王道主人公と脇役主人公の過去話
ときは夕暮れ。ここは、普段から薄暗く、木が鬱蒼と生い茂っている。
街からはそこまで遠くない森林。いつもならば、絶対に来ないような場所。
俺ことキヨ・アルケムは、そこに連れてこられた。手足を光の輪に縛られて。
光の下級魔法【ホーリーバインド】。それが、この光の輪の正体。何故俺が縛られているのか。
それはコイツのワガママだ。俺が「危ないから行くなって言われてんだろ」と言ったのがお気に召さなかったらしい。
何故かは知らないが、コイツはとにかく森に来たかったようだ。
実は、先の質問に答えた直後、俺は「魔物が来たらどうするのか」と、聞けばコイツは
「魔法で倒す!」
と、習っていない、そして使えもしない魔法を便りにする、なんて寝言を言いやがった。だから俺は帰ろうとした。
そしたら後ろから拘束用のこの魔法で捕まったのだ。迷惑極まりない。
拉致まがい、もとい拉致をした本人は、暢気に鼻歌を歌いながら、のんびり足を進めていた。
そして俺はコイツの、この行いのせいで人生を破壊された。
鼻歌を歌いながら歩くコイツに、引きずられる俺。不意に、コイツの鼻歌が止まる。
こちらからは全く何も確認出来ない。が、瞬間。
コイツは俺を置いて走って、元来た道を引き返していく。魔法を解除せずに。
そして俺は、認識した。コイツが何から逃げたのか。
「ググォォォォォオオオオオォォォォォォ!!!」
──合成獣──
俗に云う『キメラ』。『キメラ』を作るのは、法律で禁止されている。が、裏ではかなり利用されている……と、俺は後に知った。そんな事を当時の俺が知るはずもなく、魔物だ、としか思わなかったが。
俺は魔法がまだ使えないし、挙げ句に拘束されている。今の状況から察するに、自分は死ぬ……と、俺は生きることを諦めて目を瞑る。
(……あれ、死なない……)
が、一向に合成獣は襲ってこない。このことから、この『キメラ』は、戦闘用ではないことが伺える。どうやら、偵察用のようだ。ただただ、こちらを見ているだけ。
そして、奴が現れた。森の奥から、ゆっくりと。白髪があったであろう頭はだいぶ禿げ散らかっている。目は血走り、恐怖を感じさせた。
「……ゥ……カ?……ラ……」
はっきりと聞き取れない。だが、聞き取れなくとも分かることがある。
危険だ。かなりマズイ。焦る俺を見て、老人はニタリと笑い、俺に手を伸ばし、そして────
「っは……夢か……」
時計の短針は6を、長針は12を指していた。……起きるには少し早かったな、と思いつつ、キヨはソファから出て、シャワーを浴びに浴室へと向かう。寝汗が酷いからだ。
(……いつぶりだろう……あの夢を見るのも……)
温かいシャワーを浴び、キヨは当時のことを思い出そうとして止めた。いい思い出な訳でもない、むしろ忌々しい思い出をわざわざ回想する必要はない。
そう結論を出し、シャワーを止めて、浴室から出る。
脱衣場で体を拭く。鏡に写るのは、傷だらけの体に白髪、青い目の自分。体が傷だらけである理由は……後々語ろう……
キヨは体に付いている水分を拭きとり、着替えとして出しておいた、ブレザータイプの制服を着る。なぜ制服か……
──王立プライン学園高等部──
それが、本日ある学園の入学式のためであり、キヨの通うことになってしまった学園の名前であり、制服を着ている理由だ。