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第七章『離隔、それは星々の如く③』

これまでのヴァルハラの王~ケルベロスコール~:冥界の王に謁見したケルベロスどうやら彼には召喚師と契約していることがバレている様子……

 ケルベロスは、ガクガク震えながら門の前に戻ってきた。未だに動悸は激しい。それほどの王の圧だった。

「……これは、気付かれてるな」

 冥界の王にはお見通しなのだ。

ケルベロスが、ハープと召喚の契約をし、人間の道具になっていることを。

 頭を抱える「もう、ここでの仕事はできないかもしれない」「俺がいなくなったら、誰がここの番を?」など考えるが、強権を発動されなかったので「もしかしたら気づかれていないかもしれない」と、都合よく答えをだし、仕事に従事する。

「それにしても、俺のことを”変わった”と、言ってたな」

 自覚はなかった。人間は下衆の畜生だと今でも思う。その考えは変わらない、例の一件で更に強く思うようになった。

ハープの顔が頭をよぎる。

 彼女の事は、下衆とも、畜生とも思えなかった。何故、同じ人間なのにこうも違うのか、いくら考えても答えは出ない。気が付けば彼女の事を考えていた。

三つの首を激しく振る。死者が数人、その風圧で吹き飛ぶ。

「くそ、なんだこれ?」

 以前のケルベロスなら人間の事で戸惑うような事はしなかっただろう。これが王の言う変化なのだろうか。

「俺は? ハー……いや、菓子があるからだ! 奴は、地上最高の菓子を作るからな!」

 再び自問自答を始めるのだった。


 冥界の王との謁見から三ヶ月が過ぎた。

この三ヶ月、生きた心地がしなかった。王からなんのアクションもなかった。かと思えば、向こうからケルベロスの所に現れたこともあった。ただでさえ不気味な存在の冥界の王であったが、一層不気味さを増していた。

「これは、完全に気付かれてる。俺のことを監視してるんだ……」

 早くハープに召喚()んでもらいたかった。意識全てを召喚()んで貰いたかったが、行くことはできない。それならば、一部だけでもこの陰湿で不気味な恐怖体制から地上に逃したかった。

 召喚の主導権は、召喚師側にある。いくらケルベロスが早く地上に行きたいと思っても、ハープが召喚の呪文を唱えてくれなければ、行く事が出来ない。

契約によって結ばれてはいるが、離れた場所にいる相手と、意思疎通が図れると言う訳ではない。

「はぁぁ、まだかよぉ」

 そんな、冥界の王の存在に怯える日々を過ごしていると、足元に魔導陣が展開され、意識が引っ張られていく。

「おおっ! 遂にきたかっ!」

 これは念願の召喚の合図!


 ……――――――

 ”魔の力を行使する。我は聖者”


 ”神の力を行使する。我は咎人”


 ハープは詠唱を終える。

 円形の魔導陣が展開され、黒い光柱が天に伸びる。そこから登場するのは冥界の番犬ケルベロス。

 四本の脚でしっかりと着地をする。

「グワッ! 目がっ肌が!」

 相変わらず太陽の下に来ると、このリアクションを取っていた。しかし、これがないとケルベロスを召喚()んだ意味がない。

 ハープは、そのリアクションは気にせず、あらかじめ用意されていた薬草で、ケルベロスの涙を救い上げて口に含み、縄で縛られた老婆へと吹きかける。


 ”脚を天に掌を地に”


 ”瓦解する理”

 ”修繕する夢”


 ”上から下へ、誕生から終焉へ”


 解呪は完了。老婆は苦悶の表情から、安らかな表情へと変わっていった。

「お疲れ様です、ケルベロス」

「お、おう」

 まだ目が眩んでいるのか、ヨロヨロとハープの元へやってくる。本当は飛んで喜びたかった。しかし、平静を装う。「早く召喚よんでもらいたかった」など、子供のようなことは死んでも言えない。


「なんで、こんなに期間が空いたんだ?」

「それは、この街への移動時間と、契約の時に決めましたよね? 『呪いに病む人々を救う為』『私に危険が及んだ時』って」

「ハンッ! 面倒臭いヤツだ」

「……さ、食べるのでしょ?」

 ハープの背後には、テーブル一面に色とりどりのお菓子が並んでいた。

その全てを、ハープが腕によりをかけ、こしらえたのだ。

「当たり前だ!」

 ものすごい勢いで席につき、食べ始める。三ヶ月も、この瞬間を待ちわびたのだ。念願のお菓子を、三つの頭で噛みしめる。

 その姿を見つめるハープの眼差しは、優しさに溢れていた。

彼女もケルベロスの隣に座り、自分の作ったお菓子を食べながら彼の背中を撫でる。

「どうです? 美味しいですか?」

「@:○#$ッ△&/!」

「もう、ちゃんと飲み込んでから喋らなきゃダメですよ」

「……クハァ、久しぶりだったからな。あぁ、美味いぞ。”久しぶり”ってのを差し引いても、今までで一番の出来じゃないか?」

 ケルベロスの背中を叩く。

「ゲホッゲホッ! おい!」

「もう、そんなに褒めても何も出ませんよ」

 その後も、ケルベロスは黙々とお菓子を食べ続けた。そんな、冥界の番犬をハープはみつめていた。

「食事中に申し訳ありませんが、今晩あなたと、大事なお話をしたいのですが……」

 三つある首のうち、ハープ側の頭が縦に振られ、すぐさま食事に戻っていった。どうやら、了解したらしい。

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