和解と親睦と対策と
「……まぁ、だから何かって訳じゃないけどな……」
反省はしているらしい、とキヨは判断。追及はしなかった。
「それについては悪いと思ってる……すまない……」
「ごめんなさい……」
「ごめんね……」
「ま、まぁ、こう言ってんだしさ?みんな……許してやれよ、キヨ」
謝った三人のフォローに入るマグナだが、キヨは特に反応しなかった。
「……キヨ?」
「アホか、お前ら……」
そう。下らない、と思っていた。
「差別しといて、ごめんなさいの一言で許される?そんなことで許されるとでも思ってんのか?……餓鬼じゃねぇんだから少しは考えてみろよ……自分が俺の立場なら、どう思うか……とかな……」
明日プリント作ってきてやるから、今日は勘弁な。とそれだけ言うとキヨは鞄をひっ掴んで図書室を出た。
その場に残った四人の間に重苦しい空気が漂う。
「キヨ君の立場になって……か……」
「そう……だよね……」
「……」
マグナは黙っていた。流石にそのことに追及できるほど、自分が偉いとは思っていないから。
「差別されてごめんなさいの一言で許してもらおう……っていう考え方が甘いのかな……」
「でも、恨んでない、みたいなこと言ってたし……」
「あいつは、あんな態度取ってるけど……そんな器の小さいやつじゃないさ」
だが、つい口を出してしまった。
「え?」
「あいつは何だかんだ言っても、相手の為になることしか言わないからさ」
学年別トーナメントの選手選考の試合の後、アドバイスを貰ったマグナだからこそ言えること。
「きっと、『反省しました。終わり。』じゃなくて、反省した後どうするか、そこが重要なんじゃないか?」
「あ……」
キヨからすれば、差別なんてあって当たり前。許す許さないはさして重要ではなかった。更に言えば、キヨは達観していた、というか精神が同年代の人よりも大人に近い。
差別してきている人の気持ちもそれとなくはわかる。女子がルニアに近づきたいという気持ちは、残念ながらルニアを知っているが故に分からなくなるが、全く分からない訳じゃない。
そのルニアの親友(一方的に思われているだけ)なのだから、ついつい男子が嫉妬から、八つ当たりしてしまうのも分からなくはない。
子供の時に、そこまで理解してしまったキヨは、彼ら彼女らからの差別を黙認した。
してしまった。
結果としてキヨは、甚大な被害に遭ったのだが。
当然、図書室にいる四人はそんなこと知らない訳だが。
「だから」
マグナは話を続ける。
「あいつと仲良くしてやれば、それだけでいいんじゃねぇか?」
自身の感じたことを。
────
───
──
─
「よっ。これ、今日中にやっとけよ?間違っててもいい」
翌日。キヨがマグナに三枚のプリントを渡す。そこには、多量の問題が書かれていた。
「……これを……今日中に?」
「基礎問題九割と応用問題一割だから難しくはない」
などと話していたキヨに、
「おはよー」
「おはー!」
「おはようございます、キヨ君」
例の三人が挨拶した。キヨも、
「あぁ、おはよう」
挨拶を返した。
─その日の放課後─
「で、お前らも勉強教えて欲しい……と……」
図書室でマグナに勉強を教えていたキヨに、三人がやって来た。
「ダメか?」
と、男子が聞いてくる。
「いや、別に問題ない。こちらとしても厄介者から逃げる口実ができたしな」
それよりも、とキヨは話を続ける。
「俺、お前らの名前知らないんだけど?」
「あ……悪い……オレはダルラ・ドルグラン。よろしく」
ガリガリな男子が自己紹介をした。次に、青髪の女子、金髪の女子と、順に自己紹介をしていく。
「私はルピア・ブレイズだよ!よろしく!」
「セニア・コートニーです。よろしくお願いします」
「ダルラにルピア、セニア……ね……よろしくな。で、お前らは何が分からないんだ?」
そう聞いたのが間違いだった。
「「「全部」」」
「……は?……全部?」
これにはキヨも、頭を抱えた。結局、マグナにやらせた問題を三人にも解いて貰った。
「なるほど……セニアとダルラの二人は基礎が出来てる……しかし、応用と高等部の問題に難あり……マグナとルピアは基礎がガタガタと……」
この結果を見たキヨは、思うところがあった。
「お前ら……復習とかしないだろ」
「「「「……」」」」
「目が泳いでるぞ、全員……」
全員が全員、受けた授業の復習をしてこなかったものばかりだった。キヨは、見た過去問から難易度別に問題を分けて、出ると思われる問題を出したのだが、この有り様だった。
「これなら現役の中等部生の方が得点は高いな……」
小さい声で、そう言った。




