転校生の荷ほどきとキヨのツンデレ疑惑
「キャー!!あのゲッチェル様よ!!!」
「うおー!!!この世の春が来たー!!!」
今、一番人気の役者であるリュードミラが転校してきたことは、やはり話題になるようで、クラス中からもみくちゃにされる。そこに、
「皆落ち着いて!!!ゲッチェルさんが困ってるじゃないか!!!」
ルニアの静止する声が届いた。クラスの皆が、少し気まずそうにリュードミラに謝る。
「大丈夫だった?」
キラースマイル(笑)を携えたルニアに、作った笑顔と、形だけのお礼を述べるリュードミラ。
「あっ!!ごめんなさい!!これから予定があるの!!!」
それだけ言うと、リュードミラは荷物を持って、教室を飛び出した。その場には、あっけにとられたクラスメイトたちが残されたのだった。
(まだ荷ほどき終わってないし!!お隣さんに挨拶もまだしてないし!!)
予定と聞いて、おそらくクラスメイトたちは舞台関係のものだと思っているだろうが、リュードミラの予定は、単なる私情である。
リュードミラは、部屋に戻ると、急いで荷ほどきを終わらせる。バタバタと慌ただしい音は、隣のキヨたちの部屋にも届いていた。
「……お隣さんはまだ荷ほどきしてなかったのか?……下手に食堂に行けねぇなぁ……」
「だのう……」
「まあ別に食堂で食べるって選択肢しかない……なんて訳じゃないから、いいんだけどな……」
そう言うと、キヨはキッチンに立ち、料理を始めた。取り出したのはパン、キャベツ、ハム、チーズ、トマト、その他色々。今日のメニューはサンドイッチのようだ。
キヨたちの昼食も済み、約5時間後。
「荷ほどき終了……」
バタリッとその場に倒れ込んだリュードミラ。だが、直ぐにお隣さんへの挨拶をしていないことを思い出したリュードミラは慌てて部屋を飛び出した。
「すいませ~ん……」
チャイムを押し、リュードミラはかなり小さい声を出した。すぐにドアが開き、ガルダスが出てきた。
「ガルダスくん、こんにちは!」
「こんにちは!挨拶にきたのか?」
「うん、そうだよ?」
それを聞くと、ガルダスはリュードミラの手を取って部屋へと招き入れた。
「え?ちょ、ちょっと?」
「今日はここで食べてくのだ!!!」
廊下を抜け、リビングへと続く扉が開く。そこには、
「お疲れ様~」
椅子に座ったキヨと、いつの間にか作られたらしい、三人分のシチューがあった。
「え!?キヨくん!?」
「……何で名前しってんだ?てか名前は?」
「リュードミラ・ゲッチェル……って、教室で自己紹介したんだけど!?クラスで席隣だし……ガルダスくんがキヨくんの使い魔だって自己紹介してたし……」
「……なんでガルダスだけ自己紹介してんだよ……同じクラス……あぁ、空席だったとこに来たのお前か……」
カオスな空気が流れる。かといってそのままご飯にする訳にもいかないので、話をするキヨ。
「さて、俺の自己紹介といくか……キヨ・アルケム。平民。筆記での特待生だ。勉強なら見てやれる。で、このご飯は……まぁ、なんだ……昨日来てくれたのに、二度手間かけさせちゃったお詫びだ」
それだけ言うと、キヨは二人を席に促す。そして、シチューが冷めないうちにご飯にした。




