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キス  作者: 川木
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恋人になる私

「そんなのは、全然恐くないよ」

「え…」


 沙耶は強がりでもなんでもないみたいに、さっき恐いと言った時とはまるきり違う平然とした顔で否定した。


「例え誰になんと言われても、あたしは明菜さんが好きだよ。人にどう言われても、あたしの気持ちに関係ない」


 なんで、そんなことが言えるんだ。沙耶の明け透けな言葉に思わず顔が熱くなる。


「う……じゃ、じゃあお母さんたちにやめろって言われたら?」


 付き合ったとして、そうなったらどうするのか沙耶は考えないのか。誰に何と言われてもとか、そんなかっこいいこと言って、他人ならともかく家族にも? それとも全く反対されると思わないから、そんなこと言えるの?


「明菜さん!」

「な、なに」


 続けて尋ねると、沙耶は勢いよく立ち上がり、私に近寄り右手を両手で握り、顔を近づけてきた。

 真剣な強い意志が込められたら瞳が、まっすぐに私を射抜く。


「例え後ろ指さされても、親に反対されても、あたしが守るから。あたしは永遠に明菜さんを愛してる」

「さ、沙耶…」


 馬鹿だ。沙耶は絶対馬鹿だ。何が守るだ。何が、永遠だ。まるきり子供じゃないか。漫画じゃあるまいし、よくそんな軽々しく言えるな。

 そんな風に思うのに、私の心臓は痛いくらいドキドキしている。無駄にカッコつけた言葉で、絶対そんな深く考えてなさそうなアホ沙耶のくせに。


「明菜さん…、可愛い」


 なっ、おまっ、なにを!?


「ばっ、馬鹿。年上を可愛いとか、言うな」


 私が可愛いわけないだろ! と、年上をからかうにもほどがあるだろ! 可愛いのはお前だ!


「だって可愛いんだもん。明菜さん、大好きだよ」


 くそ生意気な沙耶はそんなことを言いながら目を閉じて顔を近づけてくる。き、キスか! キス、キス私もしたいけど。でもそんな、沙耶からとか、ああ、でも、うう、やっぱ駄目!


「ふぐっ」


 それもいいかもとか血迷いかけたけど、やっぱり私が沙耶に押されてキスされるとかあり得ないし生意気!


「……ふぁひなふぁん」


 ほぼ反射的に左手で沙耶の顔を思い切りつかんでキスをやめさせたので、ひょっとこみたいな顔になった沙耶は目を開けて抗議している。

 ぐ、こんな顔でも可愛いとか。とりあえず手を離す。


「沙耶」

「はい」

「生意気」

「はい?」


 不満げだった沙耶に端的に文句を言うと首を傾げられた。ああ、やっぱりでもキスはしたい!


「んんっ」


 欲求にまけ、私は沙耶の襟首をつかんで引き寄せ、キスをした。


「んっ、ふんっ、んん」


 ただのキスじゃなくて、唇を押し付け、沙耶の唇を甘噛みしたり舐めたりしてみる。沙耶の唇からは可愛い声がもれる。柔らかくてふにふにしてあったかくて気持ちよくて、すごくドキドキする。全身が熱くなる。


「沙耶」

「ふぁ、ふぁい」


 唇を離して至近距離で見る沙耶のとろんとした赤い顔に、たまらなくなって私は立ち上がり、沙耶を押して勢いよくベッドへ向かって押し倒した。


「沙耶、生意気」

「へ? な、なにが?」


 無防備に押し倒されて、動揺しながらも私を押し返そうとか、反抗しようとかの態度は全く感じられない。


「さっき、私にキスしようとしたでしょ」

「え? だ、だってそういう雰囲気だったっていうか…ていうか結局明菜さんからしてくれたんじゃ?」

「当たり前。年下のくせに、許可なくキスしようとするとか、生意気すぎ」

「う……ご、ごめんなさい」


 小さくて、弱い。それが正直な沙耶の体の印象だ。私より一回りくらい小さい。


「駄目。許さない。だから、おしおき」

「え、っ」


 片手を腰に回してぎゅぅと抱きしめて、顔をよせる。口を開けたままぶつけ、沙耶の柔らかい唇を舐めまわしてから開いた口内をかき回すように舌をつっこむ。

 

「っ、んんっ、ーーっ」


 ずっと握ったままの私の右手に力がこめられるけど、全然弱い。腰も細くて、身長的にも肉付き的にも小さいなって実感する。薄くて細くて、本気で握ったら折れそうなくらいだ。


「ふんんっ、んっ、んんぅっ」


 息が苦しくなるまでキスを続け、意識が朦朧としてようやく私はキスを中断した。


「はぁっ、はぁぁ、は、はあっ」

「はぁ、はぁ」


 お互いに近距離のままなので、息がぶつかりあう。くすぐったくて、息を荒げる沙耶は色っぽくて、またキスがしたくなる。


「沙耶」


 とりあえず頬にキスをする。


「んっ、はぁ、あ、明菜さぁん」


 弱々しい鼻にかかったような声をあげる沙耶が可愛くて、唇にも頬にも触れる程度にキスを繰り返す。


「やっ、んん、あき、あきなさ」

「沙耶」


 最後にちょっとだけ長く唇にキスして、顔をあげる。瞳をうるませ、口を半開きにして脱力してる沙耶はエロチックだ。


「どう? わかった?」

「へ? え? え、な、なにが?」

「もう、バカ」


 全然わかってないので、もう一度キスする。驚きつつもはにかむ沙耶は可愛いけど、ここは厳しく言い聞かせねば。


「キスは、私からするものなの。恋人になっても、調子にのらないでよね」

「えっ!? こ、ここっ、恋人!?」


 恋人というのは早急すぎただろうか。私としては、さっきの沙耶の言葉で、心は決まった。というか、覚悟ができたと言うべきか。

 そこまで言い切れるほど沙耶が私を好きで、好きだから問題ないと言うなら、私だって沙耶は好きだ。沙耶が覚悟を決めてるというなら、グダグダ考えるのはやめだ。

 そもそもこんな、悩むとか私の役目じゃない。好きだし、もうそれでいい。なんか問題があったらそれから考えればいい。いつだってそうやって、最後は力業でなんとかしてきた。


 だからもう私は沙耶を好きなことを隠す必要はないし、両思いなのだから恋人になるのだけど、そう言えばはっきりとまだ言葉にはしていなかったか。

 あ、改めて言うのも恥ずかしいが、沙耶も散々口にしたのだ。言おう。


「沙耶、一度しか言わないからよく聞きなさい」

「は、はいっ」

「私も…沙耶が好きよ。だから今から恋人ね」

「〜〜っ、明菜さん大好き!!」


 沙耶が感極まったように震えながら私にキスをしようとしてきたので、先に噛みつくようにキスをする。

 さっき言ったのにもう私にキスしようとするとか、生意気すぎ。馬鹿なだけなのはわかってるし、馬鹿なとこ好きだけど。


 私を守るとか大口叩いてる沙耶だけど、そんなの無理に決まってる。小さくて弱くて、現実が見えてないだけの妄言だ。でもそう思ってるという気持ちが可愛くて嬉しいから、それは指摘しないであげた。

 本当にいざとなれば、私が助けてあげればいい。あらゆるすべてから守ればいい。


 私は沙耶とキスをしながら、そう決めた。言うほど簡単じゃないだろう。難しいだろうけど、沙耶のためなら、多分できる。悩むまでもない。











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