王道主人公と脇役主人公と、傲慢貴族
【サンダーランス】が水柱を貫いた瞬間に、キヨは風の初級魔法【ウィンドボール】を地面に当てて砂ぼこりを立たせる。
そして、【アクアゴート】を囮にする。モブ先生が上を見ることを予想していたキヨは、囮が上に向かった瞬間に動く。
【エアリアルホップ】を使い、モブ先生から見て、左真横に一度向かう。そこでまた【エアリアルホップ】を使い、モブ先生の背後をとった。
たったそれだけだ。しかし、キヨのように戦うには『慣れ』が必要であるのだが。
──そして1週間後──
キヨの家では、ピリピリした空気が流れている。というのも、キヨの父親と母親がこんな空気を作っている。
父親の方は比較的キヨに寛容だ。しかし母親は、キヨが嫌いで、ルニアの方が、お気に入りなのだ。
家計を押さえているのは母親。おかげで、特待生じゃないと高等部に行けなくなった。
(……金ないから、特待生じゃなければ学費は出さないとか……嘘だろ……)
おおよそキヨの考えは当たっている。
(ま~たあの糞野郎に、いい顔してぇだけだろっつの……どうせ普通に金あるけど、あの糞野郎の家に、「予想より学費が安かったの、よかったら足しに」とか、言いたいんだろうよ……)
これも正解である。
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キヨは筆記で満点を叩き出し、特待生になった。特待生じゃなかったら学費出さないというのは、親としてどうなのだろうか?
(っと、自己紹介の最中だったな……)
キヨは黒板の前、教卓の後ろに立ち、自己紹介をする。
「キヨ・アルケム。特待生だ。魔力量は4500。属性は水と風、使い魔は……」
「ガルダス・ザーク、魔力量は20000、無属性を使う。よろしく頼む!」
そして、周囲は騒然とする。この学園の新入生の平均魔力値は、7000。更に言えば、無属性しか使えない使い魔なんて、全く使えないのだ。
挙げ句の果てに、そんなコンビが特待生の一人なのだ。驚かない訳がない。
「っははは!おかしいな!こんな愉快なジョークは久しぶりだね。お前が特待生?笑わせるな!」
(あれは確か……マル家のフォイだったか?)
笑い、ついでキヨに敵意を向けるのは、フォイ・マル。金髪金目、背はおよそ170㎝の上級貴族だ。
マル家の、フォイの両親は民に優しい政治をしているが、フォイは民に対して乱暴を働いているという噂があったなぁ……なんて、キヨはのんきに考えていた。
「僕のようなエリートでなく、貴様みたいな平民が特待生?イカサマをしたに違いない!おい、平民!特待生の証であるそのネクタイを渡して貰おう!」
特待生の証は、学年カラーである赤と、白の縞模様のネクタイ。因みに、一年生の一般生徒は赤一色となっている。
さて、何でフォイがこのネクタイを渡せと言っているかというと、だ。『ネクタイを所有する生徒が、特待生の権利を保有できるのである』としか生徒手帳には特待生について書いていない。
つまり、キヨからネクタイを奪い取り、自分のものであると宣言してしまえば、フォイは特待生になれる訳だ。ただ、これにはいくつか条件がある。
奪い取る場合、決闘を申し込む必要があるのだ。因みに断ることも可能。しかし、譲渡する際は何もない。
今回は、フォイの立場からすれば『譲渡を促している』ことになる。キヨが断れば、フォイはこの後は特待生のネクタイをかけてキヨに決闘を申し込むしかない。
「ふざけろ、誰がやるか」
ガルダスを生徒手帳に入れて、フォイとにらみ合いながら、言葉を紡いだ。
「へぇ……なら、決闘を申し込もうか、平民。特待生をかけて」
「断る。なんのメリットもないじゃねぇか」
わざわざ危険なことをする必要はない。少なくとも、キヨはそう考えている。そして、この判断は正しいと言えるだろう。
「そうか、やはりな!この僕には勝てないと踏んで、逃げたようだな!随分と肝っ玉のない特待生だな!臆病風にふかれた、雑魚め!」
なにやらわめき散らしているフォイを、キヨは無視して自分の席に向かう。下らない。それがキヨの抱いた感想だった。
「キヨは、臆病者じゃない!」
無視したキヨの変わりに、とでも考えたのだろうか。ルニアが机を叩きながら勝手に言い返した。
「キヨは逃げないさ!君みたいな傲慢きちからね!」
(……はぁ?コイツ何言ってんだ?逃げない?何からだよ……)
うるさい、勝手なこと言ってんな、と思ったキヨ。ややこしいことになる前に釘を指そうとした矢先
「そうですわね、この平民は貴方から逃げませんわ!」
ティーシャが先に話を進めてしまった(確信犯であるのだが)。キヨが話を止めるよりも早く、再び事態は暗転していく。