学園にて
そうこうしてキヨが不審者の二人を尋問もとい拷問によって話をさせている時。キヨの友人たるマグナたちはというと……。
「……なんでキヨくん、連れてかれたのかな?」
ミラがそう呟く。キヨには呼び出された理由に心当たりはないようだったことが引っかかるようだ。
「まぁ、本人が帰ってきたら聞けるし。今は授業中なんだからね!」
その呟きに答えたのはルピアだった。そう、今は教室中ざわついているが、授業時間内なのだ。
「おら、早く黙らねぇと校庭1000周走らすぞ~」
我らがサカタ担任の、やる気のない割りに良く響く声が教室中を駆けぬけた。案外言ったことはやらせることで有名らしいサカタ先生の言葉に、教室中が黙った。
「騒ぐ気持ちは分かるけども、今は授業中だ。そんな気になるなら当人が帰ってきたら聞け」
言うことを言うと、サカタ先生は板書をする為に生徒たちに背を向けて、黒板にチョークを走らせる。
教室に響くチョークの音が、気持ち何時もより大きかったのは、果たして気のせいか。
さて、そんなことがあった午前中の授業も終わり、昼休み。
「まぁ、あれだろ?また『巻き込まれた』んじゃないのかな?」
屋上にて、マグナ、ミラ、ルピア、セニア、ダルラというメンツがいた。普段ならばここにキヨもいるのだが、まだ帰ってきてはいない。
「まぁ、そうだろうね。キヨのことだから、ルニア関係者なりなんなりだとは思うよ」
マグナの予想に、是と唱えるのはダルラ。彼も彼とて、キヨのことは気になるらしい。授業中は欠片もそんな態度はとっていなかったようだが。
「けど、いくらなんでもアレはシャレにならない感じだよね……」
「そうですよね、王国の騎士が学園に来るなんて……」
「王国の騎士なんて初めて見たわよ、私」
上からセニア、ミラ、ルピアこ発言であるのだが、この会話から分かるように王国騎士団が表に出てくることは多くない。
というのも、多くの場合は各地方の貴族お抱えの兵団が解決に当たるという事情、だけではない。王都にも貴族はいるし、兵団もいる。
王国騎士が動くということは、王国に問題が出る事案が発生しているということを指しているからこんな会話になっていたりするのだ。
「まぁ、何にしてもキヨなら何かしら手を打ってから帰ってくるだろ」
重くなり始めた空気を壊すように、マグナは話を締めくくる。そして購買で買ったらしい昼食を口に運ぶ。
それにならうように、他の面々も昼食を食べる。その近くで、この話を人が聞いていたことなど露知らずに。
「キヨを……巻き込んだ……?」
彼は記憶を遡る。1日前、2日前、3日前……そして、4日前の土曜日のこと。
確か、買い物の帰り、不良らしき人物にポップルとティーシャが絡まれているのを見かけて、二人を助けた。その時に、
「テメェら……何者だ……俺らに手ェ出したんだ……」
「アサイラムだ、「キヨ・アサイラムですわ」って、何を……ちょっと!?」
彼──ルニアが答えようとして、ティーシャに割り込みを掛けられた。部屋で話を聞くと、適当な偽名を使うべきだと思ったためとのこと。
ルニアが名字を告げてしまったので、咄嗟にキヨの名前を被せて即席の名前にすることにしたのだと言った。
「そうだ……キヨ……それに、さっきの皆の話からすると……?」
事件、騎士団、名前。頭に浮かんだのは危険だということだけ。……こいつ、頭かなり悪いよね?
「お昼食べてる場合じゃない?」
ルニアはその場から走り出した。自身の友(一方的にそう思っている人間)を助けるために。
そしてルニアは授業を無断でエスケープした。
無断でなくとも、ルニアが説得しようにも訳の分からない理由になるので認められないであろうことを考えると、まぁ間違った判断でもなかったりするのだが。




