幹部
「……ぶち、殺す……」
先ほどの男とは別の、こちらは痩せている男が、火の槍を投げつけてきた。キヨはそれを身体強化、部分強化した腕でいなす。
すぐに足も部分強化を施して、男に肉薄すると、裏拳をその頭部へと叩き込んで吹き飛ばす。
「自分で飛んで、威力を殺そうとしたんだろうが……」
裏拳を放った握り拳を解き、魔法を射つ。
「【エアスラッシュ】」
風の刃が、痩せている男を容赦なく引き裂く。辺りには鮮血が散り、男が瀕死なのは一目で分かった。ここにいたって、彼らは気がついた。
キヨは自分たちを本当に三下程度にしか思っていない。この魔法だけでやられた男の実力は自分たち仲間が知っている。
ギルド内でも、この痩せた男は決して弱くない。いや、むしろ強い方だっただろうと言える。
そんな男が一つの魔法、二桁にもならない殴り合いだけで戦闘不能なのだ。
「気張れテメェらぁ!!!」
「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」
果たして、誰が声をあげたのかは分からない。が、彼らにはこれで十分だった。心機一転。閑話休題。
裏にいることを誇示すべく、彼らはキヨへと群がった。
「甘いな……」
しかし、それこそキヨの本領を発揮できる状態である。彼の戦い方は、乱戦において最も効果が現れる。
敵の攻撃を誘導、敵の仲間へと当てることで自身の魔力消費を極限まで抑えつつ、敵を確実に減らす。
「【サンダーランス】!!」
「【ダークソード】!!」
「【アクアバード】!!」
「【ファイアウルフ】!!」
雷槍、黒剣、水鳥、炎狼。他にも数多くの魔法が、ギルド内部を飛び交い、お互いにぶつかり消えたり、キヨへ向かったりと様々である。
キヨは【ウィンドエリア】を発動させて、自身を中心とした半径5mを完全に把握する。
学園入学前なら、相当な苦戦を強いられただろうこの状況。しかしキヨは問題ないと踏んでいた。
ギルドでの依頼、ガルダス用の無属性魔法作成と訓練、自身の鍛錬は、確実に実力を引き上げていると分かるから。
キヨへと前から飛んでくる魔法群に、カウンター障壁とでも言うべき自作魔法の一つ、【ムシルド】に魔法強化用魔法【ムグルゼム】を2つほど使用する。
雷槍、黒剣、水鳥、炎狼……それぞれの魔法が障壁へとぶち当たり、術者本人へと戻っていく。
そして、背後からの奇襲を頭を下げてかわす。頭上を、曲刀が薙いだ。
「ちっ……」
「……」
曲刀を振ったのは、筋骨隆々な体にスキンヘッドという、いかにもな風貌の男。その男の舌打ちには欠片も反応せずに、キヨは次の行動へと移る。
近くにあった机を蹴り上げ、前方にいる彼らの視界から外れる。それと同時に後方にいる者たちへの牽制を行う。
「【魔砲・衝】!!」
床へと【魔砲・衝】を当てることで見た目からボロボロなことが分かった床を破壊。埃を撒き散らして目眩ましとした。
「ちっ……風魔法使える奴ら、埃を飛ばせぇ!!あがっ!!!」
声で狙いを付けて、キヨは【アクアランス】を叩き込む。そしてその水の槍を食らった敵を、水を氷に変えて氷漬け状態へと変化させてまた無力化。
このようにどんどんと彼らを手際よく文字通りに『氷漬け』にして無力化する。そこには、手加減も容赦も、慈悲もなかった。
「おやおや、これは一体なんの騒ぎかな?諸君……」
「ボ、ボス……」
そんな中、一人の男がギルドの奥から現れた。
背が高く、整った顔。ルニアと同じく金髪の髪は首の辺りで一つに束ねられている。目は赤く、柔らかそうな顔を強調しているようだ。
「いいから答えたまえ」
「し、ししし侵入者です。そ、それもかなりや、やり手の……」
答えたヒョロヒョロの男を一瞥すると、おもむろに手をヒラヒラさせて退場しろという意思表示をする。
「そう、そこの君が侵入者かな?」
「待ってたぜ、闇ギルドの幹部さまよぉ?」
そんな優しげな男だった彼に、今までの優しげな雰囲気は微塵もない。あるのは、殺気と闘気だけだ。




