宇宙人(転校生)に宇宙人(生徒会長)をぶつけてみた
「皆!彼の事を悪く言うんじゃない!」
とある王道の学園の食堂にて、机を叩く音と生徒会長の声が室内に響き渡る。
会長の顔は険しく、そんな会長の様子に泣きそうな顔をしている者もいた。
事の発端は季節外れの転校生。彼は生徒会役員達を次々と虜にし、逆ハーレムを築き上げたのだ。容姿はテンプレ通りのもじゃもじゃのかつらに瓶底眼鏡。言動はとにかくうるさい。
親衛隊達はそんな転校生を認められる筈もなく、今もまたひそひそと悪口を言っていた。
そしてその悪口を聞いた会長が怒り、冒頭の台詞を叫んだという訳だ。
「いいか、よく聞いて欲しい。俺は彼の事を悪く言って欲しくないんだ、なぜなら…」
険しい、から真剣な顔に変わった会長に誰かがごくりと喉を鳴らす。
ここで彼を愛しているからだ、などと言われたら親衛隊は発狂するかもしれない。
「きっと彼は闘病生活で辛い毎日を送っていたからに違いないからだ!」
会長の斜め上どころか明後日の方向に全力疾走している言葉に全員が呆気にとられる。
ところが会長はそんな空気に構う事なく、拳を握り熱弁をふるう。
「何故彼はかつらを被り瓶底眼鏡などをかけているか。病気の薬の副作用により髪が抜けてしまったのかもしれない、もしかしたら酷い火傷を負ってしまったのかもしれない…目だってそのせいで悪くなったかもしれない。きっとコンタクトレンズが合わない体質なのだろう、そうなると眼鏡を使うしかないじゃないか!」
最初は呆気にとられていた生徒達も、会長の雰囲気に飲まれ何やら納得し始めている。
そんな会長の言葉はまだまだ続く。
「その不衛生なかつらにしても、きっと小さい時に酷い事を言われて以来片時も離せなくなったのだろう。子供というのは残酷だからね…。辛い闘病生活に残酷な言葉…きっと幼稚園、小学校、中学校と学校などにも通えなかったのだろう…」
会長は悲しげに眉を寄せて俯く。彼の様子を見て生徒達は痛ましいものを見るような目になる。
「故に!転校生は幼稚園に入る前の幼子同然!人生の先輩である俺達が教え導く必要がある!」
会長は大げさな程の身ぶりと共に声を大にし強く言い切る。
周りの生徒達はもはや完全に会長の演説に聞き入っており、流石会長は違うと目を輝かせていた。
「見た目が同世代だから苛ついてしまうのは分かる。しかし中身は3歳児なのだ。皆、どうか暖かい目で見守ってやって欲しい」
会長はそう締めくくると生徒達をゆっくりと見回す。
次の瞬間、割れんばかりの拍手が起こり中には嗚咽を漏らしている者さえ居た。
「流石会長!なんて慈悲深い!」
「会長のお言葉、感動しました!」
「小さい子供に対して僕達は…なんて恥ずかしい…」
「転校生!僕達をお兄様って呼んでいいよ!」
などなど、転校生に対して周りの生暖かい言葉と視線が集まる。
それに我慢ならないのが転校生だ。怒りから顔を真っ赤にして近くにあったテーブルをひっくり返して癇癪を起こす。
「酷い事言うなよ!3歳児とか俺に謝れ!!」
今までならば眉を寄せられていた行為。だが今は会長の言葉により周りの目は暖かく仕方ないな、と苦笑が漏らされる。
「こら!怪我したら危ないだろ」
「誰か清掃員呼んで!」
「お兄様達は怒ってないから、ちゃんとごめんなさいしようね?」
完全に幼児扱いである。
転校生は更に癇癪を起こしたが、学園のお兄様達は幼子には寛大だった。
可愛いなどとは決して思わない。それでも人生の先輩として幼子を精一杯導こうという気持ちになったのだ。
全ては素晴らしい演説をしてくれた会長のおかげである。
そんな様子を、当の会長は微笑ましいものを見るような顔をして見守っている。今まで会長が転校生に向けていた微笑みだ。
親衛隊はその事に気づいて納得する。
幼子なのだから、『お兄様』が面倒をみるのは当然だと。
「会長!これはどういう事です!」
眼鏡のクールビューティ、敬語系の副会長が会長に詰め寄る。会長は彼の言葉に目を瞬かせた。
「厨二副会長。どう、とは?」
「ち、ちゅう、に…?」
「だってそうだろ?『本当の私を理解してくれるのは転校生だけです!』とかさ。大丈夫、将来床を転げ回りたくなるかもしれないけどこの病気は治るから!」
無駄にいい笑顔で副会長の肩を叩く会長。あまりの言いように氷の顔と呼ばれる副会長の顔が崩れた。
「「かいちょー!転校生くんいじめないでよ!」」
「いじめてないぞ?年長者として慈しんでいるだけだ」
今度は会計の双子が会長に抗議する。しかし会長は全く気にした様子はなくさも当然、と言い切った。
「「転校生くんは唯一僕達を見分けてくれたんだ。その転校生く」」
「何だ、双子は見分けて欲しいのか」
双子の言葉を会長が遮る。その後に親衛隊の者からペンを借り、双子から名前を聞きだし制服に思い切り大きく名前を書いた。
「「ああー!!」」
「てっきり見分けて欲しくないから同じ格好をしてるかと思ったよ。見分けて欲しいならそれなりの格好をしろ」
会長は容赦なく言い切り、周りの生徒もさり気なく会長の言葉に頷いている。
「ちょっ、会長流石に今のは…」
「ああ、書記。実は書記には聞きたい事があったんだ」
「え?あ、うん。なに?」
チャラ男書記がやや引きつった顔で会長を止めようとするも、逆に書記の言葉が会長に止められる。
「誰とナニをしようが責任を持てる範囲で好きにすればいいが…ちゃんと性病チェックをしているか?」
会長の言葉が聞こえた周囲の生徒が一気に書記から距離をとる。しかも憧れの人に向けるとは思えない嫌そうな顔で、だ。
「ひっど!俺そんな持ってないから!!」
「だが不特定多数といたしているだろ?相手の為にも一度受診した方がいい」
焦る書記に、会長はあくまでも善意で病院の名前や住所が書かれている紙を渡す。
書記はガチ泣きした。
「かいちょ、皆いじめる…駄目」
今度は無口系わんこ庶務が会長の前に出る。
「庶務、何度も言っているがその片言を直せ。社会に出る前である今がチャンスなんだぞ?」
「転校生、無理しなくていいって…言ってくれた。分かってる、て」
「いいか庶務、甘さと優しさは別物だ!」
庶務にしては頑張って喋った言葉を会長は一刀両断する。
「本当の優しさとは、例え罵られようと疎まれようと本人の為になる事を指すんだ!故に俺は言う。庶務!その片言を直せ!それでは社会に通用しない。お前は一生社会に出ないつもりなのか!!」
「ーっ…」
会長の言葉に息が詰まり俯く庶務。
庶務は転校生の言葉に甘えきっていた自分が恥ずかしくなり唇を噛む。
「会長…俺…俺、頑張る。今までごめんなさい。明日から生徒会の仕事もするから…」
俯いていた庶務が顔を上げ、意を決したように真っ直ぐ会長を見つめ拳を握り宣言した。
親衛隊は庶務の言葉に感動し瞳を潤ませる。
このままハッピーエンドに一直線のように思われたが…。
「あ、別にお前らの手伝いはもう要らないぞ」
あっさり告げられた会長の言葉。
庶務は勿論、他の生徒会役員も目を見開き言葉を失う。
「俺の親衛隊が手伝ってくれてるからな。好きなだけ転校生に構ってやれ」
「そんなっ!役員以外に重要書類を処理させるなど…」
「俺が全責任を負う事を条件に校長から許可をもぎ取ったから、心配するな」
復活した副会長が会長に食ってかかるも笑顔で返され今度こそ黙る。
「そうだ、仕事放棄して即日に特権はなくなってるぞ、お前ら。出席日数とか課題で留年しないといいな!」
そしてきっちりとどめを刺され、副会長以下役員達はその場に崩れ落ちた。