決着
「ガルダス、ダブル使用だ!!!」
フォイを無視して、そう叫ぶ。ダブル使用、とはキヨが考えた一つのサインのようなものであり、二重詠唱のことを指す。
二重詠唱とは、一般的には2つの魔法を同時に発動、使用する際に用いられる高度な魔法詠唱術のことだ。
しかし、これ(二重詠唱)自体は2つの魔法を発動、使用するのにはそこまで必要はないのだ。本来、詠唱とは術者の魔法のイメージを固める際の補助をしているに過ぎないのだ。二重詠唱も然り。
あくまで二重詠唱も、イメージの補助のために使われているのだ。しかし、それならば発動中の魔法の維持をしながら、他の魔法が使えない術者が二重詠唱を使えばどうなるか。
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「ガルダス、ダブル使用だ!!!」
ガルダスの耳に、キヨからの指示が届いた。二重詠唱をしろ。つまり、【ムシルド】を使いながら、彼が使えるもう1つの魔法を使って敵と戦うことで時間を稼げ、と。
「あ……了解だ!!!」
フォイの使い魔であるサンダーウルフの攻撃を避けると、サンダーウルフに向き合う。サンダーウルフも、ガルダスの雰囲気が変わったことに気付き、警戒する。
「【我が身を守りし大盾、わが敵を穿つ一筋の星、我が前に姿を現せ!魔砲!ムシルド!】」
「ギャウッ!?」
詠唱しながら、ガルダスは腕を引き、拳を掌底に変えた。そして、魔砲!と言った瞬間に、掌底にした腕をサンダーウルフ目掛けて打ち出す。そして、掌底からは魔力の塊が打ち出された。
さながら、魔力は砲弾のようにサンダーウルフに襲い掛かった。サンダーウルフはそれをもろに食らったが、ダウンするには至らなかった。
これにより、サンダーウルフはガルダスに対して警戒心を持った。今までのようにがむしゃらに魔法をガルダスに放つことはないだろう。
ガルダスも二重詠唱を利用してある程度の間隔でサンダーウルフに魔砲を打ち出す。
その頃、キヨとフォイの闘いは最終局面を迎えようとしていた。フォイが最上級魔法を唱えたのだ。
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「あっはっはっは!さぁこれでお前の勝ちはなくなったも同然!!どうする?降参してそのネクタイをよこすか?それとも、負けてからネクタイを渡すか?好きな方を選ばせてやるよ!!!」
「…………」
フォイの傍らには、最上級魔法【サンダードラゴン】。因みに、魔物にも同じ名前のものがいるが、容姿は違う。魔法の【サンダードラゴン】は、東洋の龍のように、細長いもの。魔物のサンダードラゴンは、西洋の竜のようにトカゲに翼がついた姿を思い浮かべてほしい。
この最上級魔法【サンダードラゴン】は、比較的操作しやすい魔法だ。特別複雑な動きをする手足があるわけでもない上に、蛇のような体の為、軌道を考えてやればいいだけなのだ。
そして今の立ち位置だが、フォイはムシルドを背後にして、フォイの前にキヨが立っている状況である。
(さて、これで最後の一手を打つか……)
「残念だが、このネクタイはお前なんかにはやれないんだよ、貴族様?」
「……そうか、そうか……ならば負けてからネクタイを貰うとしよう!行け!!」
フォイの【サンダードラゴン】が、キヨへと迫る。しかしキヨは慌てない。自身の持つ魔力の8割をつぎ込み、床に手をついた状態で、ある魔法を発動する。
「【アクアウェーブ】!!!」
水の中級魔法【アクアウェーブ】。それを高純度の魔力で発動した。【アクアウェーブ】は、砕けて、引き裂かれた床を含んで体積を増やした。
純度の高い魔力から生成された水は、純水になっている。更には床石も水の中に入ることで、【サンダードラゴン】は無効化された。
「高純度の水は、電気を通さない。破損した床石だが、これは大抵土属性魔法で修復される。雷属性の魔法に対して耐性が高い上に、【アクアウェーブ】の体積を増加させる」
ぼそりと、キヨが呟く。最も、フォイは自身の最上級魔法が破られたことに動揺していて聞こえていないのだが。
帯電した【アクアウェーブ】は、フォイを飲み込まんと襲いかかる。しかし、フォイも何とか防御魔法を唱えて【アクアウェーブ】を防いだ……筈だった。
「がっ……はぁ……!?」
しかし、フォイは電気を帯びた水流に飲み込まれた。キヨはというと
「【エアリアルホップ】!!」
自身の魔法に飲まれる前に【エアリアルホップ】を発動した。空中へと体を飛ばし、ガルダスの【ムシルド】で区切られた半分の舞台へと着陸する。
「ガルダス、【ムシルド】の拡大!!!」
「うむ!」
キヨの指示に従い、ガルダスは【ムシルド】に注ぐ魔力を増やす。【ムシルド】は更に巨大化、舞台からはみ出すほどのものになった。
暫くして、濁流となっていた水が止まるのを確認してからキヨは【ムシルド】を解除させる。因みにサンダーウルフはいつの間にか大人しくなっていた。
「っと……場外か……」
フォイはあの濁流により舞台の外で気絶していた。よって、この時点でキヨの勝利が確定した。
「この決闘は、キヨ・アルケムの勝利!キヨ・アルケムは後日フォイ・マルに求めるものを決めておくように!以上で解散!」
サカタ先生の一言で、その場にいた人は帰っていった。キヨも、ガルダスを生徒手帳に戻してから寮へと戻った。
その際、後ろからある人物が彼を見ていたの。試験の際にヤンキーの拳を止めた、男子だった。
(キヨ・アルケムか……あいつ……何者だ?この学園の新入生の魔力平均を遥かに下回る魔力量であるにも関わらず、あの上級貴族のフォイに勝つとは……それに、なんだ?あの使い魔の魔法は……)
彼はシド・フランツ。キヨと同じ特待生だ。その証拠に、ネクタイはキヨと同じものだ。
(いや、それよりも気になるのは……奴の闘い方だ。あの、周囲のものを活用する方法や、一度で広い範囲を攻撃するのは、対大人数のものだ)
キヨが見えなくなり、シド以外は観客もいなくなった会場。シドはようやく腰を上げた。そして、
(少し、調べてみるか……)
真っ黒なローブを何処からか取りだし、羽織り、姿を消した。