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キス  作者: 川木
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勇気をだすあたし

「沙耶」

「……」

「さー、や」


 明菜さんがあたしを呼ぶ。嬉しいし、はい!って振り向きたいけど、明菜さんに向ける顔がない。

 あたしは馬鹿だ。せめて嫌われてないかと思っただけなのに、勢いで好きとかいって、ごまかしたくせに、告白されるんじゃないかと勝手に期待して、違ったからって逆ギレして。

 あんな言い方したらまた誤解されちゃう。ああ、どうしよう。明菜さんは優しいから声かけてくれてるけど、これで調子にのったら絶対またミスる。


「……沙耶」

「はひぃ!」


 めちゃくちゃ低い声で呼ばれたので思わず返事をして明菜さんを見ると睨まれてた。うわー、そうですよねー、無視も十分感じ悪いですよねー!


「はぁ」


 た、ため息つかれた。すごく怒ってる? 呆れてる? あ、あたしのこと、めんどくさいって思ってる?


「ごちそうさま。美味しかったよ」

「あ、うん。お粗末様です」


 どうしよう。どうしたら、妹としてではなく、女の子として好いてもらえるんだろう。

 ……男の子に生まれたかった。そうなら、突然一緒に暮らしだしても家族より異性として意識してしまう、というのも不自然じゃない。あたしが女の子だから、明菜さんもまさかあたしが明菜さんに恋していて、姉妹関係を拒んでるなんて思わないんだ。


「沙耶」

「え、あ、なに?」

「片付いたら、また遊びに行こう」

「……」

「返事は? 用事があるなら無理にとは言わないけど。駅前のケーキ屋行こう。おごるよ」

「あ、うん! 行く!」

「…現金」


 しまった。突然のお誘いにびっくりして固まってしまったせいで、おごりにつられたみたいになってしまった。


「じゃ、早く片付けてね」


 まあ、明菜さんも怒ったりしてないし、笑ってるしいいか。









 家を出て鍵をしめた瞬間、明菜さんはあたしに手を出した。


「沙耶、お手」


 そ、外で言われてしまった。う、で、でもそんなに人いないし、だって明菜さんだし、堂々と触れられるチャンスだし、うぅ、あ、あたしのプライドとかぽいだ!


「ん、いい子」

「あ」


 ご近所さんに見られる可能性を無視して手を置くと、明菜さんはそのままあたしの手をとって下に下ろした。


「じゃ、行くよ」


 手を繋いでる! よかったぁ。ちっぽけなプライドを優先しないでほんとによかったぁ。これを拒否してたら絶対明菜さん気を悪くしてたよ。

 それに嬉しい。恥ずかしいけど、あたしから無理やりもたれたりしてたのと違って、明菜さんから触れてくれているってことが、凄く嬉しい。


「はい」


 嬉しくて、はにかんでしまう。えへへ。はぁ、明菜さんって本当に優しいなぁ。優しすぎて…勘違いしちゃいそう。


「あ、明菜さん」

「なに?」

「今日はケーキ屋以外に目的ってあるの?」

「んー、特にない。強いて言うなら目的は、沙耶と出かけることかな」

「……」

「…照れてる?」

「そ……そう、かな。照れてる、ね」

「へーい、シャイガールめ」


 明菜さんはからかうように軽く肩をぶつけてくる。ぐぬぬ。明菜さん相手だからだっての! 明菜さん以外は平気だし! 言えないけど!


「沙耶は見た目と態度のわりに内気だよね。そういうギャップ、好きよ」

「……あ、明菜さんだって、ギャップあるし、そういうとこ好きです」

「ありがと」


 うう、勇気だしたのに軽く流された。いや、確かにこのタイミングなら怪しまれずに言えると思ったから言ったんだけど。


「沙耶に行きたいところあるなら、そこに行くけど?」

「……じゃ、じゃあ、その、とりあえず、中央公園とか行こうかな」

「公園? …まぁいいけど。じゃあ行こうか」


 よし。休日の中央公園はちょっとしたデートスポットなんだよね。おっきいし噴水あるし、移動屋台もくるし。

丘の上の展望台とかに行くのも憧れだけど、そっちはあからさまだしね。公園はジョギングスポットとかでもあるし、家族で行っても普通普通。


「着いたけど、とりあえず一周する?」

「イエス!」


 途中で明菜さんの手を握りなおしたあたしはテンション最高潮です。手を繋いで特に目的なく散歩とか超デートっぽくない!? だって友達とは遊んでも、散歩とかしないもん。意味なく一緒にいるための散歩とかまさにデートじゃん!


「沙耶、ご機嫌だね」

「……えへへ、うん…明菜さんと一緒で、楽しいから」

「よしよし」


 頭を撫でられた。わーい。

 明菜さんはあたしが好意的なことを言うとほめてくれる。それってつまりあたしから好意をもたれて嬉しいと思ってくれてると言うことだ。凄く嬉しい。


「明菜さん」

「なに?」

「明菜さんのこと、聞いてもいいですか?」

「なに今更?」

「だって、一緒に暮らしてそれなりに明菜さんのこと知ってるつもりだけど、実際には、知らないかなって思って」


 好きな食べ物とか、ちょっとした癖とか、好きな本の傾向とか、一緒に住んでれば自然とわかることもある。でも話さなきゃわからないこたたくさんある。例えば、好きな人のタイプ、とか。


 普通に歩いて一周20分弱のところを倍の40分くらいかけて歩いて、たくさん聞いた。普段聞きにくいことも、流れで聞けた。好きなタイプは聞けなかったけど。くそっ。


「さて、一周したし、そろそろ違うところへ行こうか。どこがいい?」

「んー、とりあえずベンチで休憩しようよ」

「……まぁ、いいか」


 ? 何故か明菜さんは一度視線を回して何か考え事をした見たいだけど、頷いた。

 中程の屋台がある噴水のある広場に行き、ベンチに座った。






 







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