王道主人公の取り巻きと脇役
高等部入試の前日のこと。キヨはある女子に、放課後に屋上へと呼び出された。
補足すると、告白とかではない。
「……来ましたわね」
ティーシャ・アクア。水の六大貴族の次期当主である。六大貴族とは、王族の次に力のある貴族のことである。
六大貴族の下に、上級貴族、中級貴族、下級貴族の3つがある。その下に平民、そして奴隷がいる。キヨは平民にあたる。
「単刀直入に言いますわ。あなた、王立プライン学園高等部を受験なさい」
「断る。だいたい、俺がそこを受けなきゃいけない理由は?」
「あら?あなたなら容易に分かるかと思いますが?」
(……またアイツか……)
と、キヨの頭にある人物の顔が連想された。
「やっぱりアイツか。なら、なおのこと拒否させて貰う」
そう、このお嬢様はアイツに惚の字なのだ。キヨがさて帰ろうか、とすれば
「あら……あなたが『プライン学園高等部を受ける』と言わなければ、強行手段を取らせてもらいますわ」
穏やかじゃない空気が、あたりに流れる。
「……強行手段ねぇ……どうだかな、見せてみろよ」
パチン、とティーシャが指を鳴らせばあら不思議、黒服の厳ついお兄さんがキヨを囲っていた。黒服は10人。
「分かりました?あなたには『はい』と言うしかないのですわ!」
「…………くっはは…………甘く見られたもんだ…………嘗めるなよ?」
手始めに、まず正面の黒服(以下黒〇)、黒1に接近、魔法を使われる前に側頭部に足蹴りを、思いっきり入れる。キヨの狙いは脳震盪だ。
狙いが上手く決まり、黒1はダウン。黒2と黒3が魔法を放とうとしているのを視界の端で確認。
即座に黒1を盾にする。流石に仲間……それも魔法を使えない状態……に魔法を放つなんて出来ない。
キヨは黒1を黒3の顔めがけて投げつける。そして黒2に駆け寄り、水の初級魔法【アクアボール】を両手に作り、二発の内、一発を鳩尾に入れる。
上手く鳩尾に魔法が入り、一瞬だけ隙が出来る。すかさずもう片方の魔法を顔面に押し当てて、固定。窒息させて気絶に追い込む。
キヨは、黒3をちらりと見た。黒3が、黒1を顔で受け止めたかを確認したのだ。
結果として、黒1と黒3は仲良く気絶していた。
(さて、残りは魔法で数減らすか……)
次いでキヨが使ったのは、水の中級魔法【アクアウェーブ】。広域攻撃魔法の一つ。ここは屋上だから、大して攻撃力は必要ないからだ。
何故なら、彼らを下に落としてやればいいのだから。
「【アクアウェーブ】!!!」
キヨの魔法に対して、咄嗟に防御魔法を唱えられたのは、3人。
ティーシャと黒4、黒5。
因みに他の黒服も、反応出来たのだが、気絶した仲間を庇うために、わざと波に飲まれた。
「で?どうするんだ、ティーシャ……まだやるなら……容赦はしないが……」
「そんな……アクア家の尖鋭が……キヨごときにやられるなんて……」
問いかけるキヨだが、呆然とするティーシャの耳には入っていなかった。
「こちとら、死線いくつも抜けてきたんだよ……」
「う、嘘よ……クリス、ニニス、アイツを倒しなさい!」
「「ハッ!」」
「残念だったな……俺の勝ちだ……」
さっきの中級魔法は、この場にいる人を減らす事ともう1つ、役割があった。
「氷の初級魔法【アイスロック】!!!」
屋上を水浸しにする事。氷の魔法は、水属性と風属性の混合魔法。これ単体を発動するのは、かなりの魔力コントロールがいる。
だが、水があると、氷魔法を使う際のコントロールが少しながら容易になる。原理は不明だが、実際に効果があるのに、誰も気にしていない。
相手を無力化したが、やり過ぎたと思ったキヨは、何か考え込む。そして唐突に口を開いた。
「……取引するなら、王立プライン学園高等部を受けてやってもいいぞ……」
「っ!?取引?」
圧力をかけられるよりも前に手を打ち、圧力を掛けさせなければいい。
「あぁ……今後、俺…いや、アルケム家に必要最小限しか関与しない。それを守るなら、王立プライン学園高等部を受験してやってもいい」
(……さぁ、どう出るか……)
暫く考え、ティーシャは答えを出した。
「……分かりました……条件を飲みましょう……」
「契約成立だ……いいぜ、王立プライン学園、受けてやるよ」