キヨの実力
「あぁ、【魔砲】か?あれは俺のオリジナル魔法だが……」
キヨはその問いに、言葉少なく返答する。マリアの目の、怪しい雰囲気を感じたようだった。
「オリジナル魔法……じゃあ、あのムグなんとかってやつも?」
「え?えぇ、まぁ……あれはオリジナル魔法ではないですけど……」
歯切れの悪いキヨに、シドは違和感を覚えた。いつもなら、キヨはもっと、きっちりと答えるはずなのだ。
「?キヨ……どうした~?」
「……図書室で見つけた本にあった魔法なんだが……いや、効果については信用できるんだが……作者には信頼を寄せられないもんでな……」
なるほど、とシドは、キヨに抱く違和感の理由に思い当たった。要は、キヨとしては他人の力で作られた魔法を改良したものをオリジナル魔法と呼んでいいのか、それがキヨの中で引っ掛かっているから。
「……天才……ね……」
「ん?どーした?」
何か呟いたマリアを見たユウ。
「いえ、彼をギルド員として今から引き抜いておくべきか考えてたのよ」
「……まだ早くないか?」
ユウが自身の考えを話す。まだまだ彼は弱いし、魔物との戦闘経験も少なすぎる、と。
実際、キヨは対人戦は経験が豊富だ。理由は、わざわざ言うまでもないだろうが、ルニアに巻き込まれたからだ。
一方で、対魔物戦はからっきしである。高等部に入ったばかりのキヨたちは、未だに魔物と戦うことがほとんどない。
中等部では、主に下級魔法を習う。しかし、下級魔法それだけでは魔物と戦うには心もとない為に、実習として魔物と戦うことすらないのだ。
「今から経験を積ませれば……あるいは……」
「そこじゃねぇよ。魔力量が少ないだろ……あいつ……」
「え!?……あ……本当だわ……」
それ以前に、キヨは他の学園の生徒と同程度の魔力量しかない。王立プライン学園に入ったにしては少ないのは、1st episodeで前述の通り。
「あれじゃあすぐおっ死んじまうだろ……」
「大丈夫よ。シドと一緒にやらせるわ」
「シドと?……あぁ、そーいやシドが連れてきたんだっけか?」
「そっ。シドに彼を鍛えさせるわ」
「どうせ、本人もそのつもりだろうしね?」
チラッと目をやったその先には、何かを話しているシドとキヨ。話の内容まではわからないが、真剣な話をしているらしく、その顔に笑顔はない。
「……ま、あいつが一緒なら大丈夫か……」
ユウも納得してくれたらしく、一応は賛成した。そのあとで、何かを思いついたようで、ポケットをガサゴソとあさりだした。
「っは~……しかし焦ったぜ……ガルダスがいなけりゃ死んでたぜ……」
「ごめんごめん、あれはマリアさんの独断でさ~?こっちも焦ったよ~?」
「うぅ~……あっちの人のせいか……今は話してるから後にするが……しっかりとお説教しておくのだぞ!!!」
キヨとシドは談笑していたのだが、ガルダスはどうやらマリアに怒っているようで、「うぅ~!!」マリアと未だに威嚇している。
「あらあら、嫌われちゃったわね……」
あはは、と苦笑いのマリア。しかし、威嚇を続けるガルダスを無視してマリアはポケットから一枚の紙で出来たカードを取り出した。
「これがキヨくんの仮のギルドカードよ。シド、これでいいかしら?」
それをシドに渡し、確認をとる。シドはギルドカード(仮)を確認した後、キヨに渡す。
「これがギルドカードか……ランク……A?おいこれ……」
「ん?なんか問題ある?フレスベルグ撃退できたし、Sランクでも良かったんだけどね~?あんまり高くして調子に乗られても困るし?」
(((そこは問題じゃないだろ)のだ)わよ)
キヨ、ガルダス、マリアは心の中でそう突っ込んだ。しかしシドは相変わらずの胡散臭さ満点の笑みで話し続ける。
「いやね?普通のAランクの人ならフレスベルグ撃退なんて出来ないんだ~?できて怒らせるだけでさ~?
ってことは、だよ?キヨ、君はSランクの人と同等またはそれよりも少し下で、Aランクの人よりも少し上、そんな中途半端な力なんだ~?」
「あぁ、分かってる……分かっているさ、嫌というほどな……」
ギリッと、口から奥歯を食いしばる音が聞こえた。後悔か絶望か、キヨが何を思い出しているのかをその場にいたシド達は分からなかった。
「……話を続けるよ?キヨ、君にはこれから、僕と一緒に依頼をこなしてもらうよ?」
「うん?依頼を?シド、わたしも一緒に行っていいか?」
話を続けるシドに、ガルダスが口を挟む。シドはそれに嫌な顔をせずに頷き、答える。
「君はキヨの使い魔でしょ?いないとダメだよ~?」
ガルダスの頭を撫でながら、シドはそれでも話をサクサクと続ける。
「今から魔力量を増やすのは非効率的。いや、正確には勝手に増えるし、キヨはうまく下級、中級魔法を駆使して立ち回れるから必要ないんだよ。
なら、何をするか。『魔力コントロールの向上』と、『魔物との戦闘経験をつむ』ことが必要なんだ。
……なんでかは、分かるよね?」
「あぁ……分かる」
そう答えたキヨの目に浮かんでいるのは、希望と、貪欲なまでに力を求める強い意思。




