これが多くの脇役にある仕事の一つ
「……言ってくれるじゃないか……平民ごときが……」
「はっ……糞みたいなプライドしかねぇガキが吠えるな、見苦しい」
「まぁ落ち着けよ……そこの平民はあんな大規模な魔法使ったんだ。もう魔力なんて殆ど残ってないさ……じっくりといたぶればいいじゃないか」
多くの貴族が、頭に血がのほる中、少数の貴族はつとめて冷静に状況を把握しているように見える。その貴族たちに諭され、再び冷静になった貴族たちは、キヨの様子を伺った。
「へぇ……悪くない判断だな……さてさて……」
シャンッ。キヨは機械剣を一薙ぎした。すると、機械剣はその刃を、刀身をのばした。そう。ダガーは、歪な刀のように、その姿を変えたのだ。
「……機械剣、モード『サムライソード』……」
「機械剣……か……」
貴族の一人が、呟いた。キヨの機械剣は、学年別トーナメントで見せた大剣のモード『ブレイド』、普段から使っている短い刀身のモード『ダガー』。そして今のモード『サムライソード』この3種類へと形を変えることができる。
手数に特化している『ダガー』、威力の高い『ブレイド』、そして、『ダガー』にも、『ブレイド』にも及ばないが、手数と威力のどちらにもそこそこの能力を秘めているのが、『サムライソード』。
機械剣を変型させたキヨは、言葉を紡ぐ。自身に聞かせるように、ゆっくり、それでいて、勢いを感じさせる声で。
「……お前らはいくつか勘違いしてる……一つ、俺の魔力はまだまだ十分ある。2つ、お前らが有利だと考えている人数差は、必ずしも有利だと言える要素ではない。3つ、お前らはとっくに俺の作った籠の中にいる……
お前らの下らない意地も力も考えも……俺が凍らせてやる!!!」
機械剣を構え、貴族たちへと斬り込む。貴族も、いつの間にか構えていた剣や魔法で対処した。
「【アクアボール】!!!」
「【サンダーランス】!!!」
攻撃を防いだ貴族ではない、別の貴族が魔法をキヨへと放ってきた。キヨはそれを冷静に見極める。
「はっ!!!」
魔力を纏った機械剣が、放たれた魔法を相殺した。放たれた魔法と、武器に付加された魔力が完全に同等でなければ、相殺にはならない。一般にはそう言われている。
つまり、キヨの機械剣に付加された魔力と、放たれた魔法に込められた魔力は、寸分の違いもなかったということだ。
「はぁっ!?」
「よそ見する暇なんてないぞ?」
左の機械剣で、すぐ近くの貴族へと斬撃を狙う。それを、自身の槍で防いだ貴族。キヨの背後から、複数の貴族が斬りかかる。
「甘い……」
ガキンッ、貴族たちの剣は氷の剣で防がれた。無詠唱で発動された、キヨの【アイスソード】の魔法である。貴族の剣は、氷剣のナックルガードに引っ掛かり、止まった。
「……行け……」
氷剣が勢いよく射出され、貴族たちの手から剣が吹き飛ぶ。そして射出された氷剣はまた別の貴族へと襲いかかる。
「【ファイアウォール】!!!」「【ダークウォール】!!!」
火の壁と、闇の壁。双璧が貴族たちを狙う剣に対して立ち塞がる。氷剣はそれを
グシャアッ。シュンッ。火と闇の壁、それらは呆気なく壊され、貴族たちを氷が襲った。傷自体はそこそこ深いが、CPが発動するほどの怪我ではない。
「おいおい……まだくたばるなよ?……わざと急所とCPは外してやったんだ……」
倒れる貴族の頭を踏み、冷徹な声で、告げる。その意味は、一方的な蹂躙。
「か、数で押しきれ!!!たかが一人だ!!!」
「たく……言っただろ?数は有利な要素じゃないって……」
魔法と武器を構え、準備する貴族たちに囲まれて尚、キヨはその余裕を崩さない。囲まれれば囲まれるほど、キヨには好都合だ。
「【アイスドラゴン】!!!」
キヨの言葉に従って、氷で精製された龍は貴族たちの前へとその体を具現化した。それを見た貴族たちの顔に驚愕の感情が浮かぶ。
「嘘だろ!?なんでこいつが最上級魔法を使える!?」
「あり得ない……あり得ないだろうがよぉ!!!」
「あり得ないなんてことはあり得ない……いつかの偉人が書いた本に、そんな言葉があったっけな……行け……」
ガァァァァァァァァァァァ!!!氷龍が、さも咆哮したかのような錯覚を覚える。それほどの迫力が、【アイスドラゴン】にはあった。
氷龍は、キヨの周りの全てを凪ぎ払う。魔法も、剣も、貴族たちすらも。そして、氷龍はある場所で全ての動きを停止した。
「……三次元魔法陣……発動……【氷牙天下】!!!」
氷龍と、キヨが周囲に放った銃弾が輝く。それは魔法陣を形成した。吹き飛ばされた貴族たちに、追い討ちをかけるように、空からは大量の氷が降り注ぐ。
いや、それだけではない。降り注ぐ氷は、獣の牙のように鋭く、貴族たちの手に、足に、体に、刺さっていく。そして、刺さった箇所から氷が侵食していく。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
恐怖し、彼らは自身のCPを割ろうとした。しかし、それは叶わぬ夢。体の多くは既に氷に侵食され、腕も固まり、CPすらも凍っていた。
「……さて……と……首謀者は誰だ?」
多数の、動けない貴族に圧力をかけて、首謀者の名前を揺さぶり、露見させる。しかし、ここにいる貴族たちは首謀者を知らないらしい。
「ちっ……」
「……まぁそこそこ、といった所かな?キヨ・アルケム」
キヨの遥か後方。そちらから、声がした。キヨはその声に覚えがあった。いや、多くの貴族も声に覚えがあった。




