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キス  作者: 川木
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真面目な私

 どうにも掴めない。出会ってから1ヶ月ほど経過して、性格がつかめてきたと思ったのは勘違いだったらしい。

 ちらりと横目で沙耶を伺う。ちろちろとペースダウンして食べている沙耶は、先ほどやたら興奮していた。

 最初は勢いよく食べてたから、冷たくてきーんとなったんだろう。あほだ。


 沙耶の性格は人見知りでびびりな上に調子乗りの生意気だけどあほで世話焼き。と思っていたが、意外と違うのかも知れない。


「あ、明菜さん、これからどうする?」

「んー、本重いし、そろそろ帰ろうか」

「えー、荷物ならロッカー預ければいいし、せっかくだし、もうちょっと遊ぼーよ」


 私をさん付けで呼び出した。ちょっとは偉そうだけど、ずっとましで、フツーに小生意気で可愛げのあるレベル。

 私を嫌っていたかと思えば、こうして一緒にいたがる。キスしてから、強烈な変化だ。もしかしてキスで心を開いたのか?

 ……ありえる。人見知りだからこそ、急激な接近により私に対しての警戒心が麻痺し、計るべき距離がある程度緩和された可能性がある。


「沙耶」

「え、なっ」


 とりあえず手を繋いでみた。要するに私から距離をつめてやれば、沙耶も慣れて心を開くのだ。


「な、なななんで、手!?」

「いいでしょ別に」

「え、え? は!?」

「なに? 嫌なの?」

「……嫌じゃないです」


 強く握りながら聞いてやると、予想通り否定された。よしよし。このままなし崩しでベタベタすれば、いずれ沙耶も私を姉と認めるだろう。









「あーきーな、よ、相変わらずマジメっ子してんのね」

「うるさいな。気安く頭撫でるな」


 隣のクラスの芹香が一週間ぶりにやってきた。正直わざわざ行くのはおっくうだけど芹香と会えるのは嬉しい。親友の芹香とは去年までは毎日顔を合わせていたので、長く会わないと調子がでない。


「今日も妹ちゃんの愛妻弁当?」

「妻じゃないけどね。食べようか」

「いただきまーす」

「いただきます」


 芹香と顔を突き合わせ、お昼を食べながら近況報告する。


「へぇ、じゃあ最近は吠えなくなったんだ? すごいじゃん」

「まぁね。私が本気だせばこんなものだよ」


 沙耶のあまりの生意気さに腹立っていた私は、沙耶を躾のなっていない犬に例えたが、今となっては言い得て妙だ。

 私からスキンシップをとるようになり、明らかに沙耶の態度は軟化した。私に粘着して尻下にしていた頃と180度違い、子犬のように私を追いかけまわしている。

 …ん? どっちにしろつきまとわれてるのか。まぁ、それはいい。


「そのうちお手も覚えたりしてね」

「おいおい、いくらなんでもほんとに犬じゃないんだから」

「お、庇うねー。明菜も懐いた犬は可愛いか。さすがに面と向かって犬扱いはできないもんね」

「いや、犬じゃないんだから、とっくにお手くらい覚えてるから」

「……やらせたの?」

「ちんちんは恥ずかしがったけど、ちゃんとやらせた」

「やらせるなよ。あんたは相変わらず、時々鬼だな」


 えー、だって最初調子にのってたし、ちゃんと上下関係教えてあげなきゃという、姉心だよ。


「明菜は根っこが鬼なんだから、そろそろ真面目ごっこもやめて、また私らとつるもうよ」

「嫌。だいたい私ってもともと真面目で清く正しい大和撫子だし」

「相変わらず冗談がつまらないね」

「本気だけど」


 割と本気で言ってるのに普通に否定される。確かに一時やんちゃしてたけど、もうしないと決めたのだ。2ヶ月前に。だいたいグループとか言って5人だけだし。もう4人か。少な。


「三人もさ、ポーズだけ怒ってるけど、明菜が謝ればすぐ許してくれるって」

「そんなこと知ってるよ」


 別に特別誰かに迷惑かけたり悪いことをしていたわけじゃない。でも染髪してケンカして学校さぼってれば、それだけで世間の目は厳しい。一応相手から手を出されるまではしないとはいえ、自分から面倒に首をつっこんでた。

 私は不良をやめることにした。世間に後ろ指さされたくないのだ。チキンと呼びたければ呼べ。コケーッと叫んで目潰ししてやる。

 みんなにもやめてほしいし、お願いしたけど未だにかなわない。相変わらず続けてるらしい。清掃活動はいいことだし、格好とケンカだけ気をつけてくれるなら、戻ってもいいんだけどなぁ。


「ねぇ、ボランティアクラブに変更する気はない?」

「ないない。みんな、正義の味方が大好きだからね」

「もうみんな高校生なんだし、正義の味方なんて幼稚なことやめるべきだよ」

「高校の一学期までやってただろ。高校デビューもできずに未だに新しい友達もできてないくせに」

「うるさいなぁ」


 私は別に高校デビューや、5人だけの友達を100人にしたくて不良やめることにしたわけじゃないから、別に友達できなくてもいいの。


「芹香たちがいるから、別に友達はいいの」

「はいはい」


 あの三人も、早く気づいてほしい。正義の味方をしてたって、本当に助けたい人はもう助けられないんだって。まあ、私が原因だし、自力でなんとかしてもらうしかないんだけどね。私は私で、自分のことで手一杯だ。












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