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キス  作者: 川木
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寛容な私

「おはよー、ございます」


 落ち込んだ沙耶が居間に入ってくる。ううむ。あれだけ慰めてやったのにまだダメなのか。

 うーん、でも、体のことはさすがにな、思春期だしあんまり迂闊なことは言えない。折角懐いてきてるのに無闇に嫌われたくないし。


「おはよう。ご飯はどうする? 一応、沙耶の分もあるけど?」


 といっても保温されてるご飯がある、というだけだが。ご飯くらいは炊けるし、ふりかけやお茶漬けや漬け物、あげく最近は沙耶や母さんが作り置きしてるきんぴらとかの煮物系もあるから、白米さえあれば朝くらいなら余裕だ。


「あ、あたしはお昼になってから一緒に食べるよ。洗い物楽だしね」

「うん、よかった。私も沙耶と食べたいと思ってたんだ」


 すすめたものの、本当はそうしてほしかった。だってお昼つくってほしいけど、沙耶が食べないのに作らせるのはさすがに申し訳ない。


「えっ、そ、そう、明菜さんって寂しがりなんだ」


 沙耶はいつも通りソファに座る私の隣に座りながら、頬をかいてそう言った。内容がぴんとこないのでちょっと考えた。

 あー、ご飯も独りで食べれないという意味と思われたのかな? ……まぁ、いいか。


「うん。沙耶がいないと寂しい」


 実際、今まではずっと家では独りでのご飯だった。だから正直に言えば、どんなにうざい沙耶の状態でも、朝晩料理をつくってくれて一緒に食べるのは、何となくいいものだ。

 何も話さなくても、そこに誰かがいると言うだけで、私には新鮮で、少し恥ずかしいけどうん、嬉しい。


「へっ!? へ、へぇ…そ、そう。なら、朝、起きなくて、ごめん」

「別に謝らなくてもいい」


 朝はわざわざ料理してもらうほどでもないし、休日をどう過ごすかまで束縛する気はない。なんといっても私はお姉ちゃんなのだから、妹をこき使うべきではない。


「……あ、明菜さんってさぁ」

「なに?」

「あたしのこと、ど、どう、思ってる?」

「?」


 どうって、何でそんなこと聞くんだ? ……あ、そうか。最初は姉妹という存在自体が認められない沙耶はあんな態度とってたけど、友達としてやり直してからは改善したからな。

 つまり沙耶は人間としてなら私のことを嫌いではないわけだ。だから最初の態度から嫌われてないか不安になったと。なるほど。

 何で姉妹というのを拒否するのかはわからないけど、それは難しい思春期だしね。テリトリーにはいられたくないとかでしょ。後先考えずに噛みついといて今になって不安がるなんて、可愛いじゃない。


「可愛いと思ってるよ」


 本当は可愛い『妹』だけど、機嫌を損ねたくないし黙っておく。私は沙耶とは逆に、兄弟姉妹が欲しかった。だから妹ができると聞いて嬉しかったし、不良もどきもやめようと決めることができた。

 それがあんな態度なものだから、しばらくはむかついてたけど、今はまさにいい感じにちょっと生意気な妹程度だし可愛い。最初から従順より、生意気なのを躾る方が好きだしね。


「そ、そう」


 私が広い心で過去の態度を水に流してあげてるのがわかったらしく、沙耶は感動で顔を赤くしつつ目をそらした。


「で?」

「え?」

「沙耶は私のことどう思ってるの?」


 ま、姉のように、はまだ望めないかも知れないけど、頼りがいのある、とかならいいかな。……ん? 今まで沙耶の前で頼れるところなんか見せたっけ? ………ふ、服、買ってやったじゃん?

 あーー、ほとんど家だしなぁ。家だとケンカの強さとか、見せれないし。勉強はまだ平均的くらいだし。家事に関してはできない。自慢じゃないけどできない。

 今までの食事は基本週に6日はレトルトか総菜か外食。ご飯は炊けるから卵かけたり納豆かけたり、トーストにハムとケチャップとチーズでなんちゃってピザトーストくらいならできる。……沙耶に比べると、できると言いづらいな。


 ど、どう思ってるんだ? ちょっと正直にお姉ちゃんに言いなさい!


「え、えと……す、すき、って、って! もし好きって言ったら…どうする?」

「嬉しい」


 どんだけ勿体ぶるんだよ。でも妹になる相手から好かれてるのは嬉しいから許す! これならお姉ちゃんと呼ばれる日も近い! ていうかそれ今日じゃない!?


「そ、そうなの?」

「うん、沙耶」

「あ、明菜さん…」


 優しく名前を呼ぶと、照れたのかさらに顔を赤くする沙耶。可能な限り慈愛の心を視線にこめ、私は沙耶をそっと諭す。


「沙耶」

「は、はい」

「そろそろ、私のことお姉ちゃんって呼んでいいのよ?」

「……え?」

「え?」


 なにその反応。沙耶もそろそろ姉と呼ぶ切欠がほしいから、今私に期待をこめた目を向けてたんじゃないの?


「な、ば…ばかっ!」

「はぁ!? いきなりなに?」

「うぅぅぅぅ、うわーーー!!」

「えぇ? ちょっ、ちょっと、落ち着け!」


 何故か突然沙耶は取り乱して、頭をかかえてソファから転がり落ちて床で悶えてる。

 ええぇぇぇ? な、なにこれ。どういう状況? どういう感情で伏せってるの? わ、わからない。思春期難しすぎる。


「もうっ!」


 困ってると沙耶はひとしきり唸ってから勢いよく立ち上がった。顔が真っ赤だ。これは怒り?


「明菜さんがお姉ちゃんとか、ぜっったい認めないし! 呼ばないし!」


 はあ? ………はぁ。まだ早かったか。一瞬脅してやろうかと思ったけど、無理やり呼ばしても仕方ないし、妹にしたいのに舎弟にしても意味がない。長期戦でいくしかないか。


「……な、何とか言ってよ!」

「えぇ?」


 その態度の悪さを流してやろうとしてるのに、全くめんどくさいな。うーんと。


「そろそろお昼の用意してくれる?」

「……わかった」


 お昼なにかな。










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