脇役の日常
「はっ、随分と動揺してるな。お前……これで終わりだよ……」
ウィキッドの様子に、キヨはこの戦いの終演を見た。そして、殴り掛かろうと接近してきたウィキッドの腹に掌をあてがい、
「【魔砲・衝】……」
内臓へと直接ダメージを送りつけた。内臓に大きなダメージを負ったウィキッドが豪快に吐血して、その場に倒れる。
「がっ……」
「さて、もう一度聞くぞ。『イルミナティ』のアジトは何処だ?」
倒れるウィキッドに、キヨは再度問いかける。ウィキッドとて、負けたことは理解している。
「嫌……だ、ね……。君、に……教え、る気……は、ない……ガフッ……」
「……ちっ……」
仕方ない、とキヨがウィキッドを拘束しようとした時だった。
「キヨ!!!」
ルニア・アサイラムが乱入してきたのは。ウィキッドはそれを見ると、声を張り上げた。
「レクス!!!」
それに答えるように、外からは魔物の叫び声が響いた。このウィキッドの反応から、この声がウィキッドの使い魔の叫びだろうことが予測できる。
「なっ!?」
ルニアは反応すらできずに、あっさりとウィキッドの使い魔、ウィンドドラゴンの脚に踏みつけられた。
これで事態は逆転した。ウィキッドはそう確信したのだろう。最初の頃の態度へと戻る。
「さて、これで立場は逆、かな?どうなんだい?少年」
「……」
キヨは構えそのものを解いた。今さっきまで練っていた魔力すらも。
「負けを認めるよね?じゃあ、そろそろ」
「お前は何を勘違いしてるんだ?」
「……は?」
キヨの一言に、ウィキッドは固まった。勘違い?一体何を勘違いしているのか。
「俺が構えを解いたのは、俺が動く必要がなくなったからだぜ?」
「なに?動く必要がなくなった?」
「まぁ、こういうことだ」
キヨの言葉と同時に、ウィンドドラゴンが『吹き飛ばされた』。
そこには、王国騎士団の騎士約40名と【魔砲・衝】を放ったらしい掌底を放った態勢のガルダスがいた。
「それじゃあ、後は頼みますよ。王国騎士団の皆さん」
雪崩れ込むようにして闇ギルドの団員を拘束する騎士たち。こうして巻き込まれていくのがキヨ・アルケムのよくある非日常の中の一つなのだ。
さて、こうして闇ギルドの殲滅をおこなったキヨとガルダスの二人。当然ながら事情聴取が再度なされるのだった。
ガルダスの伝言通りには行動せずに突貫していたキヨだが、事情聴取の際にはしれっと嘘をついている。
バレたから突貫しました、と。
兵士たちとてキヨ達だけに事情聴取をしている訳ではないので嘘ということはわかっていたのだが、『まぁ闇ギルド検挙に貢献してくれたし、いっか』と黙認。
ついでに、何をしに来たのか今一わからないルニアも事情聴取されていたりする。当然ながら無駄に人質になっただけなので大人から雷が落ちるだけであったが。
そして学園での処遇である。
キヨは二週間の停学。弱小の、とは言え仮にも闇ギルドとの衝突があった為の罰。という建前での報奨代わりの休暇である。
ルニアは二週間の停学と課題&反省文の提出。勝手に学園を抜け出した上に、どうやってかわからないが闇ギルドへと足を運んで無駄に人質になっただけ、というのはもう救いようがない。
この処遇に関しては、教師間でも色々と声が上がったが、最後は教頭からの鶴の一声で決定された。
そして冒頭の状態になったのだった。
「……そろそろ飯作るか……」
寝転んでいたキヨはソファーから起きると、昼食を作るためにキッチンへと向かう。
しかし、とキヨはこの数日前のことを思い出した。
マグナたちがキヨの帰宅に反応して、ミラの部屋から押し寄せてきたことを。
そして事情を無理やり聞き出してきたことを。
あまりに全員が煩くて、近くにいたマグナの顔に水をぶっかけてそれが目に直撃してマグナが悶えたことを。
キヨの顔を見て、その場にいた全員がガクガクと震えていたことを。
(……ロクなことねぇじゃん……)
この裏で、事態は動いていることをキヨたちはまだ知らない。取り逃がした闇ギルドの人間がいたことを。




