大きく軌道を変えたミツクーニの斬撃が空ぶりする。



「む、小癪な」


ミツクーニは少しイライラした様子で、間合いを一度とると、再度、突進してきた。


「はっ!!」


今度は、先ほどよりも気合を込めた斬撃が打ち込まれてくる。Lv2剣技スラントだ。

再び、オレは左足を引きながら半身を!!!足が滑った!!足元を見ると、さっきまでは無かった泥濘ができている。

横目で見ると、スケイルがスプラッシュを発動し終わっていた。ズッコイ奴らだ。

オレは、そのまま逆らわずに足を滑らせると、木剣で再びワールドエンドをはじく。


カッ!!


という音とともに、木剣は真っ二つになり、半分くらいの長さになった。


「待たれよ!!木剣を交換・・・」


格さんが割って入ろうとするも、


「実戦で剣を失ったからと言って、相手はそう何度も待ってくれるのかのう?」


そういいながら、ミツクーニがまた、突進してくる。

足元を見ると、また、泥濘・・・ちょっと、お仕置きが必要かな?

オレは、思いのほか冷静だった。


ゴブリンと戦闘したとき、パンチの威力に驚いたせいで、あの時の感覚について、オレは勘違いしていた。

正確には、「パンチ」というスキル名のせいで、本質に気が付いていなかったのだ。

パンチの最大の特徴は、その攻撃力の高さ。しかも、それが調節可能だということ。そのうえで、神羅万象や琴ちゃんまでついてくる

おまけ付きなスキルだったわけだが、実際は、そのパンチを使うための、下地も付与される。


ミツクーニの突進をさばきながら、半分になってしまった木剣をたたきつけるようにワールドエンドにぶつけ、

再び立ち位置が入れ替わる。と同時にミツクーニの手には、火魔法の発動を意味する、赤い魔素が集まっている。

良い判断だ。オレは冷静にそれを認識しながら、同時に、腰のあたりに漂う魔素を両腕にまとわりつかせる。

あの時、これをやっても何も起きなかった。そう思っていた。だが、あの時にこれをしていなければ。


「棒立ちか!!食らえ、ファイヤ・ボルト!!」


発動と同時に、ミツクーニのステータスからMPが20減った。ボルト系の攻撃力は10、つまり攻撃力200。

ケガじゃすまないぜ!


オレは、まっすぐに飛来したファイヤ・ボルトを


ヒュボ!!


「な!!!」


コブシで叩き消した。


実際には、あんなファイヤ・ボルトくらい、食らっても何ともないことは承知の上だが、さすがに、公にするのはまずいだろう。

というわけで、パンチを発動して、問答無用で魔法の魔素干渉を叩き潰したわけだが・・・これも問題か??


「貴様、何をした!!私の魔法を・・・、認めぬ。認めぬぞ・・・・これでも食らうがよい!!」


そういうと、何やらきな臭い魔素がミツクーニの手のひらの上に集まり始めた。あれは、火と水?


「私が開発した新魔法の威力、味わうがよい!!」


そういって、魔素を解放しようとしているが、あれは、水蒸気爆発か?

訓練場みたいな密閉空間で、あんなもんを実行されたら、みんなで仲良く火傷だな。あ、ミツクーニは装備のせいで問題ないってことか・・・


どこまでも自分勝手な奴だと思いながら、パンチの発動した腕を、軽くジャブの要領で集まってきた魔素に向けて打つ。


ピッ!!


という鋭い音とともに、手のひらの上に収束していた魔素が、一瞬で吹き飛ばされる。


「フレア・ボム!!」


ミツクーニが手をオレに向けて突き出し、同時にみんなが伏せる。

ということは、この魔法、初めて使うわけじゃなさそうだ。みんな対処を知ってるみたいだし。

ただ、状況が以前とは違う。まるで、ミツクーニの魔法が失敗したような感じになっている。

発動しない魔法に、一瞬呆けたような表情をしながらも、すぐに顔色が憤怒に染まる。


「おーのーれー・・・また何かしよったな。許さん!!直々に叩き切ってくれるわ!!」


目が殺気立ってますよ。


「死ねー!!!」


そういうと、性懲りもなく飛び込んできた。ご丁寧に足元の泥も結構な広範囲に構築される。


で、パンチの効用についてだが、あの時、オレは魔素・・・あの時は魔力の流れだったわけだが、

それを収束させて何かできると思ったが、何もできなかったと思っていた。実際には、あれがパンチの起動と発動の要件だったわけで、

朝、顔を洗う時に雲に穴をあけてしまったのも、周りの魔素を無意識のうちに取り込んだためだと思われる。で、発動した後どうなるかだが、

ここまで考えたところで、目の前に、ものすごい形相のミツクーニが迫っている。裂ぱくの気合が込められているであろう、ワールドエンドも

完全にオレを袈裟切りに切り裂く軌道で、ご丁寧にスラッシュにMPブーストをかけて打ち込んできている。この時点でミツクーニの残りMPは10を切っている。

ミツクーニって、結構まつげ長いわ。あと、貴族の出というだけあって、顔だちもむかつくほどイケメンで、金髪碧眼ってやつだ。名前はご老公のくせに。

そういえば、こいつも称号に「いじめられっ子」があったな。そう思うと、親近感も沸くかな?


なんて、のんびり考えられるのも、パンチスキルのおかげだと気が付いたのだ。

ゴブリンの時も、どう考えても11歳のレベル3の子供が、同時に5体も相手にできるわけがない。まして、反撃なんて無理に決まっている。

それを、一人で撃退できたのはなぜか?答えは、唯一起動できていた、「パンチ」にあったわけである。

恐ろしいほどのチートスキルだ。だが、ここ数日、訓練場で魔素を見てきたのは伊達じゃない。


オレは、目の前に迫ったワールドエンドの刀身を、ショートフック気味の右で粉砕すると、そのまま、胸当て、籠手、ブーツと、自慢の装備をすべて粉砕した。中身には被害の及ばないよう、細心の注意を払って。


ついでに、足元に展開された泥の中に、ミツクーニさんがキチンと収まるように、威力を調整して、チョッピングライトで叩き落とす。


「ふげっ!!」


べしゃ!!


っと、ミツクーニ様が、泥パックでお顔全体をケアされて、なおかつ、装備がことごとく粉々になっている。

泥でべとべとになっていることと、自慢の装備がボロボロになっていることに気が付き、呆然としているミツクーニ


「すみません。よくわからないんですが、もう少し教えていただけますか?」


オレが、人懐っこい笑顔で迫ると。


「いやだー!!!あっちいけ!!おうちに帰るーーー!!!」


と、大騒ぎしながら、装備の破片を一生懸命拾って、帰って行った。

当然、助さんも慌てて追いかけていったが、格さんは、律儀に、集め損ねていた装備の破片を丁寧に拾い集め始めた。

オレも悪い気がして、拾うのを手伝う。ついでに、マーリン校長に頼めば、修復も出きるであろうことを伝えた。


「かたじけない。本来なら、武人に刃を向けるは、殺されても文句は言えないところ、ご容赦いただき、感謝する」


そういうと、格さんは破片を片手に、頭を下げて去っていった。


オレは、そっと腕の周りを覆っていた魔素を、解放する。


「すっげー!!」


気が付くと、訓練場にいた生徒たちが集まってきた。


「今のなにしたの?」


「あんなミツクーニ初めて見た!!」


「スカッとしたよ!!」


今までずいぶん虐げられてきたのであろう、みんなから賞賛を浴びていたが、


「まずいことになったね」


最上級生のアラン先輩が、深刻な顔で言ってきた。

それを皮切りに、沸き立っていた雰囲気が一気に冷えたものに変わっていく・・・


「ミツクーニ様は、この塾の出資貴族のご子息なんだ。今度はどんな無理難題をふっかけられるか・・・」


アラン先輩の心配が皆に伝播したように、一斉にみんなが下を向く。


そうは言っても、ジョセフ君をあんな目に合わせた奴らを見過ごすことはできなかった。

こうなったら、毒を食らわばというやつだ。


そんなことを思いながら、同時に、後で琴ちゃんに相談しようとひそかに誓ったのである。。。

技名については、違ってたらすみません。脳内補完でどうにかしてくださると、ありがたいです。

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