VS魔剣グラム2
「分からない……といったその顔……最ッ高だねぇ……じゃあそのまま、分からないって顔で死んでもらおう!!!」
再び駆け寄るフォイに、キヨは再び機械剣を構える。先ほどはクロスして防いだ魔剣『グラム』に、片一方の機械剣を当てるようにして。
瞬間、魔剣は再びキヨに斬撃を当てるべく、迫ってきた。それはまるで、幽霊のように。
「なぁっ!?」
驚異的な反射神経で魔剣に違う機械剣を当てて防ごうとした。だが、それも徒労に終わる。今度は脇腹に斬撃が入る。しかし、咄嗟に体を逃がしていたらしく、それほど深い傷ではない。
ステップで、フォイから距離を取る。そして、今度はキヨから仕掛ける。
「はぁッ!!!」
二刀流による高速の斬撃が、フォイに襲いかかる。それを、フォイは魔法でそれを中断させる。キヨはそれを予測していたのか、フォイから一度離れ、自身も魔法を使う。
「【サンダーブロック】!!!」
「【アイスランス】!!!」
ビシッと、雷の壁は呆気なく壊され、氷がフォイに迫る。フォイはそれに慌てずに対処した。魔剣を振る。たったそれだけ。たったそれだけで、対処された。
「【アイスランス】が……壊された……のか……」
砕けた氷の欠片が、フォイの周りに散乱する。それが、キヨの言葉を肯定していた。
「あはははは!!!流石魔剣と呼ばれる名剣だな!!!」
(なんだ、あの剣……防げない上に、魔法すら容易く破壊する……)
キヨは、動きながらも観察することを忘れない。今度もキヨからフォイへと接近、二刀流を見舞うべく機械剣を振るう。
「無駄だよ」
しかし、キヨの機械剣はフォイを捉えられなかった。逆に、フォイの魔剣から放たれる斬撃をもらってしまった。
「ぐっ……」
今度は左腕。腹、脇腹よりもはるかに浅い傷。キヨは魔剣の一つ目の謎の、答えを確信した。
「やっぱりな。魔剣『グラム』……だっけな……その剣は防ごうとするものを透過して攻撃できるんだろ?」
ピクリ、フォイの顔が僅かに動いた。無論、それも一瞬だったが。それでもキヨは目ざとくその反応を見ていた。
「その透過に制限はない……無機物にはな……魔法を破壊したのは、その魔剣から漏れ出てる魔力に、俺の魔法が負けたから……そんなところか……」
「……で、どうするんだい?さっさと大人しく特待生の証を渡したまえよ。君の負けは、決まっているんだから……」
「後ろのコイツらのことか?」
バキバキッ。周囲がより強い冷気に侵食された。そして、氷が一気に砕けて、CPも同じく砕けていった。同時に、フォイの捨てゴマにされた貴族たちはその場から消えた。
「ふん……それがどうした」
「顔に焦りが出てるぜ?上級貴族様よぉ……」
「タネがわかった所で、対処法が見つかった訳ではないだろう!!!」
魔剣『グラム』を構えたフォイは、キヨへと走る。それに落ち着いた様子のキヨ。瞬時に、周囲は木に投げナイフを投擲した。刹那。
「うっ!?」
フォイの魔剣が不自然な動きをした。何かに引っ掛かったように、後ろへと吹き飛ぶ。キヨは、してやったり、そんな表情を浮かべた。時間を置かずして、キヨはポケットから何かを地面に放り投げて耳と目を塞いだ。
瞬間、激しい光と音が、フォイの目を焼き、耳を使えなくした。閃光弾。それがキヨのポケットから投げられたものの正体。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!目が!!!耳が!!!」
「お前のその魔剣の透過は、厳密にはお前の視認した無機物しか透過できないんだ。
お前に認識されていないもの……例えば、暗い中では視認の難しい、極細の金属製ワイヤーを使えば、今みたいに弾くことができる。
まぁ、聞こえてないか……あばよ、糞野郎!!!」
キヨの容赦のない、右ストレートがフォイの頬にめり込む。派手に吹き飛ぶフォイに、キヨは追い討ちをかける。
「【アイスハリケーン】!!!」
五つの氷からなる、刺々しい柱が、フォイをその中心に生まれる。五つの柱は回転し、フォイを切り裂いていく。バキンッとCPが壊れる音と共に、フォイは消えた。
残ったのは、生々しい血の跡。砕け散る、刺々しかった氷の柱の残骸、そして、血だらけのキヨ。その姿は、のぼり始めた太陽の光と相まって、血を求めた獣にも見えた。
──数時間後──
「途中で寝てるなんてなぁ……」
「仕方ないよ、キヨくんだってそうとう疲れてたんじゃないかな?リーダーやったり、敵チームの罠から逃げたり……」
「担いでいないマグナに言われる筋合いはないのだ!!!」
愚痴るマグナ、宥めるミラ、そしてガルダスと、ガルダスに担がれた、眠っているキヨ。貴族たちとの戦闘では、[魔力貯蓄器]の魔力と自身の魔力を使っていたキヨは、[魔力貯蓄器]にあった魔力で、自身の傷を塞いだ。
因みに、服の血は水魔法で薄め、服はローブを巻き付けて誤魔化している。傷を塞いだキヨは魔法を解除し、ガルダスにこう言い含めた。
「俺が戦ったことは他言無用だぞ?あいつらには何も言うな。俺は途中から居眠りしてたってことにしておいてくれ……よ……」
キヨはその疲労から、話の途中で寝始めてしまった。そこにタイミングが良いのか悪いのか、彼らが起きてきたのだ。
やむを得ず、ガルダスはキヨに言われた通りに話して、彼らを騙していた。




