反省する私
「あれー、明菜じゃん。なになに、可愛い子つれてんじゃーん」
最悪だ。
中央公園は全員の家からほど近く集合場所に適していて、かつほどほどにゴミが落ちているので月に一度はゴミ拾いをしていた。
元々は単に反骨心で髪を染め、気に入らないので目につくいじめっ子やかつあげなんかしてる不良につっかかり喧嘩を売らせていた、よくある勘違いした不良だった。
でもある日、前日に捨てようとしてゴミ箱から落ちて放置した空き缶を拾った時、知らないお婆さんに褒められたのが嬉しくて、無理やり全員にゴミ拾いさせたら何故かみんなそれなりにハマった。そんなこんなで私たちは突発的にボランティアする喧嘩ヤンキーになった。あ、過去形過去形。ヤンキーだった、ね。
てなわけで、最悪なことにみんないてゴミ拾いを始めるところだった。もしかしたらとは思ったけど、まさかちょうど会うとは。
「へい、これが例の子犬ちゃんでしょ、可愛いねー」
「こら、触ろうとすんな。しっしっ」
「ひどくない?」
「うるさい。……よう、三人とも、ひさしぶり。えー、と、元気そうだね?」
「……」
「……」
「…、ひさしぶり。ずいぶん雰囲気かわったね」
2人は私から露骨に目をそらしたけど、残り1人、詩織だけは返事をした。でも明らかに目が笑ってない。一番過激で苛烈な詩織のことだ。よほど、やめると言った私が許せないらしい。
「何言ってんの。私って生まれた時から真面目だし、髪の毛染めたこととかないし」
とりあえず沙耶には秘密にしなければいけないので誤魔化す。この三人にはまたフォロー……いや、いっそ盛大に嫌われた方がいいのかな。
「え? 何言ってんの?」
「え?」
詩織か芹香につっこまれる可能性は考えてたけど、何故か沙耶につっこまれて思わず素で聞き返す。
「な、なにいってんのって、え、なにが?」
「? 明菜さんって髪の毛染めてたでしょ? もしかしてカツラだったの?」
「……もしかして、私の妹になる前から、私のこと知ってたの?」
「え、うん。というか、小学校同じだし、有名だったよね」
「……えっ!?」
まじで? あ、や、確かに沙耶の引っ越してくる前の場所、中学は違うけど小学校の学区同じあたりか。
来年新しい小学校できるらしいけど、ここ小学校の数がなくて小学校だけ人数過多なんだよね。同じ学年でも二百人近くいるから覚えきれないし、あーー、いたんだ。そりゃ知ってるか。小学校の時は染めてる人は数えるくらいだったし、一番問題起こしてたし。
「……ち、違うんです」
「え? 何が?」
「き、金髪にしてたのは先生が地毛薄いだけで黒くしろって言って髪の毛引っ張ってきてむかついたからだし、からかってきたやつらがいたから殴り飛ばして、それで叱られていらいらしたから他にいじめられてる子を見てつい八つ当たり、じゃなくて義侠心で助けに入っていじめっ子をぶっとばして、それからも救いの女神をしてたら不良と呼ばれてただけなんです」
「えーと、とりあえず明菜さんの知られざる過去はいいとして、もしかして、あたしに隠してたの?」
「……」
「え、なんで?」
「なんでっていうか、不良の姉とか嫌じゃん」
私なら絶対イヤだし。もし逆に私が姉をもらうなら、優しくて包容力があって暴力とか絶対振るわないほんわか系がいいし。ヤンキーがいきなり家族とかマジびびるわ。
「いや、あたしは不良の明菜さん好きですけ……ど、あ、あくまで別に、気にしないっていうか、どんなでも明菜さんは明菜さんて言うか」
「…はぁぁぁ、なんだ、隠して損した」
必死になって馬鹿みたいじゃんもー。ていうか知ってたから最初あんな態度だったのか。舐められたら殺されると思ってたのか。なーんだ。
「ちょっ、ちょっと待って。明菜」
「なに、詩織、今から妹と感動の和解になるところなんだけど」
「いや、明菜は妹ができるからやめたんでしょ? でも妹も知ってて認めてるんだから、もうやめる必要ないじゃん! 今からでも一緒に、ゴミ拾おう!」
「ゴミ拾いはいいけど、喧嘩はもうしない。あと髪も染めない」
妹の存在はキッカケだし、背中を押してくれた大部分ではあるけど、元々、いつかはやめなきゃと思ってた。高校にあがる時、本当はやめようと思ってた。でも楽しくて、あと少しだけと言い出せないまま高校生になってた。
不良とかそんな風に自分を思ってなかった。ただ好きなようにしてただけだった。でも中学三年の時に、私って俗に言う不良に分類されるってようやく気づいた。
私のせいで、4人とも…ああ、芹香はほっといても絶対喧嘩してたとして、あとの三人は本当なら真面目な優等生になるはずだったのに、私が喧嘩するよう仕向けてしまった。私なりに助けようとしたつもりだったけど、所詮子供のその場しのぎだ。いつまでも喧嘩しているわけにはいかない。
「な、なんで!? 明菜が言ったんじゃない! 明菜が、これでなければ救えないって言ったんじゃない!」
「……本当は、詩織もわかってるんじゃない? 適当なこと言って本当に悪かったと思ってる。ごめん。いじめっ子倒してまわっても、妹さんは喜ばないよ」
「っ」
「詩織っ」
私の言葉に詩織が殴りかかってきたから、目をとじたけど、芹香がそれを止めたみたいだ。目を開ける。
「…悪い、今日は詩織つれて帰る。2人はどうする?」
「気にしないでください」
「私らは大丈夫だから」
「そ、じゃ」
「お願い」
「お願いされるまでもないし、むしろするな」
芹香に止められたら詩織はうつむいて大人しくなり、抱えられるようにして帰って行った。
無言で見送ってから、残った2人、弥生と葉月に顔をむける。ずっと黙ってた2人だけど、同時に困ったように笑った。
「そんな困った顔しないで」
「そうそう。明菜さんがそんな顔してたら、調子でなくなっちゃいます」
「……お、怒ってないの?」
「ちょっとは怒ってましたけど、まぁ、私と弥生は…ね?」
「うん。楽しかったけど、明菜の気持ちはわかるし。でも詩織はさ、私らとは思いのケタが違うし、1人にもできないからね」
「弥生…葉月、ありがとう。ていうか、よかったー」
2人もまだ喧嘩をやめられないというなら、どう言うべきか迷うところだった。詩織は死んだ妹さんへの思いに押しつぶされないために必要だった。あの時の詩織には八つ当たりをしてでも力を発散させなきゃ自殺してしまいそうだった。今はやめても自殺はしないはずだ。
2人は本人がいじめられて、恐怖心を克服させるために発破をかけて喧嘩に参加させたのが始まりだ。今までつらかったなら同じ人を助けたいでしょ?と誘ってたので、妹さんだけを助けたい詩織とは違うからなぁ。
え、じゃあ誰が助けるの?ってなったら困ってたところだ。
「それにさ、本当は助けるのよりゴミ拾いの方が好きだったんだ」
「え、そうなの?」
「はい。正直私ってそんなに暴力自体好きじゃないので、初期以降は割と付き合いでしてました」
「えぇぇ」
「ま、関係なくてもいじめ現場みてるだけで胸くそ悪いし、いじめっ子倒すのっていいことしてるみたいで爽快だったけどね。別に無理に喧嘩になるようにつっこんでいかなくてもいいしね」
驚愕の事実判明。実は去年からほぼ詩織のためだけに不良してた。
「とりあえず、今日は私らも帰るよ」
「詩織さんが落ち着いたら、今度はみんな優等生になってボランティアクラブでもしましょうね」
……なんだ、はーー、取り越し苦労すぎ。結局私が気にしてただけだったのか。詩織も芹香に任せれば大丈夫だろうし、来月にはまたみんな集まれるようになるかも。友達なくす覚悟までしてたのに。
あと問題といえば、沙耶だけか。
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次回番外編挟みます。明菜の友人について簡単に説明します。