神様は脇役が嫌いらしい
町の人からの、キヨへと向けられる視線は、冷めていた。それこそ、氷の中にいるかのような……否、標高の高い雪山の頂上の空気のような 冷たさだ。
「っ……キヨ」
「ガルダス、いい。いいんだ……どうしようもないことに時間を使うな」
ガルダスが何かを言う前に、キヨが静止させた。目から伝わってくるのは、寂しさと悲しさ、諦めだった。
そんな人達が暮らしている町の作りは、石づくりの道路と、木や石で作られた家や商店などが、ある一点から放射状に広がっている。
中心には噴水があり、当然噴水からは水が放出されている。放出された水により、噴水のまわりには虹が見える。この町の憩いの場として知られている。
そんな町から少しばかり離れた場所には、7大貴族であり、この周辺の領地を治めているアクア家の屋敷が鎮座している。
そんな中を暫く歩き、キヨとガルダスは足を止める。木築の、少しばかり古さの目立つ一件の家。キヨの実家だ。
「ただいま」
「ただいまー!!」
扉を開けて、家に入る。家族がいるであろうリビングへと歩を進め、リビングへ続く戸を開ける。そこにいたのは、黒髪のキヨ。
「お帰り……ガルダスくん、よくきたね?今は私しかいないんだ……」
ではない。リビングの椅子に座っていたのは、キヨの父親。キヨの父親は、ガルダスの頭を撫でながら、母親とキヨの二人の弟と妹がいないことを伝えた。
「あいつらは……勉強か……母さんは?」
「あの二人なら修行に行くとか言って、外に行ったよ。行き先は知らん。母さんはどうせアサイラムさんのお宅にでも行ったんだろう……彼、帰って来てるから」
「うげっ……」
「うっ……」
とたんに渋い顔をしたキヨとガルダスに、苦笑いの父親。
「まだ、巻き込まれているのか……」
「巻き込んでくるから、できるだけ返り討ちにはしてんだけどな……馬鹿は学習しないからなぁ……」
「私の魔法訓練の時間も削られるしのぅ……」
「そ……それは……大変だな……母さんが帰ってきたら、お前らにお説教とかしそうだな……どうせまたややこしい言い回しで母さんにそこらの話をしてそうだ……」
ルニアの会話には、基本的に大きな問題がある。
それは、論理の飛躍。
ルニアは事実の話と、彼の想像がしょっちゅう混じる(もはや妄想と言える)ため、キヨが問題児であるかのようなイメージが町民にあるのだ。
「なら、さっさと帰った方がいいか。たまにはゆっくりしてぇってのに……」
「とか言いつつ、長居する気なんてなかったろ、キヨ……まあ、そのうち帰ってこい」
「了解了解……そのうちな」
父親の言葉に適当な返事をして、家から出る。ガルダスも、キヨに続いて町を歩いている。すると、目の前に何やら人だかりが見えた。
「いま話題のリュードミラ・ゲッチェルの舞台だよ~!!ここで見ないでいつ見るの?今でしょ!!」
「一枚くれ!!!」「二枚ちょうだい!!!」「こっちに五枚!!!」
どうやら、舞台のチケットを売っているようだ。中々の売れ行きなのだろう。売りつけている男の顔はにやけている。
ただ少しばかり気になるのは、そこに群がっている多くは、男であることだろうか。もちろん中には女の姿も見えるが、それも数名だ。
「……ま、いっか……」
足を止めていたキヨは、再び歩き出す。ガルダスもキヨについて歩き出す。乗り合い馬車の停留所へと向かう。
「あ、キヨ!!!」
しかし、そうは問屋が卸さない。ルニアがキヨたちの前にいた。さすがに「ゲッ……」と言う声をもらすキヨだが、そんな声に気づかないルニアは、キヨたちに歩み寄る。




