世の中は善人よりも悪人の方が多い
「……ったく……やり過ぎだぜ?聖母さんよ~?」
ゴトリと、フレスベルグは力なく倒れた。眉間にあたる部分には、拳ほどの穴が空いていた。
キヨはギリギリのところで助けられたことを、ようやく理解した。
助けたのは、ギルドにいた男二人だった。黒髪黒目の男が、フレスベルグを仕止め、もう一人がフレスベルグとキヨの間に入り、何かを止めていた。
「そういうてめえもやり過ぎだろうが!お前の動きになれてない素人に、あれが見えるか!!!」
もう一人の男が、手かろ何かを落とした。それは
「……弾丸?」
鉛で出来た、弾丸だった。この世界でも、需要こそ少ないが、拳銃は存在する。需要がないのは、魔法があるからだ。
「聖母なんて言わないで。危なくなったら助けるつもりだったわ。まぁ、あなたたちが出てきたから、任せたけどね」
いつの間にか、マリアとシドも訓練室にいた。転移魔法で来たのだろう。
「でもまさか、フレスベルグに水を飲ませて撃退とはね~?よく思いついたよね~?」
相変わらずの笑顔のシドに、イラッとしつつ、答える。
「外が駄目なら中から……まともな生物には大抵当てはまる弱点だ」
しかし、とキヨは続ける。
「フレスベルグを出すってのはどういうことだ?あんなの、学生にどうこう出来るもんじゃないことくらい分かってるだろ?」
「そうね。普通なら無駄に攻撃して潰されるわね。でも、あなたなら大丈夫だと踏んで、出したのよ」
答えたのは、マリア。そして、話を続ける。
「シド以上の頭を持っているなら、フレスベルグから逃げるなり、フレスベルグ動きを封じるなり、何とかすると思ったわ。当然、私たちが助けにいく前提での行動をね」
「……それで?」
「彼なら歓迎ね」
シドとマリアが、キヨには分からない会話を進める。それに混乱するキヨとガルダス。
「……どういうことだ?」
「まぁまぁ~……これから話してやるよっ!」
と、黒髪の男が詳しい話をしてくれた。それは、にわかには信じられないような内容だった。
「まさか……そんなことがあれば、ギルドの威信に……いや……国にも関わるぞ……!!!」
「そうよ。だからこそ、力が欲しいのよ。貴方みたいな、頭のいい人を含めてね?」
ギルド内に、裏切者がいる。それだけではない。国にさえ被害が及ぶ問題だった。
「まぁそんな訳で、マスター以外の頭のいい奴が欲しかったってことさ!」
「今の所、目立った動きはない。が、あと2、3年かそこらで動くだろう……ってのがマスターの見立てだ。」
「2、3年……俺たちがギルドなり騎士団なりに入るか入らないかくらいか……」
キヨがもし、このギルドに入るなら力を貸して欲しい。そういうことだった。
「……出来る限りの協力はしたいと思う……だが、役に立てるかは分からないぞ?それでもいいなら……」
「その答えが聞けただけでもいいよ~」
いつものように、軽い感じのシドがそう言う。しかし彼の顔に、ふざけた様子は全くない。
「脳筋が多すぎて困ってたからさ~?正直助かったよ!」
「まぁそうだろうな……勉強してる奴なんて、一割いるかいないかだろうしな……」
とりあえず話が纏まり、マリア達による自己紹介が始まった。始めに、黒髪黒目の男からだ。
「俺は、ユウ・クロキ!見ての通り、銃を使ってる。属性は雷だ」
「不本意ながら、シンの相棒をしてるフラム・フィードだ。ユウとは違って魔法主体の戦闘スタイルだ。属性は風と光だ。よろしく!」
フラムの説明をすると、紺色のスーツを着た30代前後の男だ。頭にはスーツと同じ色の帽子を被っている。髪は緑色で、瞳は金色だ。
「マリア・ゴービーよ。フラムと同じく魔法主体の戦闘スタイル。属性は火と光。それよりも……さっきこの子が使ってた魔法は何?」
ガルダスを見ながら、マリアはキヨに質問をぶつける。ガルダスを見る目には、言い表すには難しいものが映っている。




