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キス  作者: 川木
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デートするあたし

「沙耶」


 明菜さんがあたしの名前を呼ぶ。しかもわずかに微笑んでる。愛想笑いの嫌いな明菜さんは、身内となったあたしには愛想笑いはしないので、貴重だ。

 美人すぎて嬉しくなる一方で、釣り合わないあたしにがっかりする。どんなに化粧で着飾っても、所詮明菜さんのように天然で綺麗な人にはかなわない。

 そんな気持ちを悟られないように、あたしはことさら語気を強くする。


「ちょっと明菜さん! 年下を荷物持ちにして恥ずかしくないんですか!?」


 デートだデートだとわくわくしながらとっておきの可愛い服を選んだのに、明菜さんはいつも通りのGパンに、ちょっと派手なシャツを重ね着してる。

 制服はいじりのない真面目系だけど、私服はいつもちょっと格好いい。家ではジャージで、一瞬しか見れないから、嬉しい。


「沙耶、さっき荷物くらい持つって言ったじゃん」

「それは、あたしの服を買ってくれたからで、断じて明菜さんの買った本の山を持つためじゃないから」

「ちっ」


 舌打ちされた。柄の悪いとこも様になるから悔しい。理不尽なはずなのに受け入れそうになる。


「しょーがない、半分持つよ」


 めんどくさそうに言いながら、明菜さんは私が持つ本が入った紙袋の取っ手を、片方持った。


「これでいい?」

「うん」


 やっぱり明菜さんは優しいなー。私の袋は持ってないし、そんなに軽くなってないから多分あんまり力入れてないんだろうけど、でもいい。

 ちょっと優しさ見せてくれるだけで

こんなに嬉しく感じてるんだから、我ながらちょろい。でもいいのだ。好きだし。惚れたもの負けなのだ。


「明菜さん、アイスクリーム食べません?」

「んー、や、まだお昼ご飯残ってるからいらない」


 お昼を食べて一時間ほどだけど、3時だし、ちょうど前を通りかかったので聞いたけど、明菜さんはお腹を撫でて断った。

うーん、どうしようかな。


「……」


 立ち止まり、通りがかりにソフトクリームを舐める人を見て、やっぱり食べたくなった。うーん、チョコ味かメロン味かどっちにしよう。


「お小遣いあげるから、自分の分だけ買っといで」


 わ、悩んでると財布ごと渡してくれた。さすが明菜さん! 太っ腹!


「ありがとう、明菜さん」

「…ん」


 相変わらずめんどくさげに返事するけど、親切にした後の照れ隠しだって、あたしはわかってるよ!


 さっそくソフトクリームを買う。メロンとチョコのミックスがあったのでそれで。舐めながら明菜さんの元へ戻り、荷物を元通り半分持つ。


「ん、美味しい」

「よかったね」

「うん」


 あれ、もしかして今いい感じじゃない? 割と素の素直なあたしでいれてるし、明菜さんといるのにやっと慣れてきたのかも。よーし、この調子だ。


「沙耶」

「なに?」

「やっぱり食べたくなった。一口ちょうだい」

「…えっ!?」


 こ、この、あたしが舐めたソフトクリーム食べるの? え、か、間接キスじゃん! そりゃ、明菜さんは大人だから気にしないのかも知れないけど……あたしは、この間のキスだって初めてだったんだから。


「そんなに嫌がらないで。地味に傷つく」

「え、や、いやな、わけじゃ、ないですよ?」

「ならもらう」

「あ」


 ペロリと、明菜さんの真っ赤な舌が、茶色と鮮やかな緑のクリームをすくった。

 あたしが持ってる手を上から掴んで顔を出して舐めたから、舌にのったクリームが口に消えていくのが、はっきり見えた。


 自分でもどうかしてると思うんだけど、あたしも明菜さんに食べてもらいたい、とほぼ反射的に思ってしまって、顔が熱くなる。


「ん、結構美味しいね」

「……」

「そ、そんなに顔赤くするほど怒るなよ。この間といい、なに、沙耶って潔癖症なの?」


 掃除好きだし、と付け足された呆れたような口調に、不審に思われたくなくて何とか口を開く。


「そ、そそんなんじゃないけどただ間接キスていうか別に怒ってないし嬉しいけど恥ずかしいしでもそんなこんなとこでされるとほんと無理っていうかいやだから嫌ではないけど」

「ちょ、ちょっと落ち着いて。そんな早口になるほど混乱しなくても」

「くっ、ぐ……い、今のは、忘れてください」


 ていうか何気にあたし変なこと言ってない? 大丈夫?


「うん、とりあえず沙耶が恥ずかしがり屋なのはわかった。この間もごめんね」

「……い、嫌なわけでは、ないから、ほんとに」

「わかったわかった。大丈夫、別に怒ってないし、沙耶が初なのわかったからもうしないから」

「だから!!」

「え、な、なに急に?」


 興奮して大きな声をだしてしまい、明菜さんがちょっとひいてるけど、でもとめられない。

 だってそんな、恥ずかしいけど、ドキドキしすぎて死にそうでフリーズしちゃうけど、だからってもうしないなんて嫌だ。むしろもっともっと沢山してほしい。


「嫌じゃないって!」

「……う、うん。だからべつに、そこは誤解してないから。落ち着いて。どうどう。アイスとけるよ」

「……ごめんなさい」


 あたしが明菜さんを好きだから過剰反応してるんじゃなくて、単に初なだけって誤解してるけど、でもそう冷静に言われると、これ以上は説明できない。


 諦めてあたしは、アイスクリームをなめなめした。













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