プロローグ
ちなみに、このお話の舞台のイメージはモデルがありますので先に紹介しておきます。
「にじのみずうみ」というイタリア民話の絵本でいわさきちひろさんがとても綺麗な絵を描いています。
感銘を受けたわりに、絵本とは程遠い黒い話ですけどね……(遠い目)。美しい世界のイメージだけは!!
目を刺すほど鮮やかな森の緑。
澄み渡った空の青。
花々の赤、桃色、黄色に菫色。
それらを映し込み、まるで虹を溶かしたような美しい七色の湖、レテ。
昔から妖精が棲むと言い伝えられているその湖の畔で、私は妖精に会った。
湖のほぼ中央で湖面にひっそりと佇み、飛来した小鳥と戯れる様が雪のように可憐で儚げな、美しい湖の妖精に。
その姿形は――湖面に佇んでいるという不可思議を除けば――人と変わるところはなかった。羽もないし耳も尖っていない。体が水のように透けているとか、手のひらに乗りそうだとか、そんなこともない。
けれど、その儚げな美貌は妖精と呼ぶのに、あまりにも相応しかった。
声を掛ければ消えてしまいそうな乙女の姿に、私は言葉もなくただ見とれた。
妖精と戯れていた小鳥が私の視線に気づいて飛び去った。
小鳥を見送った後、妖精がゆっくりと振り返る。
光を浴びて空気に溶けていきそうな銀色の髪が、透けそうなほど白い肩をさらさらと滑り落ちた。
菫色の澄んだ瞳が細められ、桃色に色づく唇の端がわずかに上げられる。
ほほえみとともに、鈴の音のような可憐な声音がこぼれ落ちる。
「――私と遊んでくれる?」
記憶はそこでぷつりと唐突に切れている。
まるで、夢だったかのように。