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世界はソシャゲで回ってる

作者: 木田原創機

 

 朝起きる、寝ぼけて頭がぼんやりしている。

 いつもの習慣で手は無意識にスマホ――スマートフォンを探す。

「ゲームやらなきゃ」

 枕元に置いたスマホを手に取り、起動する。

 そしてホーム画面から、地球に似た惑星のアイコンをタッチする。


Worldワールド Goゴー Roundラウンド

 ゲームのタイトル画面が現れ、僕はほとんど習慣化した動作でゲームスタートのボタンを押した。


 now loading...の文字が数秒出て、すぐにゲームのメイン画面に移り変わる。

 画面の中は数字とイラスト、パラメーター、ボタンが並んでいる。

 最初はごちゃごちゃして見にくいと思ったが、もう慣れてしまった。

 画面上部には体力(スタミナ)のパラメーターがあり、もう少しで満タンになる。


 僕はさっそく体力を消費して、曜日クエストに挑戦する。

 パーティーメンバーは戦闘要員四体に育成要員一体の五人パーティー。

 体力がゼロになるまで、クエストに行き、レベル上げを行った。


 ゲームをしていると、そろそろ登校する準備をしないと、遅刻してしまう時間になっていた。

 急いで顔を洗って、身支度を整え、カバンを持って家を出る。

 おっとスマホを忘れないようにしないと。

 僕は急いで大学に向かった。


     §


 『Worldワールド Goゴー Roundラウンド

 現在登録数3000万人を突破した大人気のソシャゲ――ソーシャルゲームである。

 キャラクターを集め、さまざまなクエストに挑戦し、敵を倒す。

 そしてキャラクターの育成をし、新たな仲間を増やして、さらに上のクエストに挑戦する。

 ジャンルとしてはRPG(ロールプレイングゲーム)に区分される。


 このゲームには、体力というシステムが導入されている。

 これは他の多くのソーシャルゲームにも導入されているシステムである。

 ゲームを進めるためにはこの体力を消費しなければならない、つまり体力が0(ゼロ)になれば、ゲームを進めることができないのだ。

 体力は時間経過によって回復するので、何もせず放置し続ければ体力がたまり、またゲームを進めるようになる。


 この『World Go Round』は4分で体力が1回復する。(ちなみに他のゲームだと5分で1回復、3分で1回復などがある)

 僕のスタミナの最大値は100なので、0から100になるまで400分――6時間40分かかることになる。

 最大値を超えて回復することはないので、体力をなるべく使い切り、体力が満タンを超えないように長時間放置しないことにしている。(僕の睡眠時間も体力が満タンを超えないように計算している)


 また、多くのソーシャルゲームにあるように、このゲームにも“ガチャ”と呼ばれるシステムがある。

 “ガチャ”とは、簡単に言ってしまえば福引のようなものである。

 このゲームでは煌魔晶(こうましょう)というアイテムを消費をすることによって、“ガチャ”を引くことができ、“ガチャ”に設定されたキャラクターやアイテムを手に入れることができるのだ。


 その中には珍しいレアキャラクターやアイテムがあるが、手に入れられる確率は低く設定されている。

 “ガチャ”にはさまざまな種類があり、ノーマルガチャ、レアガチャ、プラチナガチャ、イベントガチャ、期間限定ガチャなど、“ガチャ”によって設定されている内容が違うのだ。


 そして、このゲームを進める上で重要になってくるのが、先ほど出てきた煌魔晶である。

 この煌魔晶があれば、“ガチャ”を引く、体力を回復できる、キャラクターの所持数の拡張など様々なことが可能になる。


 煌魔晶は課金をすることで手に入れることができる。

 金さえあれば、ガチャを何度でも引け、好きなだけクエストに挑戦でき、キャラクターの所持数制限を増やせる。

 つまりキャラクターの育成や収集が簡単にでき、ゲームも快適にプレイすることができるのだ。


 ソーシャルゲームとして、ありきたりなシステム部分は多いが、キャラクターの造形・豊富さ、目を奪うような各種演出をはじめとして、初心者にはわかりやすく、玄人向けにやりこみ要素があり、広い層に向けて作りこんである。

 誰でもどこでも気軽に楽しめる、現在大人気のソーシャルゲーム。

 それが『World Go Round』なのだ。


     §


 大学で講義を受け、空いた時間に友人と会話に興じる。

 テレビや漫画の話をするが、話題の中心は『World Go Round』だ。

 大人気ゲームなので、僕の周りでもやっている人は多い。


「でさー、うちのサークルの先輩は今月20万も課金したんだって」

「マジで!?」

「マジマジ。期間限定の『エンシェントオメガドラゴン』が欲しいから限定ガチャ回しまくったんだって」


 内心うわーと思う。

 確かに僕もそのキャラクターは欲しいと思っていたが、そんなに課金してまで手に入れようとは思っていない。

 そこまでいくと正直、ドン引きだ。

 そんな適当な会話をする。友人は次の時間、授業をとっているのでここで別れた。


 昼休み、食堂でご飯を食べる。

 この昼食を我慢すれば、ガチャが何回引けるんだろうなと一瞬考えたが、朝を朝食を抜いたので、お腹がぺこぺこだった。

 午後はアルバイトがあるので、ここで食事をとらないと辛くなる。

 僕はそこそこの値段の定食を買って食べることにした。


 昼食を食べた後に『World Go Round』をプレイする。

 スタミナがたまっているので使わないともったいない。

 再びクエストに挑戦し、敵と戦う。

 そこでレアアイテムをゲットしたが、レアリティは☆4。


 キャラクターとアイテムにはそれぞれレアリティが設定されていて、☆1から☆7まである。

 ☆1が価値が低く、☆の数が上がっていくにつれて、手に入りづらさが変わっていくのだ。

 もちろん、☆が高いほど、強力な能力や効果を持っている。


 ☆4は価値としてはそこそこなので、そこそこ嬉しかった。


 今日の午後はコンビニでアルバイトだ。

 接客、レジ打ち、品出し、様々な業務をこなさなければならない。

 品出しの最中、入荷されたお菓子に『World Go Round』のコラボ商品を見つける。

 このお菓子についてくるコードを入力すると、コラボ限定キャラが手に入るガチャができるらしい。

 気になるので、あとで買っておこう。


 仕事をして、休憩の最中に『World Go Round』をやる。

 手元には休憩に入る間際に買ったさっきのお菓子が5個ある。

 全部開けて、コード入力しガチャをやるが、目当てのキャラは手に入らなかった。

 お菓子は自分のかばんの中に入れておいた。


 アルバイトが終わり、電子マネーのプリペイドカードを2000円分を一枚買う。

 もちろん、今週末に課金をするためだ。

 そういえばそろそろ給料日だ、給料がでたら贅沢をして、限定ガチャを10連とかやろうかな。


 そんなことを考えながら、家に帰る前に近くのスーパーに行く。

 商品の値札を見るたび、それが煌魔晶換算され、ガチャが何回できるか考えてしまう。

 半額シールの貼られた惣菜にパスタ、もやしと低コストなものを買う。


 家に帰ると夕食の準備をする。

 インスタントパックのご飯と半額惣菜を電子レンジで温める。

 そしてパソコンを開いて、動画サイトでドラマを見ながら夕食を食べた。

 その後はそのままだらだらアニメやゲームなどの動画をみながら、別窓でSNSを開いて、友達と会話する。


 SNSを見ていると、友人の一人がレアガチャで☆6のレアキャラ『ファンタジア・クリムゾン』を引いたという報告があった。

 そのキャラは能力はもちろん強いが、僕はそのキャラのデザインが好きで、ずっと前から欲しいと思っていたのだ。


 それを見て、僕もレアガチャを引きたくなってきた。

 手元には今日買ったばかりのプリペイドカードがある。

 これは今週末のために買ったもので、今日を使う予定はなかったのだが……。


 頭の中でこれを使うか、使わないか、天使と悪魔がぐるぐる回る。

 どうしよう、無性にガチャが引きたい、引きたい、引きたい!

 そうだ、今日は僕はよく頑張った、一回くらいガチャを引いても、大丈夫だろう。


 よし、引こう!


 そう決めると、行動は迅速だ。

 プリペイドカードを電子マネーに変えて、それをレアガチャ一回分の煌魔晶に変える。

 そして、レアガチャを回す。


 仰々しい演出とともに、金色の輝く長方形のカードが出てくる。

 

 ☆3『ムササビザウルス』

 ……持っているキャラクターだった。

 しかも☆3でレアリティの割にはあまり使えないキャラクター。

 今回こそ引けると思ったのに……、ショックが大きい。


 どうしよう、どうしよう。

 もう一回引いてしまおうかな。

 再び頭の中で天使と悪魔が回るが、欲求にはあらがえない。

 いいや、もう一回引いてしまおう。

 電子マネーを煌魔晶に変える。


 再びレアガチャを回す。


 仰々しい演出の中、僕は強く祈る。

 来い! 来い!『ファンタジア・クリムゾン』!


 カードは光を放ち、キャラクターが現れる――! 


 ☆3『ムササビザウルス』

 ……………。

 さっきと同じキャラクターだった。

 いらねぇ。僕はムササビに呪われているのかもしれない。

 それか、物欲センサーが働いているのかもしれない。

 欲しいと思うから、手に入らないとか。 


 うーん、どうしようかな。

 もう一回だけやろうかな、もう一回くらい大丈夫だろう。

 この一回で最後にしよう、これで絶対最後だ。


 三度目の挑戦。ガチャを回す。


 もう『ファンタジア・クリムゾン』が欲しいという感情を捨て去り、ただただ祈るだけだった。

 物欲センサーを完全に切り、僕は無我の境地に挑む。

 目を強くつぶり、ガチャの演出が終わるのを待つ。


 ………………!!

 ☆5『ヴァンパイア・天魔刹那』

 なかなか強いキャラ、しかも持ってないやつだ!

 これまでの引きの悪さを取り戻す分にはいいキャラクターだ。


 『ファンタジア・クリムゾン』は出なかったがまあ、いいだろう。

 もう一度ガチャを引きたい欲求にかられたが、なんとか抑える。

 あと一週間耐えれば、贅沢できるのだ。それまで我慢我慢だ。


 僕はSNSで『ヴァンパイア・天魔刹那』を引いたことを報告する。

 明日も朝から授業がある。そろそろ寝なければ。

 パソコンを電源を消して、歯を磨く。

 寝間着に着替え、電気を消した。


 ベッドの上、横になりながらもゲームを続ける。

 クエストを受けて、体力を0にしないと。

 黙々とクエストをやり、体力0になるのを確認したあと、ゲームを終了する。

 そしてスマホを枕元において、眠るために目をつぶった。


 その暗闇の中、僕は考える。


 何かおかしくないだろうか。

 何かおかしくないだろうか。


 僕は一日を振り返る。

 朝起きて、ソシャゲをして体力の数値を0にする。

 昼にはソシャゲの話をして、昼休みにはたまった体力数値を0にする。

 午後はアルバイトをして、休憩中にはソシャゲをする。そこでコラボガチャをやった。

 夜はSNSをやりながら、ソシャゲをやって、ガチャの結果で一喜一憂していた。


 僕の生活はソシャゲに縛られていないのだろうか。

 僕の日常はソシャゲに振り回されていないのだろうか。


 いや違う、僕は考え直す。

 何もおかしくはない。


 友人の先輩のように大量に課金しているわけではないし、一日中かじりついてソシャゲをやっているわけではない。

 それにさっきだって、ガチャを三回引いたあと、もう一回引きたいと思ったが、自分をコントロールして我慢できたのだ。

 これくらい、みんなやっている。

 だから、何もおかしいことはないのだ。


 明日起きたら、どのダンジョンに挑もう、どのキャラを育てようとゲームのことを考えて、僕は眠る。


     §


 都心、高層ビルが立ち並ぶ中、あるビルのある一室。

 ソーシャルゲーム『World Go Round』の運営会社、その管理室である。


 その部屋には大量のサーバーが置かれており、それらはすべてはケーブルによって一つのコンピュータにつながれていた。

 異質を放つ巨大なコンピューター、これは『World Go Round』を管理しているマザーコンピュータだ。

 高性能AIが搭載されており、与えられた様々な情報を並列して処理している。


 そのコンピューターの前に二人の男が立っていた。

 スーツの男と白衣の男。

 スーツの男がもう一方に話しかける。


「どうですか、状況は?」

「現状は問題ありませんね。今月のアクティブユーザー率も約80%と高い数値です」

「すごいですね! やはりこのAIのおかげなのですね」

「ええ、ゲーム登録時に得られるプレイヤーの情報とゲームから得られるログイン時間、ゲームプレイ時間、そしてゲームのプレイスタイルなど様々な情報を集計し、キャラクターやクエストの内容、そしてイベントなど最適なプランを展開する。すべてはこのAIのおかげですね」


「これで多くのプレイヤーをゲーム依存させる、恐ろしいシステムですね」

「でも、まだまだ課題は残っています。真の支配とは支配されている側が自分が支配されていると疑問を持たないこと。長時間プレイや大量課金しているプレイヤーがいますがあれはやりすぎです」


 白衣の男は説明する。

 登録数約3000万人、アクティブユーザー率は約80%。つまりおよそ2400万人の人間がゲームをしている計算になる。

 例えばアクティブユーザーが一人一か月に1000円課金していたとして、全体の売上は240億円になる。

 金は十分にもうけているのだ。


「課金のやり過ぎで社会問題になって騒がれる方が我々の目的の障害になります。次のゲームを作るときはそれに気を付けなければなりません」

 ソーシャルゲームの寿命は短い。

 短ければ3か月で終わってしまうゲームがあり、人気作品でもどのくらい持つかわからないのだ。

 まあ、このゲームが飽きられても、また別の似たようなシステムの似たようなゲームで同じことをすればいい。


「みんなゲームに夢中になる。課金をするために金を稼ぎ、金を稼ぐために頑張って働く。世界中のみんながソシャゲに依存――いや、夢中になれば、きっと争いも戦争もゲームの中だけのものになる。みんなソシャゲのことだけを考えれば世界は平和になるのです!!」

「あはは、それは言い過ぎかもしれませんが、もっとたくさんの人間を支配できればいいですね」


 ゲームで人間を支配する。

 世界は回るワールド・ゴー・ラウンド。これから世界はソシャゲで回るのだ。



一応ソーシャルゲームのことを調べて書いたつもりですが、筆が足りなかったらすみません。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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