森と木には危険が多い
森の中。鬱蒼と生い茂った葉が、木々の枝についている。足元には、木々の枝から落ちた青い葉が、地面や木の根を覆い隠している。
(……地元の森とは大違いだな……しかし……)
暗い。その一言に尽きる。木々の葉が生い茂りすぎて、太陽の恩恵を殆ど消しているのだ。
「……気配がないね~?」
シドも、あたりを警戒しながら森の中を進んでいるが、気配がないらしい。木に、何か痕跡がないかも、目を凝らして見てみるが、それらしきものもない。
「……キヨ、何かわかる?」
呼び掛けているのだが、反応がない。不審に思い、背後を見るシド。しかしそこには誰もいなかった。
「しまった!暗くてまわりが見えなかったのか!!」
シドは再び身体強化を施すと、森の中を疾走する。その頃、キヨとガルダスは──
「まずいな……ウッドタイガーが群れでいるなんて……」
「うぅ、キヨ……バランスが取りづらいぞ……」
木の上にいた。その下には、ウッドタイガーの群れ。光が限られていることと、葉が多いことで上手く隠れられている。
(……しかし……ウッドタイガーは群れるような魔物じゃないはず……いやまて……今の時期は……)
「あ」
そして、一つの可能性がキヨの頭に浮上した。それは、最悪の可能性。
「キヨ、どうした?顔色が悪いぞ?まだ、疲れが残っているのか?」
ガルダスが気を使ってキヨに話しかける。キヨは、小声でガルダスにその可能性を、ほとんど確定とも言える事実を告げる。
「あぁ……いいか、ガルダス……あのウッドタイガーは、親子だ」
「親子?」
「そう。このウッドタイガーは、魔物の中でも数少ない子育てするんだ……恐らく……一番デカイのが母親、まわりの五匹が子供だろうな……もうだいぶ大きいが……」
「あれか……仲がいいのだな……」
ガルダスの目に、悲しさが映る。それは、親への寂しさだろうか。しかし今はそれを聞く余裕はない。
「動物でもよく見られるんだが……子育てをしている親……特に母親だが、普段よりも凶暴性が増すんだ。つまり……成体を六体も、それも内一体は凶暴性が増しているのを相手にするのは得策じゃない……逃げっ!?」
逃げるぞ、そう言おうとして、動きが止まった。六体のウッドタイガーが、キヨたちを睨んだ。刹那
「ウボオォォォォォォォォ!」
「「「「「ウボオォォォォォォォォ!!!!!」」」」」
空気を伝い、六つの真空波と化した咆哮が、あたりに轟く。咆哮はキヨたちを飲み込み、二人の動きを制限した。真空波へと変化した咆哮は、彼らの、遥か原始から存在する感情、恐怖を甦らせる。
咆哮だった真空波は、木々の枝を振動させ、その葉を散らしていく。そして、散った葉は、重力に従って動く。
「っ!!!ガルダス、大丈夫かっ!!!」
「う、うむ……あれは……」
(木の上なら大丈夫だ……ろ……はぁ!?)
木の幹に、その爪で穴を穿つことで、ウッドタイガーは木を登ってきた。
「ガ、ガルダス!!!逃げるぞ!!!ムグナルク発動!!!」
「【ムグナルク】!!!」
二人とも、瞬時に身体強化を施すと、枝から枝へと飛び移ることでその場から、ウッドタイガーから逃れる。いや、逃れようとしているのだが……
「なぁっ!?キ、キヨ!?あれ!!!」
キヨとガルダスの後ろ、六つの虎が未だに追ってきている。
(くそっ……どうする……どうやってアレから逃げる!!!)
あたりを見つつ、逃げる手段を考える。周囲にあるのは、木とその枝、葉のみだ。
(ならっ!!!)
「ガルダス、上に衝!!!」
「【魔砲・衝】!!!」
再び、衝撃が枝を揺する。そして、壁のように降る葉は、キヨとガルダス、ウッドタイガーの間を遮る。ウッドタイガーはほんの少しだが、動きを止めた。
そして、
「ぬおっ!!」
「【エアリアルホップ】!!!」
その隙に、キヨはガルダスの襟首を掴むと、【エアリアルホップ】を発動。球体を踏み抜き、空中へと移動する。ウッドタイガーはそれを確認し、二人を追って空へと飛び出す。
「やつらに衝を叩き込め!!!」
「了解!【魔砲・衝】!!!」
ガルダスの手から、魔力の衝撃波が発生する。そして、ウッドタイガーはそれぞれがバラバラの方向へとに吹き飛ぶ。
「そう、空中ならば足の踏ん張りは効かない。そして、ガルダスの【魔砲・衝】を空中で使えば、うまい具合にバラけさせることができるんだ」




