語らう私
沙耶と恋人になって、たくさんキスをした。キスをして抱きしめてキスをしてキスをした。
疲れたのでやめた。もちろん飽きたとかではないけど、息も絶え絶えでぐったりするほどキスを繰り返し、心地よい充足感と幸福感につつまれ、満足したのでやめたのだ。
ずっと抱きしめていた腕をといて寝転がる。
「はぁぁ……明菜さぁん」
語尾にハートがつきそうなほどとろけた声音で私を呼びながら、沙耶は隣の私にすり寄ってくる。
ういやつめ。頭を撫でてやる。
「くぅーん」
鼻にかかった声をあげる沙耶は犬の鳴き真似をしてるみたいだ。可愛い。
「明菜さん」
「なに?」
「えへへ、呼んだだけです」
「こいつめ」
可愛いので鼻をつまんでやる。小さく首をふりながらも顔がとろけてるままだ。悪戯心がわいてきたので、ついでに頬もつまんだり押したりしてみる。
「うー、明菜さん、あたしの顔で遊ばないでよー」
「やだ。だって沙耶可愛いんだもん」
「え? え、えへ…しょ、しょうがないなぁ。だったらいいわ」
バカワイイなぁ。
そんな感じでまったりして、その後もくっついてじゃれたりしながら、歯磨きして寝た。もちろん沙耶は自室にひっぱりこんだ。
あったかくて、柔らかくて最高! 一家に一個沙耶抱き枕、みたいな。ま、もちろん私専用の専属枕だけどね。
○
「というわけで、恋人になった」
「リア充爆発しろ」
「は?」
「おっと失礼」
放課後学校のベンチに座ってだべってる最中、芹香に沙耶との様子を聞かれたので答えると、意味不明なことを言われたが、多分口調的に罵倒に違いない。なんだこいつ。あ、妬ましいのか? 嫉妬か?
「なに芹香、もしかしてリーダーの私が恋人つくったからヤキモチか? 安心していいよ、私があんたらのリーダーなのはかわらないからね」
「気持ち悪っ!」
「あ? なに? 私らのことディスってんの?」
さすがにその言葉は聞き捨てならないので、芹香の襟を掴んで絞めていく。
「ぐ、た、タンマタンマ。らとか、別に妹ちゃんとか関係ないから」
「え? そう? ってじゃあなにが気持ち悪いんだよ?」
とりあえず締めるのはやめて背中を撫でてやりながら聞く。
「いや、単純にさっきのあんたの台詞が気持ち悪い。ヤキモチとかねーよ」
「なんだ。そっちか。……ち、ちなみに、女同士なんだけど、別に大丈夫な方?」
「そっち? そっちは別に。ていうかあたしも好きな人は女の子だし」
「え…」
「おい、なんでちょっとひいてんだよ」
「あ、いや、」
「言っておくけど、明菜のこと好きだけど、恋愛感情だけは絶対に、地球が滅んでも有り得ないから」
「そこまでいうか」
いや、好かれても困るけど。沙耶一筋だし。芹香とか可愛いと思う要素皆無だし。しかしそうか。意外とそんな、心配するほどマイナーでもなかったのかな? 今まで全く身近ではない他人事だと思ってたけど、芹香がそうだったし。
「言っとくけど、同性愛は十分マイノリティだからね。片鱗ある人は結構いるけど、生理的に無理な人も多いし」
「あ、やっぱりそうなんだ」
でもまぁ、テレビでもおかま結構いるし、一定数はいるものなのか。びびるほどでもなかったのか。ちょっと恥ずかしい。
「というか明菜の場合、相手が男とか女とかより、まず恋人できることが驚きだし」
「うるさいなぁ。芹香だって片思いなんてキャラじゃないでしょ」
「んなことないって。こうみえて一途なんだから。小学生の時から好きだし」
「え…」
「だから、あんただけはない。うぬぼれんな」
いやうぬぼれてない。単純に一途な芹香というのが想像外すぎてわからん。しかしそうか、小学生からずっと片思い、ということは。
「勝ったな。私はもうちゅーしたぜ」
「競うんじゃない。中学生か。だいたいそれを言うなら私はもう最後までしたっつーの」
「はぁ? お前…ねーわ。好きでもない相手とかねーわ」
「違うわっ。好きな相手とだから。もう落とす一歩手前だから」
「はぁ? いや、どっちにしろ、付き合う前からとかないわー」
「明菜もキスとかしてたんでしょーが」
「私はいいんだよ」
「なんでだよ」
「私はお前らのリーダーだから」
「……その、めちゃくちゃ強引なの久しぶりだよね」
「うん。そろそろ5人揃いそうだし、リーダーであることをアピールしておこうかと思って」
喧嘩ぬきにすると特に私が秀でてるとこないし、でもだからって芹香とかがリーダーとか嫌だし。慣習でカバーしなきゃ。
「そんなんしなくても、明菜の立ち位置はかわらんから」
「ほんと?」
「うん。昔から名ばかりリーダーじゃん?」
「ああ? お前マジで喧嘩売ってんのか?」
喧嘩廃業したけど、芹香だけは親友価格の無料で買うぞこら。
「売らないから、さすがに負けるし」
「さすがっていうか、強さでいうと私、詩織、葉月、あんた、弥生だからね」
「ちょっ、その言い方は心外なんだけど」
「妥当でしょ?」
詩織は運動神経の高さの上、小さいころに新体操ならってただけあって身のこなしが軽くてセンスある。葉月は長身で小さい時に欠食児童だっただけに細身ではあるけど力はかなりあるし、何より迫力が違う。詩織は別格としても、いじめっこへの憎しみが段違いだ。
この2人に比べると、ただ喧嘩なれしててこすっからさだけの芹香はそんな大したことない。
「いやいや、確かに順番つけたらそうだけど! でもそれじゃまるで弥生と私が近いみたいじゃない」
「うーん」
まぁ、確かに。弥生は弱いからなぁ。へっぽこだし。昔は馬力あったけど、成長して痩せてからは力はないわスピードはないわで、正直一人じゃどこの誰にも喧嘩勝てないレベル。葉月が常に目を光らせてさりげなくサポートしてるから気にならないけど。弱いよなぁ。
「まぁ…弥生は葉月とセットだし」
葉月も弥生も一人で参加することはないしね。葉月の飼い主という意味では葉月の力は半分くらい弥生のものみたいなものだ。
「納得いかない」
「はいはい」
頬を膨らます芹香は、いつものへらへらした達観したような大人ぶったものじゃなくて、いつもこんな顔してればそれなりに可愛いのに。
「ねぇ芹香」
「なに?」
「親友と見込んで芹香に質問があるんだけど」
「なにさ、改まって。お金ならないよ」
「アホ、質問つってんでしょ。あのさ、その…」
えっちって、どんな感じ?
私が顔をよせて内緒話のトーンで聞くと、芹香はにんまりと、また可愛くない顔をした。
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