脇役主人公の朝
再び時計を確認すると、時刻は6時半。ゆっくりと朝食の準備が出来そうだ、とキヨは脱衣場から出て、キッチンに立つ。料理は出来るらしい。
が、面倒になったらしい。トーストとベーコンエッグ、紅茶。簡単なものを机の上に並べた。そして、寝室へと向かった。
ベッドで寝ているのは、キヨの相棒……世間一般でいう使い魔……彼を起こしに来ただけだった。
名前はガルダス・ザーク。年は5歳。種族は魔族。
ガルダスにも色々あるが、追々分かるため割愛。
「おい、ガル。起きろ、朝だぞ~?」
「んん……あと5分……と5時間……」
一瞬だけキヨが固まる。しかし、キヨは直ぐに立ち直り、ガルダスを起こすべく行動する。
「起きろ!ガル!起きるんだ!」
キヨはガルダスをユサユサと左右に揺する。キヨがガルダスを観察していて気づいたことだが、ガルダスは朝に弱い。
しかし、今日からは学校生活がある。遅くまで寝かせる訳にもいかない。「無理矢理起こすか……」と言い、キヨが何かを始めた。
手の平に魔力を集め、魔力を魔法に変える。
水の初級魔法【アクアボール】。単なる水が球体になっただけ。大きさは、本来ならサッカーボール並。しかし今回作られたのは、硬式野球のボールくらいの大きさである。
それをガルの顔面にぶつける。それは運悪く、ガルダスの鼻の穴に入った。いきなり鼻に水が入ったガルダスは当然、ベッドの上で悶えた。
「ぬぉぉぉぉ!?何を「さっさと起きろ、朝ご飯抜きにされたいか?」うっ……分かった……」
ガルダスの目は覚めたからいいか、とガルダスに謝罪すらしないキヨ。
それから、ガルと共に朝食を取り、片付けを済ませれば、8時。
確か、今日は9時頃に校門に貼り出されているクラス編成表でクラスを確認、9時半には各教室に集合となっていたはずだ、とキヨは学園から来た手紙を読む。
因みに、キヨは自宅から通う訳ではなく、学園の学生寮から通うことになっている。
王立プライン学園は、他の魔法学園と違い、全寮制ではない。だが、寮はあるし、豪華だが、基本は自炊になる。
自炊は、貴族の多くが自炊しない。王立プライン学園の寮を使うのは大抵が平民だったり、自炊出来る特殊な貴族、何故か代々寮に入るという決まりのある貴族くらいしか利用しない。
勿論、学園の学生寮なだけあって、学園はすぐそこ。忘れ物をしても直ぐに取りに行ける距離だったりする。
暫くガルの話相手をしていると、俄に外が騒がしくなってきた。時刻は、8時50分。
「ガル、そろそろ行くからな。生徒手帳に入ってろ」
大きさとしては、およそ7㎝×12㎝。魔法世界のスマートフォンと理解してもらえばいいであろう生徒手帳には、使い魔を入れておけたり、連絡手段として使えるなどという、なんとも不思議な機能がある。因みに、卒業後も使われる。
ギルドに入ればギルドカードに。王国騎士団に入れば騎士団員証明書に。といった具合に使い回される。
ガルダスが生徒手帳に手を触れると、ガルダスの体が赤く発光、生徒手帳に吸い込まれる。
ガルダスが生徒手帳に入ったことを確認し、キヨは部屋から出る。鍵を閉め、ちゃんと鍵が掛かったかを確かめてから、学園校門に向かった。
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「ただ今より王立プライン学園入学式を始めます」
教頭先生とおぼしき女の先生の声を合図に、入学式は行われていく。
校長の挨拶 理事長の挨拶 新入生代表式辞 在校生式辞 担任発表 退場
順調に終わり、教師に連れられて各教室に戻る。
名前から推察するに、担任はどうやら東洋系の家系のようだった。そんな先生の第一声は
「あ~、静かにしろ。退学にすんぞ~」
職権乱用もいい所だった。もっとも、直ぐに皆静かになったが。
「あぁ~、オレの事は知ってるだろうが、一応自己紹介しとく。ギンパチ・サカタだ。魔力量は120000、属性は風だ。使い魔は……あれ、どこいったんだ?あいつ」
気だるそうな声で、気だるい感じの自己紹介に、クラスは唖然となる。グダグダで、しかも使い魔がいなくなったなんて、普通は考えられない。が、様子から察するに、日常茶飯事らしかった。
そんな担任の見た目は、皆大好き〇八先生。※きちんとペロペロキャンディーまで装備
「まぁ後で探すか……今は適当に座ってんな?じゃあ廊下側から自己紹介してけ」
と、廊下側から自己紹介が始まる。
キヨは真ん中ら辺の後ろから2番目。まだ時間あるな……なんてことを考えていた。
と思っていたら直ぐにキヨの番が来た。……なんで俺、此処にいるんだろ……と。キヨは過去へと思いを馳せた。