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SUPPORTING ACTOR - 天落の魔術学園 1st-  作者: MIST・CAT
5th episode 夏季休暇 ─スキルアップ─
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世の中そんなに甘くない

「ようやく一体か……【アイスソード】……」(予想外に早く倒せたな……ガルダスのおかげもあるが、一番大きいのは魔力量と密度か……)



【アイスソード】で、ウッドタイガーの首と胴体を分離させながら、キヨは考えていた。というのも



(……【ムグルゼム】の効果……直接相手にぶつけるのは、相手に身体強化術をかけてるのと変わらないな……投げナイフに至っては大破……)



これからの行動パターンをだ。腕に【アクアヒール】をかけて、傷を癒す。とは言え、【アクアヒール】は所詮、中級魔法。気持ち癒えたかな?という程度しか傷は治らない。



「……魔力量はまだまだ充分ある……ガルダス、予定変更だ。可能ならば、三体倒すぞ」



「三体?分かったのだ……しかしキヨ、腕は大丈夫なのか?」



腕時計から、未だ消えない治療のための水を見ながら、ガルダスは自分の主を心配する。しかし



「大丈夫かどうかは分からん。が、今のところ平気だ」



キヨは何でもない、そう答える。それは経験則からなのか、はたまた無理をしているのか。ガルダスには、全く分からない。



「っと……ガルダス、どうやら三体倒すしかないみたいだぞ?血の匂いに釣られて、二体まとめてやって来たぜ?」



キヨの視線の先には、先程のウッドタイガーよりもデカイ個体。それも2つ。二体の口からは、涎が滴り落ち、キヨとガルダスは嫌悪感を表情に出す。



(俺の魔力量はおよそ中級魔法9発分くらい……ガルダスはまだまだ余裕だろう……[魔力貯蓄器]にある魔力も充分だ……)



キヨはこの二体への対処方法を考える。しかし、ウッドタイガーは待ってくれない。考えがまとまる前に、二体の虎は動き出す。一体は飛びかかり、一体は疾走して。



「「ウボオォォォォォォォ!!!」」

「ちっ!!【エアスラッシュ】!!【アクアウェーブ】!!」



いくつかの鎌鼬を発生させて、空中の虎を押し返す。走り込もうとしているそれは、水圧で押し返した。そして、キヨはガルダスに指示を出す。



「ガルダス、足元に衝を……目を眩ませてくれ……少し離れて準備するぞ!!」

「うん!!【魔砲・衝】!!!」



ボスンと、木ノ葉が舞う。僅かに濡れている為、キヨが思ったほどは舞い散らなかった。しかし、キヨはガルダスを抱えて全力疾走して、その場から逃れる。



「キヨ、アクアウェーブを使ったのは間違えじゃ……」



ガルダスは素直な意見をキヨに言う。だが、キヨは曖昧に相づちを打っただけだ。ある程度ウッドタイガーから離れて、ようやく声を発した。



「アクアウェーブを使ったのは、地面についた血と、匂いを消す為だ。血の匂いは簡単には消えないが、かなり薄くできる。他のウッドタイガーが集まらないくらいにな。


後、血の匂いで俺たちの匂いが薄くなると、あの二体が追いかけてこない可能性があった、というのもある」



さてと、とキヨは腕の状態を確認する。既に【アクアヒール】は消え、血が僅かに垂れていた。薄く膜が張った程度、といった具合だろうか。



「ガルダス……二体同時戦闘は、今までみたいにやってたら時間がかかる。いつもとは違ったやり方にする……いいか?」



作戦は、まずガルダスが前に出て二体を押さえる。その間にキヨは[魔力貯蓄器]の魔力である魔法を発動させる。



ガルダスは魔法が完成次第その場から少し離れると同時に二体を牽制する。そしてキヨは魔法を、二体に確実に当てる。というものだ。



「確実ではないし、俺かガルダス、どちらかがミスすれば直ぐに崩れる、穴だらけの作戦だ……だが、これが成功すれば……」

「分かった!!!やり遂げるぞ!」



ガルダスはキヨの言葉を全て聞かずに、答えた。キヨを信じているからこそ、ガルダスは自身の意思を、答えを伝えた。



「キヨが私を信じているならば、私は使い魔として……その信頼に答える!!!」



信頼という絆。両者にあるのは、まさにそれだった。



「あぁ、頼むぞ……ガルダス!!!」



──二人が作戦会議をしているその頃──



「我が主……二体ほど倒したぞ」



「ご苦労……流石は最上級の使い魔……仕事が速い……」



ズシャリ、と木の鎧を着ていたウッドタイガーの頭を無造作に捨てるのは、シド。いつもの作り笑いはその顔になかった。



鋭い眼光が、悪魔を見ている。もっとも悪魔は、シドの使い魔である、バロスト。体つきは、どちらかと言えば人型。



しかし、顔や手足はまさに獣のそれである。狐にも見える頭からは、長い髪のようなものがある。が、風になびいた髪のような形を不自然に保っているのが興味をひく。



両手には、槍が持たれており、その先端には、かなり大きいウッドタイガーと、それよりは少し小さいウッドタイガー、二体の頭が刺さっている。



シドとバロストが、母親のウッドタイガーを仕止めたようだ。シドはキヨたちをどう探すかを考える。しかし、いい案が出ない。



「いったんここから出るのがいいかな……」



「我が主……探索魔法は使えないのだろうか?」



バロストが、シドに話しかける。それに対して、シドは「あ……その手があったか……」と、間抜けな答えを返した。



「【ダークディメンジョン】……いた!!!」



刹那、薄い闇が辺りを駆け抜ける。正体は、闇の最上級魔法【ダークディメンジョン】。



術者の指定した範囲内にあるものを探索できる魔法。キヨの作った【ウィンドエリア】の原形である【ウィンドディメンジョン】の、闇属性版である。



「バロスト、いくぞ……」



「了解した、我が主」



シドとバロストは、瞬時に加速。キヨたちに狙いを定めて駆け出した。さながら、影のように速く。



──場面は戻り、キヨとガルダス、二体のウッドタイガーは──



「【魔砲・衝】!!!【魔砲・貫】!!!……はぁ……はぁ……」

「「ガァァァァァ!!!!」」

「ぐっ……」



血まみれのキヨとガルダス、傷だらけの木の鎧を纏ったウッドタイガー。



キヨの立てた作戦は失敗した。いや、作戦に入る前に崩壊した。というのも、ウッドタイガーの奇襲にあったのだ。



木の上からの強襲に、二人は多くの傷を負った。そして、ガルダスは何とかウッドタイガーを引き剥がそうとしている。



なぜなら、キヨは既に立てない程のダメージを受けているから。ガルダスを庇い、二体の爪や牙をもろにくらい、気を失っているのだ。



「……」



「キヨ!!!目を覚ましてくれ!!!」



二体を何とか後退させつつ、ガルダスは自分の主の名を叫ぶ。ガルダスはまだ、人を守りながら戦ったことも、魔物と戦ったことも、ない。その不安からだろう。



(うぅ……どうすればキヨを助けられる……まずウッドタイガーを追い払う?キヨを担いで逃げる?……分からない……分からない……分からない!!!)



幼いながらに、どうすべきかを考えるガルダスだが、何も分からない。いや、それはむしろ当然であり、必然だろう。



キヨのように、死線を歩いた訳でもない。シドのように、魔物と死闘を繰り広げたこともない。マグナのように、父や兄、祖父との血ヘドを吐くようや特訓をしたこともない。



ガルダスにはそういった類いの、いわゆる『経験』が足りないのだから。

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