王道主人公はどこまでも横暴
学園ではいつもいる、四人は居らず、ルニアは一人だった。だからだろうか。
「キヨ!!!少し付き合ってよ!!!」
「断る」
「右に同じ」
「いいからいいから!!!」
「断るって……」
「……」
「え~……」
「じゃあな……」
「なら……少し手荒になるけど、我慢してね!!!」
これほどしつこくつきまとうのは。
ルニアは背中からかけた剣の柄を握り、一気に引き抜く。刹那、キヨは振り抜かれた刃を、上体を後ろへ反ることでかわす。はらりと、白髪が、空へ舞う。
「っぶね!!」
ここで、町民が異変に気付いた。たちまち騒ぎは大きくなり、人々は壁側へと避難した。
「ガルダス、手帳に戻ってろ!!」
ガルダスには生徒手帳に入ってもらい、キヨはルニアと相対する。
「……少しくらいいいでしょ?僕と町を歩いたって……」
「はっ……それが人にモノを頼む態度か?」
剣が、煌めく。キヨはそれに反応し、ダッシュでその場から離れる。しかし、ルニアもそれについてくる。
(ったく……なんだってこんなことに……ん?)
しかし不思議だった。こんな場面を見ている町民が、なぜキヨを悪人扱いするのか。が、今はそれ所ではないと、キヨは思考と移動速度を上げる。
(巻くか……どっか適当なところで町の裏路地にでも入ってから、【エアリアルホップ】で屋根の上にいって、見つからないように屋根伝いに動けばいいだろ……)
キヨはこの町の細かい道や裏路地などは把握している。それは、この町で大量の厄介事を片付けてきたからこその知識。
(とは言え……一般人を巻き込む訳にもいかないから……)
「って!?」
「【ホーリーバード】」
発光する鳥が、キヨ目掛けて発射された。それは当然、一直線ではない。複雑な軌道を描いて、だ。キヨとルニアが疾走しているのは、さほど広くない町の道。その左右には、家や商店があるのだ。
「【氷の守りよ その身を以て防げ アイスブロック】!!!」
左右の家々を守るように、氷の壁が出現した。氷の中級魔法【アイスブロック】だ。光属性よりも有利な氷属性と、キヨの魔力コントロールの精度ならば、ルニアの光属性の上級魔法を防げるだろう。
光の鳥は、氷の壁にぶつかりながらキヨへと飛翔する。しかし、それはあらぬ方向へと墜落した。
「【魔砲・衝】!!!」
魔力の衝撃波によって。
(くそっ……このままじゃ町の人に被害が出るな……どこから裏路地に逃げるか……)
素早く判断し、ある家の横を抜けようとした。なぜなら、ある家の横を抜けた先は、すぐに治安の悪い裏路地に繋がっているからだ。しかし、抜けなかった。
「おら!!大人しくしてろ!!!」
「きゃっ!!!」
「へへっ……こんな可愛い子、この世にいたなんてな……」
「早く動きましょうよ……そこでじっくりと……」
俗に言う不良と、それに絡まれた少女が、道を塞いでいた。爆走していたキヨはそんな光景がしっかりとは目に入らず。となれば、当然
「退けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「あべしっ!?」
「あぁ!?よっきゅん!!!大丈夫か!!?」
キヨは勢いを殺さずに、不良の一人の腹に飛び蹴りを叩き込んだ。そして、不良たちを無視して走る前に、飛び蹴りをくらった不良の仲間がキヨを囲んだ。
「て、てめぇ!!!よくもよっきゅんを」
「この女が欲しいのか?あぁん?」
不良どもがメンチを切るのだが、当のキヨはというと
「うるせぇ!!!急いでんだよ!!!【アクアロック】!!!」
不良の手足を拘束。いきなりのことにバランスを崩して倒れた不良の腹部または背骨を踏み抜き、的確に気絶させていく。
「くそっ!!!時間取られた……?あんた、大丈夫か?」
ようやく少女の存在に気付いたキヨは、彼女に手を差し出す。少女の手が、キヨの手を取る……まさにその間を
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!【ホーリーランス】!!!」
光の槍が、駆け抜けた。一瞬で手を引き、体を半身にして、槍と槍の間に入ることでやり過ごすキヨ。魔法をはなったルニアを警戒して、少女に
「さっさと表通りに出ろ!!【ホーリーランス】が来た方向に行けばいい!!」
と叫び、自身は裏路地へと駆け抜ける。
「……今の方は……」
「大丈夫!?」
少女が呆けていると、ルニアが少女へと駆け寄る。そして、少女の顔を見ると、ルニアの顔が真っ赤になった。
(かっ可愛い……//)
ショートカットにしたピンクの髪。二重の、青い大きな瞳。すっと通った鼻に、薄いピンクの唇。美少女、と言えるだろう少女がそこにいた。
「あ、あの……何か?」
「あ、うん……大丈夫?」
「えぇ、一応は……あの」
「あ!良ければ少しばかりお話していきませんか?いい喫茶店を知ってますから!!」
(またか……ヤだなぁ……)
ルニアの反応をみた少女は、またか、と心の中でため息を吐いた。
彼女の周りの男は、皆が皆、揃って彼女の顔を見るや、顔を赤くしてアピールしてきた。そう、一目惚れ。彼女はそれが嫌だった。
外見だけで判断されて、中身を全く見ない男たちが。勝手な想像を自分に押し付けてくる男たちが。
「すいません……このあとは予定があるので……失礼します!!」
「あっ……」
彼女は、ルニアの横を抜けて、表通りに出た。そして、人混みに紛れて、その姿を消した。
「……また……会えるかな……?」
ルニアは彼女の後ろ姿がなくなるのを見届けると、自分の家へと歩を進めた。
その頃キヨは、なんとか乗り合い馬車に乗り込むことに成功。町から離れていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……ったく……アイツ、アホだろ……町中で上級魔法使うとか……」
「おいおい兄ちゃん?そんな馬鹿が、この世にいるわけネェだろ?」
業者のおじさんが、そう言う。が、キヨは答えない。業者も特に言うことがないらしく、馬の操作に専念する。そのため、聞こえなかったのだろう。
「本当に、馬鹿は救えねぇよな……」
その声に、確かな憎しみが込められていた。




