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キス  作者: 川木
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恥ずかしい私

 顔が熱い。アホだ私は。何十時間前から意識してるんだ。


 芹香からいろいろと聞いてしまって、正直この間からむらむらしたりしていた私としては正直、沙耶を抱きたいと思う。

 ぐだぐだと無駄に恋人になるのを延期させたのは私ではあるけど、覚悟を決めて恋人になってしまえばもう開き直るしかない。

 芹香の話を聞きながら沙耶の白い肌や、細い肢体、真っ赤な顔で喘いで口を開き、泣きそうな顔で鳴く沙耶を想像してしまった。一度欲求を自覚すればどうしようもない。


 なので私は次の休み、沙耶を抱くことに決めた。平日は両親の帰る時間がまちまちだったりするし、やはり安心できない。今週末は2人とも仕事なので、昼間は確実に沙耶と2人きりだ。


「ただいま」


 家に帰り、沙耶にその予定を伝えようと挨拶しながら台所兼ダイニングと繋がってる居間に入ろうとして、足がとまる。


 沙耶は予想通り料理をしていた。制服姿のまま、エプロンをつけている。

 私が前に沙耶の制服が可愛いと言ったから、沙耶は出かける直前から帰ってすぐにしていた着替えの時間、朝ご飯をつくる前と夕ご飯を食べてからに変えた。

 汚れたら申し訳ないけど、沙耶は手際よく料理するしエプロンもつけてるから、多少匂いがつくくらいで平気らしい。


「あっ、おかえりなさい、明菜さん」


 私の挨拶に反応した沙耶が振り向いて笑う。今さらながら、なんてエプロンが似合うんだろう。凄くいい。家庭的で、こんな子が家にいて料理をつくってくれるなんて最高に幸せなことだ。


「今日はカレーですから、楽しみにしててくださいね」

「…うん、ありがと」


 可愛くて、抱き締めたくてたまらなくて、だから私は居間にはいるのはやめた。


 今沙耶に近づいたら、何をするかわからない。

 芹香からあんな話を聞いたばかりとはいえ、我ながらどうかしてる。週末にと決めた。それ以外の時までそんなことばかり考えるなんて、まるで沙耶とえっちなことがしたくて、そのために付き合ってるみたいじゃないか。

 私は沙耶にエロいことがしたいが、沙耶が好きだからだ。一緒にいて面白いし、可愛くて見ているだけで、何となく嬉しい。


 だからこんなことは絶対、口にするべきではない。


 今すぐ裸にむいて沙耶が泣き疲れてしまうまで犯してしまいたい! なんて、考えてすらないよ。ほんと、ほんと。









 どうしよう。ぐらぐらと揺れる。気分が悪くて視界が揺れるとかそんなことではもちろんない。病弱ではないし、喧嘩をしない今の私の体調は絶好調である。

 揺れているのは理性だ。


「ねぇ、明菜さん、美味しい?」


 上目遣いではにかみながら、伺うようなどこか不安げな沙耶。前に食べた記憶ではすごく美味しいはずだけど、カレーに集中できない。カレーより沙耶が食べたい。


「美味しいよ、とっても」


 言葉が上滑る。今、不味いと答えたら沙耶はどんな顔をしただろう。そんな意地の悪いことが頭に浮かぶ。

 馬鹿か私は。そんなこと多感な時期の少女に言って嫌われたらどうする。沙耶は平気でもって私は平気ではない。


「ほんと? 嬉しいな」


 ああ、でも言いたい。キスできないなら、触れられないなら、せめて沙耶の泣き顔がみたい。沙耶の泣き顔はすごく可愛くて、ぞくぞくするから大好きだ。沙耶の泣き顔に惚れたという要素も、半分くらいあるかも知れない。


「沙耶」

「なに?」

「沙耶ってブスだよね」

「え…」


 信じられないくらい、沙耶は傷ついた顔をした。違う。これは何か違う。私はすぐに、冗談と思えるようにあからさまに笑って否定する。


「うそ、沙耶は可愛いよ」

「は…な、なによ、明菜さんの馬鹿っ」

「ごめんごめん。ちょっといじめたくなって」


 でもなんだかいまのはちょっと違った。いじめたいし、泣かせたいし、嫌そうな顔をさせたい。でも傷つけたいわけじゃない。うーん、我ながら、歪んでる。


「もう、明菜さんだから許すけど、でもそういうのはやめて。びっくりするし、さすがに傷つく」

「うん、ごめん。もう言わない。沙耶は本当に可愛いよ」

「……ほんとに、そう思ってくれてる?」

「うん。私、沙耶の顔、世界で一番好き」

「明菜さん…えへへ、うん、明菜さんがそう言ってくれるなら信じるよ」


 嬉しそうに笑う沙耶。沙耶の泣き顔を見るとドキドキするし好きだけど、沙耶の笑顔も安心するし好きだ。沙耶みたいに明け透けに好意を伝えてくる笑顔を向けられると、凄く嬉しい。こんな私でも好かれているんだと自信がつく。


「沙耶、ご飯の途中だけどキスしたいからちょっとこっち来てくれない?」

「あ、うん!」


 沙耶は元気に返事をして、そそくさと口元をふくと私の隣にきて顔の高さをあわせて、待機する。

 ようやく、自分がキスをするのではなく、キスされる立場だとわかったらしい。よしよし。


「ん、いい子ね」


 キスをして、頭を撫でてあげる


「えへへ」

「さ、ご飯食べようか。戻っていいよ」

「うん。どんどん食べてね」

「太っちゃうでしょ」

「大丈夫、明菜さんは太っても素敵だよ」

「馬鹿か」


 さすがにそういう褒め方は嬉しくない。いくら私が女らしくないとはいえ、体重の増減は気になる。


「馬鹿じゃないもん」


 席に戻りつつ沙耶は膨れっ面になるけど、口の端がにやけているのでさっきのキスが嬉しかったに違いない。可愛いやつめ。


「ねぇ、沙耶」

「なに?」


 カレーを口にいれようとして顔をあげた沙耶に週末の楽しみを告げようとして、きょとんとした無邪気な沙耶の様子に何だか気恥ずかしくなり、やめた。


「いや、なんでもない。どのタイミングで見ても沙耶は可愛いなあと思ってね」

「えへへ、明菜さんも美人だよ。世界一、大好き」


 可愛いなぁ。またキスしたくなったのを我慢して、私はスプーンを動かした。













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