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キス  作者: 川木
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緊張するあたし

 明菜さんはいじわるだ。なんていうか、絶妙にアメとムチを使ってくる。私を突き放したかと思うと、すぐに甘いことを言う。落差にくらくらしちゃうわ。


「あ、明菜さん、ただいまのちゅーを忘れてるよ」

「やだ」

「え」


 さっきキスしてくれるって言ったじゃん! またいじわる? ひどいよー。あげて落とすなんて。気まぐれすぎる。はぁ。


「明菜さんの嘘つきー」

「沙耶」

「なんですかぁ? 、っ」


 がっかりしながら返事をすると唐突に、明菜さんはまたあたしのネクタイをひっぱった。朝のデジャヴを感じる間もなく、キスされた。

 にやりと間近で明菜さんはいじめっ子みたいな笑い方をする。


「お帰りなさい、のちゅー。満足?」


 頷く。さげて落とすとか、いじわるだよ。どれだけ性格ねじまがってるのさ、明菜さんサイコーだよ!


「えへへ、明菜さーん、大好き」

「知ってる」


 ぺしり、と額を叩かれた。照れ隠しする明菜さん可愛い。


「沙耶、今日のご飯は?」

「うーん、昨日買った豚肉使おうと思うんだけど、生姜焼きか冷しゃぶどっちがいい?」

「生姜焼き」

「らじゃです」

「頼んだ」


 ぽん、とあたしの頭を一つ叩いて、明菜さんは笑った。綺麗な笑顔。









 ソファに並んで座り、テレビを見ている最中、番組が一段等したところで明菜さんがあたしに向いた。


「沙耶」


 優しく名前を呼ばれる。いまだにそれだけでどきっとする。明菜さんが側にいるだけではなく恋人なのだから、いい加減慣れなきゃとはおもうけど、無意識に体が反応するのだから仕方ない。

 片思いが長かったのももちろんあるし、何より明菜さんが魅力的すぎるのが悪い。


「なぁに」

「うん、ちょっとね。一応沙耶の予定を確認しようかと思って」

「予定?」


 聞き返しながらわくわくする。いつのことかはわからないけど、あたしの予定をきくということはあたしに何かお誘いがあるということだ。デートかな。もし違っても明菜さんと一緒なら、他に誰かいてもデートみたいなものだからいいけど。


「週末、空いてる? ていうか空けなさい」

「もちろん空いてるし、明菜さんからのお誘いなら空けちゃうよ」

「……ほんとに用があるなら、別に大丈夫だからね?」


 即答すると明菜さんはちょっとだけ困ったみたいに笑ってそう言った。なんて優しいんだろう。暴君な明菜さんも格好よくて素敵だけど、気遣われるのも明菜さんと特別と言われてるみたいで嬉しい。


「ないよ。ていうか用があっても、明菜さんがいいって言っても、あたしが空けたいから空けるよ」

「…そ。私は空けないけどね」

「冷たいー」


 嘘。ほんとはわかってるよ。明菜さんが照れ隠しで言ってること。ほんとはあたしと同じ気持ちでいてくれてるんだ。意地っ張りで子供みたいなところも好きだ。


「で、週末がどうしたの?」

「あー、うん。なんていうか…」

「?」


 明菜さんらしくもなく言葉を濁される。なんだろ、照れてる? やっぱりデート? うーん、でもあの明菜さんがデートに誘うのに緊張なんかするかな?


「…沙耶」

「あ、明菜さん?」


 明菜さんは何故かあたしの質問に答えないまま、ゆっくりとあたしを押し倒した。え? え? ど、どういう状況? そ、ソファで?


「ん、ちゅぅ」


 明菜さんはあたしの腕を拘束し、上から落とすようにキスをした。唇から舌をいれられ、ちろちろとあたしの舌先を舐められた。


「んふぅっ」


 ぞくぞくとした感覚にあたしは体がくねりそうになるけど、明菜さんに全身で捕まっているので動けない。その不自由さにますますぞくぞくする。


「んん、沙耶」

「ふぁいぃ…」


 舌をいれられるといつも腰がぬけそうになって思考能力が低下する。さっきはソファでなんて、と思ったけど今ではこのままもっと色んなことをしてほしいと思ってしまう。


 落ちてくる明菜さんの唾を飲み込んだあたしに、明菜さんは微笑みながら触れるだけのキスをして、耳元に顔をうずめた。

 明菜さんの顔が見えないまま、囁く吐息があたしの耳に触れる。


「この続きを、週末に、と考えてる。いい?」

「は、はい」


 週末までお預けなんてご無体な、と思うあたしとそんな急に、と思うあたしがいたけど、明菜さんがそう言うなら頷くしかない。

 明菜さんが好きでたまらなくてエッチなこともしたいけど、同時に恐くもある。そういうこと自体の未知へ恐怖。自分の体のコンプレックスと、それにより失望されないか。肉体関係を結ぶことで飽きられたりしないか。

 色々なことが不安で恐い。でも明菜さんが望んでくれるなら、それは嬉しいし、応えたい。それになによりあたし自身にも興味と欲求がある。


「明菜さん…あたしのこと、明菜さんだけの、ものにしてね」

「馬鹿。とっくに、私のものでしょうが」


 自覚が足りないわ、と明菜さんはあたしの鼻をつまんでから、起き上がった。









 明菜さんと週末、初エッチをする。その予定を明菜さんから聞かされて、別れてお風呂に入ってシャワーを浴びた瞬間にあたしは現実に戻った。


 明菜さんとエッチ、どうしよう。今からドキドキしちゃう。何か粗相をしないだろうか。あ、そだ、ムダ毛処理を完璧にしとこう。えと、あとなにをすればいいんだろう。

 ていうかエッチってどんなことするんだろ。明菜さんにしてもらうとばかり考えてたけど、男女ではないんだし、あたしがリードする可能性もあるのかな?


 ていうかなんとなくイメージはあるけど、具体的な手順とかわからないし、こればっかりは聞けない。どうすれば。えっと。


「…………」


 鏡の中のあたしと目が合う。当然裸だ。この姿をさらして、明菜さんの裸を見ちゃうんだ。そして、それだけじゃなくて、きゃーー!!

 あああああ、やばい、心臓ばくばくして死にそう。こんなんであたし、週末まで持つかな。あとたった2日だけど、大丈夫かなぁ。


 今夜は眠れそうになかった。










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